匂い
「――じゃあ、行ってくるわソフィ。……あと、悪かったな。今日も――」
「うん、いってらしゃいエリス。それと、分かってるから気にしないで」
「……ああ、悪いな」
それから、数ヶ月経た宵の頃。
そう、言葉通り申し訳なさそうに謝意を告げ部屋を出るエリス。日にもよるけど、このくらいの時間に出ていくことが多くて。仕事、とのこだけど……だけど、その内容は告げられていない。なので、気にはなるけどこちらから詮索するつもりもない。
ところで、今しがたの彼の謝罪は夕方頃の数時間――彼の頼みで、私が部屋を出ていた数時間についてのことで。と言うのも、時折――本当に時折、数時間ほど部屋を出ていてほしいとお願いされることがあって。
だけど、別に謝ることじゃない。彼にも何らかの事情があるだろうし……そもそも、何の義務もないのに私を置いてくれて、食事とかも用意してくれて……感謝こそすれ、不服を言う義理など何処にもなくて。
その後、ほどなくふかふかの毛布に顔を埋める。……エリスの、匂いがする。優しく、暖かなエリスの匂い。そんな穏やかな心地に包まれ、ぎゅっと毛布を抱き締める。そして――
「…………早く、帰って来ないかなぁ」