第3章 9話
そして。
その偶像の下には1冊の本があった。
おそらく、この教会の教本なのだろう。
僕はそれを手に取り、中身を見る。
うっ、これは。
「どうしたの?」
美喜子が不思議そうにのぞき見る。
「げっ!?何これ?」
そう。
まるっきり分からない。
いや、美喜子の場合は外国語に詳しい訳では無いからこういう言葉も自然と出て来るだろうけど。
僕が怪訝そうな表情をしたのは、これがまったく見た事のない言語で書かれていたからだ。
おそらくこの街では通用していた古代文字なんだろう。
だけど僕にはまったく分からない。
これまで色々勉強はしてきたけども。
まったく見覚えの無い言語が出てくるのは初めてだ・・・。
でもこれも自然な事かもしれない。
出て来る文字が全て知ってる言語とは限らない。
現代では無くなった古代だけの文字があって当然。
ページをめくると、所々絵があってそこには恐竜の絵もある。
たぶんこの街、いや世界かもしれないけれど、恐竜を神として祭っていたのは間違い無いだろう。
その辺りの思想は現代でも通用するような部分がある。
一目で教会と分かる作り。
そして偶像。
だけど何故そこで本物がいるのかには繋がらない。
しかもこの偶像はさっき見たステゴザウルスでは無い。
これはT-レックス。別名ティラノサウルスという僕達の世界でも有名な恐竜の代表だ。
肉食恐竜の中でも最大級の肉食恐竜の一種だ。
それが神として崇められている。
いや。
もしかしたら恐れられていたのかもしれない。
その辺りは日本を始め神としての共通項だ。
単に人間よりも凄いから祭ってるのでは無く、恐れられてる可能性は高い。
だけど、それはあくまで推測。
ここに書かれてる事が分かれば、その辺りが分かるかもしれないのに。
「なんか難しい顔してるけど、健一でも分かんないの?」
「ああ。これは古代文字だ。いくら僕でも現代に残ってない文字までは読みようが無い」
早々と降参を決めた。
読めないものは仕方ない。
なら、この偶像に祭ってるのが僕達の敵と思っていいだろう。
謎は残ってるけど、それを調べる術も無いし。
「あら、私なら分かりますわよ?」
不意に僕達の背後から声がした。
これは船長の声じゃない!!
女性の、しかも聞いた事のある声。
「うげっ!?理恵子!?」
そう。
僕達の背後にいたのは。
林道理恵子さんだった。