【転移44日目】 所持金1505億ウェン 「ナードというのは地球でも異世界でも似たような表情をしている。」
恐らく日付は変わっている。
今後の為にも睡眠を取って体力を回復させなければならないのだが…
見知らぬ天井相手に目も意識も閉じるのは困難である。
《自由都市同盟 北部第一検問所 特別拘留室》
俺は1人ここで拘留されている。
発見された金額を鑑みれば妥当な措置だろう。
自由都市には数十億ウェン程度を持って入国する予定だった。
現にキャラバンを出発した当日は20億強しか手元に無かった記憶がある。
だが、結構散財したつもりでもあるにかかわらず、現在の手持ちは1200億ウェンにまで膨れ上がってしまった。
恐らく俺が居た王国でも、ここまでの資産家は存在しなかった筈である。
(存在したとしても、とっくに没収されたかその前に亡命しているに決まっている。)
身柄を拘留されている以上、俺に出来る事はない。
そもそも相変わらずの下半身不随状態である。
左手の握力も戻ってはくれない。
『ハア! ハア! ハア!』
今、俺は芋虫の様に這い蹲って便所に向かっている。
ベッドとトイレの間には微妙に段差があり、上手く乗り越えられずに苦労している。
左腕を庇って右腕ばかりを使っている所為か、妙に右腕が痛む。
『ガァッ!!』
突如、俺を支えてくれていた右腕に激痛が走り、バランスを失って頭から石壁にぶつかってしまう。
部屋が暗いのでよく分からないが、顔面を血が流れてる感触がある。
恐らくは眉間が割れてしまったのだろう。
朦朧とする意識の中で俺はようやく、右腕の腱鞘炎が癖になっている事を思い出す。
せめて気絶出来れば眠れるのだが、激しい痛みと湧き上がる思考がそれをさせてくれない。
なので、俺は便所の前で不様に呻き続けていた。
小便を漏らしているかも知れない。
幸いにしてまだ漏らしていないのかも知れない。
そんな事が解らない位に下半身の感覚はない。
逆に上半身は各箇所が激痛を訴えている。
どうやら俺はとことん不器用に出来ているらしい。
《不器用》というフレーズが頭に浮かんだと同時に、地球の事を思い出す。
そう言えば不器用な事を級友によく笑われていた。
深く根に持っていて、皆を一方的に嫌っていた気がする。
嫌悪だけが記憶に残っていたせいか。
その不器用を晒した場面場面で、周囲に助けられていた事を今の今まで忘れていた。
何故、そんな大切な事を忘れていたのか分からない。
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突如、慌てた解錠音が聞こえて、幾人かの職員が入って来た。
一瞬、殺されるのかと身構えたが、それは杞憂で俺の転倒を知って救護に来たらしい。
当然、この部屋モニターされていたのだろうし、されてなくてはおかしい。
何人かの職員が早口で何事かを詫び、医療スタッフが交互に叫んでいる。
《せめて耳元では静かにしてくれないかな》
言葉に出したのか、思っただけなのかまでは覚えていない。
大して心地良くもない喧噪の中で、俺はようやく眠りにありつけた。
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《272億ウェンの配当が支払われました。》
聞き慣れたアナウンス音で目が覚める。
もしもこのスキルの効果が永遠だとしたら、俺は一生夕方過ぎまで昼寝出来ないな。
「コリンズ氏が意識を取り戻されました!」
今、叫んだのは医者だろうか?
白衣を着ていた訳でも額帯鏡を巻いていた訳でもないのだが、神経質そうな顔つきだったので医者だと思った。
ナードというのは地球でも異世界でも似たような表情をしている。
「私の声は聞こえますか?」
必死な形相の医者が俺に呼び掛ける。
俺かな? 俺に呼び掛けてるのかな?
「コリンズさん! 私の声がわかりますか!?」
コリンズ… あ、そうか。
養子になったら苗字が変わるんだった。
確か旧姓を名乗り続けると養子先と仲が悪くなるんだったな。
「念のため呼吸器持ってきて!!
支局長はまだなのか!?」
そうだよな。
俺が外で『苗字は遠市です』なんて言ってたら、コレットが泣くかもしれないな。
散々苦労を掛けた。
この旅では怖い目にも危ない目にも遭わせてしまった。
ずっと介護もしてくれて…
もう、頭が上がらないなww
「コリンズさん!!
返事は出来ますか!?」
…。
『…いえ、はい。
私がコリンズです。』
周囲から起こったどよめきに驚いた俺が見渡すと、そこには大量の医療スタッフや制服姿の職員が居た。
よくわからんが、その1点で自由都市の高い国力は十分に理解出来た。
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事情聴取の続きは、目が覚めたこの医務室で行われることになった。
マッカートニーは応接室を勧めてくれたが、俺が『あまり動きたくない』と駄々をこねたのだ。
今の容体で頻繁に移動させられるのは本心から恐ろしいし、医務室の中なら体調が悪化してしまう事になってもすぐに治療を受けられるからである。
「結論から申し上げます。
コリンズ社長の入国は承認されました。
いえ、承認はされていないのですが
入国管理法上、申請を却下する権限が当局には与えられていないのです。」
頭を打ったせいなのだろうか?
マッカートニーの説明がさっぱり理解出来ない。
『えっと。
帰った方がいいですか?』
帰る、どこへ?
「いえ。
閣僚の方の出入国に関しては、我々入国管理局が関与出来ないのです。
以降、コリンズ社長の応対は政治局に引き継ぎをさせて頂きます。」
閣僚? 政治局? 何だ? 何が起こっている?
「貴方はリン・トイチ・コリンズ氏で間違いありませんよね?」
『あ、はい。』
「先日、連邦政府の新体制において財政顧問に就任されておられますね?」
『いや、流石にそれは誤報ではありませんか?
そもそも連邦には数日滞在しただけですよ?
顧問云々は記憶にありません。
何かの間違いではありませんか?』
「先の連邦の内戦ですが、我々レベルにも情報は下りて来ております。
《劣勢であったミュラー・ハウザー連合に何者かが巨額の軍事支援を行い戦局を逆転させた》
という情報がです。」
『…。』
「身に覚えはありますね?」
『多少は。』
「貴方がコリンズ財政顧問で間違いありませんね?
先日は金融業を営んでおられると仰られましたが…
その実体は民間軍事会社ですね?」
『私は金融業のつもりでおりました。』
「連邦内の戦闘において多数の王国人兵士が目撃されている、との報告が上がって来ております。
…御社の職員ですね?」
『目撃情報の中に、私のボディーガードも含まれてるかも知れません。』
「もう一度質問させて下さい。
…貴方がコリンズ財政顧問で間違いありませんね?」
『如何なる公職にも就いた覚えもありませんが
連邦の皆さんであれば、同意なく閣僚名簿に他人様の名前を記すくらいの事はするでしょう。』
「…他国の国情に関しては、立場上ノーコメントとさせて下さい。
コリンズ社長。
経緯はどうあれ連邦の閣僚名簿に名を連ねている以上、我が国は貴方をそう待遇しますよ?」
『少し待って下さい。
仮に本当に任命されていたとしても。
ここ数日の話ですよ?』
「…コリンズ社長は。
我が国の閣僚が就任間もないからといって、これを軽んじますか?」
『…その様な無礼な真似は致しません。 出来る訳がない。』
「そういうことです。
本日は遅い上に、お怪我もさせてしまった。
一旦宿泊をお願いさせて下さい。
明日、政治局の者が参ります。
その者が社長を国内に正式にお招きすることになります。
我々は治療に専念させて下さい。」
VIP用の応接フロアを勧められるも、動く気力が湧かなかったので
家族だけを泊まらせるように嘆願した。
そして護衛団への厚遇もである。
恐らくはマニュアル外の要望だった事は職員達の反応で理解出来たが、それでも要望を呑んでくれた。
断じて俺の権力・財力の賜物ではない。
謹直な法令順守姿勢の中でも、それでも何とか人間的な対応を探り続ける…
そんな国風なのである。
【名前】
リン・トイチ・コリンズ
【職業】
連邦政府財政顧問
【称号】
ファウンダーズ・クラウン・エグゼクティブ・プラチナム・ダイアモンド・アンバサダー信徒
【ステータス】
《LV》 22
《HP》 (1/4)
《MP》 (4/4)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 5
《幸運》 1
《経験》 2944万3571ポイント
次のレベルまで残り485万8633ポイント
【スキル】
「複利」
※日利22%
下8桁切上
【所持金】
所持金1505億ウェン
※カイン・R・グランツから14億ウェンを日利2%で借用
※ドナルド・キーンから82億ウェンを日利2%で借用
(両名共に配当受取拒絶中)
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
【常備薬】
エリクサー 281ℓ
【コリンズキャラバン移動計画】
「20日目」
中継都市ヒルズタウン (宿が込んでた。)
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侯爵城下町 (風光明媚な土地だったらしい)
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大草原 (遊牧民を買収した。)
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教団自治区 (10億ウェンカツアゲされた)
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王国天領 (プロポーズした。)
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伯爵城下町 (落ち武者狩りの駄賃で通行)
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諸貴族領混在地 (5億ウェンで伯爵領購入交渉中)
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王国軍都 (護衛団フルチューン)
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王国側国境検問所 (秋の愛国フェアに参加)
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非武装中立地帯 (死んだ。)
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連邦or首長国検問所 (連邦ルート選択)
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連邦アウグスブルグ侯爵領 (養母無双)
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連邦〇△ブルグ?爵領城下町 (寝てたら勝ってた)
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連邦ライナー侯爵領 (娼婦師団)
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連邦首都フライハイト (「国土論」を受領)
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自由都市側検問所 ←今ココ
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自由都市(連邦領経由なら7日、首長国経由なら5日の計算)