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【転移81日目】 所持金222兆3687億7337万ウェン  「手元に小銭が無いんだ」

出国の際、てっきり検問所で足止めされるかと思っていたが、妨害はされなかった。

冷静に考えればそうか。


連邦の大使が公務の為に帰国するのだ。

(ちゃんと命令書っぽい書簡も持っている。)

妨害してしまったら、そりゃあ問題になるだろう。


昨晩、そのまま出立した。

途中、馬車と御者を一回交替し、検問所付近で御者を連邦人のそれに交替させる。


メッセンジャーは常時5騎程を馬車周りに随伴させ、各部署に矢継ぎ早に書簡を送り続けている。

基本は謝罪だ。

本心から申し訳ないと思っている。

そして《カネを出してる俺から謝罪したら相手も矛を抑えざるを得ないだろう。》という汚い計算も念頭に入れている。




「ね?

何事もやってみれば簡単でしょ?」



ポールの言う通りである。

自由都市に居た間、息苦しくて仕方なかった。

俺以外の都合に振り回され続けていた気がする。



転移して来た頃の俺は…

自分の意思で好きな物を喰い好きな獲物を狩って…

何より己の意思で創意工夫を凝らしていた。



大きくため息をつく。

ようやく俺は解放されたのだ。



馬車の外には荒野が広がっている。

美しい…

もう自由を騙る街を振り返る気も沸かなかった。



そしてグリーブが合流。

彼は先日の教団襲撃事件を詫びようとするが、俺が制した。



『もういいじゃないですか。

グリーブさんが俺を思って伏せていたのだと信じてます。

でなければ、こんな風に声を掛けたりしないですよ。』



道中をゆっくり進む。

馬車の窓越しにグリーブと様々な話をした。



「これからの人生も、平穏と戦闘を程ほどのバランスで楽しみたいです。」



それがこの男の本音なのだろう。

妻子を自由都市に住ませたまま、自分は荒事の世界に身をおいていたい。

戦士として非常に健全なあり方だと思う。



途中、グリーブは話をやめて何度も騎馬を突進させた。

狼やトカゲ、双頭の蛇などを自慢の大槍で一突きに仕留めては戻って来る。



「コリンズ社長。

見えますか、あそこ。

ジャイアントタートルです。」



『おお、懐かしいですねえ。

グリーブさんと農場で凍結弾を投げました。


今と違ってあの頃は本当に楽しかった…』



「これからいっぱい楽しんで行きましょう!

貴方はまだお若いんです。

まだまだ人生始まったばかりですよ!」



『はい!!』



脚は依然動かない。

だが、感覚は戻って来ている。

左手の握力も物を掴むのは無理でも、引っ掛ける程度は出来るようになった。

(クュ医師曰く、脚よりも握力の回復の方が困難とのこと)



『ねえ、皆さん。

俺、手足が治ったら。

ちゃんと身体を鍛えて。

冒険者になってみたいです。

そしたら、俺も連れて行ってくれますか?』



「必ず治ります。

だから、一緒に行きましょう。」




==========================



途中からケルヒャー隊も合流。

先程同様、総本山襲撃計画を内緒にしていた事を詫びられる。



『ケルヒャーさん。

頭を上げて下さい。

秘密なんて誰にだってありますよ。』




そう、秘密なんてあって当然じゃないか。

俺だって…

そりゃあ色々あるよ。


複利のギミックとかさあ。

後、ヒルダの胎の中なんかも深刻な秘密だよな。





ケルヒャー隊の報告。

情勢は好ましくない。

首長国の農民が大量に国境を越えて、移民申請or占領統治を嘆願している。

連邦的には答えはNOだ。

メリットが乏しい上に、国際関係上のデメリットが大きすぎる。



『俺は何をしたらいいんですか?』



「ミュラー卿曰く。

《兎に角こっちに来て仲裁して欲しい》

とのことです。」



『仲裁と言われても…

俺、そんな事したことないし。』



でもまあ、俺は適任だろうな。



《大金持ちが仲裁に来る》

そう聞いた群衆はどんな反応を示すだろうか?

これは憶測に過ぎないが、彼らは少しおとなしくなると思う。


カネが貰えるかも知れないから。


俺が群衆の1人ならそう期待する。

変な暴れ方はしない。

カネが貰えなくなるかも知れないから。



『作戦を発表します!』



「おおお!」



『と言ってもカネを配るだけですけど。』



「それを実践出来る人が貴方しかいないから貴重なんですよ。」




だよな。

この能力は反則だ。

そりゃあ、カネ配るのが一番に決まってるじゃん。

俺だってカネ貰えるならおとなしくするよ。




『ただ、この作戦には弱点があるんですよねえ。』



「弱点?」



『俺、手元に1兆ウェンしかなくて…』



「ゴメン、意味がわからない。」




『しかも、その全部が10億ウェン分のミスリル貨なんですよ。

ミスリル貨だけ1000枚あってもねえ。』



「ゴメン、その悩みが異次元過ぎて…

リン以外に理解出来ないと思うよ?」



だろうな。

地球でもこんな奴殆どいなかっただろう。




『誰か両替してくれませんかね?

金貨、普通の金貨が大量に欲しいんです。』



「君は大金持ちなんだから、金貨くらい腐るほど持ってるだろう?」



『ところが…

ミスリル貨しか無くて困ってるんですよねー。

みなさん、どうすればいいと思います?』



「いや、そんな悩み…

ゴメン、金額が大きすぎてそもそも実感出来ない。」



だよな。

肝心の俺自身が意味不明なのだから

他人に理解を求める方が間違ってる。




『皆さん!

アイデア募集!


もしくはこの事態を収拾できるスキルを持っている人募集!』



「手からパンを出せるスキルとか存在したら…

最高の打開策になるんだろうけどね。」



『そんなスキルあるんですか?』



「そんな奴居たらパン屋開業してるでしょ。」



確かに。

俺がそいつでも必ずそうする。



『ちなみに皆さん、どんなスキル持ってます?

カインさんは雷系って聞きましたけど。』



「ええ、私は雷魔法全般。」



『グリーブさんは…

傭兵だから手の内晒しちゃまずいですよね?』



「いえ、軍時代の記録から簡単に遡れますから。

私は身体強化系です。

MPを毎秒消費して、攻撃力と防御力と速度を爆発的に上昇させる能力です。


基本は接敵して切り結ぶ距離まで近づかないと使わないですね。

私の中では緊急離脱手段なので、大抵の場合は温存しております。」



『シンプルなだけに恐ろしいスキルですね。

基礎スペックの高いグリーブさんが使ったら洒落にならない事になりそうです。』



「うーーん。

継続時間が短いですからね。

私の中では外れスキルかな?」



『ドナルドさんは…

聞いても大丈夫?』



「私はハズレだよ?

初級水魔法。

入れ物に水を満たすだけだから。」



『何か使い道多そうじゃありませんか?

お風呂とかに使えそう。』



「いや、普通に使用人が沸かしてくれるし。」



『なるほど。』



「こういう事いうと嫌われるんだけどさ。

魔法なんかより人件費の方が遥かにコスパ安いから…

カネを持ってる人間ほど魔法使わないんだよ。」



『た、確かに。』



「前に計算した事あるんだけだけど。

浴槽に水を張るのに、500万ウェン程度の魔法触媒が必要になってくるのね?

これ、ベテランの御者と年間契約出来る値段だから。」



『おおお。』



「じゃあ魔法で風呂を満たすなんてバカなこと出来なくなるよね?

あ、ちなみに私は経営者だから労働単価が滅茶苦茶高いです。

風呂に水を満たすまでに3時間くらい掛かるんだけど。

私の休業補償、3時間ってかなり高いよ?

そりゃあ、ミスリルを触媒に使えたら一瞬だけどさ。」



『ああ、流石に使う気になれませんね。』




「父親からは《砂漠で水を売って来い》っていつも言われてました。」




『ははは。

如何にも商売人の家系です。』




水魔法使いに雷魔法使いか…

電気分離させ続けたら水素と酸素が大量に獲得出来るけど…

使い道がわからんな。

今度、学者を見つけたら考えて貰おう。



『あ、ポールさんは?

貴方も何か持ってるんですよね?』



「…持ってない。」



『そうなんですか?』



「あははは、コイツは凄いスキル持ちなんですよ」



『え? なになになに?

興味ある興味ある。』



「俺はいいんだよー。」



『ポールさん教えて下さいよー。』



「言わない。」




『ちなみに俺は複利と言って』




「「「リンは言っちゃ駄目!!!」」」



『…はーい。』




まあ、その配慮は正解だよな。

俺のスキルは特殊だから、ギミックを知ってる人間は少しでも少ない方がいい。




「ハア。

わかったよ。

このままじゃリン君が納得しないだろうしね。」



『すみません。

強要しちゃったみたいで。』



「俺のスキルは【清掃】。」



『え!?』



「このスキルが判明した時、親父も社員たちもみんな喜んだんだよ。

そりゃあそうだよね。

清掃会社の跡取り息子が【清掃】スキルなんて持ってたら、会社は安泰さ。

取引先にも絶好のPRになるしさ。」



確かに。

どうせ清掃会社を選ぶなら、跡取り息子が清掃スキルを保有している会社を選ぶよな。



「でもさ。

そういうの嫌だったんだ。

家業を継ぐ為に生まれて来たみたいに言われて…


それで反発して色々な仕事を転々としたんだけど。

ほら、俺って無能だろ?

結局、掃除以外で褒められたことなかったよ。」



みんな、人生色々あるんだな。

俺、自分だけが数奇な運命辿ってるみたいに錯覚してたけど…

思い上がりもいい所だったよ。




それにしても、なーんか使い道ありそうなんだけどな。


電気分解で生み出された酸素と水素を使って掃除する?


うーん、こじつけようと思ってもイメージがわかん。

人文系ばっかり読んでたツケが回って来たな。

もっと自然科学も真面目に勉強してりゃ良かった。




==========================



連邦首都フライハイト。

自由都市に近いという理由で近年作られた後発都市。


首都としての歴史的な正当性がないので、連邦人は大した愛着を持っていない。

《自由都市に近くて便利だから》

ただそれだけの即物的な理由で作られた街である。



俺達はここを仮の拠点に定め、状況把握に専心する。

ケルヒャーに諸連絡をお願いする間、俺達は馬と車輪を交換する。

御者には懇切に礼を述べ、チップを後日必ず届けさせることを約束した。


ゴメン、本当にゴメンな。

今、手元に小銭が無いんだ!



くっそ、せめて大白金貨(1000万ウェンの価値)くらいを持っておくべきだった。

やっぱり金貨(1万ウェンの価値)か…

金貨持ってないと何も出来ないよな…





《ンディッド・スペシャルアンバサダー信徒》当が支払われました。》





うおっ!!

配当はこっちに出現するのか!?


なんで?

今までちゃんと金庫用倉庫に沸いてくれたのに。

国境を跨いだから?


クッソ?

袋とか持ってないぞ!



『カインさん!

まだ、そこに居られますか!?』



「?

問題発生?」



『す、すみません。

《例の恩寵》が、ここで発動してしまって…』



「え?

それはマズいですよ。


大きな声じゃ言えませんけど。

連邦は貧困国家です。

ここで大金を見せるリスクは他国でのそれと比較にならないです。」




『あの、ここなんです。

馬車の座席。』




「うわあ。

また派手に祝福されたねえ。

これ、どうします?

すぐに隠さなきゃ。」



カインが古い木樽を貰って来て、その中にミスリル貨を隠してくれる。



「リン。

不躾な質問になってしまうけど。

今の資産ってどれくらいあるんですか?」



『いや、わからないんです。

数え切れなくて…』



「ん?

ステータス欄を見ればいいよね?」




俺が信者称号の話をするとカインは笑い転げた。




「あはははは

リンは面白いですねえ。

本当に君といると退屈しない。」




同感。

この異世界では色々あったが、まあ退屈だけはしてないよな。




ケルヒャーが再建された冒険者ギルドを見て欲しい、と言ったので挨拶だけしにいく。

おお、結構いい。

ラノベ系アニメに出て来るようなコテコテの冒険者ギルドである。


冒険者同士の喧嘩に、酒盛りをしているパーティー。

賭け事をしている一団まで居た。




これこれ!

やっぱり異世界って言ったら、冒険者ギルドだよな!


くーーーーー、テンション上がって来た。

今夜は俺も夜通し呑むぞ!!!



『あ、でも。

女性の冒険者とかは流石に居ないんですね。

俺、女冒険者とパーティー組むのが夢だったんですけど。』



俺のその発言を聞いて、ケルヒャーが目を丸くして振り返る。



『ん?

ケルヒャーさん、俺また何か言ってしまいました?』



「いや。

女子で戦えるような人材は全員ヒルダ様の指揮下にありますから。

ここには来ないです


見たでしょう?

総本山でのあの活躍っぷりを…」




…そっか。

今日は疲れてるし、風呂入って寝るわ。

【名前】


リン・コリンズ




【職業】


(株)エナドリ 創業オーナー

駐自由都市同盟 連邦大使 

連邦政府財政顧問




【称号】


ロイヤルトリプルクラウン・ファウンダーズ・エグゼクティブ・プラチナム・ゴールドエメラルドダイアモンディッド・スペシャルアンバサダー信徒




【ステータス】 (リン・コリンズからは視認不能状態)


《LV》  36


《HP》  (6/6)

《MP》  (5/5)


《腕力》 3

《速度》 3

《器用》 3

《魔力》 2

《知性》 4

《精神》 7

《幸運》 1


《経験》 3072億5435万6596ポイント     

次のレベルまで残り1011億6985万2650ポイント 




【スキル】 (リン・コリンズからは視認不能状態)


「複利」


※日利36%  

 下11桁切上




【所持金】 (リン・コリンズからは視認不能状態)


222兆3687億7337万ウェン 



※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有

※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有

※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有

※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有

※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有

※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有

※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有

※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有

※自由都市国庫短期証券4000億ウェン分を保有。




【試供品在庫】 (リン・コリンズからは視認不能状態)


エナドリ 71614ℓ 

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― 新着の感想 ―
[一言] 500円が7グラム。 10億のミスリルが7グラムと考えても床抜けるな。。
[気になる点] 200とか300とか、700とかのステータスの皆さんが死んでしまってますが、2とか3はゴリラと毎日生活、接触してる恐怖ですかね。 そこは重要ではないとは思うますが。
[一言] スキル清掃も悪い事できそうなスキルですねえ 独裁者にも賢者にもなれそう
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