【転移59日目】 所持金2兆2242億9190万ウェン 「商品名なんて競合より短ければ何だっていいんですよ。」
睡眠ではない、気を失っていた。
覚醒したのは早朝。
周囲の様子を見る限り、何らかの楽観的材料があったようだ。
「コリンズさん、胸の痛みはどうですか?」
『? 完全に引いております。
まるで昨夜の負傷が無かったかのように。』
「ははは。
ようやく恩返しが出来ましたね。
昨夜のが特殊な白魔法です。」
『と、特殊? 白魔法?』
「表向き白魔法とされているのですが…
その実態は部分的な時間魔法ですね。
私も古代魔法理論は若い頃にかじっただけなので理解は出来ていないのですが…
端的に言えば、胸部を負傷前の状態に戻しました。
脚を回復させられないのかも試して貰いましたが、術師の負担が重すぎて断念しました。
負傷から時間が経ちすぎていると巻き戻せないようですね。
我々の判断で術者にはエリクサーを摂取させました。
諸々が事後承諾になってしまった事、申し訳ありません。」
『いえ、治癒して下さった方には手厚く報いたいと考えております。
その方はまだここに?』
「はい、疲労を回復させる為に客室で睡眠を取らせております。」
時間魔法…
凄いな。
胸の痛みが無かった事になっている。
軽く押さえてみるが、微塵も違和感がない。
『カインさん。
俺、人生で一番の奇跡体験をしているかも知れません。』
「それは幸いです。
我々全員だけが奇跡を堪能させて頂くことに気が引けていましたから。」
『いや、今回は私の不注意で皆さんにご迷惑を掛けました。
何と申し上げていいか。
あ、そうだ。
各国の関係者に回復した旨を。』
「いや、それはマズいです。」
『?』
「その時間魔法は教団によって厳しく使用を制限されている特殊な技法なので!
使ったと推測されてしまう事すら危険です。
これは教団利権の核心なんです!」
『きょ、教団利権?』
「コリンズさんも王都で目撃された筈です。
ポーションが教団によって独占されている様子を。
そして、これはまだ未確認の情報ですが近日中にエリクサーの特許まで差し押さえられるらしい。
教団は治療行為を独占する事を目標にしているのです。
だから治療以上の応用が利く時間魔法は、教団が存在すら外部に漏らしたくない秘術なのです。
魔法なんて理論の上に成立しているものですから、一度解析されてしまうとジェネリック版を作られてしまいますからね。」
『そこまでやりますか…』
「そこまでやりますよ。
仮に重傷・重病が教団にしか治せないとしたら?
障害からの復帰手段を教団だけが握っているとしたら?」
『だ、誰も教団に逆らえなくなる。』
「その通りです。
誰だって自分や家族がいつ病気やケガをするかは分からない。
生きていれば一族の誰かが障害を負う事もあるでしょう。
教団が医療を独占した世界になったとして、コリンズさんは教団に反抗できますか?」
『…無理です。
私には家族や仲間がいる。』
「だから、教団は特殊魔法・特殊スキルの所有者を手当たり次第に集めて囲い込んでます。
その目的を遂行するための副産物として、高い鑑定・召喚技術を蓄積した。」
カネと医療を握られたら…
もう誰も逆らえないな。
日本でも医師会は選挙で無双してたしな…
それの巨大バージョンと思えばいいのか…
「なので、客室の彼のことはくれぐれも御内密に。」
『ええ、当然秘密は守ります。
治癒の事実も隠して、当面はベッドにおります。
エリクサーが効かないって吹聴しなければ良かったww』
「仕方ないですよ。
そう言っとかないと、《じゃあなんで自分の足に使わないんだ?》ってつっこまれますから。」
最低3日は胸が治ってない設定にすることにした。
外交的観点から見ても、昨日負傷を理由に予定をキャンセルした者が、翌朝回復していたら完全に信用を失ってしまうからだ。
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俺を治療してくれた術師の名をマーティンという。
元は教団の司祭。
運営方針に疑義を呈する論文を発表した為、破門された。
銅鉱業を営んでいたマーティンの一族は教団からの苛烈なスラップ訴訟により破産し、今は各地で隠れ暮らしているとのこと。
もしもマーティンが教団総本山のある自由都市に潜伏し、教団が未だに執着している時間魔法を使用したと知られれば、彼には今まで以上の執拗な追跡が行われることだろう。
『どうして、自由都市に居られたのですか?
教団の本部があるのに。』
「私も最初そう考えました。
ただ一番教団を嫌いそれに反発しているのも自由都市の富裕層ですので。
何か逆転の芽があるのではと思い、この街に潜伏しておりました。
コリンズ社長。
覚えておられないかも知れませんが、私は一度貴方に救われております。」
『俺が… マーティンさんをですか?
す、すみません。 記憶になくて…』
「エナジードリンクキャンペーン。
おかげで痛めていた肩が完全に回復しました。
無論、仲間共々ね!」
マーティンは港湾労働者として港湾地区で働きながら情報収集をしていたそうだ。
だが慣れない肉体労働。
すぐに身体を壊したが、生きる為に無理をし続けた。
俺と会った時点で、右肩が完全に壊れていたらしい。
エナジードリンクキャンペーンに救われたことにより、俺と俺の目標を認識したマーティンは俺との接触をポールに願っていたらしい。
ナンパの手伝いまでしてやったというから、目的の為なら艱難辛苦を乗り越えるタイプの男なのだろう。
顔つきも理知的ながら精悍である。
「コリンズ社長、どうしても謝罪しなければならないことがあります!」
『しゃ、謝罪?
いえ、私は助けて頂いた身ですし。』
「今回の時間魔法ですが、胸骨に対しての発動の他に下半身に対しても回復を試みてみました。
その所為で13枚ものミスリル貨を浪費してしまう結果になりました。
コリンズ社長の貴重な財産を毀損してしまい、気が気でなかったのです。」
愚かにも俺は一瞬だけ
《金額にしてもたったの130億でしょ? 気にする事ないのに。》
と考えてしまった。
その思考に気付いてから己の傲岸に戦慄する。
あれ?
今なにを考えていた?
恩人のマーティンに対して…
いや、世間様に対して凄く失礼な物の考え方をしなかったか?
130億ウェンは誰がどう考えても大金に決まっている。
マーティンが従事していた港湾労働。
あれを一生続けて1億ウェン稼げるか否か。
いや、その他の世間一般の労働収入。
生涯賃金が1億越えない者も世界にはいっぱい居る筈だ。
経営者クラスでも零細業者なら10億ウェンを触らないまま多くの者が一生を終えるだろう。
あれ?
俺、何か思い違いをしてなかったか?
「社長! やはりお怒りですよね?
当然かと思います。
どれだけ謝罪しても謝罪し切れません!」
呆然としている俺を見てマーティンは損失額を咎められたと解釈したらしい。
我に返った俺は慌ててそれを否定し労う。
本当に俺は感謝しているし、彼の行動に1点の曇りもないことを理解している。
その後、詳細なレクを受ける。
治癒に特化した時間魔法。
これはマーティンの固有スキルだが、実用化の為の訓練は教団の教育機関で行われた。
知的財産権も教団が51%を握っている。
つまり、教団の指示なく時間魔法を使う行為は知的財産権侵害とされてしまう。
「どのみち触媒のミスリルが手に入らないから、魔法は使えないのですがね。」
『あ、触媒渡しておきますね。』
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【所持金】
1兆9012億9200万ウェン
↓
1兆8882億9200万ウェン
↓
1兆7882億9200万ウェン
※130億ウェン分のミスリル貨(13枚)を医療目的で消費。
※1000億ウェン分のミスリル貨(100枚)を医療目的で消費。
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「いや、困りますよ
こんな大金。」
『カネとして捉えればそうなのですが…
魔法触媒として見れば如何ですか?』
「いや、触媒として見れば
そりゃあ残弾が豊富だと心強いです。
ただ、エナジードリンクが出回ってしまったら…
時間魔法による治療なんて下位互換ですよ?」
『エナジードリンクなんですけど。
あれ、港湾区でしか配付しないつもりなんです。
だから、基本的に港湾区外で使える治療手段があれば便利かな、と。』
「え!?
そうなんですか?
貴族や富豪なら幾ら出してでも… あ!
そういうことですか?」
『治療代、こっちで持ちますので
マーティンさん、中央区や富裕区での依頼受けてみません?』
「しかし私は追われる身、この辺は歩きにくいです。」
『あ、じゃあ。
大使館職員になります?
えっと、外交官特権って使えるんでした?
基本、目立たずに動いて貰いますけど
何かあった時の保険くらいにはなるでしょう。』
「いや、しかし。
私の一族は天文学的な額の負債も背負わされてるんです!
政治的な保護を頂けるのは嬉しいが、取り立て屋からも狙われているんです!」
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【所持金】
1兆7882億9200万ウェン
↓
1兆7442億9200万ウェン
※マーティン・ルーサーの債務440億ウェンを代位弁済
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当面マーティンには大使館の離れ客室に住んで貰う。
本来、部外者の居住に難色を示していた母娘だが、医療技術者に関しては話が別らしく歓迎の意を表する。
そりゃあそうか、俺にはエリクサーが効かないものな。
次に大病・大怪我をしてしまったら、この男だけが命綱である。
ちなみに、医学全般について学んでおり、リハビリに関しての知識も豊富らしいので、そこもポイントが高い。
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【コリンズパーティー編成】
リン・コリンズ (エナジードリンク製造業オーナー)
カイン・R・グランツ (元冒険者)
ドナルド・キーン (在宅起訴中の不動産屋)
ハワード・ベーカー (エナジードリンク製造業社長)
マーティン・ルーサー (破門僧) ←in
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途中で遊びに来たポールも部屋を欲しがったが、「特に空きはない」とコレットに追い返されていた。
どうやらマーティンのおかげで狙っていた女の子と親密になれたので、彼に懐いているようだった。
《4800億ウェンの配当が支払われました。》
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【所持金】
1兆7442億9200万ウェン
↓
2兆2242億9200万ウェン
↓
2兆2242億9190万ウェン
※4800億ウェンの配当を受け取り。
※ポール・ポールソン個人に10万ウェンの小遣いを支給
【試供品在庫】
エリクサー 2097ℓ
↓
エリクサー 2654ℓ
↓
エリクサー 2100ℓ
※557ℓの試供品在庫を補充
※ポールソン営業部長に554ℓを支給
【ポールソンハーレム】
レニーちゃん(飲食店勤務) ←in
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「ねえ、リンくーん。
エナジードリンクって長くて読みにくいよ。
ちゃんとした商品名作ろうよ!」
『じゃあエナドリで。』
「略しただけじゃん!」
『商品名なんて競合より短ければ何だっていいんですよ。』
「競合?」
『…可能性の話です。』
はい。
これはエナドリになりました!
みんなー、話合わせてねー。
早速キーンが商標登録に向かってくれる。
…あれ?
エナドリって地球では商標権取ってる会社あったけ?
まさか、この話のオチが地球から商標権侵害で告訴されるとか、そんなバカげた事はないよな?
【今後の方針】
1、コリンズはしばらく寝ている
2、港湾区でエナドリを無料で配りまくる。
3、後は全員に1000億ずつ配って適宜工作をして貰う。
『ねえ、カインさん。
1000億ウェンのおかわりいります?』
「ゴメン、まだおなかいっぱい。」
『次の皿を用意してますので早めに食べちゃってください。』
「…かきこみますか。
そんなに食える歳でもないんですけどね。」
…なあ、みんな。
1日1000億のバラ撒きノルマとか設定したら怒る?
【名前】
リン・コリンズ
【職業】
エナジードリンク製造会社オーナー
駐自由都市同盟 連邦大使 (辞任申請中)
連邦政府財政顧問
【称号】
ファウンダーズ・クラウン・エグゼクティブ・プラチナム・ダイアモンド・アンバサダー信徒
【ステータス】
《LV》 27
《HP》 (2/4)
《MP》 (4/4)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 4
《精神》 7
《幸運》 1
《経験》 8億0959万5794ポイント
次のレベルまで残り972万3150ポイント
【スキル】
「複利」
※日利27%
下10桁切上
【所持金】
2兆2242億9190万ウェン
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有
※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有
【試供品在庫】
エナドリ 2100ℓ