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【転移57日目】 所持金1兆4912億9200万ウェン 「何も知らなかった。」

朝。

王国からのメッセンジャーがいきなり訪問して来る。



「コリンズ大使閣下。

この度は我が国を連邦大使館へ招聘して頂けた事に感謝致します!

閣下への訪問を最優先致しますので、是非共ご都合の良い日時をご指定下さい!」



一瞬、戸惑う。

昨日カインに任せた対王国パイプがもう完成したのか?

そう願ったのは俺だが…

いやいや、そもそもグランツ家は王国内の有力経済人である。

コネやツテを使って王国大使館に打診してくれたのかもな。



正直に、『スケジュール管理に関してはグランツ家に一任しております。』と回答すると、メッセンジャーは意図を汲んでくれたのか、最敬礼をして去って行った。

後はカインに任せよう。




==========================




結局。

その日はカイン・キーン両名からのメッセンジャーが矢継ぎ早に訪問するので、邸宅から出る事が出来なかった。



『どうしてこんなに活発なんだろう?』



と独り言を呟いてから、己の愚を悟る。

そう。

俺は2人に渡した工作費は1000億ウェンずつなのだ。

優秀な彼らのことである。

早速有効活用してくれているのだろう。



久々に母娘とメシでも食いに行こうと考えていたのだが断念する。

部分部分で俺が判断しなければならない事項が多すぎる。




今後、俺が対処すべき連絡系統は大きく分けて6本。



1、キーン系統  (不動産・自由都市内情報報告)

2、カイン系統  (金融・国際情勢報告)

3、ベーカー系統 (神殿管理、新規顧客応対)

4、グリーブ系統 (護衛団管理・対王国情報収集)

5、連邦使者   (連邦からの指示・嘆願・報告)

6、自由都市使者 (政治局からの各種問い合わせ)



これらを応対しているだけで、自分の時間は無くなるだろう。

加えて、ポールが気まぐれに遊びに来るしな。


もはや応接の合間時間をリハビリ運動で埋めるだけになってしまった。

どれか割愛出来る系統が無いか考えもしたのだが、全てが連動している事を悟り諦めた。




==========================




『コレット、ゴメン。』



「どうして謝るの?」



『いや、朝から来客の連続だからさ…

自分の時間とか無くなっちゃっただろう?』




不思議そうに母娘は顔を合わせる。


あ、そうか。

この2人はずっと宿屋業を続けてきたんだ。

この程度で泣き言を言ってる俺が情けないのか。



『宿屋って、やっぱり大変だった?』



「大変な時もあったけど。

でも、無いとお客さんが困るから。」




…だな。

宿屋が無ければ旅人が困るし、大使館が無ければ国が困る。

行きがかり上とは言え、役職に就いたからには真面目にやらなきゃな。




==========================




『ウェーバー局長。

本来なら私が政治局に赴くべきでしたが。』



「いえいえ!

何を仰っておられるのですか!


大使閣下からお声を掛けて下さるのは政治局にとって最高の栄誉です。

いつでもお呼びつけ下さい。


それに、コリンズ閣下はまだ御体調が万全でないのですから。

当然、私が駆け付けるべきですよ。」




『お気遣い痛み入ります。

極力、局長のお時間を奪ってしまわないように致しますので。

何卒、宜しくお願い致します。』




そりゃあ、ウェーバーも駆け付けるよな。

今の連邦の中で唯一話が通じるのが俺だもんな。

そして俺は連邦人でも何でもない。

加えて何の義理もない。

いや、むしろ貸ししかない。

別に大使館業務を放棄して、そこらをプラプラしていても文句を言われる筋合いはないのだ。




『簡潔に確認だけさせておいて下さい。


自由都市同盟の皆様の連邦への要望ですが。


1、対王国の防波堤として使いたい。

2、移民・難民は絶対に入れたくない。

3、首長国に手を出させたくない。

4、帝国を自陣営に引き込むための牽制の道具としたい。


この4点で合ってます?

私が読み違えをしていたら指摘して欲しいのです。』




「…。」




その後のウェーバーはかなり言葉を濁し、かつ相当婉曲な《独り言》を述べ始めた。

1と2は正解。

今後も防波堤として奮戦して欲しいと考えている。


問題は3。

首長国が自由都市と鉄の同盟を維持してくれているのは、野蛮国である連邦と長い国境線で接しているからである。

何らかの理由で連邦・首長国間の完全和平が成立してしまった場合。

今の同盟関係は維持してくれないかも知れない。


また4は更に微妙。

敵が多い帝国を完全に同陣営に迎えるデメリットは大きすぎる。

仮に、自由都市・首長国・帝国の三国同盟が成立してしまった場合。

北方に位置する王国・合衆国・共和国・公国も対抗同盟を結ぶ事が目に見えている。

そうして世界の南北対立構造が成立した場合、各国に保有している自由都市利権は真っ先に接収の対象となるだろう。


帝国は程よい距離のあるお客さんで居て欲しい。

少なくとも彼らの戦争ごっこに付き合わされる羽目にだけは陥ってはならない。




『以上のように、先程の独り言を私は解釈したのですが。』



「ん? 失礼? 何か仰いましたか?」



『…。』



「今日はコリンズ閣下の卓絶した分析力を拝見させて頂き

とても勉強になりました。」



『いえいえ。

私は分別の解らない小僧です。

今後共何卒局長の御指導に縋らせて下さい。』



「何を仰います。

私の心は閣下と同じですよ。」




仕事とはいえ俺みたいな若造をよく相手にしてくれるものだ。

聞けば、俺より年長の息子さんがおられるとのことである。





『そうそう。

知人から免罪符を頂いてしまって

手元に余らせているのですが、局長もお1つ如何ですか?』




「お心遣いありがとうございます。


ですが私は公僕です。

犯した罪があったとすれば、国家の裁きを受ける事で贖います。」




『失礼な事を申し上げてしまいましたね。

是非、これからも局長に学ばせて下さい。


私の心は局長と同じですよ。』





そうなんだよ。

俺は手元に合計1個もの免罪符を余らせている。





==========================



午後に神殿に向かう。

知人の葬儀があったからだ。



ルドルフ・フォン・アウグスブルグ。



彼がこの自由都市に留学していた際の学友達が、ここに集まって故人を偲ぶ会を催している。

部外者の俺が立ち入っていいものか、相当迷ったが勇気を出して参列を申し出る。



俺が連邦の現大使を兼任している事を告げると、一同の顔が強張る。

現体制の成立過程を知っていれば当然だ。

だが祈りを終えた俺が顔を上げると、何故か許容されていた。



掲げられた肖像画で初めて故人の顔を知る。

若い…  いや幼さすら感じる…

享年は21。

論文の筆致からもっと年長であることを想像していた。

俺とあまり変わらない歳じゃないか。



集まっていたのは政治学のゼミ生とその教授。

連邦との外交的軋轢を恐れた学園側から幾度も警告を受けたにもかかわらず、こうやって強行した。

地区内の全てのホールの使用を断られ、最後の最後に断腸の思いでベーカーを縋った。

まさか使用許可が下りるとは夢にも思っておらず、どちらかと言えば友を殺した連邦への抗議表明に近い申請だったらしい。



『御安心下さい。

連邦との外交問題には発展しません。

万が一、誤解が生じかねない状況に陥ったとしても

私が全責任をもって解決する事を約束します。』




いや、発展しないのだ。

自由都市人は誰も連邦に興味が無いし、連邦人は娼館以外の自由都市に興味がない。

それどころか連邦人は滅ぼし終わった家門にも関心がない。

やがてアウグスブルグの名は忘却の彼方に消え去るだろう。



俺は国土論を取り出し、ゼミ生一同に解説を乞うた。

幾つかの知識不足や法解釈の間違いを指摘して貰えて助かった。




「コリンズ大使…

ここまで読み込んで下さる方がおられるなんて思いもよりませんでした。

故人もきっと草葉の陰で喜んでいることでしょう。」




ルドルフ・フォン・アウグスブルグは、陽気で社交的、周囲に優しく慈悲深い男だったらしい。

「あれこそ貴族である」

学友たちにはそう評されていた。

特に立場の弱い者に手厚く、同じく異邦から留学してきた後輩達の面倒を献身的に見た。




「ルドルフ先輩とは、いつも国家の近代化について語り合っておりました。

先輩のように真摯で情に篤い方が家督を継いだら、そして要職に就かれたら。

きっと連邦も素晴らしい国になると僕らは信じていたんです。


《いつか新しい連邦が出来たら、是非遊びに来て欲しい》


それが先輩の口癖でした。

そして我々にとって最後の言葉でもあります。」




皆が落涙しながらルドルフの遺徳を称えた。

その後、思いもよらず教授から彼の遺稿を託される。



《もしも私が新しい連邦を築く事が出来たなら、これを卒業論文とさせて下さい》



去り際のルドルフは教授にそう宣言して去って行ったそうだ。

その時の表情があまりに晴れやか過ぎたので、教授は内心彼の前途を危惧したそうである。


まかり間違っても戦争を喜ぶ男では無かった。

兵が詭道である事を誰よりも知っていた。




特別講義という訳でもないのだが、教授から遺稿について手ほどきを受けた。

無学な俺をゼミ生達が親切に補助してくれた。




後から聞いた話だが、各所からのメッセンジャーは全てヒルダに報告を提出したそうである。

とてもではないが、俺に声を掛けられる雰囲気ではなかったらしい。



講義は、故人が見守る中で夜更けまで続いた。






俺は、何も知らなかった。

【名前】


リン・コリンズ




【職業】


エナジードリンク製造会社オーナー

駐自由都市同盟 連邦大使 (辞任申請中)

連邦政府財政顧問




【称号】


ファウンダーズ・クラウン・エグゼクティブ・プラチナム・ダイアモンド・アンバサダー信徒




【ステータス】


《LV》  27


《HP》  (3/4)

《MP》  (4/4)


《腕力》 1

《速度》 2

《器用》 2

《魔力》 2

《知性》 4

《精神》 7

《幸運》 1


《経験》 5億0195万0396ポイント


次のレベルまで残り3億1736万8548ポイント 




【スキル】


「複利」


※日利27%  

 下10桁切上





【所持金】


所持金1兆4912億9200万ウェン



※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有

※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有

※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有

※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有

※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有




【試供品在庫】


エリクサー 1651ℓ 

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやもう、なかなか好みの展開だなあと
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