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境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第四章 空っ風の異邦人と、黄昏のコンクリート
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第四章10『異世界×現代の宴、極道と影の兄弟盃』

夜のとばりが下りた、新しい異世界の大地。

『暁の自由都市』の中央広場は、かつてないほどの熱気と、常識外れの色彩に包まれていた。

1. ヘッドライトと大篝火、匂い立つ異文化


広場の中央には、ファンタジー世界ならではの巨大なまきが組まれ、赤い炎が天高く舞い上がる大篝火おおかがりびが焚かれている。

しかし、その周囲を照らしているのは、松明たいまつの明かりだけではない。

「おらおら! トラックのバッテリーはまだ生きてるぞ! ヘッドライト全開だ! 宴のステージを照らせ!!」

ヤクザの若頭・龍崎の号令と共に、広場を囲むように配置された三台のデコトラと、高級セダンのヘッドライトが一斉に点灯した。

強力なHIDランプの白い光と、デコトラの派手なLEDネオン(紫やピンク、緑の極彩色)が、石造りの城壁をサイバーパンクのクラブハウスのように狂々(くるぐる)しく照らし出している。

「……信じられん。魔力石も使わずに、これほど強烈な光を安定して放ち続けるとは。現代の『バッテリー』という蓄電箱は、まさに魔法のアーティファクトだな」

純白の甲冑(今日は祭りのため正装である)を着たジーグ将軍が、車のヘッドライトを眩しそうに手で遮りながら感嘆の声を漏らした。

「将軍! こちらの肉も焼けておりますぞ! 龍崎殿の部下たちが持ち込んだ『焼肉のタレ』と『黒胡椒ブラックペッパー』という魔法の粉をまぶした、猪型魔獣の特上ロースです!」

前衛隊長のレオンハルトが、巨大な鉄板(ダンプの荷台の鉄板を代用している)でジュージューと音を立てて焼かれている肉をひっくり返す。

「おお! 素晴らしい香りだ! ……では、私も失礼して」

ジーグが、焼きたての肉を一口噛みちぎる。

「……ッ!? なんという破壊力!! ニンニクと果実の甘味が、獣の臭みを完全に消し去り、旨味だけを何十倍にも引き出している! 現代の調味料、恐るべし!!」

「ガハハハ! 遠慮すんな将軍さん! コンビニやMドンの倉庫からかっぱらってきた……いや、巻き込まれて一緒に飛んできた物資は、まだまだ山ほどあるからな! 今夜は無礼講だ、食って飲んで騒ごうぜ!」

龍崎が、缶ビール(発泡酒)のプルタブをプシュッと開け、上機嫌で飲み干す。

昼国の騎士たちも、夜国の暗殺者たちも、そして派手な柄シャツの極道たちも。

世界観の違いなど完全に無視して、入り乱れるように車座になり、異世界の食材と現代の調味料が奇跡の融合を果たした絶品料理に舌鼓を打っていた。


2. 極道の仁義、漆黒の「兄貴」誕生


その宴の喧騒の中心から少し離れた、デコトラのバンパーの上に、一人で胡座あぐらをかいている男がいた。

黒いパーカーのフードを目深に被り、両手に串焼きと巨大なマヨネーズのボトルを抱え込んだ、人化した精霊獣・ハクである。

「……オラァッ! やっぱりこの白いドロドロ(マヨネーズ)は最高だぜ。俺の影の胃袋が、無限に肉を要求してきやがる」

ハクは、顔中をタレだらけにしながら、誰とも会話せずに一人で黙々と食事の喜びに浸っていた。

そこへ、缶ビールを二本持った龍崎が、ズカズカと歩み寄ってきた。

「よぉ。邪魔するぜ、ハクの兄ちゃん」

龍崎が、バンパーの隣にドカッと腰を下ろし、缶ビールを一つ差し出す。

「……あァ? なんだよ、極道のおっさん。俺は今、飯に集中してんだ。ちょっかい出すなら噛み殺すぞ」

ハクが、紫の瞳で鋭く睨みつける。

しかし、龍崎は全く怯むことなく、ニヤリと笑った。

「いい目だ。……千葉の鉄塔で、機械の犬っころどもを俺たちと一緒にぶっ壊した時から思ってたがな。あんた、とんでもなく強ぇ上に、あの女王様シオンを守るためなら、自分の命すらゴミみたいに投げ出せる目をしてる」

龍崎は、自身のタバコに火をつけ、夜空に紫煙を吐き出した。

「俺たち極道の世界じゃ、そういう『家族(組)のために命を張れる奴』を、一番のおとことして尊敬するんだ。……あんたがどんな化け物だろうと、そんなこたぁ関係ねぇ」

龍崎は、持っていたもう一つの缶ビールの封を開けず、代わりに、懐から『二つの木彫りのさかずき』を取り出した。

それは、昼国の兵士に頼んで削ってもらった、簡素だが立派な盃だった。

「……なんだこれ? 器か?」

ハクが、串焼きを咥えたまま首を傾げる。

「ああ。俺たちの世界(現実)の裏社会に伝わる、一番神聖な儀式の道具さ」

龍崎は、ゼッカが用意した夜国の強い蒸留酒を、その二つの盃にトクトクと注いだ。

「ハク。俺は、あんたのその強さと『義理人情』に惚れ込んだ。……年齢や種族は関係ねぇ。あんたを、今日から俺の『兄貴』と呼ばせてくれ」

「……はぁっ!?」

ハクが、思わず串焼きを落としそうになる。

「お、おい待てよ! てめぇ、見た目どう見ても三十代後半だろ! 俺は人間になってもう少ししか経ってねぇし、精霊獣としても年齢の概念なんか……」

「極道の世界じゃ、惚れたもん負け、強いもんが上なんだよ」

龍崎が、真剣な顔つきになり、自身の盃をハクの前にスッと差し出した。

「これを飲み干せば、俺とあんたは血の繋がらねぇ兄弟だ。……あんたが『兄貴』で、俺が『弟』。俺たち龍崎組の若いモン全員が、あんたの手足となって働くことを誓う。……受けてくれるか、ハクの兄貴」

その場の空気が、スッと引き締まる。

周囲で肉を焼いていた舎弟たちも、自分たちの若頭が本気で盃を交わそうとしているのを見て、背筋を伸ばして固唾を飲んで見守っていた。

ハクは、龍崎の真っ直ぐな、一切の嘘がない目を見た。

「家族を守るために命を張る」という生き様。それは、ハクがシオンに対して抱いている絶対の誓いと、確かに同じ匂いがした。

「……チッ。勝手にしろ。その代わり、俺の邪魔をするようなら、弟だろうがなんだろうがぶっ飛ばすからな」

ハクは、照れ隠しに悪態をつきながらも、龍崎の差し出した盃を受け取った。

「……ありがてぇ!!」

龍崎が顔を輝かせる。

「「おうっ!!」」

ハクと龍崎が、同時に盃を口に運び、強い蒸留酒をグイッと一気に飲み干した。

「ぷはぁッ!! 効くぜ、異世界の酒は!!」

「……ゲホッ、相変わらず喉が焼けるような不味い酒だぜ。だが、まあ……悪くねぇ」

飲み干した二人が、バンパーの上でニヤリと笑い合う。

「「「アニキィィィッ!! 一生ついていきますぜ!!」」」

その瞬間、周囲で見ていた十数人のヤクザの舎弟たちが、一斉に地面に手をつき、ハクに向かって土下座のような最敬礼を行った。

「うおっ!? や、やめろお前ら! 大声出すな、恥ずかしいだろうが!!」

突然、屈強な男たちの「大親分」になってしまったハクが、顔を真っ赤にして狼狽する。

「ガハハハ! いいじゃねぇか兄貴! 照れるな照れるな!」

龍崎が、ハクの肩をバンバンと叩く。

異世界の漆黒の狼と、現代日本の極道。

決して交わるはずのなかった二つの「闇に生きる者たち」が、空っ風の吹く新世界で、固い血の盟約(兄弟盃)を結んだ瞬間だった。


3. 宴会芸開幕、絶対押すなよの掟


「よぉーし!! ハクの兄貴と若頭の兄弟盃も無事に済んだことだし、ここからは俺たち『龍崎組』が、この街の皆さんに、現実世界の最高峰のエンターテインメントをお見せしますぜ!!」

ダンプカーの荷台をステージに見立て、パンチパーマの舎弟・テツが、即席のマイク(ただの木の棒)を握って大声で宣言した。

ヘッドライトの照明が、荷台の上のテツをスポットライトのように照らし出す。

「おおっ! 現代の平民たちによる、伝統的な儀式エンターテインメントが始まるぞ!」

ゴランたち昼国の騎士が、ワクワクしながらステージの前に集まって正座する。

「まずは、俺とサブによる、体を張った『熱湯・極限耐性テスト』だ!!」

テツの合図と共に、もう一人の舎弟サブが、ニムが調合に使っていた巨大なドラム缶(中には、草津の源泉から汲んできた、グラグラに沸き立つ熱湯が入っている)を、ステージの中央にゴロゴロと転がしてきた。

「さあ、見ろ! この煮えたぎる地獄の釜を! ……おいサブ、俺はこの熱湯の前に立つ。だが、絶対に俺の背中を押すなよ! いいか、絶対に押すなよ!!」

テツが、ドラム缶の縁にギリギリのバランスで立ち、後方にいるサブに向かって、大げさな身振り手振りで叫ぶ。

「……むっ? どういうことだ? なぜ自ら危険な場所に立ち、背中を押すなと仲間に懇願しているのだ?」

ジーグ将軍が、腕を組んで真剣な顔で首を傾げる。

「将軍。あれは高度な心理戦ブラフの訓練ではないでしょうか。敵に『押すな』と警告することで、逆に相手の動きを誘っているのです」

レオンハルトが、大真面目に分析する。

「絶対に! 押すなよ! 押すなよぉぉッ!!」

テツが三回目の「押すな」を叫んだ瞬間。

「はいよっ!」

サブが、テツの背中をポンッと軽く小突いた。

「うわああぁぁぁぁぁっ!!」

テツは、見事な放物線を描いて、グラグラ煮え滾るドラム缶の熱湯の中へ、頭からドボンと突っ込んだ。

「アチチチチチィィィッ!! 殺す気かバカヤロー!! 皮膚が! 皮膚が溶けるゥゥッ!!」

テツが、全身を真っ赤に茹でダコのようにしながら、ドラム缶から飛び出し、ステージの上をジタバタと転げ回る。

「「「ドッワハハハハハッ!!!」」」

ヤクザの組員たちと、事情を察した夜国の泥ネズミたちが、腹を抱えて大爆笑する。

これは、日本の伝統的なお笑い文化「ダチョウのような熱湯風呂リアクション芸」の完全なオマージュである。

しかし。

「おおぉぉぉっ……!!!」

昼国の騎士たちは、笑うどころか、全員が感動の涙を流して立ち上がり、拍手喝采を送っていた。

「す、素晴らしい……! 仲間からの裏切りの一撃を受け、煮えたぎる熱湯の苦痛を一身に浴びながらも、決して死なずに立ち上がる! これこそ、防御特化の重盾兵に必要な『極限の耐久タフネス』の精神!!」

ゴランが、両手を叩いてテツのリアクションを絶賛する。

「しかも、あの大げさな『アチチチ』というステップ。あれは熱を分散させ、素早く体温を下げるための『古代の武術の足捌き』に違いない!! 彼らはただのチンピラではない。恐るべき修練を積んだ武闘派集団だ!!」

ジーグ将軍が、感極まって大剣を天に掲げる。

「い、いや将軍さん、これただの宴会芸ギャグなんスけど……」

茹で上がったテツが、あまりの称賛に戸惑って苦笑いする。

「次は俺の番だぜ!」

別の舎弟がステージに上がり、両手をリズミカルに動かし始めた。

「右手上げて、左手下げて、右・左・右・左! これが俺の必殺・風車かざぐるまの構え!! ドゥーン!!」

ただのシュールなリズムネタの一発芸である。

だが、これを見たレオンハルトは、衝撃に目を見開いた。

「……な、なんと無駄のない詠唱のステップ! 右と左の魔力を交互に練り上げ、風の精霊を召喚するための儀式か! ……よし、私もやってみるぞ!! 右手上げて、左手下げて……!」

レオンハルトが、舎弟の動きを完璧にトレースし、真剣な顔で「必殺・風車の構え!!」と叫んだ。

その瞬間。

ビュォォォォォォォンッ!!!

レオンハルトの光の魔力が、動きに連動して本当に発動し、ステージの上に凄まじい『光の竜巻(風車)』を巻き起こしてしまったのだ。

「うわぁぁぁぁっ!? マジで魔法が出たぁぁぁっ!?」

舎弟たちが、竜巻に巻き込まれてステージから吹き飛ばされる。

「「「アハハハハハッ!! レオンハルト隊長、何やってるんですか!!」」」

アリアやニムたちが、予想外の魔法の暴発に大爆笑する。

お笑いの文化と、ファンタジーの勘違い。

言語はルミスの翻訳機で通じていても、「笑いの文脈」までは直訳できない。その絶妙なすれ違いが、会場をこれ以上ないほどの爆笑の渦に巻き込んでいた。


4. 影絵の魔獣と、静かに抜け出す二人


「……まったく、馬鹿騒ぎしてるわね。あの生真面目なジーグ将軍が、ヤクザの宴会芸に感動して泣いてるなんて、明日の朝になったらショックで腹を切るんじゃないかしら」

広場の騒騒しさから少し離れた、静かな風が吹き抜ける城壁の上のバルコニー。

シオンは、レザージャケットのまま石の手すりに腰掛け、手にした紙コップ(中身はカルロスが淹れてくれた温かいコーヒーだ)の湯気を見つめながら、穏やかに微笑んでいた。

「お姉ちゃん、ここにおられたのですね」

背後から、純白のドレスを揺らして、リオナが足音もなく歩み寄ってきた。

「リオナ。……カイルとイチャイチャしなくてよかったの? さっきまで、あいつにあーんして食べさせてたじゃない」

シオンが、少しだけ意地悪くからかう。

「も、もう! お姉ちゃんまでからかわないでよ! カイルは今、ヤクザの人たちから『現代の騎士道(極道映画)』について熱いレクチャーを受けてて、離れられなくなっちゃったの」

リオナが、顔を赤らめながらシオンの隣に並んで座る。

眼下の広場では、宴会芸の第二幕が始まっていた。

「おい、ハクの兄貴!! 兄貴もなんか一発芸、見せてくだせぇよ!!」

龍崎たちに囃し立てられ、ハクが渋々ステージ(荷台)の上に引っ張り上げられている。

「チッ、ふざけんな! 俺を誰だと思って……ええい、分かったよ! ちょっとだけだぞ!」

ハクは、ステージの強力なヘッドライトを背に受け、自身の『影』を巨大な城壁の壁面に向かって投影した。

「……見ろ。これが俺の『影絵』だ」

ハクが、両手を使って器用に影の形を作る。

壁面に浮かび上がったのは、可愛い犬のシルエット……ではなく。

ガァァァァァァァァンッ!!!

影の魔力で完全に実体化し、三つの首を持ち、口から黒い炎を吐き出そうとしている、超絶リアルな『地獄の番犬ケルベロス』の巨大な影だった。

「「「ひぃぃぃぃぃぃっ!!? 影絵のレベルじゃねぇぇぇっ!! 食われるゥゥッ!!」」」

ヤクザの舎弟たちが、あまりのリアルさと殺気に震え上がり、一斉に土下座して泣き叫ぶ。

「ガハハハ! さすがハクの兄貴だ! 宴会芸でも一切手加減がねぇ!!」

龍崎だけが、大喜びで拍手喝采を送っている。

「……ふふっ。ハクってば、あんな顔して、本当はああやってみんなの中心にいるのが好きなのよね」

リオナが、下のドタバタ劇を見下ろしながら、クスクスと笑う。

「そうね。……あいつは、ずっと一人ぼっちだったから。自分の影を恐れない人間たちに囲まれて、きっと、すごく居心地がいいんだわ」

シオンも、ハクの不器用な影絵を見つめながら、優しく目を細めた。

シオンは、コーヒーを一口飲み、ふと、隣に座る妹の横顔を見た。

「……ねえ、リオナ」

「ん?」

「追跡者どもに、データの海に引きずり込まれた時のこと。……覚えてる?」

シオンの少し真剣なトーンに、リオナも表情を引き締め、コクリと頷いた。

「うん。……すごく、暗くて、冷たかった。でも、怖くはなかったよ。カイルがずっと、私を光で包んでくれてたから。……それに、お姉ちゃんが絶対に助けに来てくれるって、魂の奥底で繋がってる気がしたから」

リオナは、自分の胸元に手を当てた。

「あのね、お姉ちゃん。私、あのデータの底に沈んでいる時に……もう一つ、別の『記憶』を見たの」

「記憶?」

「うん。……私たちが、前世で『一人の大魔導士』だった頃の、もっと昔の記憶。私たちが、どうして神のシステムに反逆しようとしたのか、その『理由』の記憶だよ」

シオンの紫の瞳が、僅かに見開かれる。

第八部で創造神の眼を破壊した時、彼女たちが見たのは「反逆して魂を引き裂かれた瞬間」の記憶だけだった。なぜ反逆したのかという、根本の動機までは深く思い出せていなかったのだ。

「……私たち、どうしてあんな無謀な戦いを挑んだの?」

シオンが、息を潜めて尋ねる。

リオナは、夜空の星々を見上げながら、静かに語り始めた。


5. 星空の下、微睡みの女王たち


「……前世の私たちは、あの摩天楼の世界(現実世界)で、最高の天才って呼ばれてたんだって」

リオナの声が、夜風に溶けるように優しく響く。

「誰も解き明かせない魔法と科学の理論を完成させて、人々の病気を治して、豊かな生活をもたらした。……でも、私たちは気づいちゃったの。私たちがどれだけ頑張って人を救っても、システム(創造神)が設定した『寿命』や『運命のプログラム』には逆らえなくて、結局、みんな決められた通りに死んでいくってことに」

リオナの白銀の瞳が、少しだけ悲しげに揺れる。

「私たちは、それが許せなかった。……人間は、ただのデータの数字じゃない。笑って、泣いて、愛し合って……その『心』の動きこそが、世界の本当のエネルギーなのに。システムに管理された箱庭の中じゃ、誰も本当の意味で『自由』じゃないって」

「……だから、システムを破壊して、人間を運命から解放しようとした。……それが、私たちの反逆の理由だったのね」

シオンが、コーヒーのカップを握りしめる。

「ええ。……でも、結果的に私たちは失敗して、魂を引き裂かれちゃった。……そして、このファンタジーの箱庭に落とされて、光と闇として、十五年間も憎み合うようにプログラム(呪い)をかけられた」

リオナは、シオンの方を向き、その細い手をしっかりと握った。

「でもね、お姉ちゃん。……私、今の私たちが、前世の私たちよりも、ずっとずっと『強い』って思うの」

「……どうして?」

「だって、前世の私たちは『一人』だったから。……誰かのために怒って、悲しんで反逆したけど、自分の隣に立って、背中を守ってくれる『家族』はいなかった。……でも、今の私たちには、いるじゃない」

リオナは、眼下の広場を指差した。

そこには、大爆笑しているハク、慌てるカイル、肉を頬張るジーグやゼッカ、そしてヤクザの龍崎たちの姿がある。

「私にはカイルがいて、お姉ちゃんにはハクがいる。……それに、こんなにたくさんの、不器用だけど温かい仲間たちがいる。……私たちが魂を引き裂かれたのは、ただの呪いなんかじゃない。この『繋がり』を見つけるための、必要な道のりだったんだよ」

リオナの言葉は、混じり気のない、純粋な『光』そのものだった。

シオンは、妹の言葉を聞いて、胸の奥にあった最後のおりのようなものが、完全に浄化されていくのを感じた。

「……そうね。一人じゃ、到底たどり着けなかったわ」

シオンは、コーヒーの紙コップを置き、リオナの肩を優しく抱き寄せた。

「前世の私たち(大魔導士)が見れなかった景色を、今、私たちはこうして見ている。……この新しい世界は、誰のシステムにも管理されていない、私たちだけのものよ」

シオンは、星空を見上げた。

「これからは、私たちの手で創るの。……誰もが自由に泣いて、笑って、馬鹿みたいな宴会芸で腹を抱えられる、本当の国をね」

「うんっ! お姉ちゃんと一緒なら、絶対に素敵な国になるよ!」

二人の姉妹は、星空の下で、肩を寄せ合い、静かに微笑み合った。

血塗られた復讐の死神と、檻に囚われた聖女。

その残酷な肩書きは、今夜の星空の下で完全に消え去り、ただの「未来を夢見る二人の少女」へと戻っていた。

「……さて。少し体が冷えてきたわね。下に戻って、ハクの馬鹿犬から串焼きでも奪ってやりましょうか」

シオンが立ち上がり、レザージャケットの皺を伸ばす。

「ふふっ、ハク、きっと本気で怒るよ!」

リオナも笑って立ち上がった。

バルコニーから階段を降りていく二人の背中は、これまでにないほど軽く、そして喜びに満ちていた。

だが。

彼女たちは、まだ知る由もなかった。

この平和な星空の、遥か彼方。

完全に切り離したはずの「次元の境界線」の向こう側で。

彼女たちに屈辱的な敗北を喫した追跡者の上位個体『処刑人エグゼキューター』が、前世の彼女たちが遺した『大魔導士の遺産(真の深淵)』に、静かに、そして冷酷にハッキングを開始しようとしていることを。

嵐の前の、最後の美しい微睡みの夜は、笑い声と共に静かに更けていく。

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