第8章 17話
神の使いだって!?
また非常識な存在が現れたみたいだ。
だが今までの僕達の冒険の中で、あまり常識的な事なんて少ないけれど。
「これでこの世界は元に戻るだろう」
確かに。
さっきまで空が暗かったのに、もう晴れ渡っている。
それだけじゃない。
イナゴの姿も無い。
地上はまだどうなってるか分からないけれど。
「何故、私達を助けてくれるのですか?」
確かに。
林道さんの質問はもっともだ。
神というのは、あまり人間に干渉しないってイメージがあったんだが。
「さすがに非常事態だしね。本来はあなた達に任せるべきなんだけど。それだと最後の災いが発動してしまうし」
それは確かにそうだ。
僕ですら、あのプロテクトを短時間で解除するのは不可能。
そうだ!
「あなたが神の使いというのなら、僕達のこの能力を消し去る方法を知っているんですか?」
そうだ。
元々、僕達の冒険の最初の目的はこれだ。
突然持ってしまった能力。
だがこれほどの強い力は持っているべきでは無い。
この能力を消し去る方法として、水晶のドクロを頼っていたんだが。
その目的もディルスを倒す目的へと変わってしまった。
そして、そのディルスも倒した今。
もう必要は無い。
「残念ながら、私の力でも無理だわ」
え?
「だって・・・」
「その力はアーティファクトの力でしょう?」
なっ!!
知っている!?
あのトトの書の事を。
「あれはあなた達人間は『トトの書』って名付けてるみたいだけど、正式名称は『アザー・ブック』と言うの」
アザー・ブック?
「あれはアーティファクトに選ばれた人物に力を与えるアイテム。その力の源はもちろん作った本人。つまりワルキュリア様よ」
ワルキュリア!?
「それが神!?」
美喜子が驚く。
それはそうだ。
僕達の知ってる神というのは、ゼウスだったり仏陀だったりイエス・キリストだったり色々いるが。
ワルキュリアという名前は聞いた事も無い。
「人間達は色々と神を想像したようだけれど、この世界を作ったのは間違いなくワルキュリア様よ」
うーん。
にわかには信じられないが。
「ともかく、私達はそのワルキュリア様に仕える者。とてもワルキュリア様には敵わない」
「それじゃあ、そのワルキュリアって神に会わせてよ!」
出来るのか?
神の使いとやらでも、そう滅多に出て来ない。
第一、この青龍という存在も初めて目にする。
頭の二本の角が無ければ、普通の女性にしか見えないぐらい。
しかし、普通の人じゃないって事ぐらいは分かる。
となると。
さらのその上の存在なんて、まず無理じゃないかと思うが。
「残念ながら、ワルキュリア様に会うのは無理ね」
「どうして!?」
「もっと巨大な悪と戦ってるから」
え?
神だからという理由ならまだしも。
悪と戦ってるだって!?
「だからこそ、ワルキュリア様は『アザー・ブック』を使って、自分の代わりに戦ってくれる人に託していたのよ。今回の事を」
なんだって!?
そうか。
それでようやく神の使いがいるのなら、何故今まで出てこなかったのかが分かった。
本来ならその神が出てくるはずが。
もっと巨大な悪と戦う為に自分では無理。
その代わりになるのを、あのアイテムに託したって訳か。
「それに、私達もあまり動けなかったのよ。本来は四方を守るのが仕事だし」
そういえば。
四神は東西南北を守る存在だったな。
「それに」
ん?
「あなた達の戦いはこれで終わった訳じゃないわ」
なんだって!?
「どういう事なんです?」
「あなた達はいずれ、ワルキュリア様と共に悪と戦う運命なのです」
え!?
「今ワルキュリア様が戦っている悪は、残念ながらワルキュリア様一人では倒すのは無理です。その為、共に戦ってくれる仲間を今こうして育てているという所でしょうね」
なにぃ!?
「それじゃ何!?私達はいずれその悪と戦うって訳!?」
「そうよ。あなたの妹と共にね」
え!?
美喜子の妹って。
葉子の事か!
それじゃやっぱり。
「そう。あなたの妹もそうだったわね」
林道さんの!?
林道さんは一瞬驚いたが。
「やはり、葛葉もそういう運命に」
ある程度は覚悟していたみたいだ。
確かに。
僕達だけ、こんな冒険をしているとは思えなかったからな。
葉子も葛葉ちゃんも、長い間戻って来ない。
その理由がそういう事か。
しかし。
この人、やはり神の使いか。
まだ僕達の事を自己紹介すらしてないのに。
美喜子と林道さんの妹の事を知っている。
しかし。
ディルスよりも巨大な悪か。
また、面倒な事になって来たな。