【転移91日目】 所持金5277兆6512億1951万ウェン 「…単利でいいよな?」
なんかアホらしいので、陣幕の中でずっと寝転がっていた。
一気にやる気がなくなった。
昨夕、エナドリが噴出した辺りで大騒ぎが起こっている。
まあ、冷静に考えればそうか。
俺があの中に混じっていても、同じ反応をしてたかもな。
1人の難民が「折れた足が治りました!」と満面の笑みで礼を述べに来た。
そいつはおめでとう。
俺もリハビリ頑張るよ。
うーん、今日もエナドリ噴出するんだよな。
もういっその事、貯水プールでも掘って貰おうか…
その旨、カインに相談して貯水と貯エナドリの手段を考えて貰う。
その間に俺は、テオドール殿下の部下のジェラール少佐(神学に通暁している)から一通り講義を受けた。
お父様が大学教授ということもあり、彼の講話は解り易かった。。
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【神聖教団の教義 ~その3つの根幹~】
・人間はみんな平等です。
・富は独占してはならず、分かち合わねばなりません。
・暴力や戦争は悪い事、まずは話し合いで解決しましょう。
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『殿下、滅茶苦茶いい宗教じゃないですか。』
「まあ、こうやって全世界に普及するくらいですしね。」
召喚時にフェリペ司祭が「ウチの宗教はこういう趣旨なんですよ。」と一言説明してくれたら、協力的な姿勢を取っていたと思う。
でもアイツ、カネと選挙の話ばっかりしてったからな…
あれから…
異世界に呼び出されて3か月が経った…
俺を呼び出して追放した司祭は教団ごと死に、王国は滅亡寸前である。
馬鹿な奴らだ。
俺を残しておけば、アイツらの問題なんて片手間で解決してやったのに。
『…ざまぁ。』
と呟きかけて、溜息をつく。
クラスメートも相当死んだ。
でも、例え死んだにしても、級友や坊主共の方が楽しく生きてたよな。
『あー、つまんね。』
やや離れた所で書類をチェックしていた殿下が慌ててこちらに駆けて来る。
「コリンズ社長!
明日には! 明日には歓迎の宴を開けますので!
大至急! 近辺から美女美膳を取り揃えさせます!」
俺は殿下に失言を詫び、『今のは独り言であり、貴国に対してのものではない』と説明した。
税金泥棒は大嫌いだし、自分がそれになりたくて言っている連中なんかと俺は違う。
つまらないのは俺の信条と立場が合致していない所為だ。
残念ながら俺は《人間は立場相応の責務を負わなくてはならない》と考えている。
まさかここまで立場が強くなるとはな…
いや、勿論。
これは俺の力ではなく、俺のカネの賜物なのだが。
まさか、カネ持ちというだけで、ここまで露骨に優遇されるとは思わなかった。
まあ、何百兆ウェンも毎日生み出していたら流石にな…
俺はインフレにならないように、チビチビと使っているつもりなのだが、最近どんどんカネのばら撒き方が大雑把になっている。
仕方ないじゃないか。
手元に小銭が無いんだから。
『複利強すぎだろ…』
俺は一枚のミスリル貨を手元で弄びながら呟く。
信じ難い事だが、この一枚で大抵の労働者の生涯年収よりも価値があるらしい。
毎日そんなもんが数千枚も手に入るんだからな。
こんなん反則だろ。
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首長国も洒落にならない惨状なのだが、他国も大概らしい。
メッセンジャーが帝国や王国の惨状を伝える度、軍人達の表情が明るくなる。
「いやあ、どこも大変ですなあ。」
他人事のように殿下が言う。
先日とは打って変わって表情に余裕が戻って来ている。
『首長国は…
事態が収拾し掛けているんですか?』
「まあ、超法規的にヤクザと活動家を殺して回ったら…
大抵の国は平和になりますよ。
我が国も来月までには戒厳令を解除したいものですなあ。」
『平和って、そんなにシンプルなやり方で訪れるものなのですか?』
「いや、だって。
大体の騒動ってそいつらが起こすじゃないですか?
世の中の9割以上の労働者は、叛乱する意思も無ければ能力もない。」
『いや、まあ、はい。』
「だから、集めた税金は普通どこの国でも軍事費に回すんです。
で、その軍隊を使って不満分子を逮捕していく。
ああ、そんな怖い顔で睨まないで下さい。
私は世間一般で語られているセオリーの話をしているだけなので。」
『王国は、軍事費が足りなかったということですか?』
「軍事費=兵隊さんの人件費がパンクした所為でしょうね。
いつもなら教団が繋ぎ融資していたんですが…
先日総本山で事故があったそうで…
恐らく物理的に決済出来ない状態なのでは?」
『やっぱり教団以外に借り先が無かったんでしょうか?』
「そりゃあ、まあ。
あれだけ豪快にデフォルトしまくってたらねぇ。
今更王国国債を買う物好きもいないでしょう。
あ、我が国は殆ど建国以来デフォルトしてませんからね。
この場を借りて投資家の皆様にPRさせて下さい。
…その復興国債の起債。
また正式に相談させて頂いて宜しいですか?」
『幾ら位の規模になりますか?』
「うーーん。
被害総額を検証しないと何とも言えないのですが。
7000億、いや8000億ウェン規模の起債になるかと…」
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【所持金】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
3743兆6512億1951万ウェン
↓
3742兆6512億1951万ウェン
※首長国復興支援資金として1兆ウェンを供出。
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「ちょ!
そんな無造作に!!
というか、その車椅子!
金庫になってるんですかああ!?」
『じゃあ、これで義理は果たしたということで。
私はそろそろ連邦領に。』
「いや! ちょ!
いや! ちょっ!
困ります! 流石に困りますよ!
返済!
返済証書の発行を直ちに兄王に依頼しますから!
と言うより、これ王宮で正式に感謝状贈呈式を開催せねばなりません!」
『あ、そういうのはちょっと。』
「いや!
本当に困るんです!
何らかの正式な手続きを踏まなければ
私が兄王の叱責を賜ってしまいます。
コリンズ社長はこういうの嫌いだと思うのですが。
…爵位とか要ります?」
『いや。
今は信者位階で手一杯でして。』
「コリンズ社長。
こちらからも対価を支払わせて下さい。
何かありませんか?
何か?
何かコリンズ社長に望みはありませんか?」
うーーーーーーーーん。
多分、感覚が麻痺しているのだと思うのだが…
特に欲しいものって…
なんかあったかな。
「思いつくままに!
思いつくままに!
適当に並べ立てて行って下さい!」
『自由… 匿名性…
あと可能なら地元に帰りたいですね。
ああ、級友が王国に徴兵されているので、本人達が望むのなら帰してやりたいですね。』
「帰る以外に何かないですか?
出来れば首長国内で用意出来るもので…」
『…召喚のスキル持ってる人が居たらお借り出来ませんか?
無論、レンタル移籍料は支払いますし、その方にも謝礼をお支払いします。
まあ、これも結局は帰る話なんですけど。』
「…他には。」
『労働者の負担減が希望だったのですけど。
それはもう果たされたようですし。』
「あの、一応念を押しておきますね?
確かに年貢率は下げます。
ただ、下げたからと言って実質負担が減るかどうかは分かりませんよ?
公約は守りますけど、結果責任に関しては負いませんからね?」
『負担率は下がりませんか?』
「何度も同じ話をしてしまって恐縮なのですが
《自治=ヤクザが好き勝手する》、ですからね?
かなり減らしはしましたけど。
ああいうのって構造的に発生するものですからね?
そこは了承して下さいね?」
やけに念を押すという事は
殿下には何となく自治の末路が見えているのだろう。
俺が転移前に住んでいた街も低民度地帯だったが、あんな所に自治権が付与されてしまったらと思うと背筋が寒くなる。
「その…
首都に来られませんか?
戦時下なので派手な歓待は出来ませんが、ここよりは快適な生活を保障できますよ。
各種大学も固まってますので、コリンズ社長の探し求めるものも入手し易いです。
兄王もコリンズ様であれば諸手を挙げて歓迎すると思いますし。」
『あー、いや。』
「気が進まないのはよく解ります!
ただ! ただ、我が国は自由都市や連邦に比べて王国との距離が近いです!
王国からの亡命者・旅行者は、平時であれば必ず我が国を通ります!
学術レベルも高いですし、国際的な情報も集まりやすいです!
連邦に滞在するよりも色々効率的ですよ!」
『うーーむ。
じゃあ、まあ、皆に意見を聞いてから。
大体、この忙しい時に私のような余所者がお邪魔して迷惑じゃないですかね?』
《ンディッド・スペシャルアンバサダー信徒》当が支払われました。》
「毎日、大量の薬剤を噴き出してくれる人なら、どこへ行っても歓迎されると思いますし。」
配当アナウンスが聞こえて、エナドリがドバドバと噴き出す。
別に《今日もくれてやる》などと言った覚えはないのだが、
難民たちは嬉々としてエナドリを汲み取り始める。
体格の良い者がそうでない者を押しのけ独占しようとしていたので、殿下にお願いして阻止して貰った。
「ね?
こうなるでしょ?
私達が撤兵したら、もっと酷い事になりますからね。
あ、ちなみに。
エナドリの転売を行っているという目撃情報が先程入って来ました。
1本5万ウェンで売り捌いている者もいるそうです。
ただで拾ったものを5万ですよ?
ボッタクリだと思いませんか?」
『王国ではポーションが5万で売られてました。』
「嘘ぉ!?
ポーションが5万!?
どんなボッタクリですか!?」
ああ、やっぱりボッタクリ価格だったか。
フェリペ君、聖典によると《暴利を貪り民衆を苦しめた者は地獄に堕ちる》そうだよ。
申し開きは俺がそっちに行った時にたっぷり聞かせて貰うからね。
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ポールは仮眠すらも難民と共に取っているが、カイン・ドナルドはそこまでのシンパシーを持っていないらしく、この本陣に休憩を取りに戻ってくる。
内々に話したかったので俺の寝床に2人を呼んだ。
殿下の部下が話の内容を盗み聞く気配があったので、同じ布団に寝転がって顔を寄せて話す事にする。
『首都に招かれています。』
「そりゃあ、是が非でもリンを手放したくないだろうね。
行きたいの?」
『いや、全然。
召喚スキルや召喚知識を持っている者が首都にいるらしいので
その人達だけ借りれたらな、と。』
「あーー。
素直には貸してくれないでしょうね。」
『ただ、王国が近いので首長国の首都ジェリコに居を構えたら…
向こうの情報は入って来やすいかな、と。』
「首長国は、自由都市・連邦・王国・帝国の真ん中にありますからね。
戦乱さえなければ世界の中心ではあります。
ねえドニー、不動産もかなり売れてるんでしょ?」
「首長国の物件は人気あるよー。
今はこんな情勢だけど、首都ジェリコは安全だしね。
自由都市に比べて王族の権力が大きすぎるところがマイナス材料なんだけど。
それを差し引いても立地の便は良いよね。」
交通の要所、というのは素晴らしいよな。
どうしよう。
数日滞在して情報だけ漁るか。
俺の欲しいのは情報。
地球に帰る方法(恐らくは召喚スキル絡みであろうが)を知りたい。
級友たちも…
帰還を希望する者は帰してやるか…
まあ、あくまで優先するのは俺自身の帰還だが。
『故郷を離れて3か月です。』
「ああ、もうそんなになりましたか。」
『多くの友が死に。
その原因となった教団の首脳部も全滅しました。』
「ええ。」
『はい。
もう、潮時かなと。
今の手持ち資産を使って
元の世界に帰る方法を探ります。』
ドナルドは「それは寂しいですね。」と言ったきり黙り込んでしまった。
「これから事業とかどうするんですか?」
『分配金を用意しますので、皆さんで配っておいて頂けませんか?』
「それはジェリコに向かうという事ですか?」
『数日の滞在です。
セレモニーか何かに出席すれば…
首長国の顔も一応立つでしょう。』
「ジェリコに私の別荘ありますけど。
どうします?」
『あ、見てみたいです。』
「状況が許すなら、そこに滞在しましょう。
ポールの奴を呼んで来ます。
アイツ、そんなに死体を見続ける胆力のある男ではないんです。
精神的にも思いつめてるようですし、頭を切り替えてやりたいんです。」
丁度、俺が肘を掛けている窓から様子が見れたのだが
小一時間、ドナルドが説得すると周囲に別れの挨拶を始めた。
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『皇帝が死んだ?』
首都ジェリコに向かう御前馬車の中で、俺はテオドール殿下に聞き返す。
「まだ確報ではありません。
ですが、様々なルートで情報が入り続けているので。」
どうやら帝国皇帝アレクセイが討死にしたらしい。
詳細はわからない。
《何故か敵中に突出して死んだ》という報が複数の情報源から寄せられているとのこと。
首長国としては勝手に皇帝に死なれると困る。
殿下は「誤報であって欲しいのだが…」と昏い表情だが、まあこういう場合多分死んでるよな。
ニュースと言えばそれ位である。
後、連邦側からのメッセンジャーが御前馬車に追い付いて王国事情を知らせてくれている。
どうやら大臣が亡命してきたらしく、既にミュラー領で保護されている。
彼は当然自由都市への移住を希望しており、各部署にその旨を申請中らしい。
王国の機密の大半に触れる地位にいた人物なので、自由都市も全力で回収するだろう。
『あ、思い出した。』
「?」
『俺、あの人におカネ借りてました。
…5000ウェンくらいだったかな?』
「おお、リンにカネを貸すとか…
凄い人物じゃないですか。」
『返した方がいいですよね?』
「そりゃあ、リンは世界一の大富豪なんだから。
返済しないというのはおかしいでしょう。
利子を付けて返済するべきです。」
『ですよね。
俺だって大臣からの恩はちゃんと覚えてます。
返します、返しますってば。』
…単利でいいよな?
【名前】
リン・コリンズ
【職業】
(株)エナドリ 創業オーナー
駐自由都市同盟 連邦大使
連邦政府財政顧問
【称号】
ロイヤルトリプルクラウン・ファウンダーズ・エグゼクティブ・プラチナム・ゴールドエメラルドダイアモンディッド・スペシャルアンバサダー信徒
【ステータス】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
《LV》 41
《HP》 (6/6)
《MP》 (5/5)
《腕力》 3
《速度》 3
《器用》 3
《魔力》 2
《知性》 5
《精神》 8
《幸運》 1
《経験》 7兆7489億4366万2338ポイント
次のレベルまで残り5兆7794億8102万9414ポイント
【スキル】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
「複利」
※日利41%
下12桁切上
【所持金】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
5277兆6512億1951万ウェン
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有
※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有
※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有
※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有
※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有
※自由都市国庫短期証券4000億ウェン分を保有。
【試供品在庫】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
エナドリ 788605ℓ
※今回発生分の323328ℓは全て首長国にて放出。