【永き夜、覚めない悪夢】
「光があれば影がある。よく聞く言葉だけど本当にそう思う」
貴方はまたなぞの図書館に居た。
「光が輝くほど影は濃くなるというけど、それでも照らそうとする人居る。…なんでだろうね、それがいつか自分を焼き尽くす光になるかもしれないのに」
そして2冊の本を取り出して片方を渡して来た。
「これは、長い悪夢から目覚めた少女の物語。陰と陽の二つの物語の陰の方…陽の物語はまた今度ね」
私は周りを不幸にする。私は生きるだけで悪夢を振りまく、生きちゃいけない子だった。でも、死ぬのも怖かった…。だから私はずっと自分を封印して閉じ込めた。
悪夢を見るのは私だけでいいから。夢の中なら悪夢でも私は生きていてよかったから…。
私はネム、夢魔ネム。悪夢を振りまく悪魔。
悪夢
「おはようネムちゃん」
家を扉を開けて外に出ると、隣の家で箒で落ち葉を掃いてたおばちゃんが挨拶してくれた。
「おはようございます、マグリエおばさん」
「今日も元気ね、確か今日はパン屋のアネムさんのお手伝いだっけ?」
「はい、配達のお手伝いですね」
「うふふ、頑張ってね」
そう言って小さく手を振るマグリエさんに軽く会釈してパン屋へ向かっていく。
この村は記憶を失って倒れていた私を拾ってくれた大切な人たちの村。
私はだから少しでも恩返しがしたくて毎日誰かのお手伝いをしていた、今日はパン屋のアネムさんのお手伝いで配達をする日。
「…また、一日が始まる」
そして、パン屋までつく…一呼吸して。
「おはようございます」
挨拶しながら扉を開けた。
「おはよう、ネム。今日はよろしくね」
「はい。あれを配達すばいいのですか?」
そう言って、奇麗に包装されたパンとカバンが置いてある。
「そうそう、道具屋のマリクと外で木を切ってるアリズムに配達をよろしくね。料金は貰ってるから渡すだけでいいよ」
それを聞いて私はパンをカバンに入れて背負った。
そして扉に手をかけて振り返って…。
「…行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう言ってアネムさんは笑顔で送ってくれた。
「まずはマリクさんのところへ…」
歩きながらお手伝いを終えた後何をするか考える、今日は午後から暇だから…久しぶりに山に行こうかな。
この村は傍に山がありその丘から見る眺めが私は好きだった。
考えながら歩くと道具屋についたので扉を開けて中に入る。
「いらっしゃい。…おや、ネムちゃんだったか。もしかしてパンの配達かい?」
マリクさんは私が来た理由を察したみたいで背負ったカバンを見つめている。
「はい、大正解です。こちら、届けのパンになります」
私はカバンを開いてパンを渡す。
「ははは、今日の昼が楽しみだ。ありがとう、ネムちゃん」
「いえいえ、どういたしまして」
軽い会話を終えて私は次の配達先へ向かう。
次はアズリムさん、外の伐採場かな…。
村の入り口から外に出る。そして伐採場までそのまま足早く向かっていく。
この辺りは魔物が出ることが無いから平和に進める。
毎日ちょっとしたお手伝いしかできないけど、それでも私は充実感を感じていた。
配達を終えて、パン屋まで戻った。
「ただいま」
「おかえりなさいネム。疲れただろう、これは今日のお手伝いのお礼だよ。よかったお昼ご飯にしてくれ」
そう言って、いくつかのパンが入った袋を渡して来た。
「ありがとう、アネムさん」
パンのとてもいい香りがする、あの丘で食べようと心に決めた。
そして私は丘で村を見下ろしながらパンを食べていた。
「…おいしい」
私はふわふわしたパンを気持ちい風の中で食べる。ただでさえ美味しいアネムさんのパンがさらにおいしく感じた。
そうしてお腹いっぱいになると眠くなってきて私はちょっとお昼寝をしたくて目を瞑った。
はっとなり目が覚めるとちょっとした夕暮れになっていた。
慌てて私は村の入り口にまで走っていく、みんなが心配するかもしれないから。
あと少しで村につくというとき、茂みから何か飛び出して来た。ウルフ、狼の魔物だ。それは私を見るとちょうどいい獲物だと思い低く唸るととびかかってきた。
「きゃっ…」
私は小さく悲鳴を上げるととっさに腕で顔を守った、ウルフはその腕に噛みつくとこちらを押し倒して来た。
「痛い…やだ…」
小さい体ではウルフを退けることはできず、恐怖で声が震える。
ウルフが腕を解放すると今度はこちらの首をめがけて再度口を開ける…命を狩り取ろうする牙が見えた。
「…嫌、嫌ぁぁ!!!」
私は叫びをあげると、体から何かが放たれるのを感じた。
一瞬強い光が私から出て思わず目を瞑ってしまった私は恐る恐る目を開けると目のまえのウルフは眠っていた。私はどうして相手が眠ったかわからないけど、そのままウルフを放置して村に逃げ帰った。
村についてまず感じたのは静か過ぎたことだった、いつもなら仕事を終えて帰ってきた人たちなどで村は賑やかなのに…何も聞こえない。でも灯はついていた。
「…?」
私は傷の手当がしたいので道具屋のマリクさんの店まで向かい扉を開けて中に入った。
中ではマリクさんは静かに眠っていた。
「あれ…マリクさん?」
私はマリクさんに声をかけたけど全く起きてくれない。
「マリクさん!ウルフが出たんです!」
私は再度声を大きく出してマリクさんを揺すぶったけど、目を覚ますことはなかった。
「…どうして…えっと、ごめんなさい」
私は目が覚めないマリクさんに謝って無断で道具を借りて手当をすると他の家に向かった。
だけど、どこも同じだった。
みんな眠っていた。誰も起きてくれなかった。
私は…どうすればいいのかわからないまま街の中で立っていた。
そんな時、後ろから誰かが歩いてくる足音がしたので振り返る。
誰かが起きたのだと思って…。
そこには影に包まれたような…私が居た。
「わすれないで…ネム。わたしたちのつみはきえないよ」
…あぁ、そうだった。思い出した、これは私の罪…私の消えない過去…みんなの未来を奪った私が繰り返す私の悪夢。
これは私の罰…ずっとずっと悔いて悔いて悔い続けて…そして生き続ける。
朝になって忘れて、夜になって思い出す。そのたびに私は…強く強く胸を苦しめられる。
あの日、自分を守るために目覚めてしまった私の力…全てを眠らせる呪われた力。
大好きな人たちが二度と目覚めることはない…私がみんなの明日を奪った悪魔の力。
あぁ…眠い…。きっと眠って明日起きたら…忘れて新しい一日が…。
例え繰り返される悪夢でもここが私の生きる世界なんだ…。
「おはようネムちゃん」
家を扉を開けて外に出ると、隣の家で箒で落ち葉を掃いてたおばちゃんが挨拶してくれた。
「おはようございます、マグリエおばさん」
「今日も元気ね、確か今日はパン屋のアネムさんのお手伝いだっけ?」
「はい、配達のお手伝いですね」
「うふふ、頑張ってね」
そう言って小さく手を振るマグリエさんに軽く会釈してパン屋へ向かっていく。
この村は記憶を失って倒れていた私を拾ってくれた大切な人たちの村。
私はだから少しでも恩返しがしたくて毎日誰かのお手伝いをしていた、今日はパン屋のアネムさんのお手伝いで配達をする日。
「…また、一日が始まる」
そして、パン屋までつく…一呼吸して。
「おはようございます」
挨拶しながら扉を開けた。
「おはよう、ネム。今日はよろしくね」
「はい。あれを配達すばいいのですか?」
そう言って、奇麗に包装されたパンとカバンが置いてある。
「そうそう、道具屋のマリクと外で木を切ってるアリズムに配達をよろしくね。料金は貰ってるから渡すだけでいいよ」
それを聞いて私はパンをカバンに入れて背負った。
そして扉に手をかけて振り返って…。
「…行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう言ってアネムさんは笑顔で送ってくれた。
「まずはマリクさんのところへ…」
歩きながらお手伝いを終えた後何をするか考える、今日は午後から暇だから…久しぶりに山に行こうかな。
この村は傍に山がありその丘から見る眺めが私は好きだった。
考えながら歩くと道具屋についたので扉を開けて中に入る。
「いらっしゃい。…おや、ネムちゃんだったか。もしかしてパンの配達かい?」
マリクさんは私が来た理由を察したみたいで背負ったカバンを見つめている。
「はい、大正解です。こちら、届けのパンになります」
私はカバンを開いてパンを渡す。
「ははは、今日の昼が楽しみだ。ありがとう、ネムちゃん」
「いえいえ、どういたしまして」
軽い会話を終えて私は次の配達先へ向かう。
次はアズリムさん、外の伐採場かな…。
村の入り口から外に出る。そして伐採場までそのまま足早く向かっていく。
この辺りは魔物が出ることが無いから平和に進める。
毎日ちょっとしたお手伝いしかできないけど、それでも私は充実感を感じていた。
配達を終えて、パン屋まで戻った。
「ただいま」
「おかえりなさいネム。疲れただろう、これは今日のお手伝いのお礼だよ。よかったお昼ご飯にしてくれ」
そう言って、いくつかのパンが入った袋を渡して来た。
「ありがとう、アネムさん」
パンのとてもいい香りがする、あの丘で食べようと心に決めた。
そして私は丘で村を見下ろしながらパンを食べていた。
「…おいしい」
私はふわふわしたパンを気持ちい風の中で食べる。ただでさえ美味しいアネムさんのパンがさらにおいしく感じた。
そうしてお腹いっぱいになると眠くなってきて私はちょっとお昼寝をしたくて目を瞑った。
はっとなり目が覚めるとちょっとした夕暮れになっていた。
慌てて私は村の入り口にまで走っていく、みんなが心配するかもしれないから。
あと少しで村につくというとき、茂みから何か飛び出して来た。ウルフ、狼の魔物だ。それは私を見るとちょうどいい獲物だと思い低く唸るととびかかってきた。
「きゃっ…」
ウルフの牙が私に迫ると思ったその時。
「伏せて!」
誰かの声が聞こえ私はしゃがみこんだ。何かを振るう音と小さなウルフのうめき声と共に切られる音、倒れる音がした。
「大丈夫、立てる?」
私は振り返ると、緑の外套に包まれた剣士がこちらに手を差し伸べた。
私はその手を掴み立ち上がるのを手伝ってもらった。
「あ、ありがとう…貴方は…?」
「僕はシズヤ。旅人だよ」
そう言いながらその人は剣を鞘に納めた。
「…!わ、私はネム、助けてくれてありがとう…!」
「どういたしまして。もうすぐ日が沈みそうでよかったら泊まるところ…君の住んでる場所とか案内してもらえる?」
「うん、こっち!私の村に案内するね!」
私はシズヤと名乗る旅人の手を掴んで私の住む村まで手を引いて行った。
そして村の入り口まで案内しようとした…けど、どれだけあるいても村にたどり着けない。
「あ、あれ…もうついてるはずなのに」
「村につかないの…?」
「うん…」
「ねえ、ネムちゃん…君は…」
旅人が何か言おうとすると強い風が吹いて目を瞑る。
目を開けると私たちは深夜の村の真ん中にいた。
そして辺りを眠ったように目を瞑り倒れた村人達が居る。
「あなたがだれかしらない…でもこれはネムがくりかえさないといけないばつなの」
声と共に影から私が歩いてきた…そして私は思い出した。この世界は私が生み出した過去の記憶を基にした悪夢だってこと。
「おねがい、かえって。かえってくれたらなにもしないなにもしたくない…ふりかえってそのままあるいていって」
陰の私は懇願するように旅人に声を荒げる。
「…」
旅人は無言で陰の私を見つめてる。
「ネムのちからはきっと…みんなをふこうにする。どうやってここにきたかわからないけど…。みてわかるでしょ、わたしのせいでここはこうなった…みんなこうなったんだよ!」
「…そうだね、きっとその時、君の力がこの村の人たちを眠らせたんだろう。だけど…もう大丈夫。外の人たちはみんな起きてるんだ…。次は君が起きる番、みんな君を待ってる」
「…!」
「村の人たちが…!」
「強い魔力は暴走すると魔力の持ち主の性質に合わせた効果を発揮する…って昔、妹から聞いたことがあるんだ。きっとそれが君は睡眠に関するものだったんだろうね」
そう言って旅人は右腰の、ウルフを斬るとき使ってなかった剣に手をかける。
「魔力が原因なら…その魔力を抑え込む」
「な、なにをするの…」
「溢れた強い魔力が本人の意思に反して周りを眠らせるなら…その魔力を吸い取ってしまおうってね。対症療法だけどこれできっと大丈夫」
担い手の意思に応えるように剣が輝きだす。
「リリア、頼んだよ」
シズヤの声に反応したその剣は私から何かを吸い取っていく、これが彼が行ってた魔力を吸い取るということかな…。
不思議と心に掛かっていた重しが取れるようなそんな感覚がした。
「…ずっと、悪夢をみてきたんだろうね。…でもね、ネム。明けない夜も覚めない悪夢もありはしないんだ…!」
彼が剣を仕舞うと、村の入り口の方から陽光が見える…。
朝日が…太陽が昇ってるのが見える。
「おいで、君は充分すぎるくらい償った。だからおはようの時間だよ」
そう言ってシズヤはこちらに手を伸ばす。
先ほど、私を助けてくれたように。
「また、おなじようにわたしのちからがだれかのふこうにするかもしれないよ。つみをかさねるかもしれないよ」
陰の私が問いかける。
「大丈夫、その時はまた僕が助けるし赦すよ。だから…悪夢を断ち切って目覚めるんだ」
私と陰の私の手をシズヤは掴む。
そのまま入口へ歩いていく。
すると…皆が起きていく音がする。隣の家のおばちゃんのマグリエおばちゃん、パン屋のアネムさん、道具屋のマリクさん、木こりのアズリムさん…他にも村の人みんなが。
「行ってらっしゃいネムちゃん」
「元気でな、ネム」
「もう自分を許していいんだ、ネム」
村の人たちがみんな見送ってくれた。
そして村の出口を抜けた。
目覚めた先の世界を見るために。
そして私の悪夢は突然現れた旅人によって終わらせられた。
長い夜の…陽のないこの世界に現れて照らしてくれた太陽の様な人によって。
「…え?これだけじゃ物語の全体がわからない?話が唐突すぎる?…そうね、その通りだわ。だからこそ陽の物語が必要なのだけど…こっちは私が読んでるの。また今度ね」
そう言いながらその影に包まれた人は本のページをめくる。
「…それに貴方も目覚める時間よ。またね」