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境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第十章:黄金の神殿と、黎(くろ)の魂の燃え殻

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第十章2『神威の崩壊と、極道の死に様』

世代を超えて『くろの魂』が転生し、受け継がれていく壮大な物語です。


右腕を失いながらも神のことわりを砕いたシオンと、限界を迎えた極道たちが、新世界の神々を相手にどのような生き様を見せつけるのか。次世代へと向けて命を燃やす彼らの闘志を、引き続き全力で描かせていただきます。

中央の守護神が振るう絶対的な「法則の大剣」を、完全に炭化した右腕と引き換えに粉砕したシオン。

その常軌を逸した「極道の意地」は、白亜の闘技場に君臨する新世界の神々に、かつてないほどの戦慄を走らせた。


『――警告。第一指定目標ノ肉体、既ニ崩壊率九十パーセントヲ超過』

『――理解不能。ナゼ、動ケル。ナゼ、我ガ盾ガ、旧世代ノ腕力ニ押サレテイル……!?』


右の守護神が、狼狽えたような無機質なノイズを漏らす。

その視線の先では、両膝の軟骨を完全にすり減らし、骨と骨が直接削れ合う異音を響かせながらも、龍崎が一歩、また一歩と丸太棍棒を押し込んでいた。


「ヘッ……。計算機みてェな頭じゃ理解できねェだろうなァ!」

龍崎の口からドス黒い血が溢れ出る。だが、その顔には凶悪な歓喜の笑みが張り付いていた。

「極道(俺たち)はなぁ、最初から『明日』なんざ見て生きてねェんだよ! 次の時代ガキどもに道を譲るって決めた今日、この瞬間に……残りの命の全部を前借りしてんだァッ!!」


メキィィィィッ!!

龍崎の極太の腕が風船のように膨れ上がり、筋肉の繊維が限界を超えてブチブチと千切れていく。その代償として生み出された理不尽なまでの膂力が、右の守護神が構える黄金の盾を、中心からひしゃげさせた。


『――装甲崩壊。危険領域ニ到達、離脱シ、再構築ヲ――』

「逃がすかよ、木偶の坊ッ!!」


右の守護神が後退しようとしたその瞬間、左の守護神の頭上からハクが銀色の流星となって舞い降りた。

「シィッ!」

神速の双剣が、左の守護神の首の関節――黄金の装甲が最も薄くなるコンマ数ミリの隙間へ、寸分の狂いもなく突き刺さる。


『――機動力、低下。敵対者ノ剣速、我ガ演算速度ヲ凌駕……』

左の守護神の首から、黄金のエーテルが血のように激しく噴き出した。


「遅ェな。神様ってのは、痛みがねェから動きに『必死さ』が足りねェんだよ」

ハクの右肩は先ほどの突撃で完全に脱臼し、だらりと垂れ下がっている。彼は残された左腕一本と、口に咥えたもう一本の剣という異形の構えで、神の巨体を白亜の床へと縫い付けていた。


極道たちの命を懸けた猛攻。

それは、彼らの胸の奥で共鳴する『くろの魂』が、第一世代の肉体という古い殻を破り、次なる次元(第二世代)へと昇華するための爆発的な熱量でもあった。


「……すごい。これが、泥の時代を生き抜いた大人たちの……『本気』」

泥舟の甲板からその死闘を見守るカイルは、震える手で杖を握りしめていた。

シオンたちは、明らかに死に向かっている。

新世界の中枢であるこの清浄な空間において、旧時代の泥にまみれた彼らの肉体は、神聖なエーテルに当てられ、文字通り「燃えカス」となって消えようとしていた。


「カイル……あたしたち、どうすれば……」

リオナが悲痛な声で、カイルの袖を掴む。今すぐにでも風の魔法で援護に入りたい、その衝動を必死に堪えているのが伝わってきた。


「……手は、出さない。シオンさんたちが命を懸けて教えてくれているんだ。僕たちがこれから背負うべき『覚悟』の重さを」

カイルの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。だが、その瞳に迷いはなかった。

「僕たちの魔法は、大人たちの邪魔をするためのものじゃない。……あの人たちがこじ開けてくれた扉の先へ、この船を真っ直ぐに進めるためのものだ!」


次世代の若者たちの覚悟を見届けたかのように、右腕を失ったシオンが、静かに、だが確かな足取りで、膝を突く中央の守護神へと再び歩みを進めた。


『――旧キ遺物ヨ。ソノ命ハ、既ニ尽キカケテイル』

黄金の大剣を砕かれた中央の守護神が、残された腕で立ち上がりながら、空間を震わせる声でシオンを威圧する。

『――コノ神聖ナル中枢ニ、貴様ラノ残ル場所ハ無イ』


「……ええ、知ってるわ」

シオンは不敵に笑い、残された左腕に、これまでで最も静かで、最も高密度な極彩色の炎を灯し始めた。

「だからこそ、派手に散ってやるのよ。極道あたしたちの死に様ごと、次代の神話に刻み込みなさい」


『――異常事態。対象ノ魔力密度、我ガ空間ノ法則ヲ侵食中』

『――迎撃システム、最終フェーズヘ移行』


シオンの左腕に灯った極彩色の炎。それは、これまでの爆発的な荒々しさとは対極にある、宇宙の深淵のように静かで、恐ろしいほどの高密度に圧縮された光だった。

新世界の中枢である白亜の闘技場が、その熱量に当てられてドロドロと溶け出し、神聖なエーテルが悲鳴を上げて蒸発していく。


武器を失った中央の守護神が、その異常な熱源を排除すべく、両腕から純粋な「法則の光線」を放射した。

触れれば原子レベルで分解される致死の光。しかし、シオンはそれを避けることすらしない。


「……遅いわね」


シオンが左腕を軽く薙ぎ払うと、極彩色の炎がベールのように展開され、神の放った法則の光線を真正面から「焼き尽くして」相殺してしまった。


『――ッ!? 法則ガ、燃エテイル……!? 理解不能。旧キ泥ノ遺物ニ、新世界ノことわりヲ凌駕スル力ハ無イ筈……!』


無機質だった神の音声に、明確な「混乱」が混じる。

彼らの計算では、泥の時代を生きた極道たちの肉体は、すでに99パーセント崩壊している。立っていることすら不可能なはずのゴミ屑が、なぜ世界の法則を焼き尽くすほどの熱量を放てるのか。


「だから、お前らみたいな頭でっかちには一生わからねェって言ってんだよッ!!」


龍崎の怒号が、闘技場に轟く。

ブチブチと筋肉を引きちぎりながら放たれた丸太棍棒のフルスイングが、右の守護神のひしゃげた盾を完全に粉砕し、そのまま神の太い右腕を根元からへし折った。


『――右腕、破損。機能低下』

「機能低下だァ? 寝言は寝て言え! 喧嘩ってのはな、腕の一本や二本無くなってからが本番なんだよォッ!」


龍崎は自らの限界を超えた反動で両目から血の涙を流しながらも、神の懐へと頭突きをぶち込む勢いで突進していく。


「龍崎の言う通りだぜ。……痛みも知らねェお坊ちゃんが、極道(俺たち)の死に損ないの意地に勝てるわけがねェ」

左の守護神の頭上に張り付いたハクが、脱臼した右腕をダラリと下げたまま、左腕と口に咥えた双剣を交差させる。

「シィッ!」

神速の鋏撃が、神の首を繋ぐ黄金の太い管を完全に切断した。


ズガァァァァンッ!!

右の守護神が龍崎の無茶苦茶な猛攻によって吹き飛ばされ、左の守護神が首を落とされて白亜の床に轟音を立てて崩れ落ちる。


限界を迎えた二人の極道が、新世界の神々を完全に圧倒していた。

だが、その代償はあまりにも重い。

龍崎の巨体は痙攣し、ハクの呼吸は不自然なほどに浅く、速くなっている。彼らの命の火は、今まさに燃え尽きようとする最後の瞬間に、最も強い光を放っているだけなのだ。


『――警告。警告。対象ノ体内ニ、特異点ヲ確認』

中央の守護神が、後退りしながらシオンの胸の奥を解析し、驚愕のノイズを上げた。

『――コレハ、泥ノ時代ノモノデハナイ。次代ノ源泉……新世界ノ理ト同質ノ、イデア……!?』


神々はようやく理解した。

シオンたちの肉体は確かに泥の時代のものである。しかし、その内に宿り、限界を超えた肉体を強引に突き動かしている『くろの魂』の輝きは、この新世界を創り出す源泉そのものと同質――いや、それ以上に気高く、熱い光を放っていることに。


「……気付くのが遅いのよ、新米」

シオンは、左腕の極彩色の炎を闘技場の天井へと届くほどに高く立ち昇らせた。

胸の奥で共鳴する『黎の魂』が、第一世代という古い殻を完全に脱ぎ捨て、来るべき第二世代へと飛び立つための「産声」を上げている。


「あたしたちの命は、ここで終わる。でも、この魂は、あの若い連中と一緒に次の時代あんたたちのド真ん中を歩いていくのよ」

シオンの紫の瞳が、中央の守護神を真っ直ぐに射抜く。


「さぁ、極道あたしたちの……その命の使い切り方、特等席で味わいなさいッ!!」


『――拒絶。拒絶スル。ソノ熱量ハ、我ガ新世界ノ法則ヲ根底カラ破壊スル……ッ!』


中央の守護神が、初めて明確な「恐怖」を露わにし、残された左腕で防御陣を展開しようとした。

だが、遅い。

極道たちの喧嘩において、相手に恐怖を抱かせた時点で、勝負は既に決しているのだ。


「遅ェんだよ、神様」


シオンの呟きと共に、彼女の左腕に圧縮されていた極彩色の炎が、白亜の闘技場すべてを飲み込むほどの圧倒的な光柱となって立ち昇った。

それは、泥の時代を這いずり回った第一世代の怨念ではない。次なる時代を生きる若者たちへ向けた、純粋で、どこまでも温かく、そしてすべてを焼き尽くす絶対的な「希望の光」だった。


「『極彩・黎の連華れんげ――【絶炎・きわみ】』ッ!!!!」


シオンが左拳を真っ直ぐに突き出す。

放たれた極彩色の爆炎は、神が展開した何重もの黄金の防御陣を、まるで薄紙を燃やすように一瞬で貫通し、中央の守護神の巨大な胸部へと深々と突き刺さった。


『――ア、ガ……ッ!? オォォォォォォォォッ!!』


神の絶叫が空間を震わせる。

絶対的な法則そのものであったはずの黄金の巨体が、内側から極彩色の光に侵食され、ドロドロと溶け落ちていく。


「……ハァッ、アァァァァァッ!!」

シオンの左腕もまた、その常軌を逸した出力の代償として、指先から手首、そして肘へと、急速に炭化して崩れ落ちていく。だが、彼女は決して拳を引かなかった。

肉体が崩壊しようとも、胸の奥で激しく燃え盛る『くろの魂』が、彼女の存在をこの次元に強引に繋ぎ止めている。


『――旧キ、命、ガ……。新時代ノ、神、ヲ……』


中央の守護神が信じられないものを見るようにシオンを見下ろし、そして――

ズガァァァァァァァァァァァンッ!!!!


天地を揺るがす大爆発と共に、新世界の中枢を司る最強の守護神は、光の粒子すら残さずに完全に消滅した。


荒れ狂う極彩色の炎と、黄金のエーテルの嵐が白亜の闘技場を吹き荒れ、やがてゆっくりと静寂が訪れる。


「……終わった、か」


静まり返った闘技場に、龍崎のひび割れた声が響いた。

丸太棍棒を杖代わりにし、全身の筋肉を断裂させた巨漢の極道は、両膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪えて立っていた。

その数メートル先では、ハクが両腕を完全にだらりと下げ、口に咥えた双剣だけを頼りに、右の守護神の残骸の上に座り込んでいる。


そして、彼らの中央。

両腕を完全に失い、全身が炭化してボロボロになったシオンが、黄金の風に銀糸の髪を揺らしながら、ただ静かに、誇り高く立ち尽くしていた。


「シオンさんッ!! 龍崎さん! ハクさんッ!!」


『反逆の泥舟』から飛び降りたカイルとリオナが、涙を振り乱しながら三人の元へと駆け寄る。

「すぐに治癒を……! 僕の光で、絶対に治してみせます!!」

カイルが杖を掲げ、持てる限りの『聖光』を放とうとする。


「……よせ、カイル。もう、無駄だ」

ハクが、力のない声で若き魔法使いを制した。


「そんな……だって、お三方とも、まだ立ってるじゃないですか……ッ!」

リオナが翠緑の瞳から大粒の涙をこぼし、震える手でシオンの焦げたマントを掴む。


だが、若き二人は気付いていた。

極道たちの肉体は、すでに治癒魔法が通用する次元を超え、文字通り「燃えカス」となって、今この瞬間にも光の粒子となって崩れ去ろうとしていることに。


「……泣くんじゃないわよ、ウチの若い衆」

両腕を失ったシオンが、ゆっくりと振り返り、紫の瞳を優しく細めた。

その胸の奥では、『黎の魂』が肉体の死を静かに受け入れ、そして、眼前に立つカイルたち「第二世代」と共に歩むべく、眩いほどに美しい鼓動を響かせていた。


「神様を相手に、極道あたしたちの流儀を最後まで貫き通したんだ。……最高の、死装束だったでしょう?」


新世界の中枢を切り開いた彼らの命の火は、今、その最後の瞬間に、次世代へと最も温かい光を託そうとしていた。

法則を司る新世界の神々を相手に、命を前借りした「極道の喧嘩」で完全勝利を収めたシオンたち。

しかし、その代償として第一世代の肉体は完全に限界を迎え、崩壊の時を迎えようとしています。両腕を失いながらも次世代のために道を切り開いたシオンの姿には、第一世代としての圧倒的な覚悟と愛情を込めました。


ついに新世界の中枢を陥落させた一行ですが、崩れゆくシオン、龍崎、ハクの命はもう長くは持ちません。次回の第三部では、彼らがカイルとリオナに向けて、極道としての「最後の言葉」と、そして『黎の魂』の真の継承バトンタッチが行われる、涙なしには語れない展開へと突入していきます。


第一世代が燃やし尽くした命の熱が、どのように次なる時代へと受け継がれていくのか。泥だらけの大人たちの最期の瞬間を、どうか最後まで見届けてください。

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