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第0話:契約


「ごめん奈緒、父さんの会社倒産しちゃった」


いつも通りの夕食、家政婦さんたちが作ってくれたディナーをいただきながら、お父さんが私にそう言った。

「え、倒産……?」

私はついナイフを落としてしまった。まさかそんな王道なダジャレを聞く機会が齢16歳の人生であるなんて…と、どこか他人事のような考えが思い浮かんだ。

「ああ……」

お父さんはすこし躊躇ってから口を開く。

「大口のクライアントが内部告発により潰れてしまって、その連鎖でウチも、な」

私は唇を噛みながらテーブルクロスを握る。お父さんの経営する会社がまさかそんなことに…

「それで、多額の借金が出来てしまったんだ」


「そんな…これからどうなるの!?」


私は不安で仕方がなかった。お父さんと私…それと家政婦さんたちとの平和な日常が壊れてしまうのだろうか。

「安心しなさい。お金の工面については、明日ある人に相談するつもりだから」


「ある人?」


私は首を傾げる。銀行の偉い人とかだろうか。

「"魔女"って呼ばれている女傑なんだけどね。戦前から多くの有名企業のプロデュースをしてきたコンサルタントさ。財界や政界に多大な影響力を持っている裏社会の大物だよ」

「え、そんな怖そうな人と会って大丈夫なの?」

「大丈夫。父さんと奈緒が平穏に暮らせるように交渉してくるよ」

「お父さん…」


お母さんが昔に亡くなってからはお父さんが男手1つで私を育ててくれた。まぁ、実際に料理洗濯と言った家事や、家庭教師などの教育は家政婦さんたちがやってたんだけど、私が何一つ不自由ない暮らしを出来ていたのはお父さんのおかげだ。休日はショッピングとか遊園地、アニメのイベントなどへ付き添ってくれたし、色々とお金のかかる習い事もさせてもらった。

…現状、私に出来ることと言ったら、その"魔女"とやらの交渉が上手くいくことを祈るぐらいだ。


翌日の夕方、いつも通り自宅にてお父さんの帰りを待っていたものの、帰ってこない。しょうがないので暇つぶしにアニメでも見ていた。しかしいくら待っても帰って来ず、既に見尽くした魔法少女アニメ(50話超)をまた完走してしまった。そしてそのうちウトウトしてしまいソファで寝落ちした。





「…きろ」

うぅ、寒いなぁ、うん?何か声が…

え、お父さん?帰ってきてたの?


「おい、小娘、起きろぉぉ!」


バチン!!私の頬に激しい痛みが走る。え!?何今の?めっちゃ痛いんですけど……お父さんはもっと優しくて……って!

「うひぃっ!?」

私が驚きながら目を開けるとそこには見覚えのない顔がいた。私の2/3程しかない小さな背丈に、艶やかなブロンドの髪とゴスロリチックな服を身にまとった小柄な幼女の姿である。そしてその後ろには見覚えのないメイド姿の女性が5名程控えている。

「誰?なんでこんな所に子供が?迷子?しかもメイドもいるし。不法侵入!?」

私が動揺していると、彼女は邪悪な笑みを浮かべながら叫んだ。


「この無礼者がぁぁ!妾のことをお前の父親から聞いておらんのか!」


「え?」


「妾が"魔女"じゃ。あくまでお前ら愚民の呼び方じゃがな」


えぇぇ、"魔女"って言ったらもっとこう、お婆さんみたいな年寄りじゃないんかい!! そんな私の考えを他所に彼女は得意げに続ける。

「何だその態度は。妾はお前らの借金をなんとかしてやろうというのじゃぞ?」

「……!!」

そうだ、昨日お父さんは、このロリBBA?にお金の工面について相談しに行ったはずだ。

「本当に借金を何とかしてくれるの……?」

私は不安に思いながら尋ねる。すると彼女は自信満々といった表情で胸を張った。

「勿論じゃ!さぁ、契約書にサインするがよい」

彼女の手から差し出された書類を受け取る。……なんか小難しいことが書いてあってよく分からない。


「小娘には分からんだろうから、何が書いてるか簡単に教えてやろう。……簡潔に言うと、お前ら親子は私に絶対服従っていうことじゃっ。父親の方は、現在妾の行っている事業で成果を上げるまで一生私の下僕としてボロ布のように使い潰す。そして、奈緒、お前の方は妾の暇つぶしの道具。これから出す条件をクリアするまで、24時間365日ずっと妾の玩具じゃ」

そう言って彼女はゲラゲラと笑っている。嘘でしょ…なんて性格の悪い女だ。私は彼女を睨みつけながら契約書を投げつけ叫ぶ。

「ふ……ふざけるなぁ!ていうかお父さんはどこなんだよッ!?」


「既に妾の下っ端として海外で働いてるぞ」


「はぁ?」

コイツ一体何を。


「ほら」


意味の分からないといった顔をする私に、"魔女"はスマホで電話をかけ暫く相手とやり取りしていたが、すぐ私に渡す。


「…もしもし、奈緒か?」

「あっ、お父さん!?今どこにいるの?」

周囲の音がざわざわとうるさい。しかも言葉が日本語じゃない。何?英語?

「実は、今アフリカにいるんだ。ここでご主人様の新規事業チームの一員として働かせて頂いているんだ。これから幾つかの事業を成功させれば借金を全額チャラにして頂けるそうだ」

「ええ!?何言ってるの?そんないきなり、私に何も言わずに!」

「ごめん、いつ帰ってこられるかは分からないんだ。でも奈緒のことは嫁ぎ先が決まるまでしっかりと面倒をみて頂けるとご主人様が約束して下さったから、ちゃんと仰る通りにするんだよ。それじゃ、切るよ」

「え、ちょっ」

プツッ……ツー……ツー……


「何よこれ!!どうして急に外国なんかに」

私の目の前の"魔女"はとても愉快そうに笑っている。

そんな私を面白そうに見つめる彼女だったが、スマホを私の手から奪い取った後、ふと思い出したように呟いた。


「前から思っていたが、お前さんなかなか良い顔してるな」


「え?」

彼女の口から発せられた予想外の一言に思わず固まってしまう。しかし、それも一瞬のことで彼女は私を見上げてこう言った。

「妾はこう見えても戦前から生きている。あの頃は日々生きるのに精一杯で恋愛などする余裕もなかったから、今の若者が羨ましいものじゃ。」

何?いきなり。脈絡のないお婆さん、いやロリBBAの自分語りに困惑する。しかし、戦争世代ということは少なくとも80歳越えだよね…

「そんな妾のささやかな趣味が、うら若い乙女同士の恋愛…百合を観察することなのじゃ」

「あ、はい」

何それ、もしかしてヤバイ人なのかな。…確かユリって女同士のことだよね?


「そこで妾が要求するのは、お前が学校及び周辺地域にて乙女と恋愛することで、尊い百合を提供し私を楽しませることじゃ。幸いお前の通っているとこは由緒正しい大学付属の女子高だし好都合じゃ。そうじゃな…攻略人数は100人とするか」


「はぁ?」

私は理解が追いていないが彼女は無視して続ける。

「簡単なことじゃ。妾が攻略対象と定めた女の子に接触し、恋愛をする。最終的にその子のファーストキスを奪えば攻略完了と判定。それを100回繰り返せばいいのじゃ。一応付け加えておくと攻略対象は穢れなき乙女のみ。男の居る女は勿論、若いくせに既に女性経験のある売女はNGじゃぞ」

この女は何ふざけたこと抜かしてんだ!私は怒りを覚える。

しかもコイツの女性観、滅茶苦茶歪んでやがる。

「何言ってんだ。アンタの趣味はともかくなんで私がそんなことしなきゃいけないんだよ!」


ていうか私、女なんですけど。


同性愛って正直よく分からない。最近は"LGナントカ"とかよく言われてるけど。…いや、生まれてこのかた彼氏とか居たことないしフツーの恋愛も分からんけどね?漠然と、このまま誰とも恋愛らしいこともせず、お父さんの決めた相手と結婚するのかと思っていた。


「要求を無視してもいいが、妾の気分によってはお前の大好きな父親は破滅するぞ」


う、そんな脅しを……

私は押し黙るしかなかった。

「ちなみに、借金の総額は100億じゃ」

おい、桁がおかしいだろ!嘘つくんじゃないよ!!

信じられない金額に私が喚くと彼女は私を哀れむようにこう続けるのだった。

「べつに嫌なら良いぞ?でもお前の父親は妾の手の平、まな板の上にいることを忘れるんじゃないぞ。さぁてどうしようか?今はまだ比較的全うな仕事をさせておるが、決定権は妾にある。気分次第でどんなことをさせることもできるのじゃ」

ぐっ……

「日の当たらない劣悪な環境の地下にて一生土木作業に従事させるのもいいし、豪華客船に乗せて命をかけたギャンブルゲームを強要するのも面白そうじゃ。全ては、奈緒、娘の決断次第じゃな~」

一体どうすれば……お父さんを人質に取った卑劣な提案に私は動揺した。そんな私の様子を楽しむかのように彼女は言う。

「さぁ、どうする?」

そんなの、選択肢なんて1つしかないじゃないか。


「……やります。やればいいんでしょ!?」


"魔女"は私がそう答えると満足そうに笑い、再び契約書を差し出した。

こうして私は、平穏な日常とは無縁の混沌に巻き込まれていくのだった……


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