衝撃
「…………へっ?」
卒然、凛とした低い声が届きハッと顔を上げる。すると、そこにいたのはハッと息を呑むほどに綺麗な男性。少しクセっ毛のある艷やかな黒髪に、雪のように白い肌――そして、吸い込まれるほどに深い碧を宿した瞳。恐らくは、歳のほど20前後……それでいて、何処か翳のあるような――
「――俺はエリス、あんたは?」
「……へっ? あ、えっと……私はソフィ、です……」
すると、不意に届いた問いに呆然とする私。いや、本来なら何ら驚く質問じゃない。ないのだろうけど……私としては、結構な衝撃で。だって……名前を聞かれたことなんて、もういつ以来というほどご無沙汰だっ――
……いや、それはともあれ――
「……えっと、エリスさん。こうして、私に話し掛けてるってことは……その、そういうことですよね?」
そう、期待を込め尋ねてみる。正直、こんな綺麗な人がどうして私なんかに……そういう相手なんて、他に簡単に見つかりそう……と言うか相手から言い寄ってくるだろうとか、そんな根本的な疑問はあるのだけど今は措こう。とにかく、今は大切なお客さんを逃さぬよう――
ただ、それにしても……うん、我ながらほんと呆れ果てる。ついさっき死んでも良いなんて言いながら、希望が見えた途端これなんだか――
「――ああ。……だが、その前に――」
「…………へっ?」