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境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第四章 空っ風の異邦人と、黄昏のコンクリート
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第四章6 『宇都宮の黄金焼き(餃子)と、重なり合う二つの空』

栃木県・宇都宮へと足を伸ばしたシオンとハクが味わう「現代の美味(餃子)」を最後の息抜き。『統合された世界』の過酷な真実、そして追跡者の冷酷な罠が牙を剥く。

1. 生身の温もりと、失われた絶対の盾

草津温泉での奇跡の復活劇から一夜明けた、群馬県・大泉町の『暁の自由都市』拠点。

早朝の冷たい空っ風が吹き抜ける中、設営された巨大な食堂テントの中は、これまでにない温かな空気と活気に包まれていた。


「……カイル。ほら、あーんして」

「リ、リオナ様。さすがに皆の目がありますから、僕が自分で……」


純白のドレスから簡素な動きやすい平服に着替えたリオナが、木のスプーンで温かい野菜スープをすくい、隣に座るカイルの口元へと運んでいる。

カイルは顔を真っ赤にして周囲の視線を気にしながらも、そのスープをゆっくりと口に含んだ。


「……美味しいです。野菜の甘みと、温かさが……喉を通って、胃の奥に落ちていくのが、はっきりと分かる」

カイルの青い瞳から、感動の涙がホロリとこぼれ落ちた。


半霊体であった頃、彼は物理的な物体に触れることも、食事の味を感じることもできなかった。

生身の肉体を取り戻した今、木のスプーンのざらりとした感触も、スープの熱さも、そして何より、隣に座るリオナの肩が触れ合った時の「柔らかな温もり」も、すべてが痛いほどに鮮明に感じられたのだ。


「よかった……! 本当に、カイルが戻ってきてくれてよかった!」

リオナが、涙ぐみながらカイルの左腕を両手でギュッと抱きしめる。


「ヒューヒュー! 騎士様とお姫様、朝から熱いねぇ!」

「おいおい、スープが冷めちまうぞ!」

周囲で朝食をとっていた昼国・夜国の兵士たちが、ニヤニヤと笑いながら冷やかしの声を上げる。


その和やかな光景を、少し離れた席でコーヒー(ゼッカたちがコンビニで大量に調達してきたもの)を飲みながら見つめていたシオンは、ふと、鋭い視線をカイルに向けた。


「……カイル。肉体を取り戻したってことは、あんたのその体は、もう『純粋な魔力体』じゃないってことよ」


シオンの静かな指摘に、周囲の冷やかしの声がピタリと止んだ。

カイルもまた、自らの両手を見つめ、真剣な顔で頷いた。


「ええ、分かっています、シオン様。……僕の『白銀の神盾』は、物理法則を無視した霊体であったからこそ、天使の概念消去や追跡者のデジタル防壁にも干渉できた。……ですが、完全な人間の肉体に戻った今、僕の魔法は以前ほどの理不尽な防御力バグを発揮することはできません」


カイルが人間になったということは、彼が再び「死の危険」と隣り合わせになったことを意味する。

もう、強引に魂を削ってシステムをハッキングするような無茶はできないのだ。


「カイル……」

リオナが不安そうにカイルの服の袖を掴む。


「心配いりません、リオナ様」

カイルは、優しくリオナの手を握り返した。

「絶対の盾は失いましたが、僕の剣の腕と、貴女を守り抜くという誓いは、霊体であった頃よりも遥かに強くこの体に刻まれています。……それに、痛みが分かるからこそ、守れる命があるはずです」


「……その覚悟があるならいいわ。これからは、簡単に死ぬような無茶は許さないからね」

シオンが、コーヒーの空き缶をテーブルに置き、立ち上がった。


「さて。お姫様たちの感動の再会はここまでよ。……ハク、行くわよ。昨日ゼッカが言っていた『異常座標』の偵察だわ」

シオンが、黒のレザージャケットの襟を立てて呼びかけると、テントの入り口の影から、同じく黒いパーカーを目深に被ったハクが姿を現した。


「チッ、朝飯も食わせねぇで人使いの荒い主だぜ。……で、どこに向かうんだ?」

ハクが首をポキポキと鳴らす。


「ここから東……『栃木県・宇都宮』っていうエリアよ。昨晩から、あそこの空間の魔力波長がおかしいの。……追跡者どもの残党が、また何か仕掛けてきているのかもしれないわ」


シオンの紫の瞳には、一切の油断もなかった。

束の間の休息は終わった。ここから先は、この現実世界(現代日本)のルールを掌握し、追跡者たちを根絶やしにするための、冷酷な狩りの時間である。


2. 宇都宮の黄金焼き(餃子)、束の間の美食

数時間後。

シオンとハクは、大泉町から魔力による身体強化と影の移動を駆使し、栃木県の中心都市である『宇都宮』の駅前に降り立っていた。


「……随分と人が多い街ね。群馬ののどかな風景とは大違いだわ」

シオンが、行き交う現代のスーツ姿の会社員や学生たちを、レザージャケットのポケットに手を入れて冷ややかに観察する。


「おいシオン。偵察もいいが、腹が減って背中と腹がくっつきそうだぜ。俺は昨日の夜からロクなもんを食ってねぇんだ」

ハクが、周囲から漂ってくる強烈な「匂い」に鼻をヒクつかせながら、シオンの袖を引っ張る。


「……あんた、まさかと思うけど」

シオンが呆れてハクの視線の先を見ると、駅前の広場に立ち並ぶ何十軒もの『餃子専門店』の看板が目に飛び込んできた。

ごま油とニンニク、そして肉が焼ける香ばしい匂いが、街全体を包み込んでいる。


「……あの匂い、たまらねぇ。ゼッカのキノコソースも良かったが、あそこから漂ってくる『焼けた肉と油』の匂いは、俺の獣の直感を強烈に刺激してやがる……!」

ハクの紫の瞳が、完全に獲物を狙う肉食獣のそれに変わっていた。


「はぁ……。仕方ないわね。潜入のためのエネルギー補給だと思って、少しだけよ。ゼッカから換金した日本円はまだあるから」

シオンが財布(ドンキで買った安物)を取り出すと、ハクは歓声を上げて一番近くの老舗餃子店へと飛び込んでいった。


店内は昼時で混み合っていたが、二人は一番奥のカウンター席に滑り込んだ。


「いらっしゃい! 焼きダブルとすい、それからライスでいいかい!」

威勢の良い店員の声に、ハクはよく分からないまま「おう! 全部持ってこい!」と豪快に頷く。


数分後。

目の前に運ばれてきたのは、美しい黄金色の焦げ目がついた『焼き餃子』の皿と、湯気を立てる『水餃子』だった。


「……なんだこれ。白い皮の中に肉が隠してあるのか?」

ハクが、箸を不器用に使いながら、焼き餃子を一つ摘み上げ、そのまま口に放り込んだ。


パリッ。ジュワァァァ……ッ。


「…………ッ!!!」


ハクの動きが、完全にフリーズした。

目を見開き、口元を手で押さえたまま、小刻みに震え始める。


「ちょっとハク。またニムの毒でも入ってたみたいなリアクションしないでよ」

シオンが呆れながら、自分も小皿に醤油と酢、ラー油を調合して餃子を口に運んだ。


「……う、うめェェェェェェッ!!!」

ハクが、店内に響き渡る大声で叫んだ。

「なんだこの、パリパリの皮を破った瞬間に溢れ出す、暴力的なまでの肉汁は!! ニンニクとニラの香りが、脳みそを直接ぶん殴ってくる!! さっきのタレ(酢醤油)の酸味が、肉の脂を完璧に中和して、無限に食えちまうぞ!!」


ハクは、そこから先は言葉を発することなく、まるで掃除機のように次々と餃子を胃袋に吸い込んでいった。

焼き餃子をライスの上でバウンドさせ、水餃子をスープごと飲み干す。そのあまりの食べっぷりに、周囲の客や店員も呆気を取られて見惚れてしまうほどだった。


「……あんた、本当にこの世界(現代)のジャンクな食べ物が肌に合うのね。精霊獣の誇りはどこに行ったのよ」

シオンは、上品に餃子を味わいながらクスクスと笑った。


「誇りより食欲だ! ……ああ、クソッ。こんな美味いもん、リオナやお堅い半分幽霊カイルにも食わせてやりたかったぜ」

ハクが、空になった皿の山を見つめ、満足げに腹をさすりながら、ふと寂しそうに呟いた。


その言葉に、シオンの箸がピタリと止まった。

「……そうね。落ち着いたら、今度は四人で一緒に来ましょう」


当たり前の日常。美味しいものを食べて、大切な人たちの顔を思い浮かべる。

しかし、その当たり前の幸福が、この世界では「奇跡」の上に辛うじて成り立っている氷の橋であることを、シオンは痛いほどに理解していた。


「……ごちそうさまでした。行くわよ、ハク」

シオンは代金を支払い、店を出た。

彼女の顔から、束の間の柔らかな表情が消え、再び氷のような冷徹な戦士の瞳に戻っていた。


「おう。腹も膨れたし、いつでも神様をぶっ殺せるぜ」

ハクもまた、パーカーのフードを目深に被り、シオンの隣に並ぶ。


彼らが駅前の広場に出た、まさにその時だった。


3. 重なり合う二つの空、侵食される宇都宮

ジジッ……!!


シオンの視界の端で、駅前の巨大な商業ビルの看板が、不自然な緑色のノイズを発して『ブレた』。


「……始まったわね」

シオンが、魔剣『雷月』の入ったギターケースを背中から下ろし、警戒態勢を取る。


「おいシオン……あれ、見ろ」

ハクが、震える指で空を指差した。


シオンが見上げると、晴れ渡っていたはずの宇都宮の青空に、巨大な『ひび割れ』が走っていた。

そして、そのひび割れの向こう側から。

現実の空とは全く違う、分厚い暗雲と赤黒い稲妻が渦巻く『黄昏時の空』が、まるで別のキャンバスを無理やり重ね合わせたように、透過して見え始めていたのだ。


「……空間の統合マージが、制御不能に陥っているのよ」

シオンがギリッと歯を食いしばる。


「統合? どういうことだ! 次元の壁は俺たちがぶっ壊して、一つの世界になったんじゃねぇのか!」


「ええ。私たちの自由都市は、この群馬や北関東の土地に完全に上書きされたわ。でも、追跡者たちが管理していた『箱庭のシステム』そのものが破壊されたわけじゃない。……あいつら、この現実世界と、残っているファンタジー世界の残骸を、無理やり一つに圧縮して『クラッシュ(自壊)』させる気なのよ!」


シオンの予測を裏付けるかのように、宇都宮駅の周辺で、恐ろしい現象が起き始めた。


駅前のロータリーのコンクリートが波打ち、そこから突如として、夜国の象徴であった『漆黒の巨大ないばら』が突き破って生えてきたのだ。

同時に、近代的なガラス張りのビルの最上階が、緑色のノイズと共に削り取られ、代わりに昼国の『白亜の神殿』の塔の一部が、パッチワークのように物理的に融合して出現した。


「な、なんだあれ!? ビルからお城が生えてるぞ!?」

「キャアアアアッ! 地面から変な植物が!!」

「地震か!? 逃げろ!!」


駅前を行き交っていた現代の一般市民たちが、突如として始まった世界のバグ(物理的な融合)にパニックを起こし、悲鳴を上げて逃げ惑う。


「……マズいぜシオン! このままじゃ、この街の連中が異世界の瓦礫に押し潰されるぞ!」

ハクが、崩れ落ちてきた神殿の柱の破片を、影の腕で弾き飛ばしながら叫ぶ。


「……追跡者どもの狙いはこれね。次元の境界線を曖昧にして、この現実世界の人間たちごと、私たち特異点を『システムエラー』として処理する気だわ」


シオンは、逃げ惑う人々を守るために、紫金の魔力を解放した。

「ハク! 落ちてくる異世界の瓦礫を、全部私の雷で粉砕するわ! あんたは逃げ遅れた人間たちを安全な場所へ誘導して!」

「分かった!!」


シオンが魔剣を抜き放ち、上空から降り注ぐ白亜の神殿の破片に向けて、無数の紫金の斬撃を飛ばす。

ガガガガガガッ!!

巨大な石の塊が、シオンの雷に触れて次々と空中で粉砕され、安全な砂埃となって降り注ぐ。


ハクは、影を巨大なネットのように広げ、パニックで転倒した人々をすくい上げ、安全な地下道への入り口へと強引に放り込んでいく。


「……くっ、キリがないわ! 空間の重なりがどんどん強くなってる!!」

シオンが息を切らす。


宇都宮の街のあちこちで、現代の車と異世界の馬車が融合して鉄くずになり、信号機が魔力石の街灯に書き換えられていく。

世界が、狂ったコラージュアートのように崩壊していく。


その混沌の狂騒の中。

空間の裂け目から、ゆっくりと、しかし圧倒的な冷気と死の気配を纏って、一つの影が地上に降り立った。


4. 処刑人エグゼキューター、次なる絶望の予告

『……無意味な救済だ、特異点アルファ』


その声は、これまでシオンたちが戦ってきたのっぺらぼうの追跡者ドローンたちとは、明らかに次元が違っていた。


シオンとハクが振り返る。

駅前広場の中央、アスファルトと異世界の石畳が入り混じった狂気の空間に立っていたのは、漆黒のロングコートを着た、長身の男だった。

顔には、のっぺらぼうの仮面ではなく、禍々しい『銀色の髑髏スカルの仮面』を被っている。


「……あんた、これまでの雑魚とは違うみたいね」

シオンが、魔剣の切っ先を男に向ける。


『……私は追跡者の上位個体。システムの強制終了と、バグの完全な切除を担う、処刑人エグゼキューターだ』

髑髏の仮面の奥から、低く、機械的でありながらも冷酷な意志を持った声が響く。


「処刑人だろうがなんだろうが、知るかよ。てめぇらがこの街をこんなグチャグチャにしてるのか!!」

ハクが、影の腕を鋭い槍に変形させ、処刑人に向かって飛びかかった。


『……学習能力のないエラーコードめ。貴様の影など、私の次元には届かない』


処刑人が、軽く右手を振るった。

それだけで、ハクの放った影の槍が、まるで空間ごと消しゴムで消されたように、パツンと跡形もなく消滅した。


「なっ……!?」

驚愕するハクの腹部に、不可視の衝撃波が直撃する。


「ガ、ハァァァァッ!!」

ハクの巨体が、くの字に折れ曲がり、数十メートルも後方に弾き飛ばされて、駅舎の壁に激突した。


「ハク!!」

シオンが叫び、即座に処刑人との間合いを詰める。


「――『紫雷・神断かみだち』!!」

シオンの放った紫金の全力の斬撃。

だが、処刑人は避けることすらせず、ただ左手を前に出しただけだった。


ギィィィィィィィンッ!!!!


シオンの魔剣が、処刑人の左手の平から数センチの空中で、見えない壁(絶対防壁)に激突し、凄まじい火花を散らして完全に停止させられた。

これまでの追跡者の防壁とは違う。シオンの『切断』の概念すらも上回る、圧倒的な情報密度の壁。


『……素晴らしい出力だ。だが、貴様がいくら魔法という名のバグを極めようとも、世界を統べるシステムの「管理者権限」には敵わない』

処刑人が、防壁越しにシオンを見下ろす。


「……ふざけるな。私に斬れないものなんて、ない!!」

シオンが、歯を食いしばり、さらに魔力を注ぎ込む。紫の雷が黒く変異しそうになるのを必死に抑え、限界まで押し込む。


『……無駄だ。すでにこの現実世界リアルと、貴様らの箱庭ファンタジーの統合による「システム・クラッシュ」は始まっている』

処刑人は、シオンの剣を弾き返し、彼女を数歩後退させた。


『統合が完了すれば、二つの世界の物理法則は完全に矛盾し、自己崩壊を起こす。……この日本という国はおろか、星そのものがデリートされる。我々はその前に、貴様ら特異点という最大のバグを摘出し、世界を安全にフォーマットするだけだ』


「……星そのものを、デリートするですって?」

シオンの顔から血の気が引く。

箱庭の消去だけではない。彼らは、この現実世界の何十億という人間の命すらも、ただの「データのリセット」として消し去る気なのだ。


『……お前たちに、逃げ場はない。統合が臨界点に達するまで、あと七十二時間。……その間、ゆっくりと絶望を味わうがいい、星の罪人よ』


処刑人は、自ら攻撃を仕掛けることはなく、背後に開いた緑色のポータルの中へ、幻のように溶け込んで消えていった。

彼にとって、シオンたちと戦う必要すら無いのだ。ただ時間が経てば、世界ごと消滅するのだから。


5. 統合世界の支配者へ、シオンの決断

「……シオン。大丈夫か」

壁から這い出してきたハクが、口元の血を拭いながらシオンに歩み寄る。


「ええ。……でも、最悪の事態よ」

シオンは、魔剣を鞘に収め、周囲を見回した。


宇都宮の街は、異世界の建造物と現代のビルがグロテスクに融合し、悲鳴とサイレンが鳴り響く地獄絵図と化していた。

そして空には、現実の青空と、異世界の黄昏の空が、パッチワークのように重なり合って、不気味な模様を描いている。


「あと七十二時間で、この星ごとデリートされる。……追跡者どもは、私たち特異点と、この世界の人間たちの命を天秤にかけたのよ」

シオンが、ギリッと唇を噛む。


「……クソッ。どうすりゃいいんだ。俺たちの力じゃ、あの処刑人って野郎のバリアすら破れなかったぞ」

ハクが、悔しそうに壁を殴りつける。


シオンは、目を閉じ、深く深呼吸をした。

前世の記憶。神のシステムに反逆し、敗北した大魔導士の記憶が、彼女の脳内で高速で演算を始める。

魔法と科学、ファンタジーと現実。二つの理が衝突して崩壊するなら、どうすればいい?


(……矛盾するから崩壊する。なら、矛盾をなくせばいい。……二つの世界を、一つの完璧な『新しいシステム』として、私が再定義コントロールしてしまえば……!)


シオンが目を開けた時。

彼女の紫の瞳には、かつてないほどの、狂気にも似た『王』としての絶対的な覚悟が宿っていた。


「……ハク。大泉町の拠点に帰るわよ。ジーグ将軍たちを動かさなきゃいけない」


「帰るって……どうする気だ、シオン? 逃げ道なんてどこにもねぇぞ」

ハクが戸惑う。


シオンは、崩れゆく宇都宮の街を背に、冷たく、そして力強く宣言した。


「逃げるんじゃないわ。……私は、奪うのよ」


「奪う?」


「追跡者どもが、この世界を管理できずにクラッシュさせるっていうなら。……私が、この『統合された世界』のすべての魔力とシステムを掌握して、新しい世界の『支配者』になるわ」


シオンの言葉に、ハクは雷に打たれたように目を見開いた。


かつて、全てを憎み、世界を破壊しようとしていた神穿鴉。

その彼女が今、追跡者の手から世界を救うため、自らが世界のくさびとなり、二つの世界を統べる『女王』になることを決断したのだ。


「……へっ。言ってくれるじゃねぇか」

ハクは、シオンのその圧倒的な覚悟の前に、凶悪な牙を見せて笑った。

「統合世界の支配者か。悪くねぇ。……なら俺は、女王様の隣に控える、世界一凶悪な番犬ってとこだな」


「ええ。頼りにしてるわよ、私の騎士」

シオンとハクは、崩壊が加速する宇都宮の街を後にし、急ぎ大泉町の拠点へと踵を返した。

残り時間は、七十二時間。

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