第一章6『拒絶の始まり』
「……不浄だ。バルザークの血を汚す、光国の毒め」
父、ガレオス・ヴァン・バルザークが吐き捨てたその言葉が、七歳のシオンにとっての「世界の終わり」の合図だった。鑑定の儀を終えたその日のうちに、彼女の荷物は本館から運び出され、庭園の最果て、切り立った断崖の縁に建つ「黒石の塔」へと放り込まれた。
そこは、歴代のバルザーク家において反逆者や狂人を幽閉するために使われてきた、窓なき石の牢獄だった。
「お父様、待って、行かないで……!」
シオンが伸ばした小さな手は、重厚な鉄の扉が閉まる音にかき消された。冷たい石壁に囲まれた部屋には、カビの臭いと、夜国の深淵から染み出すような死の気配が満ちている。
シオンは震える右手を抱きしめた。 指先からは、彼女の意志とは無関係に、パチパチと黄金の火花が漏れ出している。前世の記憶――あの激しい雨の中、妹の手を離してしまった瞬間の痛みが、この光となって溢れているかのようだった。
「どうして……どうして、みんな私を嫌うの?」
夜国にとって「光」は毒であり、侵食を拒む異物だ。シオンがどれほど純粋な心で父を慕おうとも、彼女の魔力から放たれる黄金の波形は、父にとっては生理的な嫌悪感を呼び起こす「汚れ」でしかなかった。
塔の隙間から差し込む、微かな月明かりさえも彼女を拒絶しているように見えた。 シオンは冷たい床に丸まり、母エレインがかつて歌ってくれた子守唄を、掠れた声で口ずさむ。
(大丈夫……私は、お姉ちゃんだから。いつか、あの黄金の光の中にいる妹に、会いに行かなきゃいけないから……)
だが、その小さな希望を嘲笑うかのように、塔の外からは父の新しい「妾」の高笑いが響いてくる。彼女はシオンの幽閉を、自らの地位を盤石にするための絶好の機会として、ガレオスの耳元で絶えず「不浄の娘を排除せよ」と囁き続けていた。
孤独と寒さ、そして自分自身の中に宿る「異質な自分」への恐怖。 七歳の少女にはあまりに過酷な「闇」の生活が、こうして幕を開けた。 シオンの心に最初の「ひび割れ」が生じたのは、この凍てつく石の部屋、絶望的な沈黙の中だった。た。




