第9章 2話
「美喜子は青龍の言った話、どうしたいと思う?」
他に誰もいない屋上に連れられて。
開口一番がこの話題。
普通に考えればそうなんだけど。
ほんのちょっと期待した私が馬鹿みたい。
もっとも、健一はそういう奴だって分かってんだけどね。
「私は、あんまり乗り気じゃない。第一、私は正義の味方って訳じゃないから、悪と戦うって言われても分かんない」
これが正直な話。
第一、正義ってのは人によって違う。
その定義は、まちまち。
だからこそ、この世界には戦争という事態が起こる。
もしこれが唯一無二の存在なら。
戦争はもっと減ってるはず。
これまで正義の名の下に、どれだけ虐殺が行われて来たか。
歴史が苦手な私でも知ってる事。
「僕も正義の味方として悪と戦うって事に乗り気じゃないってのは、美喜子と同意見だ」
この辺りは私と一緒ね。
「だから僕は、自分の守りたい人の為に戦いたいと思う」
ふむ。
やはりそう来たか。
健一はなんとなく戦うつもりなんじゃないかと思ってたけど。
予想は的中ね。
って、ちょっと待って。
「守りたい人?」
これはかなり意外な答え。
健一だったら家族とか、友達とか。
そういう事の為かな?って思ってたけど。
もっと限定した人の為?
「ああ。僕の大切な人の為に」
心なしか、顔が赤くなってる。
へ?
それってもしかして。
健一の好きな人?
周りが一気に暗く感じる。
誰?それ?
そんなの私、聞いた事ない。
これだけ長く一緒にいたけど。
初めて聞く話。
もしかして。
理恵子の事?
うわ。
そんなの嫌!
そりゃあ、私と比べたらもの凄く魅力的な人なのは、私も認めざるを得ないけど。
嫌!
「美喜子」
え?
「どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも、無いわよ!!」
そんなの、認めたくない!
「誰よ!その大切な人って!!」
お願い!!
家族とか。
友達とか。
そういう単語が出て来て!
間違っても、ここで女性の名前なんて聞きたくない!!
「うん。そこなんだよ。ここに来てもらった本当の理由が」
ううっ。
この感じ。
非常にまずい。
次回更新は10月8日(月)予定です。