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境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第二章 黄昏の再会、砕かれた誓い
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第二章11 『白銀と紫金の共鳴』

ついに並び立った双子の姉妹と人化した精霊獣ハク。

彼らが、世界を蹂躙する両国の狂王――光帝ソルと闇御門ルナ――に対して真っ向から反逆の牙を剥く

1. 狂王の哄笑と、泥に咲く三つの花


「……ククク、アハハハハハ!!」

西の空、深淵のブラックホールから巨大な触手を操る夜国の絶対支配者・闇御門ルナが、腹を抱えて哄笑した。

「傑作だ! 獣に食い殺されたと思っていた壊れたオモチャが、泥の中から這い出てきて私に牙を剥くか! しかも、あろうことか光の皇女と肩を並べて! シオンよ、貴様のその滑稽な喜劇には、反逆罪という最高の特等席を用意してやろう!」

東の空、黄金の十字を背負う昼国の絶対君主・光帝ソルは、不快感を隠そうともせず、冷徹な目を細めた。

「下劣な闇の泥虫どもと、我が血を引く出来損ないが共に並び立つなど。……我が網膜を穢すな、汚物ども。その存在自体が、完全なる光の調和に対する冒涜である」

神を自称する二人の王が放つ、空間を押し潰すような重圧。

並の兵士であれば、その視線を向けられただけで泡を吹いて気絶するほどの威圧感の中で。

闘技場の中央に立つ三人の若者たちは、一歩も引くことなく天を睨み返していた。

「お姉ちゃん……。あの二人、本当に狂ってる。自分の国の兵士たちごと、私たちを消し飛ばす気よ」

白銀の六枚翼を広げたリオナが、カイルの眠る『光の柩』を背に庇いながら、額に汗を滲ませる。

仮面を捨てた元・修羅の少女、シオンは、紫金の雷を纏う魔剣『雷月』を肩に担ぎ、ふっと鼻で笑った。

「昔からよ、リオナ。あの大人たちは、自分たち以外は全員盤面のチェス駒だとしか思っていない。……でもね、駒だって、足元をすくって喉笛を噛み千切ることくらいできるわ」

「オイ、シオン」

シオンの隣で、首の骨をボキボキと鳴らしている長身の青年――人化した精霊獣ハクが、爬虫類のように縦に裂けた紫の瞳で、上空の王たちをねめつけた。

「どっちのクソ神からぶっ殺す? 光る方のオッサンか? それとも、偉そうに浮いてる闇のヒョロガリか? 俺ぁ、どっちの肉も不味そうで気乗りしねぇがな」

「頼もしいこと言うじゃない、ハク。……でも、無理はしないで。人間の体は、獣の時みたいに腕が千切れてもすぐには生えてこないのよ」

「ハッ! てめぇの絶望に比べりゃ、かすり傷みてぇなもんだ! 俺の背中に隠れてな、シオン!」

ハクが獰猛な牙を見せて笑う。

その粗野だが真っ直ぐな言葉に、リオナは目を丸くした。

「お姉ちゃん……その人、本当にあの黒い大きな獣なの……? 口が悪いというか、その……」

「ええ。中身はただの馬鹿犬よ。でも、私の自慢の騎士パートナーだわ」

シオンが柔らかく微笑む。それは、十五年間一度も見せることのなかった、年相応の姉としての穏やかな表情だった。

「……信じられん」

闘技場の隅で、息を潜めていた昼国の近衛騎士団長ジーグが、呆然と呟いた。

「あれが、あの冷酷無比な『神穿鴉』だというのか? 皇女殿下と並び立ち、あのような穏やかな顔で……」

「将軍。我々は……間違っていたのかもしれません」

前衛隊長レオンハルトが、痛む左目をおさえながら立ち上がる。

「光帝陛下は、我々を見捨てて無差別に攻撃を仕掛けてこられた。しかし、あの夜国の死神は……先ほど、我々昼国の兵士を敵の縛めから解放し、『生き延びろ』と言ったのです」

神が民を殺し、悪魔が民を救う。

戦場の常識が根底から覆り、兵士たちの心に激しい葛藤が生まれていた。


2. 激突・天雷と星屑


「無駄口を叩く暇があるなら、その穢れた魂を神の炎で消毒して差し上げましょう!」

上空から急降下してきたのは、六枚の光の翼を持つ大審問官メタトロンと、無数の星の光弾を操る星導官セレスだった。

「セレス、貴女はあの不浄なる姉妹を。私はあの得体の知れない黒い男を排除する」

感情のないメタトロンが、両手の光剣を十字に交差させてハクへと迫る。

「邪魔よ、人形風情が!」

シオンが飛び出そうとするが、それより早く、リオナが白銀の翼を翻して前に出た。

「お姉ちゃんはハクと向こうをお願い! この人たちは、私が止める!」

「生意気な! 聖騎士の盾を失った貴女に、何ができるというのです!」

セレスが冷ややかに指を鳴らすと、数千の『星屑の光弾』がリオナを四方八方から包囲した。一発一発が城壁を穿つ威力を持つ致命の雨だ。

「……カイルは、失っていません。彼は今も、私と共に戦ってくれている!」

リオナは、カイルの眠る柩を一瞥し、そして自身の聖剣『ソル・ブレイカー』を両手で構えた。

「――『白銀の防壁プラチナ・イージス』!!」

カイルが命を懸けて教えてくれた『絶対守護』の術式。それをリオナが、自身の白銀の雷で見事に再現してみせたのだ。

ズドドドドドンッ!!

星屑の光弾が防壁に直撃するが、白銀の光はそれを「破壊」するのではなく、波紋のように受け流し、無害な光の粒子へと「還元」していく。

「馬鹿な……!? 私の星導魔術が、ただの光の粉に!?」

セレスが驚愕に目を見開く。

「すごいわ、リオナ……」

シオンは妹の成長に目を細め、そして、獰猛な笑みを浮かべて背後のハクに合図を送った。

「なら、私たちも負けていられないわね。ハク、行くわよ!」

「オラァッ!!」

ハクが石畳を蹴り砕き、弾丸のような速度でメタトロンへと肉薄した。

「神速。だが、直線的すぎる」

メタトロンが冷徹に光剣を振り下ろそうとした瞬間。

ハクの影が異常に伸び、メタトロンの足首に絡みついた。

「なっ……影が、実体を!?」

「隙だらけだぜ、羽虫!」

ハクは自らの影を物理的な力に変える『影縛り』でメタトロンの体勢を崩すと、呪いの刺青が赤く発光する右拳を、メタトロンの腹部へ深々と叩き込んだ。

「ガ、ハァッ……!!」

衝撃波がメタトロンの背中から抜け、六枚の光の翼が数枚へし折られる。無感情な処刑人が、初めて苦痛に顔を歪めて吹き飛ばされた。


3. 深淵の刺客、血と死の舞踏


「……あらあら。随分と乱暴な殿方ね。私の趣味じゃないわ」

メタトロンとセレスが押し込まれたのを見て、夜国陣営から新たな影が舞い降りた。

妖艶なドレスを血に染めた吸血魔女カーミラと、全身を包帯で巻かれた屍王バアルである。

さらに彼らの頭上では、暗黒竜ヴリトラが、シオンたちを丸呑みにしようと巨大な顎を開いていた。

「シオン様。ルナ様のオモチャとして愛されていた頃の貴女は、もっと従順で可愛らしかったのに。……その綺麗な血、私がすべて吸い尽くして差し上げますわ」

カーミラが妖しく微笑むと、彼女の足元の血溜まりから、無数の紅い刃がシオンに向けて射出された。

「……悪いけれど、今の私は少し血の気が多いの。あなたの不味そうな血で薄める気はないわ」

シオンは一切退かず、紫金の魔剣『雷月』を上段から一閃した。

「――『紫雷・断頭台ギロチン』」

空を裂く紫金の雷刃が、カーミラの紅い血刃をすべて蒸発させ、そのままカーミラのドレスの裾を切り裂いた。

「キャッ!? な、なんて重い魔力……! 以前の『日蝕』の虚無とは違う、生き物のような圧力が……!」

カーミラが悲鳴を上げて後退する。

「ギ、ギギギ……死肉ヨ……我ガ糧トナレ……!」

その隙を突き、屍王バアルがハクの背後から迫る。バアルの周囲には、闘技場で死んだ兵士たちがアンデッドとなって無数に付き従っていた。

「チッ、死体の軍団かよ。趣味がわりぃな!」

ハクが舌打ちする。

「ギヒヒ! 貴様ノソノ無尽蔵ノ生命力……我ガ呪イデ腐ラセテヤル!」

バアルが放つドス黒い瘴気が、ハクを包み込もうとした。

しかし、ハクは逃げるどころか、ニヤリと獣の牙を見せて笑った。

「腐らせる? バァカ。……俺がどれだけの呪いを喰って、この体を手に入れたと思ってんだ」

ハクが大きく息を吸い込む。

そして、彼自身の影を巨大な「顎」のように展開し、バアルの放った致死の瘴気を、まるで美味しいスープでも飲むかのように、ゴクゴクと吸い込んでしまったのだ。

「ナ、ナンダト!? 我ガ呪イヲ……喰ッタ!?」

バアルの顎の骨が外れんばかりに開く。

「ゲフッ。……不味い。シオンの絶望に比べりゃ、てめぇの呪いなんて水みたいに薄っぺれぇな」

ハクは口元を拭うと、右手に凝縮した漆黒の魔力を纏わせ、バアルの頭蓋骨を鷲掴みにした。

「てめぇの薄っぺらい死の匂い、俺の主の傍に近寄らせるわけにはいかねぇんだよ!」

メシャァァァァァッ!!!

ハクのすさまじい握力と魔力によって、屍王バアルの頭部が、粉々に砕け散った。操り主を失ったアンデッドの兵士たちが、次々と糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。


4. 泥ネズミたちの観劇と、騎士の決断


その圧倒的な双影の戦いぶりを、戦場の片隅で震えながら見つめている者たちがいた。

「……ヒ、ヒィィッ! バアル様が、一撃で……!」

瓦礫の陰に隠れていた影潜りカエレンと、毒娘ニムである。彼らは、シオンを見捨てて逃げようとしたところをハクに吹き飛ばされ、気絶から目を覚ましたばかりだった。

「ゼ、ゼッカ先生! あれ、本当にシオン様なの!? 仮面をつけてた頃より、ずっと強くなってるじゃない!」

ニムがガタガタと震えながら、隣で義眼を見開いている副長ゼッカの袖を掴む。

ゼッカは、冷や汗を流しながら、かつての主の戦いぶりを凝視していた。

(……恐怖で縛り付けていた魔力ではない。自らの意志で、守るべき者のために振るう剣。……シオン様は、修羅の仮面を捨てて弱くなったのではない。人としての『枷』を外し、真のバケモノへと羽化したのだ)

ゼッカは、自らの手にある毒糸が、シオンたちに対しては全く無力であることを悟った。

「……我々は、とんでもない選択を間違えたのかもしれん」

彼は低く呟き、ただ泥に塗れて戦局の行方を見守ることしかできなかった。

一方、昼国の陣営でも、大きな決断が下されようとしていた。

「ジーグ将軍! セレス様の光弾が、味方の負傷兵たちのテントへ向かっています! このままでは全滅です!」

レオンハルトが、悲痛な声を上げる。

空中のセレスは、リオナの防壁を突破できない苛立ちから、周囲への被害を全く気にせず無差別攻撃を始めていたのだ。

「……ええい、ままよッ!!」

ジーグ将軍は、ついに自らの大剣を高く掲げた。

「全軍、傾聴ぉぉぉっ!!」

彼の怒号が、混乱する昼国の兵士たちに響き渡る。

「我ら光の騎士の誇りは、弱き民を守り、安寧をもたらすことにある! 己の兵を焼き殺すような光は、もはや我々の信じた神の光ではない!」

ジーグは、上空の光帝ソルに向かって、明確な『反逆』の剣を突きつけた。

「我が剣は、これより第一皇女リオナ殿下、並びにカイル・ヴァン・アストラル殿に捧げる!! 総員、リオナ殿下を援護し、あの狂った星導官を撃ち落とせェッ!!」

「「「ウオォォォォォォッ!!!」」」

ジーグの決断に、迷っていたレオンハルトやガラハッド、そして兵士たちが一斉に呼応した。

彼らはリオナの周囲に陣形を組み、上空のセレスやメタトロンに向けて、ありったけの魔術と矢を放ち始めた。

「なっ……下等な兵士どもが、この光帝に逆らうというのですか!?」

セレスが信じられないものを見るように叫ぶ。

「父様……! これが、あなたの正義の末路です!」

リオナは、自らを守る盾となってくれた兵士たちの想いを背に受け、白銀の雷を聖剣に収束させた。

「みんなの想いを……繋ぐ!!」


5. 交差する雷鳴、届かぬ神の座


戦場は、完全に三つ巴――いや、「狂った二柱の神」対「反逆の若者たちと兵士」の構図へと変貌していた。

「ルナよ! 貴様の飼い犬の躾はどうなっている! 目障りだ、さっさと消し炭にしろ!」

上空の光帝ソルが、怒りに顔を歪めて『太陽神剣アポロン』を振りかざす。

「クハハハ! 吠えるなソル! 壊れたオモチャは、この暗黒竜ヴリトラの胃袋で消化してやるわ!」

闇御門ルナが指を鳴らすと、上空で待機していた巨大な暗黒竜ヴリトラが、シオンとハクに向けて凄まじい瘴気のブレスを吐き出した。

「お姉ちゃん! 上から来るわ!」

リオナが白銀の防壁を上空へ向けようとするが、

「リオナは前のセレスたちに集中して! 上は私たちがやるわ!」

シオンが鋭く叫び、ハクの背中へと飛び乗った。

「おうよ! オラァ、跳ぶぜシオン!」

ハクが石畳を粉砕するほどの力で跳躍する。ヴリトラの放つ瘴気のブレスの中へ、二人は自ら飛び込んでいった。

「馬鹿め! ヴリトラの瘴気は骨まで溶かすぞ!」

カーミラが嘲笑うが、次の瞬間、彼女の笑顔は引き攣った。

「誰の骨を溶かすって?」

瘴気のブレスを『影の盾』で完璧に防いだハクと、その背中から飛び出したシオンが、ヴリトラの巨大な顔の眼前に迫っていた。

「貫け……! 『紫雷・神穿しらい・かみうち』!!」

シオンの魔剣から放たれた紫金の雷が、ヴリトラの硬い鱗を紙のように貫き、その巨大な右目を完全に破壊した。

「ギャオォォォォォォッ!!!」

暗黒竜が激痛に悶え、黒い血を雨のように降らせながら墜落していく。

「おのれ、虫けらどもがァァッ!!」

愛竜を傷つけられた闇御門ルナが、激怒して自身の魔力を解放する。周囲の空間がドス黒く歪み、底なしの重力がシオンたちを襲う。

同時に、光帝ソルもまた、反逆する昼国の兵士たちごとリオナを消し去るため、最大の黄金魔法『天照の槍』を再び生成し始めた。

「まずいわ……! 今の私たちじゃ、あの二人の王の全力攻撃を同時に受けるのは……!」

シオンが着地し、歯打ちをする。

ハクもまた、ヴリトラの瘴気を防いだことで全身から煙を上げ、息を切らしていた。

絶体絶命の危機。

神々の圧倒的な暴力が、反逆の双極を完全に押し潰そうとした、その時だった。

ドクン……ッ。

リオナの背後。

白銀の雷でコーティングされていたカイルの『光の柩』が、突然、強烈な脈動を打った。

「……え?」

リオナが振り返る。

炭化し、心臓に大穴が空き、完全に命の灯火が消えかけていたはずのカイルの肉体。

その傷口から、金色の粒子――いや、リオナの『白銀の魔力』と、カイル自身の『太光の魔力』が複雑に絡み合った、眩い光の糸が無数に溢れ出し、欠損した肉体を縫い合わせるように編み込まれ始めたのだ。

「カイル……? 嘘、魂が……戻ってきているの……?」

リオナの白銀の涙が、柩の表面に落ちる。

それは、昼国の光でも、夜国の闇でもない。

愛する者を護りたいという純粋な願いが、奇跡の再生を呼び起こそうとしていた。

『……泣かないで、と言ったはずですよ、リオナ様』

声はなかった。

しかし、温かい光の波動が、リオナの、そしてシオンとハクの心に直接響き渡った。

神殺しの戦場に、ついに最大の希望が蘇ろうとしている。

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