【転移98日目】 所持金4京4187兆0250億9274万ウェン 「インターフェイスが快適なら何だっていいよ。」
俺の中ではこの異世界冒険はとっくに終わっている。
そもそも【複利】という無敵スキルを授かった時点で、最初から完全に勝ち確だった。
下半身不随になりながらも自由都市に辿り着けた所で、俺の脳内ではエンディングロールが流れていた。
で、カネが無限にあれば何でも出来るのは地球と同じだったし、現にこちらの世界の最高権力者であるピット会長・ルイ首長国王と面識を得て、かつ帰還作業への協力を取り付ける事が出来た。
帰還プロジェクトにはエルフやらアカデミーの協力が必要とのことだったが、どう見積もっても1兆ウェンもあれば十分であり、後は報告を待ちながらリハビリに専念するつもりだった。
「リン君。
この事態は想定内だったの?」
『いえ、流石に。
というか、俺の脳内世界地図に魔界が入ってませんでしたので。』
魔界に対しては戦時国債を買ってやったし、食糧も支援してやった。
こんな言い方はしたくないが、貸しこそあれ何の借りも無い相手である。
「ま、魔王様!
何卒! 何卒、お怒りをお鎮め下さいませ!!」
背後からゴブリンだのオークだのが俺を宥めようとしているが、アホらしいので返事をする気も湧かない。
大体、ただでさえ異種族という事で人間種から嫌われてる魔族なのに、人間種で一番の資産家である俺を誘拐してしまったら、世界中から総攻撃を受けてしまうだろうに。
コイツら出口戦略をちゃんと持っているのだろうか?
『ポールさん、結構船速出てないですか?』
「そりゃあ、まあ連邦とか自由都市の船から追撃されてるだろうしね。」
俺の仲間の中で戦えるのは、カインとドナルド。
丁度、この2人と離れたタイミングで攫われてしまった。
今思えば、グリーブと合流するのを待ってから動いても良かったかも知れない。
彼の部隊はかなり近い所まで来ており、互いの早馬が合流ポイントの打ち合わせをしていたからである。
「ま、魔王様は一番偉いんですから
せ、船長室に居て貰わないと困りますよ!」
じゃあ、偉い俺の回頭命令を聞けよ…
とにかく魔族たちに船室から出して貰えない。
巨体でブロックしつつ泣きながら同行を懇願してくるのだ。
…泣きたいのはこっちなんだが?
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数千年前、人間種は農業革命を成功させ、その人口を爆発的に増大させた。
その副産物として世界的宗教の《神聖教》や超大国の《王国》が誕生し、余ったリソースは魔族の土地を侵略する事に費やされた。
例えば、人間種が《公国》と呼称する国家は、元々はゴブリン種が細々と採集生活を営む森林地帯であった。
人間勢力の圧倒的軍事力に追われた魔族なる亜人間達は必死に逃げ込んだ最後の領域を《魔界》と命名した。
ゴブリン・オーク・コボルト・リザードの他、少数民族として複数の魔物が混在しており、それら全種族の代表職を《魔王》と呼ぶようになった。
本来、異種族連合など上手く機能する訳もないのだが、失敗すれば滅亡なのだから機能させざるを得なかった。
これまで何度も奇跡的な防衛的勝利を収め、何とか生き延びてきたが…
もう限界である。
今回の王国の侵攻で、大半の農地が焼き払われてしまったからである。
俺が兵糧を支援したが…
まあ焼け石に水だろう。
損壊された農地が回復するには最低3年は掛かるそうだし、物流網が完全に寸断され、労働人口の中核を担うべき壮丁の多くが戦死している。
もう国債を売るだのそういうレベルの話ではなく、社会を維持する為の要素が全て失われてしまっているのである。
魔界は完全に詰んでいる。
「このままでは魔界が滅びてしまうんですぅ~!!!」
背後でゴブリン達のすすり泣く声が聞こえる。
うーん、現代資本主義国家からやって来た俺の目から見れば、どう見ても魔界は滅び終わってるんだが…
ぶっちゃけリカバリー不可能だろう。
「魔王様のお慈悲で何とか我々をお救い下さい~!!!」
いやーーー。
普通に口頭で嘆願してくれれば、俺も紳士的な対応を心掛けたのだが…
他人様を誘拐しておいて…
助けて下さい、というのは…
あまりにムシが良くないか?
コイツらと口を利く気も失せたので、ポールに全部応対を頼んでハンモックでふて寝する。
目が覚めて俺が退屈そうにしていると、何人かの魔族がニコニコとした表情で船室に入って来て、手品とか大道芸っぽいことをやり始める。
どうやら俺の退屈を凌いでくれるつもりらしい。
気持ちはわからないのでもないのだが…
俺、この直前にピット会長の専属ピエロのアチソン氏の妙芸を見せてもらっていたばかりだからなぁ。
あの人、総合芸術ホールでディナーショーを主催するレベルの人だし…
うーん、言っちゃあ悪いけど田舎芸だよなあ。
『どうも、お疲れ様でした。
ちょっとゆっくりさせて。
後、ここに居るポールが閉所恐怖症だから
甲板で新鮮な空気を吸わせてあげて。』
やる事もないので、仮眠を取る。
つくづくアホらしい…
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「リン君、今いい?」
ポールに揺すられて起きる。
『どうぞー。
寝たふりをしていただけですから。』
「この船、俺達が思っていたよりも早い。
もう魔界が薄っすらと見え始めてる。」
『ポールさん。
俺、どうすればいいですかね?』
「いや、リン君が魔界をどうしたいか、でしょ?」
『うーーーん。』
ゴメン。
あんまり興味がわかない。
多分、俺って都市志向なんだと思う。
ソドムタウンやジェリコの様な文明的な大都会には好奇心が沸くのだが、そうでない場所ってあんまり興味がない。
今更なんだけどさ。
俺、ファンタジーに興味ないんだと思う。
社会や経済、インフラや法制度の話を聞くのは大好きなんだけど…
魔族の奇妙な風貌を見ても、特に好奇心や探求心は喚起されなかった。
多分、この先エルフだのドワーフだのに逢ったとしても『ふーん。』で終わると思う。
だってアニメで見飽きているもの。
『向こうに着いたら。
エナドリとおカネを適当に配ってお茶を濁すくらいで良くないですか?』
「そのおカネ、国際社会が受け取りを拒否すると思うよ。
ピット会長やらルイ国王陛下やら、多分怒ってる筈だし。
今、各所に圧力を掛けてる所でしょう。」
『じゃあ、久しぶりにジュース係しますか?』
「あまり気は乗らないけど。
まあ。エナドリ配るくらいなら。」
そんな話をしている間に、着岸音が聞こえる。
『魔界ってこんなに近いんですか?』
「いや、俺も小耳に挟んだだけだけど
何か特殊な海中生物みたいなのに船を押させてるらしい。」
ふーーん。
ゴメン、あんまり興味沸かない。
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「あ、あのぉ…
魔王様、やっぱり怒ってます?」
『…まあ、無理矢理攫われた訳ですからね。
これ、私の故郷では重大犯罪ですよ?
わかってます?』
「あ、いやぁ。
まあ、そのぉ。
どうか、どうか穏便に、穏便に。」
…俺自体が穏便な方法で乗船した訳じゃないからなあ。
「そ、そのお。
魔王様の領地に到着しましたので…
そ、その御巡幸を…」
『いや、俺は関係ないですよね!
それと!
勝手に《魔王》って呼ぶのやめて下さいよ!
魔王職はギーガー氏が立派に務めておられるでしょう!
あまりに彼に失礼じゃないですか!』
俺がそういうと魔族たちは不思議そうに顔を合わせる。
「ああ、魔王様にはまだ伝わっておりませんでしたか…
先代のギーガー魔王は、合戦時の傷が治らずに薨去しました。」
『え!?』
「先代の御遺命で、その死を隠すように申し付けられていたのですが…
やはり風聞と云うのは伝わってしまうらしく…
共和国辺りは、どうも魔王不在を把握しているっぽいんですよね。
それで攻められているというのがありまして…
我々としても早急に魔王を据えなければならなかったのですが…
どうせなら他国に睨みの利くビッグネームが欲しいじゃないですか。
で!
折角奉戴するなら、世界一の大富豪のコリンズ様をと思いまして!
そういう話題で盛り上がっている時期に、コリンズ様が御視察に来て下さりました!
これはもう、運命!
そう思いましたねぇ。」
…営利誘拐も物は言いようだな。
そうかぁ、ギーガー閣下は亡くなったかぁ。
四刀七槍を受けても戦い続けたというからなぁ。
あの方が生きていたら、こんな馬鹿な真似はさせないよなあ。
なぁんか、平原隼人とか魔王ギーガーとか、俺の好きな奴ばっかりが死んでいくなあ。
…ギーガー死んだかぁ。
ますます魔界に義理が無くなったなぁ。
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魔界の港は…
何と言うか、その原始的だった。
これは港湾業務について全くの素人なのだが…
港湾ってドッグとか防波堤とか突堤とか必要なんじゃないのか?
何か、溜池の水溜まりに無造作に船舶を放置しているようにしか見えないんだけど…
港町も…
その何だ…
一目見た瞬間に、《最貧国》という単語が脳裏に浮かぶ。
はぁ。
このショボさ具合が、父さんの故郷の寒村を思い出させるんだよなあ。
「魔王様! お喜び下さい!
我々、臣民一同!
歓迎会を開催致します!」
『…えっと、もう帰りたいんですけど。』
「そこを! そこを何とか!
助けると思って!」
…もう戦時国債買ったじゃん。
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歓迎されてる事は何となくわかる。
彼らなりに御馳走を振舞ってくれているのも理解出来る。
…ただなあ。
こういう言い方したくないけど。
本当なら今頃、ピット会長の随行団の天才シェフ・イワノフ氏に海鮮料理を振舞ってもらえてる筈だった。
連邦の港町で極上の穴子が獲れたので、イワノフシェフが技巧の粋を尽くして《獲れたて穴子の創作フルコース》を作ってくれる予定だったのね?
俺は結構楽しみにしてたのね?
で、首長国側からもデザートパックが届けられる予定で…
第十一王女のカロリーヌ姫が監修した《果肉ぎっしり七色ジェラート詰め合わせ》も大いに期待してたのね?
ふーーー。
いや、男子厨房に入らずでさぁ。
あんまり男が出された料理にグチャグチャ言うべきではないことは分かってるんだ。
…このフォカッチャみたいなのに塩だけ付けて食べよう。
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宴会と言っても状況が状況なだけに、お通夜ムードだった。
ただでさえ素朴なメシの味がますます素朴になる。
「魔王様、ワシらはこれからどうすれば良いのでしょうか?
いや、どうなるのでしょうか?」
魔族の老人達が深刻な顔で俺に尋ねてくる。
…こっちが聞きたいくらいだ。
『何か、展望はありますか?』
「いや、ワシらに難しい事はよく判らんのですじゃ。」
『…な、なるほど。』
そりゃあ、そうだろうな。
先を見通せる者がいれば、他国の要人を誘拐なんかしないだろう。
俺は連邦の閣僚で、自由都市の経済団体に所属しており、首長国に国賓として招かれた帰路であった。
つまり、魔界は連邦・自由都市・首長国を同時に敵に回したことになる。
更には、国境を隣接する共和国には攻め込まれている最中だし、王国とは停戦協定が結ばれた訳ではない。
俺が魔族なら発狂したいくらいの四面楚歌である。
俺がドナルドやヒルダの様な商売人気質であれば、ここにビジネスチャンスを見出すのだが…
この身は資本家であって事業家ではないからなぁ…
それに、もう俺は地球に帰る事を決めている。
こちらの世界への干渉も控えたいのだ。
そもそも、得た富すらピット会長に委託するつもりなのだから。
「リン君、彼らを助けてもいいのかい?」
『…ポールさんがそうしたいのなら反対はしません。』
「だって君は彼らの苦境を何とかしたいと思ってるんだろう?」
『思ってませんよ。』
「君の本音は俺の方が詳しいと思うけどね。」
…まあ、この男が言うならそうなのだろう。
《1京9443兆ウェンの配当が支払われました。》
あ、表記戻ってる。
「ま、魔王様がカネを噴き出しておられる!」
「ワシらの為にカネをバラ撒いておられる!」
「おおい皆! ザルを持ってこい! 魔王様がカネを配って下さるぞ!」
「ま、魔王様!
こ、このカネはワシらが貰ってもいいんでしょうか?」
『あ、今ステータス欄見るのに忙しいから
話しかけないでね?』
「うおおおお!!!!!
流石は魔王様!!!
このカネを下さるそうじゃ!!!」
「「「ウッキー――――――――――――――!!!!!」」」」
視界の外では、ポールが黙々とエナドリを容器に入れているが…
オマエらちょっと静かにしてくれないかな?
ステータスを確認しておかなきゃ。
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【名前】
リン・コリンズ
【職業】
(株)エナドリ 創業オーナー
駐自由都市同盟 連邦大使
連邦政府財政顧問
世界冒険者ギルド 永世名誉理事
【称号】
魔王
【ステータス】
《LV》 44
《HP》 (6/6)
《MP》 (5/5)
《腕力》 3
《速度》 3
《器用》 3
《魔力》 2
《知性》 5
《精神》 9
《幸運》 1
《経験》91兆4728億0240万1210
次のレベルまで残り17兆1443億7920万7805ポイント
【スキル】
「複利」
※日利44%
下12桁切上
【所持金】
4京4187兆0250億9274万ウェン
☆今回取得したミスリル貨は全額魔界側が収拾。
※バベル銀行の8兆8167億8740万ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有
※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有
※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有
※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有
※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有
※自由都市国庫短期証券4000億ウェン分を保有。
【試供品在庫】
エナドリ 388605ℓ
※今回発生分の170986ℓは全て魔界に振舞
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へえ。
日利44%かあ。
もう滅茶苦茶だな。
しかも、これから2京ウェンずつ増えるとか…
うーーーん。
やはり、もう俺の独断じゃ迂闊にカネを使えないな。
…まさしく、その使い道をピット会長に指示して貰う予定だったんだがな。
『あの、皆さん。
嬉しいのは判ったから、そんなに見苦しく奪い合いをしないで。』
「「「ウッキー――――――――――――――!!!!!」」」」
魔族たちは俺の足元に這い蹲って、転がり落ちるミスリル貨を必死に拾い集めている。
…オイオイ、勘弁してくれよ。
これじゃあまるで成金が小銭をバラ撒いて、貧民をからかってるみたいじゃないか。
あー、この絵面、誰かに見られたら俺の評判はガタ落ちになるな…
「ねえ、リン君。
彼らが拾い集めてるミスリル貨って…」
『国際社会が受け取りを拒否する可能性が大ですよ。
多分、今頃ルイ陛下とピット会長が各所に圧力を掛けているでしょ?』
「だよねえ。
それどころか、経済封鎖+強制送還くらいの措置はすぐに取られるだろうねえ。」
『これ、落しどころってあるんですか?』
「それを考えるのがリン君の仕事だよ。」
『いや、俺は別に。
魔界にあんまり興味ないし。』
「あのねえ、リン君。
世の中全体を救いたいってことは…
こういう道理の判らない相手も助けるってことだよ?
別に賢い人だけを助けるつもりはないんでしょ?」
『うーーーーーーーーーーん。
ポールさんは俺を乗せるのが上手いですねぇ。
そうやってハーレムを増やしてるんですか?』
「ああ、アレは解散したよ。」
『え?
そうなんですか?』
「俺、首長国の自治区の騒ぎで死ぬつもりだったし。
その時にメッセンジャーに解散の旨を伝えさせたよ。」
『まだ生きてるんだから
ハーレム復活すれば
いいじゃないですか。』
「自分の所属していた軍隊が民間人を大量に殺した訳だからね。
もう、あんまり浮ついた気分になれないなあ。」
『…俺も、あの光景は未だにトラウマですが。』
「まあ、しばらくは生き方見つめ直すよ。
それが供養の代わりになるとは思えないけど。」
俺達は狂喜しながらミスリル貨を拾い集める魔族を眺めながら、夜通し語り合った。
個人的な意見を言わせて貰えれば、糞長称号が消滅したのは嬉しい。
ここからはポールの推測だが…
《魔王の称号を得た事により、人間至上主義である神聖教の禁忌に触れ、その為糞長称号が自然消滅したのではないか?》
とのこと。
…俺は現代人だからさ。
インターフェイスが快適なら何だっていいよ。
【名前】
リン・コリンズ
【職業】
(株)エナドリ 創業オーナー
駐自由都市同盟 連邦大使
連邦政府財政顧問
世界冒険者ギルド 永世名誉理事
【称号】
魔王
【ステータス】
《LV》 44
《HP》 (6/6)
《MP》 (5/5)
《腕力》 3
《速度》 3
《器用》 3
《魔力》 2
《知性》 5
《精神》 9
《幸運》 1
《経験》91兆4728億0240万1210
次のレベルまで残り17兆1443億7920万7805ポイント
【スキル】
「複利」
※日利44%
下12桁切上
【所持金】
4京4187兆0250億9274万ウェン
☆今回取得したミスリル貨は全額魔界側が収拾。
※バベル銀行の8兆8167億8740万ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有
※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有
※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有
※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有
※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有
※自由都市国庫短期証券4000億ウェン分を保有。
【試供品在庫】
エナドリ 388605ℓ
※今回発生分の170986ℓは全て魔界に振舞