第6章 12話
今、ありえない事が起きている。
あれほど。
私がいくらあがいても無駄だったのに。
こいつは、あっさりと打ち破ってしまった。
こうなると、私に出来る事は何も無い。
「『風の精霊よ!ウィンド・カッター!』」
風の渦が私にぶつかる。
そして。
無数の切り傷が出来る。
かまいたちを起こしているみたいだ。
私は何も抵抗もせずに、それを受ける。
「ん?どういう事だ?何故避けない?」
さすがに気づいたか。
「お前は私の死の予言から逃れた。だから、この勝負も終わっている」
そう。
本来はあの氷柱が落ちて終わりだった。
だが、傷のついていないというのは初めてだ。
死ぬ事も無く。
「氷室。どういうつもりだ?」
「どうもこうもない。この予言を逃れたのなら、そのまま私を殺してくれ」
そう。
私の使命は終わった。
これまで死を逃れようと必死に努力をしてきた。
だが、それを諦めていたのだ。
それが、こんな所で打ち破られようとは。
「こんな事を言って信じてもらえるか分からないが、私は好きでディルスと共にいた訳では無い」
「なっ!?どういう事よ!!」
佐藤という娘が叫ぶ。
それはそうだろう。
あれだけ一緒にいたのだ。
信じてもらえるとは思っていない。
「ただ。あいつの側にいれば私は楽になれた。死を見なくて済むからな」
「やはり。あんたは死を見る能力があったんだ」
「ああ。だが、これは生まれつきだ。氷の能力はディルスに会ってから身に付いた物だが」
あの本に出会って、私は新たな力を手に入れた。
それが、ディルスと共にする条件だったからだ。
「私はこれまで、幾度となく死を回避しようとした。だが、それが全て無駄に終わった。一度見た死は実際に私が見る事となる映像だったのだ」
だからこそ、遠くに逃げようともしていた。
だが、それすらも運命だったのだ。
逃げたその先で、その死を目撃する事もあった。
逃げようとしたら、偶然にもその先を塞がれた事もあった。
「だからいっその事、受け入れようとした。その結果が死に神という名前をもらう事になったのだ」
別に私が殺している訳では無い。
結果的に、私の前に死体が現れるだけの事。
「ったく。まさかずっと幼い頃から叩きのめしたいと思った奴が、こんな奴だったなんてね」
幼い頃?
「そういえば。お前達とは何処で?」
「例の原発事故だ」
あの?
まさか。
生き残りがいたとは。
「そうか。あの時はまだディルスと共にいなかった。単に別の任務であそこにいたのだが」
それが、あんな事になろうとは。
「待って!それじゃあの時、ディルスと一緒にいたのは!?」
「偶然だ。たまたま逃げだそうとした時に出会っただけだ」
そう。
全くの偶然。
それが、ずっと一緒にいるとは思ってもいなかった。