【転移65日目】 所持金3兆6440億1170万ウェン 「熱い抱擁で再会と永遠の友情を約束した。」
起床。
ここは総合債券市場のデラックススイートフロア。
外国の王室・帝室が来訪した際に提供される最上階フロアである。
首長国の王族などは、自由都市に遊びに来た時に近臣共々このフロアに滞在する。
各国TOP同士の経済的な会談がしばしば行われてきたらしい。
当然、今まで俺が見た中で最も豪奢な内装である。
地球に居た頃、《世界の豪邸拝見》的な趣旨の動画を視聴するのが趣味だったのだが、それらと比較しても見劣りしない。
昨日、俺を訪ねてくれたアンリ王太子殿下は幼少時から、このフロアの常連だったらしいので色々教えてくれる。
政治局長のウェーバーも見舞いのフルーツ籠を手に訪問してくる。
何となく察した事だが、帝国勢と俺を接触させない為の措置らしい。
俺がウェーバーの立場でも同じ判断をするだろう。
意外にもコレットがこの環境を喜ばない。
宿屋の一人娘として生まれ育った彼女にとっては、如何に贅美であってもアウェイで起居するということ自体に、不安感や不快感を与えられてしまうらしい。
あくまで自分が所有権を持った物件、そこが一番落ち着く。
そしてパブリックスペースであれば部外者を幾らでももてなせるそうだ。
娘のその価値観を叱責しているフリをしているヒルダも似た価値観を持っている。
全くの無産階級として生まれた俺と、宿屋業という家業を営む家に生まれた母娘では致命的に財産観が異なるのだ。
昼過ぎになって、ミュラー卿が既に帰ってしまった事を聞かされる。
特に挨拶は無かったものの、相当満足していたらしい。
あー、あの爺さん絶対俺より長生きするだろうな。
ちなみに現在の世界経済に最も影響を与えているのがミュラー卿である。
苛政のイメージがあった連邦全土で一律三公七民が適用されてしまったニュースは、既に万天下に広がってしまった。
各国当局はひた隠しにしているが、年貢率引き下げ要求の一揆が頻発しているらしい。
帝国四諸侯による首長国侵攻事件も、この騒動が端緒となっている可能性は高い。
幾ら他国の事情とは言え、六公四民や七公三民で生活させられてきた者が三公七民の噂を耳にしたら?
ただでさえ百姓仕事などは作物・耕地面積が同じであれば、作業内容はそこまで大差ないのである。
殿下から相談を受ける。
連邦と隣接した首長国、そして帝国も住民感情が洒落にならないレベルに達しつつある現状を踏まえてのである。
「連邦領は何故あんなにも税率が低いのでしょう。
コリンズ社長もかなり支援をされておられるのですか?」
『私が彼らの負債を幾らか肩代わりしたのは事実です。
ただ、ミュラー卿は私と出逢う前から三公七民を堅持しておりましたよ。』
「それがわからないんです。
彼の御仁にそこまでの政治手腕があるようには思えない。」
『ミュラー卿は領地を原価で統治しておりましたから。』
「原価?」
『如何なる政治体制の国家であっても、統治コストというのは住民生産力の3割前後に収束するそうなのです。
3割だけ税を取り、後は放置していれば、結果として民は潤うそうですよ。』
「…いや。
3割というのは…
ちょっと、現実的では無いというか…
あくまで一般論ですが、行政コストというのは…
もう少し、もう少しだけ徴収しないと、賄えないのではないでしょうか?
五公五民くらいが、総合的な観点から見て
一番バランスが取れるのではないかと…」
殿下の言い分は理解出来る。
首長国の王族が現在の規模と生活水準を維持しようとすれば、必然的に五公五民くらいの税率になってしまうのだ。
だが、同じ為政者でもミュラーは河原で寝転んで草を噛んで日々を過ごしている。
(加えて極めて戦争上手なので、領内が侵略されることも殆どない。)
百姓も馬鹿ではないので、この違いを明確に理解している。
それが現在頻発している一揆の理由である。
そして殿下が恐れているのは、俺が貧民側の価値観を濃厚に持っている点である。
これが最大の誤算だったらしい。
当初、殿下は俺の事を王国出身の富商としか聞かされていなかった。
第一報に金融業・傭兵業の経営者としか記載されていなかった所為である。
そして、実物を見て内心愕然とした。
立ち居振る舞いもそうだが、俺が遺伝子レベルで貧民サイドの人間だったからである。
しかも性格が意固地で思い込みが強く、懐柔が困難なタイプだ。
この時点で、殿下の第一仮想敵国には帝国を抜いて俺が躍り出た。
幾ら鈍感の俺でもその程度の機微は察知出来る。
ただ、殿下は聡明な方なのでその動揺を俺に悟られたと悟ると、オブラートに包んで本心を吐露して来た。
上手い。
持たざる者の憎悪を躱す術を完璧に体得されておられる。
俺は素直に感動した。
「コリンズ社長は五公五民を過大だと感じておられる筈です。
なので教えを乞いたいのですが、どれくらいを適正税率とお考えですか?」
あ、これ回答次第で俺を殺す気だな。
表情から察するに、四公六民辺りが俺にとっても殿下にとってもデットラインだろう。
ここは無難に答えた方がいいよなー。
ヒルダからも散々釘を刺されているしな。
『うーーん。
さっきから殿下は五公とか七公とか仰っておられますが。
それって本当にパブリックなんですかね?』
「…。」
その後、しばらく殿下と談笑した。
ホーンラビットに怪我をさせられた話をすると一際喜んで下さり、互いの傷を見せ合って子供のように笑い合った。
首長国が誇るテリーヌ尽くしのコース料理の話題では大いに盛り上がった。
生まれが貧しいせいか、俺はそういう小洒落た料理に特に惹かれてしまうのである。
最後に。
俺が陛下のご健康の為にエナドリを贈ると、殿下は愛刀を賜って下さった。
何でも初陣の際、敵部隊の奇襲から殿下を護った幸運の証らしい。
熱い抱擁で再会と永遠の友情を約束した。
さあ、宣戦布告をしてしまった。
先に死ぬのは世界か?俺か?
当然、後者である方が犠牲者は少なくて済む。
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その後、皆様から壮絶に怒られる。
はい、俺が全面的に悪う御座います。
世の中には言って良い事と悪い事がある。
でもさあ、それ決めてきたのは誰だ?
殿下の様な権力サイドの人間だろう?
『コレット、帰るぞ。
皆を纏めてくれ。
そして俺が猛省していると伝えておいてくれ。』
「男の人がそう言う時って一番反省してない時じゃない。」
全くだ、返す言葉もない。
帰路、ふと思い立ちベッドで上半身を起こす。
もう茶番は十分だろう?
それに、これから死んでいく連中に失礼だ。
みんなー、ゴメンな。
危篤は流石に嘘だ。
俺は単なる下半身不随。
結果的に騙した形になって申し訳ない。
これに関しては誰からも異議が上がらなかった。
号砲が鳴り終わってから前進する分には落ち度ではない。
どこからか沸いて来た俺の護衛団が自由都市の部隊に一礼してから、俺のベッドを囲み直した。
自由都市の部隊はこちらに黙礼して隊列の前後に移動した。
おいおい、まるで戦場で輿を護る時のシフトだぞ?
俺は首をゆっくりと左右に振り、大通りを見渡してみた。
祭りか何かが開かれているのだろうか、群衆が遠巻きに俺を眺めている。
あー、世の中ってこんな景色をしてたんだな。
『ふふふ。』
思わず笑いが零れる。
俺への賛否ってこんなにも激しく分かれてたんだな。
《9000億ウェンの配当が支払われました。》
とうとう俺の【複利】は日利30%に突入した。
下11桁が切り上られるらしい。
俺は数字に弱いので、もはや金額を把握出来ていない。
こんな金額、想像の範疇を越えている。
もうわからないよ。
…いや、最初から何もわかってなかったのかもな。
ようやく最近世の中の仕組みが少しだけ理解出来て来た。
今、今更、やっと俺自身を顧みる事が出来た。
なあ。
やっと気づけたよ。
俺、カネが欲しかった訳じゃないんだ。
ただ世の金持ち共が憎くてさあ。
それはもう本当に心が焼き崩れる程に憎くて、憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて本当にそうか?憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くてそう思いたいだけじゃないのか?憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて親切にしてくれた金持ちもいっぱいいるじゃないか?憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて俺より貧しい者なんて中々いないぞ?憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くてでも確かに憎悪って快感だよな。憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて…
みんな、ありがとう!
【名前】
リン・コリンズ
【職業】
(株)エナドリ 創業オーナー
駐自由都市同盟 連邦大使 (辞任撤回済)
連邦政府財政顧問
【称号】
ファウンダーズ・クラウン・エグゼクティブ・プラチナム・ダイアモンド・アンバサダー信徒
【ステータス】
《LV》 30
《HP》 (5/5)
《MP》 (5/5)
《腕力》 2
《速度》 3
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 4
《精神》 7
《幸運》 1
《経験》 35億0507万5797ポイント
次のレベルまで残り29億0342万2055ポイント
【スキル】
「複利」
※日利30%
下11桁切上
【所持金】
3兆6440億1170万ウェン
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有
※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有
※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有
※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有
※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有
【試供品在庫】
エナドリ 7249ℓ