#2 悪魔との契約
''柊陽葵は悩んでいた''
それもそのはずだろう。いきなり得体の知れないおっさんから、「一緒に住まないか?」と言われたのだから。「祖母に話をしておく」とは言っていたが、長年祖母にはお世話になったのだ。こんなこと、自分の口から言わない訳にはいかない。
それにしても、彼らが言っている''悪魔憑き''とは、どうゆう事なのだろう?正直、まだ完全に理解出来ていない。
義空や汐織さんが言っていたことをまとめると、私には悪魔が憑いている。そしてその悪魔の影響により、私が幼い頃から悩まされている''亡くなった人の思い出''を自分の意思に関係なく、視ることが出来る。そして悪魔の力は''とても強い''ため、能力の制御が''完全に''出来なくなる前に義空が''力を抑える''ということだろうか?
まぁ今そんな難しいこと考えていても仕方がない。とりあえず今は、祖母に''話''をしておかないと。陽葵は早足で祖母の家へと向かった。
''義空は陽葵の実家に電話をかける''
なんとか陽葵ちゃんに家の電話番号聞けたよ。最初は渋っていたし、警戒していたから教えて貰えないと思った…
義空は安堵しながら、陽葵ちゃんのおばあちゃんが電話に出るのを待つ。そして、彼女は3コール程して電話に出た。
''もしもし、柊です''
優しいそうな声が電話口から聞こえる。優しいおばあちゃんなのだろうと義空は勝手に思っていた。
「もしもし、わたくし''伝剛寺''の住職、神馬と申します。いきなりお電話してすみません」
義空の言葉に、彼女は驚いたような声で返す。
''お寺の方…ですか?お寺の方が私になんの御用で?''
「ええ、陽葵ちゃんのことで少しお話がありまして…」
義空は陽葵のことについて話そうと思った。しかし、彼女は驚いたような声で義空の言葉を遮る。
''陽葵?!陽葵がなんかあったんですか?無事なんですか?!''
驚いていると言うよりかは心配している。相当陽葵ちゃんを大切にしているのだろう、義空はそう考えていた。そして心配している彼女に、義空は落ち着いた声で陽葵の現状を伝える。
「陽葵ちゃんは、無事です。お母さん、陽葵ちゃんの事でなにか変わっているようなことは無いでしょうか?例えば、亡くなられた方のの''思い出''が視えるとか…」
義空はいきなり核心をついたことを言う。それに対して彼女は動揺したのか、しばらく無言であった。そして彼女は意を決したのか口を開く。
''ええ、あの子は昔からそのようなことを言っておりました。両親が亡くなった時も、あの子は「パパとママはもう帰ってこない」と泣き崩れていましたから…''
彼女は思い出したく無いであろう''過去''の話をしてくれた。そして義空は、単刀直入に物を申す。
「ええ、私も陽葵ちゃんの''能力''について把握しております。そして単刀直入に言います。しばらく彼女を寺で預けて貰えないでしょうか?」
義空は怒られる覚悟で言葉を発した。怒られても当然だろう。理由も言わずにいきなり大事な孫を''預けてもいいか''と言うのだから。
''ええ、理由は分かりませんがきっと何かあるのでしょう?あの子の''病気''を治せるのなら、あなたに任せます。私もあの子が苦しむ姿はもう見たくないから…''
彼女は陽葵の''能力''のことを''病気''と表現した。そして彼女にも思う所があったのだろう。快く受け入れてくれた。あまりにも事が早く進んだ義空は驚き、間を置いてから言葉を発する。
「ありがとうございます。彼女の''病気''を必ず治すように努力します」
義空は彼女に感謝を述べた。そして彼女も義空に感謝の言葉と「娘を頼んだ」という言葉を残して電話を切る。
通話を終えた義空は陽葵を迎えるために準備をする。
「汐織ちゃん、陽葵ちゃんのおばあちゃんには話をつけておいたから。彼女の部屋と''あいつら''を集めてくれないかな?」
「はい、かしこまりました」
義空は汐織に準備を頼み、その場を後にした。
''柊陽葵は祖母の元へと訪れる''
「おばあちゃんただいま!」
陽葵は脱いだ靴を揃えずに急いでダイニングへと入る。そこには少し寂しそうな、しかしいつもと''変わらぬ笑顔''で祖母は迎えてくれた。
「あら、帰ってきたの」
「おばあちゃんその…話があるんだけどさ…」
頭の中の整理が出来ていない陽葵は、言葉に詰まる。陽葵の様子を見た祖母は、陽葵を抱きしめて今にも泣きそうな声で話す。
「陽葵、分かっているわよ。お寺の住職さんの所へ行くんでしょう?」
祖母は陽葵を優しく抱きしめている。陽葵はその言葉に驚いて祖母の質問に答える。
「え…うん。一応、そう言われたんだけど…なんでおばあちゃんが知ってるの?もしかしてもう電話が来たの?」
陽葵は驚いたように祖母へ質問する。祖母は涙を流し、陽葵をさらに強く抱きしめながら話す。
「''病気''を治して貰うんでしょう?あなたずっと辛そうだったもの。中々笑顔を見せてくれない子だから、おばあちゃん心配でね…きっとまだ''あの事''を引きずってるんじゃないかって…」
陽葵も祖母を強く抱きしめる。祖母はずっと、私の事が心配だったんだ。両親を亡くして、中々笑顔を見せない私。元々大人しい子ではあったのだが、両親を亡くしてからはさらに''心を閉ざす''ようになっていた。それでも祖母は私に対して笑顔でいてくれた訳であって。
''能力を使わずに、初めて人の想いを知ることができた''
陽葵の脳内でその事が理解出来た時、陽葵は祖母をさらに強く抱きしめながら大泣きした。高校生にもなって恥ずかしい事だ。祖母の胸の中で泣くなんて。でも、涙が止まらないのだ。
私はずっと、1人で生きているつもりでいた。それは大きな間違いだった。祖母はいつだって、両親の代わりにそばにいてくれた。私を気遣い、無理させないように。
''おばあちゃん、ありがとう''
一通り泣き腫らした後、私は今朝と同じように身支度を始めた。だが、今朝の身支度とはまた違う。荷物をまとめて、この家を出ていかなければならないのだ。
荷物をスーツケースと大きめのリュックにまとめた私は、玄関で振り返る。そこにはいつもと同じように、笑顔で見送ってくれる祖母の姿がある。
「おばあちゃん、すぐに帰ってくるから。今までありがとうね」
その言葉に祖母はまた涙目になる。
「陽葵、風邪引かないでね。神馬さんにはちゃんとお礼を言うんだよ」
祖母は優しく陽葵に語りかけた。その言葉に陽葵は「行ってきます」と伝えて家を後にしたのだった。
''柊陽葵は義空の寺へと訪れる''
「おじゃましまーす」
陽葵は恐る恐る、義空の寺に足を踏み入れる。
「そんなにかしこまらなくて大丈夫だよ。これからここに住むんだから」
驚いて見ると義空が笑顔でこちらを見ていた。なんとも気味が悪い…
「あ、はい…」
陽葵は義空の言葉に返事を返す。そして義空は話を続ける。
「陽葵ちゃんに''悪魔憑き''の人達を紹介するから。さ、上がって」
悪魔憑きの人達…?恭吉と汐織さんだけでは無いのだろうか?そう思いながら、さっさと歩いていく義空の後を急いで追った。
「あれ?岸本と徳川は?全員集めてって言ったじゃない」
部屋に着いて早々、義空は汐織さんに対して強めの口調でまくし立てた。
「すみません。2人は今''例の件''について調査中でして…」
義空は汐織さんの言葉に納得したように頷き、「ごめん」と一言謝罪した。そして私の方へと向き直る。
「陽葵ちゃんごめんね。今日は''1人''しか紹介できないや」
そう言って義空は、私と同じ高校の制服を着た少女へと視線をやる。入学式で彼女のことを見なかったから、恐らく同じ高校の先輩だろう。そしてどうでもいいが、恭吉が不貞腐れたように彼女の隣で座っている。
「彼女の名前は吉浦琴音。陽葵ちゃんと同じ高校で一個上の先輩だから。仲良くしてあげてね」
義空はそう言って、気味の悪い笑顔を私に向ける。そして、吉浦と紹介された少女は義空をキっと睨みつける。
「仲良くしてなんて頼んでない」
吉浦さんはそう言って、部屋を出ていってしまった。私は驚いて、横を通り過ぎる彼女を避けるような形になってしまった。
「ごめんねぇ。あの子少し尖っててさ。過去に陽葵ちゃんと''同じような事''があったからさ。それにしても…なんでこうも違うんだろうねぇ」
義空はそう言って、背中を向ける吉浦さんの姿と私を交互に見る。私と同じ境遇…?もしかして彼女も両親を亡くしているのだろうか…?
陽葵は吉浦さんの境遇について''自分の過去''と照らし合わせてみた。それにしても心を閉ざしすぎている。相当辛いことが彼女にもあったのだろう…
そう思いながらも陽葵は、気になっていることについて質問することに決めた。
「あの、すみません。皆さんはここに住まわれているんですか?」
彼女の問いに義空は気味の悪い笑顔を浮かべながら返答する。
「うん。そうだよ。でも安心して!一人一部屋、贅沢でしょ?」
義空は自慢げに言ってみせる。いや…聞きたかったのはそんな事じゃなくて…
「その…宜しければ、皆さんの''能力''を教えて頂けませんか?」
陽葵は本当にずっと気になっていたことを質問した。それもそのはずだ。私以外に''特別な能力''を持った人など見たことがない。ここにいる人達はどんな境遇で、どんな立場でここにいるのかさえ分からないのだ。
「俺の能力は''憑依体質''ってやつ。俺に取り憑いている悪魔がたまに俺の体を乗っ取るんだ。今朝も見ただろ?」
私の質問に恭吉がすぐに返答してくれた。今朝、恭吉が暴れていたのは悪魔が''乗っ取っていた''からだろう。私は理解出来るが、他の人達に誤解を解くのは難しいそう。
陽葵は初めて恭吉に同情した。そして汐織さんの方へと視線を向ける。汐織さんは察したのか、口を開く。
「私の能力は…すみません。今は言えません…」
汐織さんは申し訳なさそうに頭を下げる。礼儀正しい人だ。恭吉も彼女を見習ってみてはどうだろうか。それにしても、何故自分の能力が言えないんだろう?
陽葵の疑問に、義空が答える。
「言い忘れてたけど、汐織ちゃんと今はいないけど岸本と徳川ってやつは''君らとは違う''からね」
「違う…ですか?」
陽葵は義空の言葉の意味がよく分からなかった。汐織さんや他の人達は、私達とどう違うのだろうか?
「んー、陽葵ちゃんにはまず、悪魔が人間に及ぼす影響について話した方が良さそうだね」
義空はそう言って真顔になる。なにやら''真剣な話''をする雰囲気だ。
「最初にも言ったけど、僕は悪魔憑きの人達が能力を''完全に制御出来なくなる''前に、君達に取り憑いている悪魔の''力''を弱める役割なんだ。例えばだけど、もし陽葵ちゃんが自分の能力を暴走させて''完全に''制御出来なくなったらどうなると思う?」
「えっと…死ぬ…とかですか?」
陽葵は追いついてない頭を必死にフル回転させて、義空の質問に答える。
「うーん、あながち間違ってはいないね。完全に能力の制御が出来なくなってしまった場合、悪魔憑きは''すべて''の寿命を悪魔に喰われるんだ。そして陽葵ちゃんや恭吉、琴ちゃんも''能力''を使う度に少しずつ''寿命''を喰われているんだ」
陽葵は義空の言葉に絶望した。使いたくもない''能力''を発動して、その挙句に寿命を削られる…?それに、完全に制御出来なくなった場合は一気にすべての寿命を削られるとか理不尽でしょ…
「まぁでも、安心して。''能力''を使いすぎなければ大丈夫だよ。僕が悪魔の力を弱めて行くうちに''能力''はある程度制御できるようになるから。もちろん恭吉もそうだからね」
義空は恭吉を安心させるかのように笑ってみせる。そして、私の方へと向き直り''本題''へと入る。
「ここにいる汐織ちゃんは自分の能力を完全に制御出来なくなってしまった''悪魔憑き''なんだよ」
「え…?」
陽葵は言われた言葉の意味を理解出来なかった。能力を完全に制御出来なくなってしまった悪魔憑きは寿命をすべて喰われるんじゃ…?
そんな陽葵の様子を察したのか、義空は陽葵が思っているであろう疑問に答える。
「確かに、さっき言った通り能力を完全に制御出来なくなった悪魔憑きは悪魔に寿命を''すべて''喰われる。ただし、例外もいる」
「例外…?」
「そう、例外。簡単に言ったら''悪魔と契約''するんだ。制御出来なくなった能力を''完全に制御''するために、悪魔と交渉するんだ」
陽葵はよく分からないがとりあえず頷く。そして義空はそのまま話を続ける。
「悪魔憑きの人間が、能力を完全に自分の物にする。その代わり悪魔憑きは、寿命を60〜65年分、悪魔に差し出すんだ。どうゆう原理なのかよく分からないけど、能力を制御出来なくなった悪魔憑きには''悪魔の姿''が見えるらしい。そして補足すると、悪魔の契約が成立するのは悪魔憑きの''ごく1部''だけなんだ。そして悪魔との契約を交わした悪魔憑きのことを''悪霊''と呼ぶんだ」
悪霊…?なんだが一気にそれらしくない呼び名に変わったな…
陽葵は、義空に教えて貰ったことを頭の中で整理する。
要は、制御出来なくなった能力を''自分で''制御できるように悪魔と''契約を交わす''という解釈でいいのだろうか?寿命を60〜65年分を悪魔に喰わせたら、ほとんど寿命ないじゃん…
陽葵は、改めて汐織さんに質問をする。
「あ、あの汐織さん。あなたは悪魔と契約を交わしたんですか?」
その質問に汐織さんは微笑む。そして、優しい目で陽葵を見つめながら質問に答えてくれた。
「ええ、交わしましたよ。この命ももう長くありません…」
彼女は言い終えた後、どこか寂しい表情をした。この人にも色々あるのだろう。陽葵はそんなことを思っていた。
「ちなみに''僕の代''では、悪魔との契約に成功した悪霊は''3人''だけ。そして悪霊には、僕のお手伝いとして働いてもらっているんだ」
''君達とは違うから''
この言葉の意味が少しは理解出来た。汐織さんは、私達とは違って''助けてもらう''立場では無いんだ。
そんなことを思っていると、義空がまた口を開く。
「汐織ちゃん以外にも岸本と徳川っていう2人の男がいるんだけど、そいつらはまた後で紹介するよ。すぐに帰ってくると思うから」
恐らくその2人も汐織さんと同じ''悪霊''なのだろう。
「ありがとうございます」
陽葵は義空に礼を述べた。色々と教えて貰ったから今日は良かった。
そんなことを思っていると、また義空が口を開く。
「ごめん、もう1つ言うことがあったんだ。今日紹介した琴ちゃんいるでしょ?」
義空は吉浦さんのことを言っているのだろう。吉浦さんがどうかしたのだろうか?
「さっきも言ったけど、琴ちゃんと仲良くしてくれないかな?」
義空は両手を顔の前で合わせる。なんでそんなことをお願いするんだろう?別に、仲が悪い訳じゃないんだから…
「いいですけど…その、そこまでお願いする理由ってなんですか?」
そう言うと義空は両手を顔の前から下ろして、気味の悪い笑顔をこちらに向ける。
「君と''同じ''境遇だから。それに、ここに来たからには何か''お手伝い''して欲しいなってね」
まぁ…そこまで言うならば…ただ、吉浦さんは相当ハードルが高そうだ。あの心の閉ざし様は何かあったに違いない。
「分かりました。とりあえず明日、一緒に登校してみます」
そう言うと義空は嬉しそうに笑い「ありがとう」と私に礼を述べた。
その後、汐織さんが夕食を準備してくれた。私たちは夕食を食べてから、寝床に着いた。