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godsend

途中ですが更新。

 富や名声、力を欲する数多の冒険者が世界各地から集い、日々しのぎを削る迷宮都市パルマリウス。この地に集う欲深き夢追人共の目的地たる迷宮『伏魔殿パンデモニウム』への入口は都市の中央に存在していた。

 世界三大迷宮の一つに数えられる伏魔殿パンデモニウムは最深部に何人たりとも足を踏み入れたことのない未踏破の迷宮である。二百年程前から探索が始まり、現在の最深踏破階は地下七十九階。地上に存在する入口脇に設置された碑文に拠ると最深部は地下百階であるとされており、この迷宮が踏破されるのはいつになるのかようとして知れない。



◇◇◇



 伏魔殿パンデモニウム内部、地下十七階。山と見紛う巨大な体躯を中心に夥しい数の魔物が無様に転がっている。消失してはいないだけで魔物は既にその生を散らしているといえた。


「第一界層とはいえ、流石に一撃とはいかないか」


 魔物共が息絶える地獄絵図の中心、この光景を作り出した張本人である巨人族ギガースの男はそれらを一瞥し、残念そうに呟くと足下に転がる針鼠ヘッジホッグの頭部を無造作に踏み潰す。魔物の姿は消え去り、魔物を構成していた魔素エーテルの残滓が男の巨体を取り巻き、あっという間に吸収されていく。自らの血肉が強化されていくのを感じながら、さっさと始末して先に進むべく男は転がっている魔物にとどめをさして回るのだった。



◇◇◇



 巨人族ギガースは五メルトルを超す山の如き体躯を持ち、巨鬼トロルをも凌ぐ怪力で敵を蹂躙する生粋の戦士種族である。かつては争いを好み、常に戦乱に身を投じ続けたが、その結果多くの同胞を失い、現在は三つの氏族を残すのみの少数民族となっていた。



 巨人族ギガースの戦士は驚くべき精確さで次から次へと魔物の頭部に金槌を打ち下ろし、果実が潰れたような鈍い音を迷宮内に響き渡らせ続ける。

 巨人族ギガース専用の巨大な金槌を手に迷宮を暴れ回る男の名はゴライアス。今は亡きネフィリム氏族出身のCランク冒険者だった。五メルトルを超す全身を巨熊タイラントベアの毛皮で拵えた防具によって固めている様は歴戦の勇士そのものだ。



 ゴライアスは第二界層を目指して日も昇らないうちに単独で迷宮探索に臨んでいた。二月ふたつきに一度、迷宮の構造は変化する、今日がその日に当たるのだ。巨人族ギガースであるさがか酒に目がないゴライアスが、朝早くから迷宮に潜れているのは昨晩酒場に寄らないで今日に備えた成果だった。

 構造が変化した後、第一界層のルート情報が出揃うまで一週間は掛かるため、その間に独力でルートを把握して第二界層へ到達できれば魔具の入手確率が段違いに高くなる。大多数の冒険者が虎視眈々とこの機会を狙っており、ゴライアスも同様だった。前日の夜から備えて、早朝より迷宮探索に臨んだことで他の冒険者に先んじる形となったゴライアスは地下十九階に到達した所でこの日は切り上げることにし、来た道を引き返していく。

 構造が変化した初日で地下十九階まで進めたことはまずまずの出来である。運良く階下へのルートを探り当てられたこともあり、初日の進捗状況としては他の冒険者と比べてもトップクラスであるといえた。

 例え、第二界層に到達可能な力量があろうと事前情報もない初日で第一界層を踏破しようとするのは蛮勇であり、ゴライアスもそこまでの無茶をする程馬鹿ではなかった。第一界層とはいえ、序盤はともかく終盤はBランク冒険者であっても命を落とすことも有り得る。それなりに腕利きの冒険者たちが慎重になるのは当然だった。



◇◇◇



 時より遭遇する魔物を金槌の一振りで蹴散らしながら地上を目指し、行きで通った道を辿って地下九階のフロアーに到達した時のことである。ゴライアスが今日回収した魔晶クリスタルが幾らの稼ぎになるのかを考えているとフロアーの何処からともなく岩を砕くような大きな破壊音が聞こえた。

 一般的な冒険者の判断として、そう遠くはない距離で戦闘が行われている場合、巻き込まれないように迂回するのが賢明なのだが、生粋の戦闘狂バトルジャンキーであるゴライアスの反応は盛大に間違っていた。


「今の音は……間違いない、粉砕蛇クラッシュテールだ。まさかこの階層にいるとは 」


 押さえ切れぬ歓喜にゴライアスの相貌が不敵に歪む。粉砕蛇クラッシュテールは第一界層に棲息する魔物の中で一二を争う強力な魔物であり、体長五メルトルを超す体躯は巨人族ギガースにとっても脅威となり得る存在だ。

 しかし、元来強者との命を懸けたやり取りに至上の幸福を見出す血の気の多い巨人族ギガースの戦士たるゴライアスにとって、それ程の強者の存在は見敵必殺の相手に他ならなかった。

 倒すべき強者を求め、本能の赴くままに山と見紛う程の巨体が信じられない速度でフロアーを疾走する。

 そして二度目の破壊音が響き渡った。獣の如き獰猛なる狂戦士は標的の居所を正確に把握し、速度を上げて猛然と突き進む。

 本能に従い、何の逡巡もなく邪魔する魔物を蹴散らして進む巨人族の戦士にとって向かった先にいるだろう瀕死の同業者のことなど既に頭になかった。

随時改稿

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