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第一章2『孤高の皇女』

王都から追放同然で辺境「天雷閣てんらいかく」へ送られたリオナを待っていたのは、慈悲なき父、光帝の仕打ちと、兵士たちの冷ややかな視線だった。

1.光の檻に刻まれた傷


「見ていろ、あれが『不浄の雷』を宿した第一皇女殿下だ」 「王都を追い出され、この泥臭い雷光の地に捨てられたのだ。我らと同じ、ただの防波堤よ」


リオナは、耳に届く陰口を無視し、連日、黄金の雨が降り注ぐ演習場に立ち続けていた。彼女に与えられた任務は、国境から溢れ出す闇の魔獣を討伐すること。だが、彼女の最大の敵は外にではなく、自身の内側にあった。


「くっ……あああああ!」


リオナの咆哮とともに、右腕から制御不能な黄金の雷が暴走する。その光の奔流は魔獣を塵に帰すが、同時にリオナの柔らかな肌をも焼き、軍服の袖を焦がした。 彼女の魔力には、夜国の性質である「浸食」の波形が混じっている。放出したエネルギーが自分自身を蝕むという、光の国ではあり得ない拒絶反応。


父、光帝ソルから届く親書には、常にこう記されていた。 『その闇を焼き尽くせ。光に影は不要である。完璧な光を示せぬならば、二度と王都の土を踏むことは許さぬ』


「完璧……? 影のない光なんて、この世界のどこにあるっていうの……っ!」


血の混じった泥の中に膝をつき、リオナは空を仰ぐ。眩しすぎる太陽は彼女を助けてはくれない。彼女にとって「光」とは、希望ではなく、自分を縛り付け、変質を強要する重圧そのものだった。


追放されたリオナを待っていたのは、辺境の静養などではなく、帝都から送り込まれる「教官(検閲官)」たちを通じた父・ソル帝の執拗な支配だった。


七歳で「天雷閣」へ送られてから、リオナの生活は、国境守備の訓練と、週に一度行われる**「浄化の儀」**に支配されることになる。


「リオナ殿下、陛下の命により、今週の不純物を洗い流します。……準備を」


そう告げるのは、王都から派遣された冷徹な神官たちだ。彼らは天雷閣の一室を、王都の「光の神殿」と同じ魔力波形に調整し、そこにリオナを閉じ込める。 父ソルがこの地に設置させたのは、離れた帝都からでも魔力を送り込める巨大な受光晶だった。


「あ……あああぁっ……!」


受光晶から放たれるのは、父ソルの属性である『至高光エクス・ルクス』。 それは数里離れた帝都から、魔力回路を通じて届く「父の意志」そのものだった。 リオナの体内に宿る「夜国の波形(前世の記憶)」が疼くたびに、この至高光が牙を剥き、彼女の血管の奥までを焼き、白く塗り潰そうとする。


ソルにとって、辺境へ送った娘は「守護者」である前に、管理されるべき「故障した兵器」でしかなかった。


2.無機質な視線


「リオナ、今週の討伐報告を。……なぜ、魔力を温存した? お前の雷の中に、また濁りが見えたぞ」


月に一度、通信用の魔鏡越しに現れる父ソルの姿は、黄金の鎧に身を包み、神々しいまでに輝いていた。だが、その瞳に映っているのは娘の成長ではなく、魔力計が示す数値のみである。


「申し訳ありません、父様。雷光の地は魔力が乱れやすく……」 「言い訳は不要だ。お前が完璧な光を体現できないのは、お前の精神が夜国の闇に誘惑されているからだ。己を律せ。お前はヒノクニの『正義』そのものでなければならぬ」


通信が切れた後の冷たい静寂。 リオナがどれほど魔獣を倒し、国境を守ろうとも、父からの称賛は一度もなかった。与えられるのは、より過酷なノルマと、内面の「不純」を責める言葉の刃。


七歳から十代半ばにかけて、リオナは「父に認められたい」という幼い願いを、少しずつ「父への静かな憎悪」へと変えていった。


彼女が自ら進んで黄金の落雷の中へ身を投じるようになったのは、その時だけが、父ソルの干渉――帝都から届く「矯正の光」から逃れられる唯一の時間だったからだ。


「痛いのは、どっちも同じ……。でも、この雷鳴の中だけは、お父様の声が聞こえない」


降り注ぐ雷光を全身に受けながら、リオナは自身の肩に刻まれた「掠り傷(前世の痕跡)」をなぞる。 父がどれほど「正義」の名の下に彼女を漂白しようとしても、この傷の奥に眠る姉への想いだけは、黄金の光も焼き切ることはできなかった。

こうしてリオナは、昼国の「光」に愛されながらも、その「光」に最も傷つけられるという矛盾を抱えたまま、孤高の皇女として成長していく。この冷徹な「正義」に晒され続けた魂が、初めて自分を「影ごと」受け入れてくれるカイルという存在に出会ったとき、物語は大きく動き出すことになる。

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