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境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第一章 輪廻の双極 ― 黄金の誓いと紫電の断罪
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第一章9『闇の森の邂逅』

十二歳の冬、シオンに下された任務は、境界付近に位置する禁忌の地「闇の森」に潜伏する昼国の斥候部隊を排除することだった

任務を終え、返り血を浴びた鉄の仮面を拭うシオンの鼻腔を、冷たい風に乗って「同類の臭い」が掠めた。それは、深い絶望と、焼き切れるような憎悪の混ざった魔力の残滓だった。


音もなく森の深部へ進んだシオンが目にしたのは、夜国の守護精霊として畏怖されるはずの「狛犬」の、無残な最期だった。 そこには、巨大な成体の狛犬が、その象徴である美しい漆黒の毛皮を剥ぎ取られた状態で横たわっていた。傍らには、昼国の紋章が刻まれた剣の鞘が捨てられている。犯人は、昼国の「聖騎士」や「勇者」を自称する者たちに違いない。彼らにとって、夜国の精霊獣は「正義」の名の下に駆除されるべき魔獣であり、その毛皮は高価な戦利品に過ぎなかった。


その死骸の影、内臓をぶちまけられた親の腹の下で、一匹の幼い狛犬が震えていた。


「……お前も、人間に絶望したのね」


シオンが近づくと、幼い獣は力なく牙を剥いた。その紫の瞳には、かつてのシオンが持っていた「愛されたい」という願いなど欠片もなく、ただ世界そのものを呪う暗い焔が宿っていた。その瞳は、鏡のようにシオン自身の内面を映し出していた。


精霊獣の幼体は、剥き出しになった親の骨で自らの体も傷つき、死を待つばかりの状態だった。シオンは無言で膝をつくと、母エレインから密かに贈られていた「波形安定の聖薬」を取り出した。それは母が闇御門の目を盗み、シオンの命を繋ぐために用意した最高級の薬だった。


「飲んで。死ぬには、お前はまだ……憎しみが足りない」


シオンが聖薬を注ぎ込み、自らの「紫金の雷」を微弱な熱に変えてその体を温めると、狛犬の傷口が奇跡的に塞がっていく。夜国の魔力では癒せぬはずの魂の傷を、シオンの中に眠る「黄金の光」が繋ぎ止めたのだ。


その瞬間、幼い狛犬はシオンの影へと溶け込むように吸い込まれた。 それは契約などという生易しいものではなく、復讐を誓う二つの魂が一つに重なった瞬間だった。


「……ハク。これからは、お前が私の影になるのね」


ハクと名付けられた精霊獣は、シオンの影の中から、主を苛む者すべてを喰らい尽くそうとする獰猛な唸り声を上げた。ハクはシオンの殺意を糧として急成長し、彼女が鉄の仮面の下に押し殺した「叫び」を物理的な暴力へと変える伴走者となったのである。

一人の少女と一匹の獣。 人間に裏切られ、親を奪われ、光を拒絶された者同士の邂逅。 この「闇の森」での出会いが、シオンを単なる暗殺者から、迷いなく「断罪」を下す修羅へと変える決定的な転機となった。

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