儚い願い
『……本当にごめんよ、ソフィ。こんなひもじい生活しかさせてあげられなくて』
『もう、それは言わないでって言ってるでしょ。お父さんが悪いわけじゃないんだし、それに私は今でも十分に幸せだから』
『……ソフィ……うん、ありがとう』
およそ五年前――11歳の、ある冬のこと。
言葉の通り、痛く申し訳なさそうに話す痩躯の男性。彼はアラン――数年前、私の母であり彼の妻であるアンナを病気で亡くし、今は男手一つで育ててくれている私の父で。
だけど、当然ながら父が悪いわけじゃない。幼心にもはっきりと――そして、娘の私まで嬉しくなるほどに父は本当に母を愛していた。なので、母を失った悲しみも一入――当時の精悍な彼は見る影もなく、今は随分と痩せ細ってしまって。
父自身、何度も死を――母の下に行きたいという感情に駆られたらしい。……まあ、そうだろうね。
それでも、その度に思い留まった。理由は、単純明快――現世に、私がいるから。私一人を置いて、何処にも旅立つわけにはいかなかったから。
そして、私は幸せだった。もちろん、母がいなくなったのは言葉に尽くせないほど悲しいし、どうか生き返らせてほしいなんて十字架にお祈りなんかして。
それでも、本当に幸せだった。何故なら――父が、愛情を注いでくれたから。母の分もと言わんばかりに、限りないほどの愛情を注いでくれたから。だから、お世辞にも裕福とは……いや、明け透けに言って貧しかったけど、私は十分に満たされていた。父の暖かな愛情に包まれ、嘘偽りなく幸せだった。だから、このまま――この日々が続けば良いと強く願った。
だけど、そんな願いは儚く消えた。最愛の女性を失った悲痛は癒えず、どころかきっと日を増すごとに鋭く父を苛み続け日に日に衰弱。そして、私のために無理して働いてくれていた身体はついに悲鳴をあげ――私が13歳を迎えほどなく、彼もまたこの世を去った。