【転移72日目】 所持金17兆5140億1150万ウェン 「番犬に餌を惜しむほど俺は馬鹿じゃない。」
今日は自由都市軍部の偉いさん達が大量に表敬訪問してくれる日なので、朝からバタバタ歓迎の準備をしている。
(何で軍人さんってあんなに団体行動好きなんだろうね?)
以前から退役軍人会・傷痍軍人会に集中して資金を投入してきた。
それが功を奏して自由都市軍部がかなり熱心に俺達を守ってくれている。
やっぱりね、兵隊さんは退役後の生活がみんな不安だから。
天下り先ポジションを作りまくってる俺達は大切にしてくれるんだよ。
後、苛酷な任務に従事しているので、いつ自分が障害を負ってしまうか分からない。
なので、陸軍病院やらリハビリセンターやらにガンガン出資している俺はさぞかしありがたいのだと思う。
エナドリも優先して流しているしな。
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傷痍軍人会の会長を務めるベン・スキナー氏は、現役時代に首長国の援軍として対王国戦線に参加。
王国側の猛将ライル・サザーランド大佐を討ち取る大勲功を挙げるが、その戦争の際の負傷で左足に障害を負い退役した。
一時は英雄として称賛され模範的軍人として幾つかの勲章も授けられているが、自力歩行できないコンプレックスは年々募っていった。
士官学校の同期達は退役後にスカッシュや水泳を楽しんでいる。
にも関わらず、自分は小用一つ足すにも苦労をしている。
傷痍軍人会の会長として精力的に活動しながらも、プライベートでは鬱に苦しんでいた。
それがつい先日。
娘に渡された土産で完治してしまったのである。
何でも港湾区で薬を無償配布している商人がいるらしく、その者は傷痍軍人会に多額の寄付を献じてくれたというではないか。
あまりに上手すぎる話に不信感を募らせたスキナー氏が出資者の身元を探ると、コリンズと言う名の王国人だった。
どうも連邦で買官行為を行った形跡がある。
《商人がカネに物を言わせて…》
《奴らは安全な場所で旨い汁ばかりを吸っている》
《今度は自由都市で猟官を? 私は騙されんぞ!》
あまり良い印象を持たぬまま訪れた神殿での慰霊行事。
コリンズの姿を見て驚愕した。
車椅子姿ではないか。
しかも顔面に3つも大傷がある。
気になって更に調べると、王国時代は冒険者として精力的に活動していた形跡がある。
先の連邦内戦でも獅子奮迅の戦働きでミュラー派を勝利に導いたと聞く。
車椅子はその折の名誉の負傷なのだろうか?
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スキナー氏が過度に俺に入れ込んでしまうのも仕方ないだろう。
シンパシーを感じて当然なのだ。
その彼が、軍部の大物達と俺を積極的に繋いでくれる。
明らかに自分達の安全度が向上している実感があるのだ。
俺はまず教団から目を付けられて《神敵》に認定されてしまった不手際を詫びた。
『皆様、余所者の私が自由都市内でトラブルを起こしてしまい
お騒がせしてしまっております。
如何なる処分をも受ける覚悟でございます。
今はただ謝罪をさせて下さい。』
俺は軍部のトップ連中に深々と頭を下げる。
直訳すると《払うものは払ってるんだから番犬の仕事をしろ》という意図である。
勿論、彼らは意図を汲み取ってくれる。
軍人の仕事は空気や意図を読む事である、それに長けているから彼らは将官にまで出世した。
俺の見え見えの芝居が読めない馬鹿は居ない。
後、軍隊というのは究極のマッチョ社会である。
ナードの集合体である宗教団体如きに本当は頭を下げたくない。
なあ君。
君の学校の体育会系のエースが、モヤシのガリ勉にヘコヘコする場面を想像出来るかい?
そんな事あり得ないだろう?
でも、教団はその莫大な政治力で今まで軍人さん達に屈服を強いて来たのだ。
ランチ会の席次や、表彰式の席順や、求人ポスターの掲載順位。
坊主たちは各所で軍人たちの誇りを傷つけ続けてきた。
だから、ここに居るお歴々は職務の範疇を越えて俺の味方になってくれる。
自分達が職業的制約から何も言えない坊主に、ハッキリと敵対してくれているからだ。
仮に天下り先を作らなくても、彼らは俺に好感を持ってくれただろう。
命を懸けて来た者が信じるのは、同じく命を懸けて来た者だけなのだ。
俺の経歴は大した事がないし、如何に大したことが無いかも正直に打ち明けている。
だが、それでも俺の顔面の3つの大傷と下半身不随という現実が、彼らの琴線を強烈に震わせるのだ。
これは理屈じゃない。
…資本と暴力の結託。
本来、文明社会において歓迎されざる不徳だが。
俺は自ら望んで軍部に接近した。
副産物として自由都市と連邦の軍事協力関係が生まれる。
俺が連邦に使者を送り続けているからである。
《自由都市とは軍事的にも完全に歩調を合わせて欲しい。
正式に連絡武官を派遣して欲しい。
自由都市の同盟国家である首長国にも絶対に攻撃しない様に。》
趣旨は以上である。
反発があるかと不安だったが、特に反発はなく。
「だって、カネ出しているのコリンズ君じゃん?
ぶっちゃけ、アイツがワシらの雇い主みたいなもんじゃね?
ってか言う事聞かなかったら、カネをくれないんじゃろ?」
使者に対してミュラー卿はそう言った。
直訳すれば《経済援助オカワリ♪》ということである。
いいよ、別に。
番犬に餌を惜しむほど俺は馬鹿じゃない。
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【所持金】
13兆4640億1150万ウェン
↓
13兆3640億1150万ウェン
↓
13兆2640億1150万ウェン
↓
13兆2140億1150万ウェン
※退役軍人会に1000億ウェンを寄贈
※傷痍軍人会に1000億ウェンを寄贈
※連邦政府に500億ウェンの経済支援
【試供品在庫】
エナドリ 5280ℓ
↓
エナドリ 4780ℓ
↓
エナドリ 4280ℓ
↓
エナドリ 3780ℓ
※傷痍軍人会に500ℓを寄贈
※傷痍軍人を励ます会に500ℓを寄贈
※陸軍病院に500ℓを寄贈
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「リンさん。
上限は1000億ウェンにしたんですか。」
カインにお互いの呼び方を変えたい、と提案すると照れながらも合わせてくれている。
俺も正直、少し照れる。
『ええ、この世界の経済規模を拝見した所
これ以上の額の資金投入は…
却って有害かな、と。
国家が数千億、企業が数十億、個人が数千万。
そこら辺を天井にしようかと漠然と考えているのです。』
「兆はどうします?」
『見せ金にしようと思った時期もあるんですが。
単純なストックに留めます。
溶鉱炉が本格起動した際には…』
「わかってますよ。
魔法触媒を量産できるかの実験ですね?」
『やや妄想なのですが…
もしも召喚系のスキル保有者を雇うことが出来たら…
一緒に召喚されてきた級友を地球に帰してしまっていいですか?』
「…いいですよ。」
『元々、彼らは戦士でも軍人でも無かった。
ただ同意なく拉致され、殺し合いを強要されたんです。
勿論、楽しんでいる奴もいるかも知れませんが。
あれだけ戦死者が出たら、嫌気はさしているでしょう。』
「リン。
貴方はどうしますか?
やはり帰ってしまう?」
『…帰りますよ。
俺はここで培った戦法で故郷を正さなくてはならない。』
「そうですか。」
『安心して下さい。
この世界に迷惑を掛けて去る気はありませんし。
何も奪い去るつもりもありません。
恩は返します。』
「リン。
返すべき恩なんて貴方にはありませんよ。」
『でも、縁は出来てしまいました。
百歩譲って借りがなかったとしても、縁はすでにここにあります。』
「…若い癖に老成した考え方をしますよね。」
『年上の友人に恵まれたおかげですよ。』
例え恩を裏切れたとしても、縁は絶ち切れない。
もう、縛り付けられてしまった。
だから他人なんかに関わりたくなかったのだろう。
暗い部屋でニヤニヤしながら銭勘定をする事が、本来の俺の気性に一番合っている。
だが、俺の部屋には掛け替えの無い友人や家族が出入りするようになってしまった。
俺の名を呼んでくれる者が出来てしまった。
複利は最強だ。
無限に強くなり続けて行く。
だが俺は、必死で纏っていたつもりの心の鎧が壊れてしまった。
弱くなった。
誰も好きにならないつもりだったのに。
誰とも関わらないつもりだったのに。
なあ。
最近知ったよ。
複利って人の縁にまで作用するんだな。
ちゃんと説明欄に書いておいてくれよ。
知ってりゃこんなスキル、ドブにでも捨てていたのに。
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神殿では旧王国民の慰霊祭が行われていた。
なるべく関わり合いになりたくなかったが、見知った顔が幾つかあったので挨拶だけを行う。
『コンラッド子爵!
御無沙汰しております。』
由緒正しき子爵位をこともあろうか仮想敵の遊牧民に売り渡した見下げ果てた男である。
もっとも、買ったのは俺なので、別に見下げるつもりはない。
「コリンズ社長!」
満面の笑みでコンラッドはハグを求めてきた。
特にこの男に好感を持っている訳でもないのだが、一応抱き返しておく。
こちらに伝手の無いコンラッドは地盤を築く為に四苦八苦しているようであったので、色々と相談に乗ってみる。
ドナルドとも面会の機会を作る事を約束もする。
「わ、私は!
お、王国の情報なら幾らでも引き出せます!
私は有用ですよ!」
そして、勇気を振り絞ったのだろうか、最後にそう売り込んで来た。
そう、この男は古巣の情報を諜報的観点から売り飛ばそうとしている。
…仕方が無いのだ。
彼もこちらで生活基盤を築かなくてはならない。
纏まったカネが居る。
「コリンズ社長!
現在の首長国への帝国侵攻問題!
この状況なら王国側も確実に出て来ます!
いや、もう民兵団が国境入りしているタイミングなんです。
わ、私なら…
お役に立てる情報を王国側から引き出せます!」
唇の震えからも、彼の逡巡は見て取れる。
先祖代々仕えていた祖国に後ろ足で砂を掛けて逃亡し。
かつての敵国に到着するや否や、走狗としての自分をPR。
しかもここで行われているのは王国の慰霊祭である。
軽蔑はしない。
それは彼が自分自身に対して既に行っているからである。
『私にも多少の軍部への伝手があるのですが…』
多少などではない。
さっきまで陸軍大将を招いてランチを楽しんでいた。
結局、さっきスキナー氏に紹介して貰ったばかりのお歴々にコンラッドを紹介する。
向こうが喜んでくれたのも当然である。
対王国戦が確実視されている中で、貴重な諜報要員を入手出来たのだから。
俺は最後まで同席しなかったが、コンラッドは王国の機密を嬉々として語り続けていた。
軍事の素人である俺が聞いてもその危険性が理解出来た程であった。
どうやら軍事的に最高のピースを提供出来たらしい。
彼らから俺への信頼度は更に盤石になった。
その証拠に彼らも俺に軍の内情を嬉々として語り始めたのだから。
どうやら身内扱いされ始めたらしい。
身内かどうかは兎も角。
俺は尽くしてしまうタイプの男だと自覚している。
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帰宅すると、帝国皇帝アレクセイのニュースが届いていた。
かなりの快進撃らしい。
早くも2戦して、そのどちらも圧勝している。
四諸侯側も迎撃軍を出立させた。
そこにどうやら軍籍を隠した王国軍が大量に混じっている模様なのだ。
戦力差は四諸侯側が圧倒しているが、恐らくは皇帝が勝つだろう。
少なくとも財界人は皇帝アレクセイの勝利をため息交じりに確信している。
財界のメインメンバーは総合債券市場を始めとして各所で皇帝と面談しているからである。
戦争向けの《いい性格》をしているのは確認済。
目先の勝利にしか興味の無いあの為人は、勝利条件のハッキリした短期決戦で真価が発揮される。
その後の統治がグダグダになるのも予想済であるが、仮想敵国が弱体化してくれるのだから大歓迎である。
古来、戦争などというものは残念ながらも嫌な奴が勝つように出来ている。
なので、あんな鼻持ちならないオッサンが負ける筈がないのだ。
『アイツ死んでくれねーかな。』
それが俺達の総意なのだが、どうせ長生きするんだろうな。
会った事は無いが、どうせ四諸侯っての真人間なんだろ?
なんか最近、世の中の仕組みが解ってきたわ。
【名前】
リン・コリンズ
【職業】
(株)エナドリ 創業オーナー
駐自由都市同盟 連邦大使
連邦政府財政顧問
【称号】
神敵
【ステータス】
《LV》 32
《HP》 (5/5)
《MP》 (2/5)
《腕力》 2
《速度》 3
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 4
《精神》 7
《幸運》 1
《経験》 230億2596万9487ポイント
次のレベルまで残り6億8311万6559ポイント
【スキル】
「複利」
※日利32%
下11桁切上
【所持金】
17兆5140億1150万ウェン
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有
※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有
※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有
※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有
※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有
【試供品在庫】
エナドリ 4990ℓ