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【転移42日目】 所持金1010億ウェン 「俺は君達の空しか知らない。」

俺はゲーム脳なのかも知れない。

エリクサーを処方すれば、どんな怪我でも病気でも瞬時に全快するものだと思っていた。


が、周囲に聞くとそんな甘い話ではないらしい。

せいぜい数十日を掛けて、切り落とされた四肢が生えたり、潰れた内臓が再生したり、感染症への免疫が確実に付いたり、痴呆症が治ったり。

その程度のもの、とのこと。

なので、ようやく寝床から何とか上半身を起せるようになった。


左手の握力が致命的に落ちている上に、下半身の感覚が殆どない。

なあ、エリクサーって完全回復するんだよな?

確か100億ウェンだろ?

また歩けるようになるよな?

もしもこのままだったら、俺もカイン同様に錬金術反対派に回るからな?



ただ、完治への希望が無い訳ではない。


王国の検問所でリンチされて瀕死だった遊牧民。

彼は完全回復を遂げた。

先日、庇護への謝礼を述べられた。


この世界で直接遊牧民を見たのは初めてだったのだが

髪色は独特の赤茶色で口と鼻が大きい。

《マキンバ》と云う彼の名も、この旅では全く耳にしなかった語感である。

異世界に来て1ヶ月強の俺ですら、定住民から見た彼が完全に異民族として映る事を認識出来た。


出身の関係から馬術に秀でている彼は自ら警護を申し入れてくれ、今はキャラバン周辺を哨戒してくれている。

グリーブ曰く、「目と勘が良いので斥候役としてありがたい」とのこと。

多少のリップサービスも含まれているのだろうが、謹直なプロである彼が作業を任せている時点で一定水準には達しているのだろう。



「もうマキンバ君でいいでしょう?」



カインの台詞は、王国での子爵領売買案件に関してである。



「コリンズさん。

養子相手さえ用意すればですよ?

5億ウェンで子爵領が買えてしまう話です。

貴方は王国には帰るつもりが無いんですよね?」



『ちょっと嫌な目に遭い過ぎたので…

自由都市でよほど不快な対応をされない限りは…


まあ子爵領を買うって言っても。

実験的なものなので、あんまり深くコミットしたくないんですよね。

爵位って軍役とセットなんでしょ?


あくまで、俺の名前は出さない形で処理したいですね。』



「マキンバ君は使い勝手がいい若者だと思います。

遊牧民という人種が白眼視されている所為でしょうか。

他人種から形を伴った温情を受けたのは初めてみたいですね。

なので、貴方に対して非常に恩を感じている。

ダグラスを使って居留地の遊牧民に小さな案件を振ってやってるのも心証いいみたいで。


私にとって5億は大金ですが、コリンズさんにとってそこまででも無いのであれば、彼で実験しては如何でしょうか?」




基本的にカインの進言は無条件に受け入れると決めている。

この男がそれだけプッシュすると言う事は、子爵領の件はマキンバ継承路線で進めるのが正しいのだろう。



『わかりました。

後はダグラスさんを交えて彼に打診してみます。


後、そろそろ配当受け取って下さいよw

それこそ5億ウェンくらい溜まってる筈ですよ。』



「貴方が完治したら受け取ってあげますw」



『…治るんですかねぇ?』



「まだ若いんから大丈夫です。

マキンバ君だって陥没していた頭蓋骨が元に戻ったんですよ?

現にコリンズさんだって身を起せるようになったじゃないですか?」



『まあ、完全な寝たきりよりかはマシですかねえ。』




==========================



突如、幌の外で歓声が上がる。

大半が傭兵の声で、娼婦はそこまで熱心に喜んでない。

つまり、何らかの大きな戦果が上がったのだろう。


しばらくしてダグラスから、最後の残敵であるライプチヒ伯爵との会戦に勝利し、伯爵の主だった家臣や一門衆を討ち取った事を聞かされる。

会戦と言っても、《ミュラー軍2万VS敵軍150》位の兵力差であり、文字通りに数の暴力で圧殺しただけだったらしい。

伯爵は数名の近習と馬を捨てて山に逃げ込んだらしく、現在大規模な山狩りが行われていること。

居城に残っていた伯爵の家族は妊婦・幼児も含めて惨殺済み。

一両日中には族滅が完遂されるそうだ。




「リン。

全ての障害を排除する事に成功しました。

自由都市への移動ルート上に残っているのはミュラー派のハウザー侯爵領のみとなりました。」




ヒルダの声が少し枯れている。

娼婦相手に演説でもしていたのだろうか?

この女ならさもありなんである。 




「後金を約束した傭兵団は計76団体。

最低でも76億ウェンを支払う義務があります。

現在の軍事費は残金9億ウェンです。」




『わかった。

夕方を過ぎたら100億ウェンを追加する。

それで足りる?』




「はい。

問題なく運用しておきます。

残金は自由都市到着後、家計に戻す形で良いですか?」




『うん。

ゴメン、全部ヒルダに任せちゃって。』




「こちらこそ出過ぎた真似をしているとは思います。」




《そんな事ないよ》、と反射的に言おうとして言えない。

…まあ、ヒルダの謀略はキルレシオ高過ぎるよね。




==========================




しばらくして、ミュラー侯爵が車内に突然入って来る。



「おう、くたばり損ない少年。

まだ生きとるか?」



『ようやく身を起せるようになりました。

ご戦勝おめでとうございます。』



「…あ、いや。

殆ど君のお母上の手柄みたいなモンだし。

ってか、今回の軍資金、ほぼ全部君から出とるし。

ワシの中でこれ、自分が主体の戦争にカウントされとらんから。」



『あー、俺はずっと寝てたので

そこら辺の微妙な感覚が解らないんです。

今どこを走行しているのかも聞かされてませんし。』



「おー、ゴメンゴメン。

ここはライプチヒ領から近い連邦の首都。

首都って言っても議場やら役所があるだけだけど。」


去年まで冒険者ギルドもあったけど潰れちゃった。」



『冒険者ギルドが潰れた?』



ラノベとか読む限り、ああいう組織って潰す方が逆に難しい気もするんだが。



「うん、ギルド長が資金を持ち逃げしたんじゃよ。

今頃は愛人と一緒に首長国か自由都市辺りに潜伏しとるんじゃないかな?」



『あー、持ち逃げですか。』



「元から財政難だった所為もあるけど。

カネが無くなったらね。

債務が残ったままだから、誰も支援しないし。

あれが無いと困るんだよね。」



『その…

侯爵閣下は戦争の勝者なのですから

買い上げてしまえば如何でしょうか?』



「そんなカネはない。」



『殆どの諸侯を滅ぼしたと聞いておりますが。』



「うん、楽しかった。

でもカネ無いから。」



こんなキチガイ爺さんと戦争をさせられた連中は災難以外の何物でも無いな。



「あ、ハウザーの奴ならワシよりカネを持っとるんじゃない?」



『ああ、確か今回の戦争で唯一味方をして下さったようですね。』



「味方?

いや、単なる敵の敵だけど?」



『なるほど。』



「まあワシもアイツも嫌われ者だから。

大会議の日とか消去法的に話し相手しとっただけだしな。」



ハウザー卿も癖がありそうな人物だよな。



「取り敢えず、みんなが議場に来いって五月蠅いから顔を出して来るわ。

ハウザーの奴も来るんじゃないかな?

よし、キミも来なさい。」



『…いや、私はこの身体ですので。』




ハッキリ言葉に出して断ったのに、ヒルダが顎でしゃくって護衛団達に指示を出す。

俺を乗せた戸板は議場に向かう。




==========================




「おーう、ハウザー君

ごぶさたーー。」



「ちわーーーっす。

先輩こそ今回はお疲れ様でしたー。」




後から聞いたところによると、ハウザー卿は59歳。

概ねミュラーと同世代。

長く苦しい対王国戦争を生き抜いた猛者である。

周囲からはミュラー派だと目されていたようだが、本人にその自覚は乏しい。

ただ、修学旅行の班割がそうである様に、嫌われ者同士で組まされる機会が非常に多かったそうだ。


無神経で大雑把、無教養で好戦的な人物との前評判を聞いて警戒していたのだが、実物はもっとアレだった。




「息子さん討ち死にしたんだって?

ご愁傷さま言っとくね。」



「死んだと言っても下から2番目ですしねー。

そんなに気を遣わなくて大丈夫っすよー。


あの先輩。

こちらは?」



「あー、忘れとった!

こちら、今回の大功労者のコリンズ君。」



「おお!!!

キミが噂のコリンズ君かね!?

色々聞いとるよー。


って

名誉の瀕死状態じゃん!?


先輩から聞いとると思うけど。

ワシ、ハウザー。

よろしくー。」




『この様な体勢で申し訳御座いません。

リン・コリンズと申します。』



「噂じゃ、この辺りの傭兵団を全部シメちまった猛者だって聞いてたけど…

ねえキミ大丈夫?

なんか死に掛けのコオロギみたいな顔色しとるよ?」



『あ、いえ。

私は対価を支払って皆さんを雇用しただけなので。

取りまとめはケルヒャー隊長にお願いしておりますし。』



「おお、ケルヒャーなあ。

アイツも偉くなったよなあ。

まあ、宜しく言っといて。

向こうはワシの事嫌いだと思うけど。」



『そうなんですか?』



「若い頃、戦場でさあ。

ワシの作戦に一々口を挟んで来るから

ムカついてボコったことあるんだわ。

まあ、概ねアイツの読みが正しかったんだけどな。

優秀な男だよ。


今回もアイツ、頑張ったんだろ?

ワシが労ってたって伝えといて。」



『はい、責任をもって伝達します!』




==========================



議場と言うから政治的な会議をすると思っていたのだが。

「誰が強い」とか「どの騎士が見込みある」とか

2人の老人は、そういう工業高校のDQNみたいな会話しかしてなかった。



「あ、そうだ。

上の息子に言われとったんだ。


先輩、これからどうします?」



「え?  どうとは?」



「ワシら以外の評議員が死んじゃったじゃないっすか?

上の子が《これからどうするのかちゃんと決めて来てくれ》って五月蠅くて。

一応、主席議員くらいは決めとかなきゃ。」



「マインツ君にでもやらせればいいんじゃね?」



「あ、スンマセン。

マインツは殺しました。

ワシに挨拶無かったんで。」



あ、さっきヒルダからの報告にあった

マインツ城落城って、そのことか。

確か一族郎党が悉く城を枕に討ち死にしたって…




「えーー、マジかー。

あーーーーーーー。

ワシ、漠然とアイツに色々押し付けるつもりだったんよ。」



「あーーー、先輩。

スンマセンです。」



「まあ、死んじゃったもんは仕方ないね。

じゃあ、悪いけどハウザー君が主席やってよ。」



「えーーー、ワシっすか?

あんまり興味ないんですよね。

年齢的には先輩が主席やるべきでしょ?」



「ゴメン、ワシ全然興味ない。

アウグスんとこの息子とか、ライナーさんトコの当代とかは熱心だったんだけどな。」



「誰か生かしておけば良かったっすね。」



「君のトコの上の子はどうなん?」



「アイツ、嫁が帝国だから。」



「あー、そういや前に揉めとったな。

じゃあ上から2番目は?」



「2番目はちょっと病弱なんすよー。」



「じゃあ、3番目は…」



「この前死にました。」



「4番目は?」



「無難っすね。

でも、アイツまだハタチっすよ?」



「いや、もう考えるのメンドイし

4番の子でええわ。」



「じゃあ、後で先輩のトコに挨拶に行かせますわ。」



「ごめんねー。

それじゃあ頼むわ。」



…雑。

末期の中小企業みたいに雑。

そりゃあ、トップ層がこんなんじゃ連邦が貧しいのは理解出来るわ。

国家の体を成していないどころか、もはや文明人の要件すら満たしていない…




==========================



結局、ハウザー卿の4男が主席職に就任する事が口約束で決定する。

自動的にハウザー侯爵家の後継者は4男氏に決定する。

暗黙の了解として、4が上2人を粛正すれば継承は確定、上2人が4の殺害に成功すれば継承選考はやり直しになるらしい。

あまりの野蛮さに聞いているだけで疲れて来る。

だが、この蛮性を備えているからこそ最貧国である連邦が周辺の列強と渡り合えているのだろう。



「あ、先輩。

今回の恩賞とかどうします?」




「えーっと。

今までそういうのライプチヒの奴に考えさせてたからな。

アイツどうしてたんだろ?」



「メモかなんか持ってたんじゃないんすか?」



「ああ、いつも熱心に手帳をめくっとったね。

城が燃えたから、一緒に焼けちゃったんじゃない?」




信じがたい事だが、連邦はこの数日の内戦で政治的に有用な諸侯を全員失ってしまった。

本来、勝者がその穴を埋めなくてはならないのだが、この2諸侯には政治的な意欲も能力も無い。

俺を脅迫したルドルフ・フォン・アウグスブルグ氏は軽率な点もあったが、有力司教とコネを持つなど一定の政治性は持ち合わせていた。

俺の眼前の老人はさっきから「誰が強い」の話だけを延々と繰り広げている。

世も末である。



「あ、コリンズ君。

今、ちょっといい?」



思い出したようにハウザー卿が俺を覗き込んで来る。



「君さー。

相当な切れ者だって聞いてるんだけどさー。

あんまり手間を掛けずに事態を収拾する方法って知ってるー?


上の息子がさー。

センショーセキニンがどーだとかゴチャゴチャ五月蠅いのよ。」



『…政治は素人なのですが。

ミュラー侯爵の税率を「よしっ! それで行こう!!」



聞けよ、ジジー!!!




「後で息子をコリンズ君の馬車に行かせるわ。

色々指導してやって。


んじゃ、ワシは女の家に居るから。」



『いやいやいや!!

ハウザー閣下!!

ちゃんと占領統治を行って下さいよ!?』



「え?

ワシ、減った分を補充しなきゃだから。」




そう言い捨てるとハウザー侯爵は兵を纏めて勝手に自領に帰って行った。

連邦首都の各所で火の手が上がっていたが、彼はそれについて特に感慨は持っていないようだった。

(ちなみに、ミュラーや俺にとっても同様である。)



それから小一時間、頭を振り絞って考え続けて

《減った分を補充しなきゃ》の意味をようやく理解した。

息子が戦死したので、セックスする事で代替を用意するつもりなのだ。



…認めたくはないが動物として正しい。

敵は皆殺し、命は消耗品、面倒事には興味すら持たない。

現代社会に育った人間として反感は勿論感じる。

だが、ミュラーやハウザーの生き方こそがオスとしての正当である事を本能的に察知してしまう。


だがあの生き方を真似ようとも真似れるとも思わない。

あの2人は修羅道上の奇跡に過ぎないし、明日滅んでも不思議ではない存在だからである。




《210億ウェンの配当が支払われました。》




響いたアナウンスはもはや知覚不能な金額を告げている。

だからこそ再認識する。

それでも、俺の能力は、あの2人に通用しない。


いや時間を掛ければ通じるのだが、あの2人の無思慮な狂暴さから身を護るだけの時間が稼げない。

世の中にはノリで相手を族滅するような野蛮人も確かに実在するのだ。

(繰り返すが生物としてはあちらが正しい。)

やり方次第では完勝もあり得るが、そもそも彼らは生死勝敗に無頓着である。

俺達人間のような小賢しいステージに最初から居ないのである。



俺の【複利】は、彼らの対極にある能力であるからこそ、彼らを内包しなければならない。

社会が人間の為にある以上、資本には人間と共存する義務があるからである。




==========================



【所持金】


1000億ウェン

  ↓

1210億ウェン



※210億ウェンの配当を受け取り。



==========================




「あ! コリンズ君ゴメン!

ワシ忘れとった!!!」



『は、はい!?』



「君の恩賞どうしよう?

ハウザーの奴とその相談をするつもりだったのに!」



『あ、いえ。

お気遣い感謝しますが…』



「今回の戦争。

当然、君が一番手柄だから。

何か受け取って貰わなきゃ困るよ!」



『いえ、その。

私はずっと寝ていただけでして…

手柄も何も、連邦の事情すら把握出来ていないのです。

私はずっと荷馬車のなかでしたし、たまに移送される時も殆ど真上を向かされてました。』




そう、俺は君達の空しか知らない。

殆ど視界にすら入っていない国から何かを貰う謂われがない。

そもそも、俺は君達にあまり興味がないのだ。




「じゃあ女でも持って行くか?」



『あ、いえ。

私は婿養子の身でして…

妻妾を増やすにしても、どのみち妻や養母を通す事になるので。』



「あー、君のカーチャン怖いもんなあ。

このタイミングで増やそうとしたら、多分キミ殺されるなぁ。


他に何か欲しいものある?」



『あーーー。

私、異世界から王国に無理矢理召喚されてきたんです。

帰る方法があれば、と思いまして。』



「ほーん、それで不細工な顔しとるんだ。

どうりでこの辺じゃ見掛けない顔付だと思ったー。」



…このジジイ、デリカシーってモンがないのか?



「召喚術は知っとるよ。

帝国や王国が戦争になったら使って来るからね。」



『あ、そうなんですね。

連邦でも使ったりするんですか?』



「んにゃ。

召喚士ってギャラが法外に高い上に

殆どが教団の紐付きだから。

連邦が雇った事はないんじゃないかな?



『やはり召喚術は教団が独占しているんですね。

彼らから帰還方法を取得する手段はあるのでしょうか?』



「おう。

じゃあ、ワシが調べといてやるよ。

要は教団の中で誰がそういう技術を持ってるのかを調べとけばいいんだろ?」



『は、はい!

そのルートが知りたいんですよ!!!

ぜ、是非お願いします!!!』



「おっけー。」




==========================



夜に来訪者があった。



「夜分に申し訳御座いません。

自分はゲオルグ・フォン・ハウザーと申します。

父のグスタフの命により、コリンズ社長に面会に参りました。

御都合が許されるのであれば挨拶だけでも許可を頂きたく存じます!」



首が曲がらないのでよく見えないのだが。

直立不動の体勢を取った偉丈夫が宿所のドア付近に居た。



『ゲオルグ様の事は御父上から聞き及んでおります。

この様な恰好で申し訳御座いません。』



彼は綺麗に一礼してから、見舞い品の様な物をコレットに渡していた。

(角度的に見えてはいないのだが…)

あの野蛮人からどうしてこんな出来た息子さんが生まれたのかは謎である。



「父が無礼な態度をとったと思います。

まずはその非礼を御詫びさせて下さい!」



俺は《そんなことないですよー。》と言おうとしたのだが、事実であるせいかどうしても口が否定してくれなかった。



「また、我々連邦人の恥ずべき内乱に他国人のあなた方を巻き込んでしまった事についても深く謝罪し、再発防止の為に全力を尽くす事を約束致します!」



…ゴメン。

ちょっといい?

あの御父上から、どうして貴方みたいに分別があって貴族的な人物が生まれてきたの?

いや、ミュラーもハウザーも一応貴族か…



『ああ、いえ!

私共こそ、事情もわからず不当な介入をしてしまいました。

誓って内政干渉の意図は御座いません。


本来、こちらから謝罪の為に赴く場面であるにも関わらず

ゲオルグ様を煩わせてしまいました。

どうか御寛恕頂ければ幸いで御座います。』




その後、小一時間会談。

ゲオルグ様は至って普通の軍人政治家で、国際情勢の分析や、インフラ整備の相談など

滅茶苦茶まっとうな話題となった。

さっきの老人2人によるDQN談義とはえらい違いである。


聞けば、ゲオルグ様は自由都市に留学していた経験があるとのことで

俺は改めて教育の大切さを痛感した。




「コリンズ社長。

ルドルフ・アウグスブルグとは友人ではありましたが

彼の国際条約を無視した言動は到底看過出来るものではありません。


貴方の行動は正当防衛であり、非はないと判断致しました。」



『ルドルフ様とは一度お目に掛かっただけで

ああ、いえ。

私は臥せっておりましたので、お顔は拝見出来なかったのですが。

改めて故人の御冥福を祈念させて下さい。』



「彼とは改革派仲間でありました。

連邦の惨状を何としても改善すべく、幾度となく2人で語り合っておりました。

ただ、彼は子供の頃から性急な気性で…

今回、コリンズ社長に多大なご迷惑をおかけしてしまいました。」



『いえいえ。

統治に対して真摯な方とはお見受けしました。』



《領土欲が強い》、を極限までオブラートに包むとこういう表現になる。



『アントニオ司教という要人とも懇意だとか…』



「…アントニオ。

あの男が連邦を散々に掻き回して」



『有名な方なのですか?』



「神聖教団の最高幹部です。

我々を債務漬けにして、奴らの奴隷にしようと企んでいる。」



『その、私は王国から来たのですが…

各地で経済的な要地が差し押さえられておりました。』



「王国で成功したやり方を連邦にも押し付ける魂胆なんですよ。

要人を煽動して無茶な戦争計画を立てさせる。

返済困難な国債を発行させ、借金漬けにした相手から諸権利を奪っていく。

彼らの手口は《債務の罠》と呼ばれて恐れられています。

ルドルフも当初は警戒していたのですが…」



『つまり、連邦も教団に債務を負わされそうになっている?』



「いえ!

とんでもない!

もう負わされてるんですよ!


各諸侯が地方権限で負ってしまった債務が!

連邦全体で膨れ上がってしまっている!


皆が愚かだから!

年利10%の借入契約を気軽に結んでしまうのです!


最初は僅かな借入のつもりだったにも関わらず!

いつの間にか我が国の負債が100億ウェンにまで膨れ上がってしまった!」



年利10%か…

《法外な暴利ですよね》

と言おうとしたが、口が痙攣して動いてくれない。

まあ、この世で俺だけには、それを批難する資格がないよな。



「100億もの負債があるから!

外交方針まで教団の思い通りなんです。

逆らえば各国の輸入・運送業者が一斉に物資を止めてしまう。

アイツらは我々を尖兵にして、首長国や自由都市を脅迫したいんですよ!」



『きょ、脅迫ですか?』



「はい。

教団は我々のような貧困国に興味はありません。

あくまでも大国である王国・帝国・首長国・自由都市同盟の中で権益を拡張したいんです。

アントニオの目的は、使い捨ての恫喝道具として我々を支配下に置く事です。

そして今やその目的は達成されつつある、

100億ウェンもの債務なんて返せる訳がないじゃないか!!!!!」




…最初、ゲオルグ様が俺の懐具合を知っていて一芝居打っているのかと思った。

遠回しのカツアゲなのかな? とも思って、それとなく探りを入れるのだが、どうも違うらしい。

外国人から接収しようという発想がないのだ。

俺が傭兵団や娼婦師団を買い上げた話が伝わっていないのだろうか?


その後も、俺は相槌を装いながらゲオルグ様の真意を探り続けたのだが…

どうも彼の中で俺と資本が直結していないようなのだ。

或いは自力で起きる事すら出来ないこの不様さが、彼にそう見せているのかも知れない。




一応、ヒルダ・キーン家・グランツ家に承諾を取ってから、ゲオルグ様に資金提供を申し出た。

相当真面目な方なのだろう。

目を剥いて反論して来る。



「気持ちはありがたいですが。

貴方に何のメリットがあるのですか!?」



御尤もである。

金庫の蓋が閉まりにくくなったから、なんて口が裂けても言えないよな。




「大体!

それって借金相手が教団からコリンズ社長に代わるだけじゃないですか!

言っておきますが、もはや連邦に返済余力は微塵も残ってませんよ!!」




『あ、じゃあ。

いつかおカネが余ったら、ということで。』




「おカネが余るなんて、そんな馬鹿な話がある訳ないでしょう!!」



いや、その通りである。

俺もこのスキルが軌道に乗るまでは、そう思っていた。




『まあ、ゲオルグ様の代で難しくても

いつかそのうち超好景気が来るかも知れないじゃないですか。』




「そんなに時間が経ったら、利息でとんでもない金額になってますよ。

大体、我が国には差し出せる担保がもう残っていないんです!」




『あ、じゃあ利息とか担保とか、そういうのも無しってことで。』




「…すみません。

もう一度質問させて下さい。

それって貴方に何のメリットがあるのですか?

私にはまるで理解出来ない。

そんな好意的な提案をして下さる意図を教えて下さい。

意図がわからなければ、こちらも返答のしようがありません。

見返りは?連邦は何を支払えばいいのです?」




『あー、メリット…


あー、今ちょっと思いつかないんですけど。

あー、上手くは言えないんですけど。

世の中の富が教団に集中しちゃうのって、なんかマズくないですか?

彼らが… いや違うな。

特定の誰かが富を独占すればするほど社会が貧しくなる。

そう思いません?

まあ、封建体制への批判と取られてしまっても反論の余地がないのですが…』



「…結局、貴方は何がしたいの?」



『いや、恥ずかしながら私は無学で…

社会をどうしたい、という明確なビジョンを持っていないのですが…

もう少し生活者にとって効率的と言いましょうか…

いや、何だ、えーっと、もう少し社会全体が豊かであって欲しいと思うのです。


王国に呼ばれる前…

私は読書が趣味で…

自分がカネ持ちになる為の書籍は大量に読んで来たのですが

その、恥ずかしながら社会を豊かにするための書籍には興味すら示していませんでした。

振り返ると、男子として恥ずべき在り方だと思います。


もしも、もしも機会が許すなら…

社会の改善に関する建言書を読んで学びたいです。

それも真に社会を憂いた人物の著書を。』




長い沈黙が続いた。




「…コリンズ社長。

私の蔵書で良ければですが

貴方に贈呈させて下さい。


ここ最近、肌身離さず持ち歩いて己の指針にしておりました。

私にとっては暗闇に輝く唯一の光明だったのです。


私は、この書籍の趣旨に沿った為政を行い…

必ずや連邦を豊かな国家にしてみせます!」





==========================




【所持金】


1210億ウェン

 ↓

1110億ウェン

 ↓

1010億ウェン



※100億ウェンを軍事枠に移行

※引き続き全決済権をヒルダ・コリンズに譲渡


※連邦政府に債務返済費用として100億ウェンの経済支援

※連邦政府は論文「国土論(R・V・アウグスブルグ著)」の理念に基づいた財政健全化ロードマップを策定する。




【コリンズキャラバン移動計画】  


「18日目」


中継都市ヒルズタウン  (宿が込んでた。)

 ↓

侯爵城下町 (風光明媚な土地だったらしい)

 ↓

大草原   (遊牧民を買収した。)

 ↓

教団自治区 (10億ウェンカツアゲされた)

 ↓

王国天領  (プロポーズした。)

 ↓

伯爵城下町 (落ち武者狩りの駄賃で通行)

 ↓

諸貴族領混在地  (5億ウェンで伯爵領購入交渉中)

 ↓

王国軍都     (護衛団フルチューン)

 ↓

王国側国境検問所 (秋の愛国フェアに参加)

 ↓

非武装中立地帯   (死んだ。)

 ↓

連邦or首長国検問所 (連邦ルート選択)

 ↓

連邦アウグスブルグ侯爵領 (養母無双)

 ↓

連邦〇△ブルグ?爵領城下町 (寝てたら勝ってた)

 ↓

連邦ライナー侯爵領   (娼婦師団)

 ↓

連邦首都フライハイト ←今ココ

 ↓

自由都市(連邦領経由なら7日、首長国経由なら5日の計算)

【名前】


リン・トイチ・コリンズ




【職業】


傭兵隊長




【称号】


ファウンダーズ・クラウン・エグゼクティブ・プラチナム・ダイアモンド・アンバサダー信徒




【ステータス】


《LV》  21


《HP》  (2/4)

《MP》  (4/4)


《腕力》 1

《速度》 2

《器用》 2

《魔力》 2

《知性》 3

《精神》 4

《幸運》 1


《経験》 1994万5515ポイント  


次のレベルまで残り397万0129ポイント




【スキル】


「複利」


※日利21%  

 下8桁切上




【所持金】


所持金1010億ウェン



※カイン・R・グランツから14億ウェンを日利2%で借用

※ドナルド・キーンから82億ウェンを日利2%で借用

(両名共に配当受取拒絶中)


※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有




【常備薬】


エリクサー 188ℓ

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― 新着の感想 ―
おまえかよwwwwwww
[一言] > 論文「国土論(R・F・アウグスブルグ著)」 に泣いた。ルドルフ君どうして……
[一言] もう100億が端金やんけwww なるほど、これで間接的に教会にざまあできるわけだ
感想一覧
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