【転移51日目】 所持金5790億7230万ウェン 「俺の家だけ自治会に入ってなかった話とかしたっけ?」
一言にハニートラップと言っても、目的は幾つかある。
1、殺害
2、脅迫による行動誘導
3、機密収集
4、親近感増大
カイン曰く、3と4こそが総合債券市場の副次的な運営目的だそうだ。
「或いはハニートラップが主目的で
債券云々はカモフラージュ装置に過ぎないのかも知れません。」
『世界中のVIPに《残業》させる事を目標にしているということですか?』
「そう捉えておくべきでしょう。
かなり大規模に展開しておりますね。
自由都市の国家事業くらいに考えておいて下さい。
女子職員全員が戦闘・金融・ハニートラップの訓練を受けております。
筋肉の付き方からして一般人からのスカウトではなく、婦人兵からスカウトされた人材群であると推測されます。」
「グランツ君。
何故、そう思ったの?
何かされた?」
「最初から向こうはコリンズさんを狙ってました。」
『え!?
俺ですか!?』
「当然でしょう。
貴方が我々全体のリーダーなのだから。」
『いや、俺は皆さんよりも年下ですし。
こんな身体ですし。
そもそも王国人ですらない。』
「諜報を仕掛ける側がそう判断したのです。
コリンズさんこそが最重要人物だとね。」
『…そうでしょうか?』
「それに私とキーン君の素性は自由都市側も把握済ですが
コリンズさんだけは不明なのです。」
『どうして俺だけが?』
「例えば私の場合ですが。
御存知の通り、グランツ家は父の代から金融業に携わってます。
つまり国際金融協会に早くから私も登録しています。
そして冒険者ギルドでも長く活動しておりました。
つまり両組織の記録を遡れば、私の活動履歴は簡単に割り出せてしまうのです。
当然、諜報機関であれば、履歴からプロファイリングを行うでしょう。」
「キーン家の場合はもっと把握し易いよね。
自国民なんだから。
それこそ虫歯の治療記録から小学校時代の作文まで
全てデータとして政府に握られていることでしょう。
翻ってコリンズさんはどうですか?」
『昨日で丁度50日目です。
王国に… 召喚されてから。』
「え?
…それ、私にも明言してしまっていいんですか?」
『俺の本名は遠市厘。
いえ、旧姓ですね。
コレットの面倒を見ると決めたから
今はリン・コリンズか…
地球と呼ばれる世界から俺は来ました。
…いや、違うな。
神聖教団によって同意なく王国に連行されて来て
無能を理由に即日王宮を追放されました。
本日で滞在51日目です。』
「一月半かぁ…
そりゃあ、履歴追えないわ。」
『俺、王国の公式記録に記載されていない可能性があります。
何度か同時に呼び出された連中の噂を耳にしたんですけど
総数が1名少なく数えられていたんです。
多分、俺は召喚者の総数から省かれています。』
「教団はとにかく自らの過ちを認めない組織だからね。
即日追放しなければならない人材を呼び出してしまった…
などとは絶対に認めないだろうねえ。
特に召喚担当者は確実に隠蔽するだろう。」
「じゃあ、コリンズさんは
王国の公式記録から抹消された上に、すぐに養子に入って
その後すぐに出国して、連邦戸籍を取得しつつ
駐自由都市大使になった訳だ…
その間51日。
こんなの履歴を追跡する方が無理だよ。
諜報のプロなら逆にわからなくなると思う。」
「話を戻しますね。
だから自由都市政府は貴方を恐れている。
食事中のハニートラップも完全に貴方1人を狙っていた。」
『そうなんですか!?』
「ああ、私は気付いていたよ。
ウェイトレス達は、グランツ君や私に接近する時もずっと横目でコリンズさんを観察していたからね。
てっきり一番裕福なコリンズさんを狙っていたのかと思っていた。」
『いや、そうでしょうか?
ちょっとそこら辺が分からなくて。』
確かにウェイトレスは美人揃いだった。
誘惑的な態度だったが、それはそういう仕事だからかと思っていた。
「ねえ、コリンズさん。
貴方は商売女が嫌いでしょう?」
『え? いや…
まあ、あまり。』
「失礼、友人の価値観を非難する気はないんです。
王国にも娼婦を嫌っている人間は少なくはないですしね。
…ただ、コリンズさんは女性を商売女として判定する範囲が広い。
一般な女子従業員のリップサービスにも抵抗があるように見受けられます。
あのウェイトレス達のこと、話しているうちに徐々に嫌悪感が沸いてませんでした?
我々2人に気を遣って楽しんでいる体を取って下さってましたけど。」
『いや…
最初は勉強熱心だと感心していたのですが…
徐々に女を前面に出すような言動が増えてきて…
今思えば、少し不快感を感じていたかも知れません。
まあ、女性は売春してないって確信出来る女性が好みです。』
「私が《残業》を頼んだウェイトレスは2人です。
その両方が雑談混じりに、貴方の性癖を尋ねてきた。
キーン君の性癖は聞かれなかった。」
『俺に探りを入れてきた、と?』
「貴方の性癖を尋ねる時。
ウェイトレスの脈拍が異常なまでに正常に戻りました。
他の話題の時は、少し緊張や興奮が混じっていたにも関わらずです。
私が寝た2人共ですよ?
これは諜報の訓練を受けてしまった人間に共通する弱点です。
本命の情報を探る時に、無意識的に動揺を抑制してしまう。
断言します。
自由都市同盟は貴方を最重要監視対象として捉えている。
これまでの経歴と、現在の肩書を考慮すれば妥当な線ですが…
それ以上の脅威度の相手として政府当局は捉えてます。」
…まあ、俺って入国の経緯からして怪しいしな。
逆に何で国境を跨がせてしまったのか不思議なくらいだ。
『…何故、俺は殺されないのですか?』
「まだ貴方が殺されていない理由がきっとあるのでしょう。」
そりゃあ、そうだよな。
俺だって理由があれば生かしておく。
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カインの予想。
次は年端もいかない少女を使ったハニートラップがある。
理由は俺の妻であるコレットが、まだ幼いとも言える年齢だからだ。
早い話が、俺をロリコンであると自由都市が判断した場合
何らかのルートで美幼女を送り込んで来る可能性が高い。
その者が自覚的か否かに関わらず、次弾は十中八九その手である、と。
「その場合、目的は篭絡ではなく調査でしょうね。」
『外交官特権でハニートラップを免除して貰えませんか?』
「普通、ハニトラってまず外交官が標的にされるものだからねえ。」
この能力を知られたら間違いなく消されるだろうな。
何故なら、自由都市の国力の源泉は圧倒的な経済力だからである。
だが、俺の【複利】は簡単に彼らの前提を覆してしまう。
自由都市ならずとも、普通は殺すだろう。
少なくとも俺なら必ずそうする。
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そうそう。
収穫祭は神殿で開催されることになった。
スペース代金は取らない。
朝一番。
ベーカー課長が連れて来たお姉様&ママ友軍団に俺がそう宣言したからだ。
慌てた課長が思いとどまる様に耳打ちして来たが…
これは俺が昔からやってみたかった事なので、譲るつもりはない。
「コリンズ社長!
お言葉ですが、これはマズいですよ!
姉は口が軽いんです!
きっとすぐに言い触らされてしまいます!」
うん、顔を見ればわかる。
課長のお姉様はいかにも粗忽・軽率・無思慮・無遠慮・厚顔・貪婪な顔付をしている。
虚栄心の塊で人に対して執拗に感謝を要求する癖に自分はそうしないタイプの人種だ。
きっと己の手柄のような顔をして「ここの神殿はただでイベント利用出来るのよ!」と吹聴して回るだろう。
俺は誰よりもこの手の女を知っている。
だから、今ならコイツらの使い道がよくわかる。
『まあまあ。
いいじゃないですか。
昔の人は村中総出で豊穣祭を祝ったんでしょう?
昨日教わりましたが、祭りで出会った同士が恋人や友人になるケースが多々あったそうです。
豊穣が結束を産み、そして結束が明日の豊穣を産む。
こんな素敵なサイクルに貢献出来るなら嬉しい限りですよ。』
「しかし、祭りとなれば周辺に大量のゴミが出ます。
その清掃費だけでも馬鹿にならないから、皆さん高額のスペース使用料を請求されるわけで…」
『その時は御社に発注させて下さい。
課長の営業実績にでもして貰えると幸いです。』
「いや!
無論、弊社としてはありがたい話ですよ?
ですが、それではコリンズさんの持ち出しになってしまう!
貴方に何のメリットがあるんですか?」
『うーーーーーん。
こうやって皆さんにお気遣い頂いている時点で
既にメリットを享受している気もしますね。
ほら、俺ってこんな身体になっちゃったでしょう?
だから、ようやく分かって来たんです。
今まで自分1人で生きて来たように錯覚していたけど
俺、皆さんや社会に生かして貰ってたんだなって。
すみません、まだ上手く言語化出来ません。
でも、これで皆さんが祭りを楽しんで下さるなら、俺も嬉しいです!』
「…ご厚情に感謝しております。
そして、この先《何か》が必要になれば、是非共お声掛け下さい。
御存知の通り、私は甲斐性のない賃金労働者です。
だからこそ、コリンズ社長のお役に立てる部分もあります。
貴方の代わりの脚として使って貰いたい。」
課長のお姉様は余程図々しいのか、他地区のママ友(初対面)まで引き連れてきた。
揃いも揃って馴れ馴れしい雰囲気を醸し出している。
「聞いたわよー。 ここってタダでイベントやらせてくれるんでしょ!」
結局、豊穣祭の他にも色々な祭事がここで開催される事が決定した。
・4家の先祖供養式
・戦争未亡人合同慰霊祭
・帝国精霊祭
・「兵士の母の会」による武運長久祈願式
・チェルネンコ家命日集会
・古代神楽演奏会
俺に事務処理能力が無いので、ベーカー課長がスケジュール表を管理してくれることになった。
明らかに労働量が多そうなので報酬の支払いを申し出たが、頑として受け取ってくれない。
ねえ、ベーカーさん。
貴方は自分を《甲斐性が無い》って言ったけど、それは違うよ。
ただ矜持を持っているだけなんだよ。
「コリンズ社長。
恐らくこの神殿のスケジュールはすぐに埋まります。
自由都市中の人間がここに集うようになるでしょう。
私はその流れを整理すれば良いのですね?」
『正式に発注させて頂けませんか?
相手は御社でも貴方個人でも構わない。
この場所を快適・安全に運営したいんです。
それも、世界で一番にしたい。
とりあえず50億ウェンをこの為の予算として計上します。』
「…50億は法外な価格だと思いますが。
要はその規模の都市プロジェクトだと思って取り組めば良いのですね?
キーン社長も交えて弊社の社長と相談されてみませんか?
職業柄、インフラの整備運営ではかなり力になれると思います。」
『わかりました。
こちらでキーン家に話を通しておきますので、課長から御社社長にこの案件の打診をお願いします。
車椅子が通れる場所ならどこでも駆け付けますので。』
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昔さあ。
俺の家だけ自治会に入ってなかった話とかしたっけ?
近所でお祭りが出てたんだよ。
祭りと言っても地区が主催するささやかなものだ。
寺だか神社でやってたんだじゃないかな?
仕事から帰って来た父さんがずっと留守番していた俺を連れて行ってくれたんだ。
会場に着くまでの俺は大はしゃぎだったよ。
ウチ、貧乏だったからさ。
遊びに連れて行って貰った記憶殆どなくてさ。
その祭りの事も、俺が泣いて駄々をこねたから父さんが何とか時間を作ってくれたんだろうな。
今思えば、疲れてた中でずいぶん無理をしてくれた。
リンゴ飴ってあるじゃん?
あれがどうしても食べてみたかったんだ。
同じ小学校の奴らが皆買って貰ってたからさ。
羨ましかったんだ。
俺も父さんに買って貰いたかった。
それで一言「美味しい」と感謝を伝えたかった。
結局、食べずじまいになったけどな。
《1160億ウェンの配当が支払われました。》
…本当に楽しみにしてたんだぜ。
ただ、皆と同じ幸せを味わってみたかっただけなんだ。
父さん。
あんなに憎んだ祭りをここで開くよ。
あの時は守ってやれなくてゴメンな。
【名前】
リン・コリンズ
【職業】
駐自由都市同盟 連邦大使 (辞任申請中)
連邦政府財政顧問
【称号】
ファウンダーズ・クラウン・エグゼクティブ・プラチナム・ダイアモンド・アンバサダー信徒
【ステータス】
《LV》 25
《HP》 (2/4)
《MP》 (4/4)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 6
《幸運》 1
《経験》 1億2847万5147ポイント
次のレベルまで残り8128万8917ポイント
【スキル】
「複利」
※日利25%
下9桁切上
【所持金】
5790億7230万ウェン
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
【常備薬】
エリクサー 720ℓ