プロローグ『断崖の残響』
――これは、運命に引き裂かれ、昼と夜に別れて転生した姉妹の、愛と再興の生涯を記した物語である。
肺を焼くような熱い空気と、容赦なく肌を打つ雨。
「姉さん、もう……ダメだよ……」
妹の震える声が、荒い呼吸の合間に漏れる。背後に迫る「あの男」の足音は、静寂よりも深く、執拗に二人を追い詰めていた。
中年の男は、一切の感情を排した鬼気迫る形相でボウガンを構える。放たれた一本の矢が妹の肩を掠め、その衝撃で彼女の体は宙に浮いた。
「あ――」
視界が反転する。足元に広がるのは、底の見えない虚無の崖だ。
「待って、今助けるわ!」
姉の叫びが聞こえた気がした。迷いなく身を投げ、自分を追って落ちてくる姉の姿を、薄れゆく意識の端で捉えた。
(……姉さん。どうして、私なんかのために……)
水底へと沈みゆく姉に向かって、届かない手を伸ばす。泡となって消えていく声。
二人の意識は、そこで深い闇に塗りつぶされた。
それから、五年の月日が流れた。
私は今、まばゆいばかりの光の中にいる。かつての泥にまみれた逃走劇も、冷たい水の感触も、すべては遠い前世の記憶となった。
私は、この**「昼国」**の第一皇女として、新たな生を受けたのだ。
世界の理
この世界には、均衡を保つための奇妙な理が存在する。
一つは、太陽が沈むことのない光の世界、昼国。
一つは、星と月が支配する常闇の世界、夜国。
その二つを分かつのは、**「黄昏時」**と呼ばれる不可視の障壁。決して相容れぬ二つの世界を隔てる、絶対の境界線だ。
統治と地域
昼国には、空を焦がす**「雷光」、万物を照らす「太光」、そして聖域「天光」の三域があり、これらを勇者たる光帝が統べる。
対する夜国には、轟く闇「雷闇」、静寂の「月闇」、深く沈む「地闇」があり、魔王たる闇御門**がその玉座に君臨している。




