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第13話 娘の名と幼馴染、そして走れ!

 アルダダスから話を聞くために、彼との再会の地に近い町、『デルビヨ』を目指す。

 その道中、俺は子どもたちに自分の知るところを語った。

 だが、すべてを曝け出したわけではない。一部は、混乱を避けるために伏せてある。


 俺が語ったのは――


・異界の侵略者の存在。

・レナンセラ村は人間族と魔族の共存を夢見て、魔王ガルボグの手によって生み出された。

・その夢の中に、侵略者への備えも加わる。

・村長リンデンの容態が思わしくないこと。

・アルダダスもまた侵略者の存在を把握しており、語るべきことがあると俺に告げたこと。

・父ガルボグの命を奪った兄カルミアに(あらが)うべく、ガーデというもう一人の兄が奮闘していること。行方知れずの姉――サイネリアの存在。

 


――そして、双子の妹がいるという事実。

 

 ここに、妹とアスティが異界の侵略者から世界を守る鍵になっているという話もあるのだが、現状でさえ、混乱を招く情報ばかり。これについては、俺自身が正確な情報を得てから話すべきだろう。

 

 だから今は、妹の存在と名前だけを渡す。

「妹の名前はプリムラと言うそうだ。その子もまた行方知れずという」

「妹……私に? それも、双子の……」



 言葉を聞いた三人は、それぞれが思い思いに沈思(ちんし)し、心の中にある何かを噛みしめていた。


 アデルは、驚きと興奮を隠さず――

「村の隠された秘密と役目に、異界の侵略者……びっくりだけど、盛り上がってきやがったぜ!」


 フローラは、憂いを帯びた瞳で――

「侵略者の存在についても気になるけど、リンデン村長の容態が……そう、村長さんが……」


 アスティは、誰よりも深い思いに包まれ――

「パパが作った村で、私は育ったんだ。それにママ以外にも身内がいた。そっか、私にお姉ちゃんや妹が……」



 三人が受け止めた情報はあまりにも重く、濃密だった。

 心を揺さぶるのも無理はない。

 身近だった人が明日をも知れぬ容態。

 育った村が理想郷を目指していたことと、異界の脅威に対抗するためだったという事実。

 しかも、その村は、アスティの実の父親、魔王ガルボグによって創られたもの。


 そして突如として明かされた、血縁を持つ兄弟姉妹の存在。



 俺は、三人の中で最も戸惑いを見せるアスティの様子をそっと見守りながら、まだ顔すら知らぬ彼女の母親と父ガルボグが授けた名前を告げた。


「アスティ、村長との話で、お前の名前もわかった。父ガルボグと母から贈られた名前が」

「私の!?」

「名はプリム。それがお前に贈られた名前だそうだ」

「プリム……それが私の名前。プリム……プリム……プリム……」



 アスティは名を確かめるように幾度も呟く。しかし、途中で激しく頭を振って、その名前を否定した。

「違う! 私はアスティニア! そうでしょ、お父さん!」

「あ、ああ。そうだが……」


 突然の激情に俺は困惑を隠せない。

 一体、どうしたんだろうか?

 そう疑問を抱いたが、すぐに答えが分かった。

 アスティは縋るような声を生む。



「私はお父さんの娘だもん。だから、プリムじゃない! 私はアスティニア! アスティなの!」


 名前を知ったことで、俺との間に見えない距離を感じてしまったのだろう。

 血の繋がらない父と娘。そこに降って湧いた、実の父と母から贈られた名前。

 それがアスティの心に動揺を与えた。


 俺は不安に身を包むアスティを優しく両手で包み込む。

「安心しろ。お前が何者であろうと、俺の娘であることは変わらないから」

「……うん」


 娘の心の内を知ったアデルとフローラも、すぐに声をかけてくる。

「そうだぜ、お前はアスティニア。ヤーロゥおじさんの娘のアスティだ。大体プリムって名前、なんか変だしよ」

「アデル、それはガルボグ様とお母親に失礼だよ。でも、私もアスティニアの方が響きが好きだけどね。それにあーちゃんはあーちゃん。いまさらプーちゃんなんて呼べないよ」


 二人の友人から暖かな言葉をかけられたアスティは涙ぐむ。

「ぐすっ、二人ともありがとう。自分でもよくわからないけど、なんだか取り乱しちゃった。心配かけてごめんね」

「気にすんなって!」

「そうだよ! 私たちは親友なんだから!」


 俺は三人の姿を見て、心の底からこう思う。

(アスティは恵まれている。こんなにも、心から寄り添ってくれる友人がそばにいてくれるなんて……)

 

 俺はアデルとフローラという、アスティの素晴らしき友人の存在に感謝する。

「アデル、フローラ。娘のためにありがとう」

「全然! 当然のことを言っただけだから!」

「はい、そうです!」



 思わず笑みが零れる――だが、そろそろ気持ちを切り替える時だ。

「ふふふ、本当に良い子たちだ……だからこそ、責任をもってしっかり鍛えてやらないとな!」

「へ?」

「はい?」


 俺は前方に目を向けて、デルビヨの町の方角を指さした。

「デルビヨの町は結構遠いぞ。そこまで走るとなれば、良い鍛錬になる」

「ちょっと待った! 本気で言ってるの、おじさん!?」

「ノーレイン村でさえ、あれだけきつかったんですよ。もう走るのは無しにしませんか、ヤーロゥさん!?」


「何を言っている? クルスを見ただろ。今後、ああいった強敵が現れる可能性は高いんだぞ。そうなると、俺だけでは手に負えん。お前たちにも、さっさと成長してもらわないと」

「いやいや、そう言われても」

「そもそも、わたしは魔法使いなのに……」


「魔法使いでも体力は必要だ。言っとくが、これは期待の表れでもあるんだぞ。ほらほら、荷物は持ってやるから、走る準備!」

「誰かぁ、このおじさんを止めてくれよ!」

「あーちゃん、何とかして。お父さんなんでしょう!」


 二人の悲鳴にも似た叫び声を聞きながら、アスティは朗らかに笑う。

「あははは! うん、私のお父さん。でも、ごめんね。お父さんがこうなったら止められないことは、娘の私が一番知ってるの。だから――無理!」

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