雨に溶けた鍵
「約8000文字の一話完結青春ミステリーです。R15要素(キス・密着描写)あり。最後までお付き合いいただけると嬉しいです!」
夏休み最後の週、午後10時12分。
校門の鍵は、図書委員の俺が持っている唯一のスペアだった。
「神崎くん、本当に……いいの?」
後ろから聞こえた声は、霧島葵のものだった。
同じクラスの、いつも静かに本を読んでいる少女。
黒髪が肩まで伸びて、制服のスカートが膝上5センチほど短い。
今日も白いブラウスに、薄いカーディガンを羽織っている。
「夢の話、ちゃんと確かめたいって言ったのはお前だろ」
俺は振り返らずに答えた。
葵は小さく頷いて、俺の傘に入ってきた。
距離は30センチ。
彼女のシャンプーの匂いが、雨の匂いと混じって鼻をくすぐる。
旧校舎までは、校庭を横切って3分。
コンクリートの壁は苔むして、窓ガラスは半分割れている。
誰も近づかないはずの場所だ。
「ここ、2年前にも来たことあるよね……?」
葵がぽつりと言った。
「俺は覚えてない」
「そう……だよね」彼女の声が少し震えた。
その震えが、なぜか俺の胸をざわつかせる。
鉄扉を開けると、湿った空気が肺にまとわりついた。
懐中電灯の光が、埃の舞う廊下を照らす。
「夢の中で、私たち……この奥の部屋にいた」
葵は俺の袖をそっと掴んだ。
指先が熱い。
「どんな部屋?」
「古いソファと、木の机。窓に雨が叩きつけてて……
私、制服がびしょ濡れで、神崎くんに抱きついてた」
俺は言葉を失った。
そんな記憶は、欠片もない。
階段を上がるたび、床板がきしむ。
2階、3階。
4階の突き当たりに、
なぜか鍵のかかった小さな扉があった。
「ここだ……夢で見た扉」葵の声が上擦る。
俺は持っていたマスターキーを差し込んだ。
カチリ、という音がした瞬間、雷が鳴った。停電。真っ暗になった。
同時に、外の雨が一気に強まる。
「きゃっ……!」葵が俺の胸に飛び込んできた。
濡れた制服がぴったりと俺のシャツに張りつく。
彼女の体温が、雨の冷たさと一緒に伝わってくる。
ブラウスが透けていて、白いキャミソールのラインと、
柔らかい膨らみの輪郭がはっきりと浮かんでいた。
「ご、ごめん……怖くて……」
「大丈夫。動くなよ」
俺は片手で彼女の背中を抱き、懐中電灯を探した。
でもスイッチを入れても光らない。
電池切れか。暗闇の中で、葵の息遣いが耳元で聞こえる。
吐息が首筋にかかり、ぞくりとする。
彼女の胸が、俺の胸板に軽く押しつけられている。
柔らかくて、温かくて、鼓動が同期するように速い。
「神崎くん……手、冷たい」
葵が俺の指をそっと握ってきた。
細い指が絡みつく。
雨音が激しくて、
まるで世界が二人だけになったみたいだった。
「夢の中で……ここでキスされた」
彼女の声はほとんど囁きだった。
「俺が?」
「うん……すごく優しくて、でも熱くて……
私、夢なのに体が熱くなって、声が出ちゃった……」
その言葉で、俺の体温が一気に上がった。
理性が「やめろ」と叫んでいるのに、
指が勝手に彼女の腰に回る。
濡れたスカートの生地越しに、細い腰のラインがわかる。
「葵……本当に俺だったのか?」
「わからない。でも、夢の中で名前を呼んでたのは神崎くんだった」
雷がまた光った。
一瞬だけ、彼女の瞳が輝いて見えた。
濡れた睫毛、震える唇、雨に濡れて透けた鎖骨。
我慢できなかった。俺は彼女の顎を少し持ち上げ、唇を重ねた。
最初は触れるだけ。
冷たい雨の味がした。
葵が小さく息を飲む。
次の瞬間、彼女の腕が俺の首に回ってきた。
キスは深くなった。舌が軽く触れ合う。
葵の吐息が甘くて、俺の頭をぼんやりさせる。
彼女の背中を撫でると、ブラウスが肌に張りついていて、
ブラのホックが指先に当たる。
俺は慌てて手を離したが、葵は離してくれなかった。
「もっと……触って」掠れた声でそう言われて、理性が溶けた。
俺は彼女の腰を強く引き寄せ、背中をゆっくり撫でた。
濡れた布地越しに、彼女の体温が直に伝わる。
胸の膨らみが俺の胸に押しつけられ、
柔らかい感触がはっきりとわかる。
葵が小さく喘ぐような声を漏らした。
「ん……神崎くん……」その声で我に返った。
俺は唇を離し、額を彼女の額にくっつけた。
「……ごめん。夢じゃなくて、現実だ」
葵は小さく笑った。
震えながらも、嬉しそうに。
「やっと、思い出してくれた?」
「え?」
そのとき、雷の光がもう一度部屋を照らした。
扉の奥に、古いソファと木の机が見えた。
夢で見た通りの部屋。俺は愕然とした。
「ここ……本当にあったのか」
葵は俺の手を引いて部屋に入った。
床に落ちていたのは、古びた鍵と、一冊の日記帳。
日記を開くと、2年前の日付があった。
『今日、神崎蓮とここで初めてキスした。
雨がすごくて、制服がびしょ濡れ。
彼は優しくて、でもすごく欲しがってて……
私、怖かったけど、嬉しかった。
でも、明日の登山で事故が起きるって予感がする。
もし私が忘れてしまったら——この鍵を、必ず彼に渡して。』
署名は「霧島葵」。
俺は息を止めた。
「2年前の夏……俺たち、登山部で遭難しかけたよな。
俺は頭を打って、3日間記憶が飛んだって医者に言われた」
葵は頷いた。
「私は生きてた。でもあなたは、私とのことを全部忘れてしまった。
それ以来、私はこの部屋の鍵を持って、ずっと待ってた。
あなたが思い出してくれる日を」
彼女は日記の最後のページをめくった。
そこには新しい文字があった。
『今夜、雨が降る。神崎くんを連れて、この部屋に来る。
もし彼が私のキスを覚えていてくれたら——
もう二度と、忘れないで』
葵は俺の胸に顔を埋めた。
「夢じゃなかった。全部、本当の記憶だったの。
私が毎晩見た『夢』は、あなたとの忘れられた時間だった」
俺は彼女を抱きしめた。
今度は強く、離さないように。雨はまだ降り続いている。
濡れた制服が冷たいのに、二人の体は熱かった。
俺はもう一度彼女の唇を奪い、指先で濡れた髪を梳き、
首筋に軽く唇を這わせた。
葵が甘く震える。
「神崎くん……好き」
「俺も……ずっと、どこかで葵を探してた気がする」
雷が遠ざかっていく。
停電はまだ続いていたが、もう怖くなかった。
俺たちはソファに腰を下ろし、互いの体温で温め合いながら、
2年間の空白を埋めるように何度もキスを交わした。
手は服の上だけ。でもそれだけで、胸の奥が疼くほど充足した。
朝が来る前に、俺たちは鍵を握りしめて旧校舎を出た。
校庭の水溜まりに、朝焼けが映っていた。
「これからは、毎日思い出させてあげる」
葵が俺の指に自分の指を絡めて微笑んだ。
「忘れさせないよ。雨が降るたびに、この鍵のことを」
俺は彼女の濡れた前髪を指で払い、
もう一度、軽く唇を重ねた。
夏休みは終わろうとしていた。
でも俺たちの物語は、ようやく始まったばかりだった。
「読んでいただきありがとうございました! ブクマ・評価いただけると励みになります。雨の日の思い出、ありますか?」




