【転移87日目】 所持金1409兆6512億1951万ウェン 「ただの聖人ですよ。」
日が昇ると同時に、連邦領に保護を求めていた首長国の難民達が国境の向こうに帰還させられる。
彼らは文句を言い続けていたが、穂先を揃えた兵隊の命令には従わざるを得ない。
人垣の向こうで俺には見えなかったのだが、最後まで粘ろうとした数人が突かれて死んだ。
同胞の死を見て諦めたのか、難民たちは不貞腐れたような表情で河向こうに退去した。
追放された俺が今度は誰かを追放する側に回っている。
手を差し伸べられなかった事を恨んでいた癖に自分は手を差し伸べない。
俺は俺のこういう身勝手な部分が嫌いだ。
『ねえ、ドナルドさん。
この場面ってカネで解決出来ないんですかね?』
「ある程度秩序が回復したらすぐに有効になるよ。
それにリンはもう資金を投下し終わった後だろう。」
『効果を全然感じないんですけど。』
「何を言ってるの。
凄い効果だよ。
昨日のテオドール殿下の反応覚えてないの?」
『?』
「こっちは相手の領土に侵攻して築城してたんだよ?
なのに殿下も配下の人もこっちに全然敵意を持って無かったでしょ。
あれ、かなり異常な反応だよ。」
『緊張してて、そこまで気が回りませんでした。』
「君がバラ撒き続けた工作資金は、もう浸透し切ってるんだ。
既に信用を買い終わっている。
だから、君個人が可能な範囲では事態は既に解決していると言える。」
『この惨状でですか?』
屍山血河という慣用句は比喩表現では無かった。
現代人の俺にはこの光景はキツすぎる。
非現実的だから衝撃なのではない。
こちらが人間にとって本来的な現実であると理解出来てしまうから衝撃なのだ。
そして、俺も父も。
眼前を流れている彼らの側の人間だ。
「ねえリン。
今、おカネ余ってる?」
『あ、はい。
余ると言っても数百兆くらいしか手元にありませんよ?』
「キミと話していると金銭感覚狂うな。
じゃあ10兆ウェンくらい貰っていい?」
『あ、はい。』
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【所持金】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
1033兆6512億1951万ウェン
↓
1023兆6512億1951万ウェン
※ドナルド・キーンに10兆ウェンを譲渡。
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「よし、ミスリル片が1000個。
ポール、残りのエナドリ持って来てくれ。
リン、今からリンが納得するカネの使い方をしてみる。」
『は、はい。』
そういうとドナルドはミュラー卿と交渉を開始する。
《連邦側に純度の高い水を提供する代わりに、後々首長国側にも提供する事を許可して欲しい。
またその際の護衛も依頼したい。》
との趣旨。
ミュラーは無条件で承諾する。
河を大量の死体で埋めてしまった現在、部隊全員に支給する為の水が不足しているからである。
勿論、兵を交代で後方に下げれば水など幾らでも補充できる。
が、今は国境に軍勢を張り付けておく場面、極力兵を移動させたくない。
「但し、護衛は首長国側の同意が得られればの話。
でなければ結果的に死体が増える。
キーン社長ならそこら辺は分かるよね?」
OKを貰ったキーンは陣営を騎馬で回って輜重車の給水タンクを満たしていった。
ミュラーの指示で工兵が浅い人工池的な施設を掘り始める。
「リン君。
どうだい?
リッター1億ウェン程度で水が補充できたよ!
運用次第でもっと効率的に補充できる!」
『まるで魔法じゃないですか!』
「前にキミとジャイアントタートルの討伐をしただろう?
ブライアン農場、覚えてる?」
『忘れる訳ないじゃないですか
皆で凍結弾投げて楽しかったです』
「あそこの人工池程度なら…
今の私が要領よくスキル発動すれば
1兆ウェン強で満杯に出来る!」
『キーンさん!
やっぱり貴方は凄い人です!』
「触媒触媒、ミスリルの触媒って本当に魔法への変換効率いいからさぁ。
無限に水魔法が撃てるんだよ。
あ! 年甲斐もなくレベルアップしちゃった!」
『おめでとうございます!』
「めでたくないよー。
40過ぎてレベルアップとかやってたら、ビジネス交流会とかに出席した時に笑われちゃうんだよ。」
『あー、大人になるのも大変なんですね。』
「まあ、出せる水量が上がったからいいけどね。
軍用の給水タンク位なら2億弱で満杯に出来るようになった。
理論値だけど。」
『おお!!!』
ミュラーの旗本達が俺の軍輿にやって来て
「あの人凄いですね」
「1人補給師団ですよ。」
「神の遣いか何かですか?」
と口々に言う。
まあ、水の無い環境で水を湧かせるって…
宗教の開祖レベルの偉業だよな。
(10兆で1個師団が野営出来るならコスパいいな。)
「リン君、俺もカネ貰っていい?
いつも小遣い貰ってるのに恐縮だけど。」
『ええ、幾ら位必要ですか?』
「ドニーほど役に立てるかわからないけど…」
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【所持金】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
1023兆6512億1951万ウェン
↓
1013兆6512億1951万ウェン
※ポール・ポールソンに10兆ウェンを譲渡。
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「彼は何者なの?
ワシ、流石にあの光景には戦慄するわ。」
『ただの聖人ですよ。
俺もあの人の事が大好きなんです。』
ポールにとって不本意な事は十二分に予想出来る。
ただでさえ望まぬ【清掃】スキルなのだ。
まさか、この様な使い道をする日が来るなどと思いもよらなかっただろう。
何より彼は誰よりも平和を愛し荒事を嫌っているのだから。
だが、誰かが川べりの死体を回収し埋葬しなければならない。
埋葬と言えば聞こえは良いが、要は焼却処分なのだ。
行わなければ伝染病が確実に発生する。
ポール・ポールソンが徒手で河を清めている。
そういうスキルなのだろうが、相当に手際が早い。
見かねた騎兵が一騎隊列を飛び出し、工具の様なものをポールに渡した。
更に作業の速度が速くなる。
《ンディッド・スペシャルアンバサダー信徒》当が支払われました。》
仮眠時間を与えられている筈の歩兵たちがいつの間にかポールに従い穴を掘ったり、大布を広げたりしている。
やがて対岸の流民達も似たような作業を無言で開始した。
「なあ、コリンズ君。
この光景をワシが奇跡と呼んでも構わないのかい?」
『他に例える言葉が思いつきません。』
俺にそんな資格はないけれど、それでもこれは祝福されるべき奇跡なのだ。
俺と老将は両岸から立ち上る煙をずっと眺めていた。
誰も一言も発さずにただ黙々と集めた死体を焼き続けていた。
勿論、こんな一時のパフォーマンスで事態が収まる訳が無い。
射殺された者の遺族は末代まで連邦人を呪い続けるだろうし、連邦が国境を開く事はもう無いだろう。
だが、カネというのはこういうエモーショナルな部分に投じなければならないのだ。
社会を観測し構成している大部分は、何百兆ウェンをバラ撒かれたとしても1ウェンの分け前も貰えない者なのだから。
彼らが感情面で納得出来て初めて、そのカネは生きたカネなのだ。
【名前】
リン・コリンズ
【職業】
(株)エナドリ 創業オーナー
駐自由都市同盟 連邦大使
連邦政府財政顧問
【称号】
ロイヤルトリプルクラウン・ファウンダーズ・エグゼクティブ・プラチナム・ゴールドエメラルドダイアモンディッド・スペシャルアンバサダー信徒
【ステータス】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
《LV》 39
《HP》 (6/6)
《MP》 (5/5)
《腕力》 3
《速度》 3
《器用》 3
《魔力》 2
《知性》 4
《精神》 8
《幸運》 1
《経験》 2兆0462億4123万5074ポイント
次のレベルまで残り1兆2750億4256万0732ポイント
【スキル】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
「複利」
※日利39%
下12桁切上
【所持金】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
1409兆6512億1951万ウェン
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有
※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有
※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有
※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有
※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有
※自由都市国庫短期証券4000億ウェン分を保有。
【試供品在庫】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
エナドリ 487464ℓ