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【転移8日目】 所持金66万5000ウェン 「相手は女だから安く殺してくれるんじゃなかろうか。」

起床して水浴び。

顔の傷はまだヒリヒリする。


身体を拭いていると、脱衣所の掃除に来ていた女将さんと鉢合わせる。



「あらぁ。

今日は何か御用事ですか?」



『いえ、今日は休暇がてらに屋台でもブラブラしようかと。』



「あらあら、うふふw

お休みの日に早起きするなんてw」



何がおかしかったのか、女将さんが口を抑えて笑い続ける。

時間を見るとまだ8時。

しまった、もう少しゆっくり起きれば良かった。



そのまま食堂に行き、サラダリゾットを朝食に頂く。

程よく腹が膨れて眠くなったので、部屋に戻ろうとすると娘さんがこちらを覗いていた。

俺が早起きするのが珍しいらしい。



「娘はずっとトイチさんの話をしているんですよ?」



『まさか。』



「だって、お仕事が上手く行っておられるみたいですし。

将来性ありそうですもの。」



女将さんはいつもの笑顔だが、目だけは全然笑ってない。

あ、これ男を値踏みする時の目だ。



『いえいえ。

明日をも知れぬ流れ者ですw』



「うふふ。

私も娘もそうは思ってませんよ。


コレット、トイチさんにお酌をしなさい♪」



予めそういう段取りがあったのかも知れない。

女将さんがそういうなり、娘のコレットが小奇麗な盃を持って来た。

明らかに来客用であろう果実酒を注いでくれる。



『いやいや!

そこまでして貰うのは申し訳ないですよ!』



「いつも良くして貰ってますし。

私も娘も個人的にトイチさんのお話を伺いたいですわ。」



「お客さん、私もトイチさんって呼んでいいですか?

リンさんって方が苗字? 名前?

格好いい響きですね♪」



「不躾な娘で申し訳ありません。

コレット、失礼の無いようにするのよ♪」




…うーん。

宿を変える時期だな。


女が急に好意的な態度を取って来るということは、カネを持っている事がバレた、ということだ。

思えば俺も不用意だった。

干し魚を土産にしたり、余った小銭を寄付したのも拙かったか…


これ以上コイツらに手の内を見抜かれる前に、別の宿を抑えるしかないな。

と、言っても他の宿はどこも娼館みたいなモンだしな…

売春婦は駄目だ。

人間はみんな泥棒だが、賤業に従事しているような人間はより積極的な泥棒である。


うーん。

宿代は弾むから、もっと安全な場所は無いだろうか?




===========================



俺は『その辺りを見物して来る』と言って、宿を出た。

荷物も全て回収したし、痕跡も残していない。


まずは次の定宿を探そう。

農協の近くにランクの高い宿があれば助かるのだが。

あ、それともニコニコ金融の近所に住もうか?

究極の引きこもりビジネスが成立してしまうな。


それにしても、王都と言ってもそこまでデカくないな。

田舎のイオンの方が広いかも知れない。

この程度の規模で匿名性が保証されるとは思えないので、もっと大きく安全な移住先を早急に探さなくてはならない。


うーん、参ったな。

俺はこの世界を知らなすぎる。

(別に地球事情をそこまで知悉していた訳ではないが。)



人の多い所で聞き耳でも立ててみるか…

俺は屋台街をプラプラ歩く。

最初は居酒屋のような場所で情報収集するつもりだったのだが、冒険者風の団体同士が口論していて治安が悪い雰囲気だったので、女の多い甘味店のような店舗に入った。

オープンテラスでお洒落な雰囲気。

客層を見るにデートスポットやママ友会で使われているらしい。


メニューが良く分からなかったので、フルーツの盛り合わせを注文してのんびりする。

1,000ウェン払えばソファーベッド席でくつろげる、と聞いたのでそちらに移らせて貰う。



『ふー。

ようやく、くつろげる環境に移れたな。


おっ? これマスカット?

うーん、少し酸っぱいが、まあ美味しい部類かな。』




1人で食レポごっこをしていると、目の前に人影が立った。

次の注文が来たのかと思い顔を上げると、宿屋の娘だった。


しまった。

尾行されていたのか?

もう少し警戒するべきだったか…



「あ、あの。」



『はい。』



「母が街を案内してあげるように、と。」



『そ、それは…

お気遣いありがとう。

ただ、宿の仕事もあるだろうし…

そこまでして貰ったら申し訳ないよ。』



…オイオイオイ。

客引きの売春婦でも、ここまでしつこくないぞ。

参ったなぁ…

収入が安定した以上、生活レベルはもう少し引き上げたいし、他人との関りはもっと希薄にしておかないと怖いんだよな。

いや、女将さんも娘さんも嫌いではないんだけどさ。

個人経営の店舗って客と従業員の距離感が近すぎて、機密保持に向かないんだよ。



娘さんが俺の前に立ちっぱなしだったので、店員が慌ててこちらに駆け寄って来た。

よし、つまみ出してくれるのか!

と期待したのだが、俺のソファーベッドに枕を追加する。

どうやら恋人と店で待ち合せていたと誤解されてしまったらしい。


オイオイオイ空気読めよ馬鹿、と一瞬思うが、店員としては空気を読んだ結果なのだろう。

俺と目が合うと笑顔でウインクしてきた。

《わかってますよ、お客様♪》とでも言いたげなドヤ顔だ。


宿屋の娘も満面の笑みになって、勝手に俺に抱き着く。

ここが地球なら帰らせるんだけどな。

異世界の男女文化の違いが判らない以上、相手を変に刺激するのはまずいか。

(なまじカネがあるだけに無用な恨みを買うのが怖い)

宿帳に本名なんて書くんじゃなかったな。



「トイチさんは、よくこういう店に来られるんですか?」



『ああ、いや。

俺、地元じゃ貧乏な部類でさあ。

こういう店に興味はあったけど、中々入れなかったんだよ。』



「じゃあ、やっぱりこの王都では御成功されているのですね♪」




…しまった!

俺は馬鹿か…

《地元じゃ貧乏》なんて言ったら、《今は裕福》と白状しているようなものじゃないか…

俺が何気なく娘の顔を盗み見ると、期待をするような表情でこちらを仰ぎ見ている。

駄目だ。

この女は年少とは言え、客商売の従事者だ。

膨大な数の客を観察して来た筈だし、その財布事情を推測する能力は当然高いだろう。

俺がまとまったカネを持っている事、安定して収入を得る術を備えている事、カラクリは見えずとも漠然と悟られてしまった、と考えるべきだろう。




…殺すか。

女将と纏めて口を封じる方法は無いだろうか?

冒険者ギルドで賞金が掛かっていた盗賊団。

アイツらに殺しを依頼することは出来ないだろうか?

1人殺すのに幾らくらい掛かる?

相手は女だから安く殺してくれるんじゃなかろうか。



そんな事を考えていた時だった。


「遠市君じゃないか!」


誰かが俺の名を呼んだ。



===========================



相手が甲冑姿だったので、最初王宮勤めの騎士か何かと思った。

1秒硬直してから、相手が級友だと気づいた。


学級委員長の平原。

イケメンでサッカー部のキャプテン、実家が地域密着型の不動産会社を営んでいる男。

後ろに女を連れている。



『平原君か。

久しぶり。』



平原は丁寧に会釈するが、女達(あまり喋った事はないがクラスメートだと思う)は挨拶もしやがらない。



「少し心配してたんだ。」



『だったらカネを貸してくれよw』



「少しって言っただろw」



あ、コイツは話せる部類の奴だ。

前から薄々思っていたが、平原であれば少しは許容してやっても構わない。



「隣の子は?」



『や「恋人です!」



おいおい、俺が《宿屋の娘さん》って言い掛けたのを封じるなよ。

人の発言を遮っちゃいけないって学校で習わなかったのかい?



「流石だなぁ。

俺達は昨日までの1週間、研修を受けさせられていてさ。

内堀の外に出して貰えなかったんだ。

トイチ君はこんなに可愛い彼女を作るなんて凄いよ。」



「えへへ♪」



宿屋の娘が照れて笑う。


 「ロリコン!」

 「ロリコン死ね!」 

 「キモい!」


上記の様にメス級友達も祝福してくれる。



『研修?

結構厳しいのか?』



「国賓と新兵の中間位の立ち位置さ。」



『平原君、面白いこと言うなぁ

地球に居る時、もっと話を聞いておけば良かったよ。』



「帰ったらメシでも行こうよ。」



『いいね。

是非、ゆっくりできる店に行こう。』



 「ねえ、隼人ぉ。 もう行こうよぉ。」

 「ロリコン死ね!」

 「折角のお休みをこんな奴に潰されたくないよ!」



「遠市君。

吉岡が死んだ話は聞いた?」



『1人粛清されたとは噂で聞いていた。

てっきり俺のことかと思ってんだけどなw』



「文武のツートップからカネを借りておいて

粛清はないだろうww」



確かにな。

冷静に考えれば、俺が処分対象ならカネは貸さないなあ。



『吉岡君は…

態度に問題があった?』



「何度注意しても王様たちにタメ口で接しようとして…

俺達も庇い切れなくなった。

保身の為に行動した者はきっと報いを受けるだろう。」



『じゃあ、君が手を汚したんだな。』



「軽蔑するか?」



『軽蔑する理由が無い。』



「そうか、真に受けておくよ。

少しは気休めになった。」



 「ねえ! こんな奴に構う事ないよ!」

 「ロリコン死ね!」

 「隼人ぉ! 遊んでくれるって言ったじゃない!」




「遠市君、今から情報交換に応じてくれるか?」



『ああ、じゃあゆっくり出来る所に案内するよ。』



「助かる。」




いや、こちらこそ助かる。

最初に会ったのが平原で良かった。

俺は運がいい。



宿屋の娘から情報が洩れるのが怖かったので、不本意ながら胡桃亭に戻ることにする。



 「ちょっと隼人!」

 「ロリコン死ね!」

 「訓練我慢したら遊んでくれるって約束したよねえ!」



宿屋への道、平原がサッカーの話を面白おかしくしてくれる。

へえ、今まで下層民の競技と敬遠してきたけど、もしも帰れたらフットサル位は付き合ってもいいかな。



==========================


【所持金】


61万2000ウェン

  ↓

60万3500ウェン


※カフェ・ノーブルにて8500ウェン支払い


 入店料1000ウェン

 VIP席1000ウェン

 フルーツ盛り合わせ1500ウェン

 糖蜜珈琲1000ウェン×2

 枕代3000ウェン


==========================



女将さんにテーブルのある部屋を借りて人払いを頼む。

(要は聞き耳を立てるな、ということだ。)

平原と手短に情報交換。



まず俺からの情報提供。


・冒険者ギルドと農協の違いについて

・城下町商店街の雰囲気

・住民の国家に対する感情

・農業地区について

・金融業と密接に絡む位置特定システム


この男にとって新鮮だったらしい。

「勿論、裏は取るけど」

と断ってから、俺の見識を褒めて持ち上げる。



俺も当然の権利として質問させて貰う。



Q,地球に帰る方法はあるのか?

A,功績を挙げれば帰してくれる、と王国側は言っている。


Q,魔王討伐は行われるのか?

A,恐らく王国にその意欲も余力も無い。

 周辺国に対する威嚇+パフォーマンスと思われる。


Q,何か仕事をさせられているのか?

A,スキルの練習をさせられている。

 特に火炎魔法のような派手なスキルの持ち主は重用されている。


Q,待遇はどうか?

A,籠の鳥




「他に聞きたいことは無い?」


『今は思いつかない。』


「上手くやっているようで安心したよ。」


『兎に殺されかけたけどねw』


「男の勲章じゃないかww」




その後、平原と寝転がって下らない話で盛り上がった。

門限があるらしかったので、内堀まで送ってやった。


そして帰りに日課に励む。




==========================


【所持金】


60万3500ウェン 

  ↓

160万3500ウェン


※ニコニコ金融から100万ウェン借り入れ。


==========================




ダグラスに金融裏話を色々教えて貰ってから近所を散歩。

表情の乏しい男ながらも、少し親密になれてるのかも知れない。

30分程プラプラしている間に配当が入る。



《6万4140ウェンの配当が支払われました。》




==========================



【所持金】


160万3500ウェン

  ↓

166万7640ウェン

  ↓

66万7640ウェン



※6万4140ウェンの配当受取

※ニコニコ金融に100万ウェンを返済



==========================



…日利4%は強いな。

かなり良いペースでカネが増える。

だが、もう一声欲しい。



『ダグラスさん。

こうも無利息で借りさせて貰うのは心苦しいので

1%だけ受け取って下さりませんか?』



「提案は嬉しく思う。

ただ、弊社には弊社のルールがあるんだ。

翌日以降なら5%を受け取れるんだが…

トイチは回転を重視してるんだよな?」



『はい、そこが申し訳ないんです。』



「わかった、ボスに特殊なオプションが適用されるかを聞いておいてやる。」



『ありがとうございます。』




別に断られてもいいんだ。

要は面識のある金融屋との雑談レベルをもう一段階掘り下げたいだけなのだから。


断られてもいい。

3回無利息で借りるうちの1回、こういう殊勝な提案をしていれば良いだけなのだ。

そうすれば、出禁にされずに済みやすい。



==========================



宿に帰って料金を支払う段になる。

俺が1泊分として2000ウェンだけ払おうとすると、女将がほんの一瞬「しまった!」という顔をする。


確かにな。

まるで今日で定宿を変更するように思われても仕方ない。


面倒だったので、端数の640ウェンを先程のチップとして渡してさっさと部屋に入った。





==========================



【所持金】


66万7640ウェン

  ↓

66万5000ウェン

 


※胡桃亭に宿代2000ウェン支払い (朝晩食事付)

※会議室レンタルのチップとして640ウェン支払い



==========================




明日はもう一度だけホーンラビットに挑もう。

日利を5%まで引き上げる。

そこから桁を上げてカネを回そう。


【名前】


遠市厘



【職業】


自称コンサルタント



【ステータス】


《LV》  4


《HP》  (3/3)

《MP》  (1/1)


《腕力》 1

《速度》 1

《器用》 1

《魔力》 1

《知性》 2

《精神》 1

《幸運》 1


《経験》 110


次のレベルまでの必要経験値40ポイント。



※レベル5到達まで合計150ポイント必要



【スキル】


「複利」 


※日利4%



【所持金】


66万5000ウェン





【応援よろしくお願いします!】


 「面白かった!」

 「続きが気になる、読みたい!」

 「カネが欲しい!」


 と思ったら

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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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 何卒よろしくお願いいたします。

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[良い点] いきなり物騒な事言い出したな
[一言] そういや、レベルが上がっても複利以外のステータスは上がらないのね
[一言] ヤクザからしてみれば利用されてるだけなのに気のいい店見つけたなwそんなことより俺も複利ほしい(´-`)
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