【遠征日誌12】 重油
部下を信用していない訳じゃあない。
ただ任務を迅速かつ確実に済ませたいだけなのだ。
「ポールソンさん。
あれが大洗です。」
『へー、結構開けた土地ですね。』
結局、将兵達はセキモト停車場に置いて来た。
ニガホの操縦する地球車両に俺は1人で揺られている。
「ええ、もう少し進むと海ですから。
大洗港は北海道へのフェリー港なんです。」
『…フェリーですか?』
「あ、失礼しました。
フェリーというのは車ごと搭乗可能な船のことです。」
『ほう、地球車両ごと乗れるのですか。
それはきっと大きな船なんでしょうなあ。』
「大きいですよ。
ガルパン映画のオフ会で乗った事があるんですけど、ライダーの友達がいっぱい出来ました。」
ガルパン。
地球における大魔王の異名の一つだ。
これは偶然なのか?
『…。』
「ポールソンさん?
どうかされました?」
『あ、いえ。
何でもありません。
操縦を続けて下さい。』
長い山道が不意に途切れ、眼下に光が広がった。
陽光が眩しく思わず目を細める。
俺は今、タモツ・ニガホの操縦する地球車両に乗ってオーアライ港に向かっている。
『ニガホさん。
ナナ・マツムラという人物は、そんなに有名なんですか?』
「ええ、元々は迷惑系ユーチューバーの愛人として知られてたんですけど。
ああAV女優としての方が有名かな。
麻薬所持が発覚して逮捕、脱走して罪状を重ねてる様子がバズったって感じですね。」
…なるほど、分からん。
こういう情報こそイデハラに尋ねたいのだが、彼はノーラとカロッゾに囲われてるからな。
あの区画には、あまり近づきたくないのだ。
『要するに犯罪者なんですよね?』
「はい。
多分死刑になると思います。
DMMで散々お世話になってるんで残念なんですけど。」
『ふーむ。
もう一度映像を再生して貰って良いですか?』
「承知しました。
リピートします。」
『助かります。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は注意深く映像を見つめる。
「ニャガー! ニャガー!」
この猫族の女が件のマツムラ。
大魔王の担任教師とのこと。
地球は人間種のみで築かれた文明圏と聞いているが、少数種族の出身なのだろうか?
「いや、朝も言っただろ。
今夜は都内に居る必要があるんだよ。」
そしてマツムラを諭しているのが大魔王の級友であるルナ・タカミ。
齢二十とは思えないくらい風格がある。
軍隊経験者なのだろうか?
「カネクレーダーが反応してるニャ!
奴は茨城のどこかに隠れてる気がするニャ!
持って来た手錠を使いたいニャ!」
情報を総合すると、この映像の日付を境にマツムラは逮捕されるまで行方を晦ます。
ここから先は希望的観測なのだが、当時の大魔王は本当にイバラギに居て、マツムラが【カネクレーダー】なる探索スキルで捕捉したのではないだろうか?
大魔王はイバラキに居た?居る?
「それって…
倒錯企画さんの撮影で使った小道具だろ?
どこも苦しいんだから現場の備品盗むなよ。
後で詫び入れとかなきゃ。」
「ニャニャニャ。
トイチ退治に使えると思ったニャ。
ここらに潜伏してる気がしたから!
止むなく借りパクしたニャ。」
「だから。
周りに迷惑掛けるなよ。
奈々の勘はアテにしてるけどさ。
そんな漠然とした根拠で予定崩せないんだよ。
兎に角、この配信終わったら帰るぞ。」
「…わかったニャ。」
「気持ちは分かるが、ここは堪えてくれ。
スポンサーとの兼ね合いもあるんだよ。
じゃあ三橋。
プレゼントコーナーのテロップ流して。
奈々、告知するぞ。」
「…ニャ。」
この後、しばらく会話が続きマツムラとタカミが歌舞を披露する。
「じゃあ奈々。
新曲告知だけ頼めるか?」
「ニャ―。
例によって
蒼き流星ボトムズのカバー曲ニャ。
秋野かえでが歌唱した【ルッキズム】。」
「情勢が落ち着いたら
ライブの曲目にも加えたいな。」
「覚えやすい歌詞だったニャガね。」
「何?
コメ欄伸びてるの?
アカペラ行っとく?」
「冒頭だけニャガよ。」
俺が画面を観察していると、不意にニガホが振り返る。
「お!
歌唱シーンですか?
ポールソンさん、僕にも聞かせて下さい。
音量上げてくれると助かります。」
『あ、はい。』
「じゃあ、リスナーのみんな。
配信限定アカペラ歌っちゃいまーす。」
「ニャ―。」
「それでは!
作詞・作曲、蒼き流星ボトムズさん。
秋野かえでさんが歌唱した楽曲を
カバーさせて頂きます。
奈々、タイトルコール。」
「…ルッキズムだニャ。」
このマツムラという猫族。
歌舞を売り物にしているにしては上の空だな。
「ルルルルルルルルルルルルルルッキズム
親ガチャ ガチャガチャスカチャッチャ」
「ルルルルルルルルルルルルルルッキズム
ホントは知ってるよ 」
「「人は見た目が 全てなのだから」」
「涙は真下に零し続けよう。
いつまで泣けば許されますか」
「子供の頃の酷い仇名
どんなに頑張っても追いかけて来る」
「「ルルルルルルルルルルルルルルッキズム
この傷ズキズキ気付いてよ」」
※作品コード T- 322.587.787-8
https://linkco.re/ZadD18s4?lang=ja
「うーーーん、夜猫にはベストアルバム出して欲しかったなあ。
いやあ、僕は同人音声で秋野さんにもお世話になってるし…
それを夜猫が歌うなんて、くぅー!!!
奈々ちゃんが逮捕されてなきゃライブ行ってたかもww」
『…なるほど。』
歌い終わったタイミングで映像が止まる。
これがマツムラが行方を晦ました際の記録。
問題は、その日にオーアライ港が地元ギャングに襲撃された事件が起こっていること。
かなり大きな事件だったらしくニガホも報道を覚えていた。
高い確率でマツムラが事件に噛んでいると考えるのが自然だろう。
その事件の真相を知る事こそが大魔王の所在確認に繋がると確信している。
軍を置いてまでオーアライに探索に来たのは、その直感が理由だ。
『ニガホさん。
この後の資料はありませんか?』
「スイマセーン。
フォルダに保存したのはそれで全部なんですよ。
いやぁ、ネットさえ再開すれば昔の映像もプレゼント出来るんですけど。
あー、こんな事なら貢ぎマゾプランに入っておけば良かった。
でも1万円なんて僕の安月給じゃ無理ですからねぇ…
メシも抜いてるのに、はははw」
『…生活にお困りなのですか?』
「えー、そこに食いつきますかw
…まあ。
田舎のタクシー運転手なんて社会の最底辺ですから。」
ニガホの目に昏い光が宿る。
さっきまでの陽気さが嘘のようだ。
本国ではこういう目をした者達が熱烈なシンパとして御一新を支持した事を思い出す。
「不謹慎なんですけど。
経済が滅茶苦茶になって、ポールソンさん達が攻めて来て…
スッキリしてるんです、僕。」
『え?
そうなんですか?』
「どのみち底辺ですから。
ワープアってみんなから馬鹿にされて…
どれだけ真面目に働いてもタクシーなんて差別されて…
でも、世界超恐慌でエリート連中が自殺し始めて…
ざまぁって感じですよ。
金持ち共にも少しは僕達の苦しみが分かったでしょ。
嬉しいです。
今が人生で一番幸せなんです。」
『…。』
「僕を軽蔑しますか?」
『分りません。』
「そうですか。」
『…私、父親が清掃会社を経営していたんです。』
「え?」
『所謂ボンボンですね。
働きもせずフラフラ飲み歩いて、親のカネでいい大学に行かせて貰って…
社員達は今のニガホさんの様な目で私を見ていたのかも知れませんね。』
「…そっかー、やっぱりポールソンさんはそっち側かー。
育ち良さそうですもんね。
分かりますよ。」
『もしも失礼な言動があったのなら謝罪します。』
「…。」
『…。』
「…ウチの社長がビットコインで大損したんですけど。
同僚と爆笑しながら乾杯しました。
所詮、資本家と労働者なんてそういう関係でしょ?」
『…かも知れません。』
「どうせ僕らから搾取したカネですよ。
僕らには喜ぶ権利があります。」
『社員達に、私の破滅をまだ見せてやれてない事が心残りです。』
「…清掃会社は継がれないのですか?」
『もう勘当されましたし、祖国も滅ぼされてしまいました。』
「あ、知らない事とは言えスミマセン。
異世界も結構怖いんですね。」
…ちなみに、滅ぼしたのは今朝オマエが談笑していた少女なんだがな。
『いえ、この欠乏感はきっと無為の報いなのでしょう。』
「…社会が滅茶苦茶になったのは嬉しいけど、僕は日本には滅びて欲しくないです。
でもまさしく今はポールソンさんの仰った無為なのですけど。」
『申し訳ない。
それどころか敵将の手助けをさせてしまっております。』
「ポールソンさん。
僕に日本は守れますか?」
『…。』
「もしも方法があれば教えて下さいよ。」
『…ゲコというゴブリンがおりますよね?』
「え?
あのロボットを操縦している?」
『彼に助力する事を推奨します。』
「え?
何でゴブリン?」
『彼は貴国を守りたがっています。』
「いやいや。
何でゴブリンが親日姿勢を?」
『そしてもう一つ。』
「え?
あ、はい。」
『私が上官のリン・コリンズを捜索している話をしましたよね?
その捜索で何とか手柄を挙げて下さい。
私も本国を説得しやすくなります。』
「…はい。」
『無理を申し上げて恐縮です。』
「いえ、楽しいから構いません。」
『…楽しい?
この状況が?』
「だって、日常は辛いじゃないですか。
もしも超恐慌が起きずに、ポールソンさん達が攻めて来なかったとしたら…
僕はいずれ日常に殺されてましたから。」
『…。』
これが偽らざる労働者の本音なのだ。
いや、労働者をここまで追い込んでいたのだ、俺達資本家階級が。
「すみません。
何か、急に感情的になっちゃって。」
『いえ、私がニガホさんをネガティブにさせてしまったのでしょう。』
「…。」
『…。』
「役に立てますよ、僕。
要は遠市君を探せばいいんですよね?」
『ええ、そうして頂けると助かります。
ですが、目星はあるのですか?
地球の皆さんはインターネットを起点に社会を築いていたと聞いております。』
ゲコ曰く、俺が衛星を消した所為でインターネットが不通になったらしい。
そこまでした覚えはないのだが、ゲコ程の男が言うならそうなのだろう。
「目星ならあります!」
『ほう。』
「アダルトショップです!」
『アダ…
何ですか?』
「地球にはそういう施設があるんです!
モテない男が女子の卑猥な映像を高値で購入させられる惨めな施設が!」
『ああ、なるほど。
私も出版社に強要されて卑猥シーンを書かされたなぁ。』
「出版?
あれ、ポールソンさんって清掃関連では?」
『恥ずかしながら、親の手伝いもせずに出版社に入り浸っていたのです。
エッセイや児童書を執筆しておりました。』
「ほえー、多芸ですねー。」
『お恥ずかしい限りです。
えっと、アダルトショップと言うのは?』
「ああ、失礼。
夜猫は各地のアダルトショップを小まめに訪問して知名度を稼いでたんです。
だから、何か情報が入ってるんじゃないかなと。
まぁ、論より証拠。
ほら、ここで降りますよ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ニガホが停車したのは、薄汚いバラックだった。
あられもない姿の地球婦人の絵が壁中に貼られていたので鈍感な俺にでも趣旨は理解出来る。
「ポールソンさん。
ここでは地球人のフリをして下さいね。
話は僕がしますから、適当に合わせて下さい。」
『ええ、承知しました。』
今の俺は髭も剃ったし髪も下ろしている。
まぁ、簡単にはバレないだろう。
「こんにちわー。
営業してますかー?」
「ああ、一応ね。
言っておくけど、カネは無効だよ。
食料かガソリンと交換だ。
まぁ、このご時世でポルノなんて殆ど売れないんだけどさ。」
「ははは、世界超恐慌ですものね。」
「おまけにネットが繋がらねぇ。
あーあ、アダルトショップなんて改装せずに素直に母ちゃんのビニールハウスを相続しときゃ良かったわ。」
「今、農家さんは威勢がいいですもんね。」
「ああ、特に狩猟免許の関係で銃を持ってる農家は強いよ。
みーんな集落に籠城してる。」
…ふむ、地球の農家は銃器を所持しているのか。
貴重な情報だな。
「何?
後ろの人、ガイジンさん?
今時インバウンド?」
『あ、どうも。
こんにちは。』
「…。」
『?』
「…う、うわあああ!!
ポールソンが攻めて来たぁッ!!
うわぁぁあッ!!」
…参ったな、第一声で見破られてしまったぞ。
やはり異郷での潜伏って難しいよなぁ。
「落ち着いて!
落ち着いてご主人!」
「落ち着ける訳ないでしょーが!」
「この人は穏健派!
穏健派だから!」
「穏健な人間が原発占領する訳ないでしょーが!」
『「確かに。』」
「ポールソンさんは特徴あるイケボだから、喋ったらすぐバレるんですよ。」
『あ、いや。
私は陰キャなのでボソボソとしか喋れないんです。』
「丁度日本じゃモテるチューニングなんですよ、それ。」
…やれやれ、世界は広いものだな。
◇ ◇ 《3分後》 ◇ ◇
「と言う訳で、ポールソンさんは戦争に発展しないように配慮してくれてるんですよ。」
「まあ、はい。
いや、納得はしてないけど、はい。
原発占領された時点で既に交戦状態だとは思うけど、はい。」
「もう知ってるかもですけど、ポールソンさん達は遠市厘って人を探しに来たんですよ。」
「まあ、トイチは皆が探してるからね。
ウチにみかじめ料取りに来る連中も血眼だったよ。」
「それで奈々ちゃん達が、この辺にも来たんじゃないかって。」
「…何?
情報収集?」
「本人が動画で言ってるんですよ。
茨城で遠市君を見つけたかもって。」
「ああ、組の人達も騒いでたね。」
「何か情報ないですか?」
「…。」
「謝礼は払いますよ、勿論。」
「食料かガソリンなら…
実家に戻る燃料も無くて困ってるからさ。」
「ポールソンさん。
何か食べ物持ってます?」
『え?
あ、はい。』
確かジミーが兵糧を持たせてくれたな。
勝手に地球人にあげたら後で怒られるかな。
『どうぞ。』
「え? なんすかこれ?」
『ゴブリン団子です。』
「えー。
ゴ、ゴブリン団子?
参ったなぁ、ははは。」
むう。
地球人には受け入れられないようだ。
「え?
これ、食べ物なんですか?
ってか食べれるんですか?」
何だ、俺を疑ってるのか?
仕方ないなぁ。
『我が軍の正規兵糧です。
(ヒョイパク、もぐもぐ。)』
「う、うわぁ、本当に食べた!」
失礼な奴だな。
「じゃ、じゃあ俺も少し食べて良いですか?
実は食事もかなり節約してるんですよ。」
『どうぞ。』
「そ、それじゃあ勇気を振り絞って…
(ヒョイパク、もぐもぐ)」
『…。』
「う、うわぁあああ!!
まるでキビ団子のような食感だぁっ!
味付けは魚醤がベースなのか?
微かに表面にまぶされてる香辛料!
未知の概念の物だが、味蕾への刺激からして消毒作用のある香辛料と見たぁ!!
何より、このサイズ! 意識して薄められた風味!
兵糧を称するに相応しい腹持ち特化の食料だぁー!!」
…いや、黙って食えよ。
「こ、これを情報料として頂けるんで?」
『この一袋で兵士の1日分です。
勿論、これだけでは不足するので副食を支給しておりますが。
店主、有用な情報であれば2袋分贈呈します。』
「うーん、役に立つかは分かりませんが…」
『はい。』
「その日、組の人達が港を襲撃して逮捕されてるんです。」
『ええ、そこまでは存じております。。』
「その中に奈々ちゃんが居たってTweetを見かけたんですけど、真偽は分からないです。
もうネットも繋がらないから検索も出来ませんし。
ただ、組の人が一斉検挙されたのは確報です。
まだ新聞が届いてた頃だから、図書館に行けば…
あ、そっか図書館は焼けたか…
まあ兎に角、調べてくれれば嘘じゃない事が分かる筈です。
超恐慌の直前に、組の人達が港を襲撃して逮捕された、ここまでは確報。
前後して、これが県内のアダルトショップに一斉に届けられました。」
『これは?』
「ポルノDVDの販促ポスターです。
【真夜中のレズビアンレッスン「先生教えて…」】
夜猫がレーベルの作品に出演する事が決まったみたいで、ほらここに2人のサインがあるでしょ?
茨城のショップさんにって。」
地球文字はまだ覚えられて居ないが、店主の言葉に嘘は無さそうだ。
「店頭に貼れって命令されてたんですけど、奈々ちゃんが逮捕されたんで剥がすように指示が来たんです。
組も県警もかなり神経質になってたみたいで。」
『港と言うのはオーアライ港の事ですよね?』
「ええ、ここから10分も掛からないです。」
『案内をお願い出来ませんか?』
「え!?」
『3袋贈呈しますよ。』
「あ、いや。」
『勿論、店主に案内された事は秘密にします。』
「…あ、じゃあ案内だけなら。
どうせ世界も滅んじゃって暇ですし。」
そんな訳でアダルト屋の店主に案内されて徒歩でオーアライの街を見物する。
(ニガホは燃料節約の為にアダルトショップに待機させた。)
探索のコツは1にも2にも地元民を使役する事なので助かる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブツクサ言ってた割に店主(フサハラという名らしい。)はマメにオーアライを案内してくれる。
近年、小娘共が兵器に乗って戦う絵巻物の舞台になったらしく、そこそこ盛り上がっていたらしい。
絵巻物の贈呈を提案されたが、頭痛がしたので謝絶した。
こっちはその兵器に乗った小娘共に日々泣かされてるんだっつーの。
「ここがヤクザが襲撃したってヨットハーバー。
世界が滅ぶ前は金持ち共が舟遊びをしていたんです。」
『へー。』
「奥に見えるのが漁港。
その手前がフェリー港。
苫小牧まで航路が伸びてます。
ただ山が燃やされて苫小牧は悲惨な事になったみたいですけど。」
『酷いことする人も居ますねー。』
「ここ最近は酷い事続きですわ。
日本海側の航路でも謎の広域通信妨害が発生して核搬入を疑われるし…」
『酷いことする人はいっぱい居るものですねー。』
「まったくです。
ロクな目に遭わない…
で、このヨットハーバーがヤクザに襲撃されたって場所なんです。
人が居れば聞き込みが出来るかも…
あー、南京錠が掛かってるから無理か。」
『清掃。』
「え? あれ?
鍵? え?」
『どうしました?』
「あ、いや。
確かに鍵が掛かってた気がするんですけど。
え?
見間違えたのかなぁ?
…まあ、鍵は掛かってないんで、入れると思います。
あ、開いた。」
俺はポルノ屋のフサハラと共に無人のヨットハーバーに入る。
懐かしいなあ、俺も若い頃はキーン夫妻の舟遊びに付き合わされたものだ。
奴らには本当に本当に本当に泣かされたよなぁ…
ああ、そっかエルデフリダの弔辞を考えなきゃならないんだっけ。
喪主は当然ハロルド皇帝が務めるとして、葬儀委員長は誰がやるんだろう。
俺に回って来たら嫌だな。
遠征中にアイツの葬式済ませておいてくれたら嬉しい。
結局、最後の最後まで手間の掛かる女だったな。
それにしても、殺しても死なない女だとは思っていたが、あの女でもポックリ行くんだなあ。
まあ、そういう年齢だよな。
俺の同期でも革命関係なしに肝臓とか腎臓壊して死ぬ奴がポツポツ出てるからな。
はぁ、やだやだ。
歳は取りたくないもんだ。
「あ、あの。
ポールソンさん。」
『ああ、スミマセン。
少し考え事を。』
フサハラの声に意識を戻される。
イカンイカン、任務中だ。
エルなんぞの事を考えてる暇はない。
「これ、奈々ちゃんですよ。」
『へー、地球の手配書ですか。』
ヨットハーバーの掲示板には、猫族女・マツムラの顔写真がデカデカと貼られている。
フサハラ曰く、ヤクザを引き連れてこの施設を強襲し、そのまま船で去った旨が記されているとのこと。
よし、詳細が判明した。
概ね事前の仮説通りだ。
マツムラは【カネクレーダー】なる探知スキルの保有者。
そのスキルで大魔王のオーアライ滞在を察知したのだろう。
…うむ、それなら辻褄は合うな。
大魔王はオーアライに居た。
いや、今も潜伏している可能性がある。
…よし、方針は決まった。
予定通りトリデ市に布陣する。
そして地球人達を使役してオーアライを探らせよう。
カロッゾ達に悟られないようにな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヨットハーバーの前には横倒しになった地球機械があった。
『…これは?』
「ああ、自動販売機です。
中に飲料が詰まっていて、無人で購入出来るんですよ。」
『えっと、倒れているように見えるのですが故障?』
「あ、いや…
お恥ずかしい話なんですけど…
ほら、今ってもう食べ物が売ってないでしょ?
ヤンチャな連中が自販機を襲撃して回ってるんですよ。」
『そんなに状況が酷いのですか?』
「外から商品が入って来ないんですわ。
土浦のイオンはまだ営業してるって噂もあるんですけど。
ネットが繋がらないから確かめようがないし…
買いに行こうにもガソリンが無いんです。」
『え?
さっき隣が漁港だと…』
「いやあ、漁港にしてもねぇ。
お、噂をすればって奴です。
おーい、トクさん!!」
「おーうエロ本屋ぁ。」
「常連のトクさんです。
超恐慌前は夜猫オナホをいっぱい買ってくれたんです。
喋っちゃ駄目ですよ。
声でポールソンさんってバレちゃいますから。」
『…。(コクン)』
「トクさん。
やっぱり漁は無理そう?」
「無理無理!
俺達だって出漁したいけどさぁ。
もう燃料がないもん。
後ろの人は?」
「え、えっとインバウンド!
超恐慌で帰国出来なくなったみたい。」
『…。(コクコク)』
「ほーん。
そりゃご愁傷様だ。」
『…。 (フルフル)』
「こ、この人は帰国出来ないショックで喋れないんだ。」
「…ふーん、ガイジンさん。
のど飴やるから元気だせよ。」
『…。 (ペコペコ)』
地球の飴かぁ。
まるでブルーベリーみたいな味がするぞ。
『…。 (コロコロ)』
「じゃあ今は完全に出漁してないの?」
「いや、みんな手漕ぎで岸を離れて竿で釣ってるわ。」
「え?
手漕ぎで?」
「仕方ないだろぉ。
漁協にも燃料入って来ないんだから。
あー、ちっくしょー。
せめて軽油が! 軽油さえあれば!」
「やっぱりタンカーが座礁したって噂は本当なのかな?」
「いや、アレはマジだよ。
多分鹿嶋らへんの座礁だと思う。
この辺にも重油がかなり流れて来てるもの。
こっちの海が死ぬ前に無理してでも釣り切っちゃおうと思ってる。」
「魚が釣れたら売ってよぉ。」
「…オメーとは付き合い長いから
何とかしてやりたいけどさぁ。
家族が喰う分すら賄えてねえ。」
「そっかあ。」
「房原こそ実家がハウスやってんだろ?
勝ち組じゃねーか。」
「いやあ、母ちゃんの葬式もサボって動産だけ貰ったから。
兄貴に電話で怒られたよ。
何食わぬ顔で実家に戻ろうにもガソリンがないしねえ。」
「ああ、確か御岩神社らへんだっけ。
詰んだなあ。」
「うん、完全に詰んだわ。
まさかガソスタが全部閉まるなんて。」
トクサンと呼ばれた漁師はしきりに額をペチペチ叩いている。
彼が漁港に戻るついでに見学させて貰ったが、確かに南の方角から油膜らしきものが広がってるな。
聞けば二ホン人はタンカーなる大型輸送船で石油を海上購入しているらしい。
どうやら衛星の消滅でそれらが上手く操縦出来ずに座礁し続けている事が燃料不足に繋がっているらしい。
「うっわぁ。
朝より重油が広がってるよ!!!
普段はこんな潮の流れはしないのに!!
えーっ、これ軽油が届いても漁にならねーぞ。
…誰か何とかしてくれよーーーーーッ!!!」
『…。 (コクン)』
「えー、重油どこよ?」
「いや、色が変わってる部分があるだろ!」
「え?
どこら辺?」
「いやいや、どこら辺って…
アレ?」
「ん?
どうしたの?」
「いや、油膜が消えてるから。
潮が引いたのかな?
ありがたいんだけどさ。」
「まあいいや。
俺は一旦店に戻って近所の連中と情報交換するわ。」
「燃料関係の話があれば聞いといて!!
軽油!! 軽油さえあれば何とかなるから!!」
「わかった。
それじゃあ、こんな状況だけど…
お互い何とか凌いで行こう!」
「おーう、またな。
ガイジンさんも元気だせよー。」
『…。 (ペコペコ)』
ふむ。
糸口は掴んだ。
まあ、やり方次第で地球人の犠牲は抑えれそうだ。
これでゲコやイデハラも喜んでくれるだろう。
まあ、大魔王の故郷だしな穏便に済むに越した事はないよ。
後はルナ・タカミを確殺すれば全て丸く収まるというものだ。
【魔王軍遠征部隊】
『ポール・ポールソン』
大魔王救出作戦総責任者/魔王軍総司令官・公王。
ポールソン大公国の元首として永劫砂漠0万石を支配している。
万物を消滅させる異能に加えて、アイテムボックス∞を隠し持っている。
首長国テクノロージーの粋を尽くした指揮官用X507改を乗機としている。
機体愛称はレオンティーヌ。
『ノーラ・ウェイン』
軍監/四天王・憲兵総監。
ポールソン及び後任者のカロッゾの監視が主任務。
レジスタンス掃討の功績が認められ、旧連邦首都フライハイト66万石が所領として与えられた。
配下軍団と共に乗機がオーラロードを侵攻中。
『カロッゾ・コリンズ』
地球クリーン作戦総責任者/四天王・前軍務長官。
本領は自らが大虐殺の上に征服した南ジェリコ81万石。
旧名カロリーヌ。
配下軍団と共に乗機がオーラロードを侵攻中。
『レ・ガン』
元四天王・ポールソン大公国相談役。
市井のゴブリン女性であったが、親族が魔王職に就任したことを切っ掛けに駐ソドムタウン全権に任命された。
魔界の権益保護の為、統一政府に様々な協力を行っている。
種族の慣例に従い、ゴブリン種搭乗員に対しての機体愛称授与を行っている。
『出原信之』
地球人。
捕虜兼現地徴用兵。
塹壕内ではノーラ・ウェイン、カロッゾ・コリンズの2名の将校部屋にて生活する事を強いられている。
ノーラ・ウェインのトルーパーに愛玩動物として搭乗する事が決定した。
『ジミー・ブラウン』
大魔王救出作戦副将/ポールソン大公国宰相。
ポール・ポールソンの無名時代から扈従し続けてきた腹心。
レオンティーヌの複座でポールソンと仲良く搭乗。
大国トップとナンバー2が同機体で戦闘をも行うという革命政権特有の狂気を体現している。
『ケイン・D・グランツ』
前四天王であるカイン・D・グランツの長男にして、摂政コレット・コリンズのクラスメート。
父親から長身と端正極まりない顔立ちを受け継いだ正統派の美少年。
特に訓練を受けた形跡はないがトルーパーの操縦もイケメン補正でお手の物。
『ゲコ・ンゲッコ』
大魔王と共に召喚された地球人。
どんな姿にも変身可能なレアスキル【剽窃】の持ち主。
紆余曲折を経てゴブリン姿でレ・ガンに近侍している。
地球名はカネモト・ピカチュー。
乗機はコルネイユ強硬偵察型。
機体愛称はギーガー。
『キムラ・エリカ』
ケイン・D・グランツのファンガール。
元々親子3代でのジャニーズの追っ掛けだったが、ケインに運命を感じてしまったと目が合ってしまった事で転向。
嫁ぎ先の金品を奪って魔王軍に献上した。
愛機はスズキ・ジムニーXL 4WD。
ちなみに本車両の所有者は配偶者のキムラ・クニヒコ氏である。
『ビル・チャップマン』
ポールソンの馬廻りの1人。
階級は少尉。
父のジム・チャップマンが僭称していた候王号が正式に認定された為、数少ない王族待遇者である。
『ニガホ・タモツ』
ポールの私的な客人。
仙台市に本社を置くタクシー会社「ずんだ交通」の社員。
大魔王のパーティーメンバーである寒河江尚元と面識がある。
『マグダリオン・イル・ギャラルホルン』
ダークエルフ族の長老。
暗黒魔法の達人で衣装を厨二仕様に変化させる秘奥義の使い手だったが、ドナルド・キーンが実生活の役に立つ水魔法を普及させた事により大いに威信を落とした。
孫娘のアネモネが出奔の際に暗黒魔法の奥義書を盗んだので、想定したパフォーマンスが発揮出来ていない。
即興で古代魔法を復活させ、水から軽油を生成する技術を確立した。
『フサハラ・ヨシヒコ』
ポール・ポールソンがゴブリン団子で私的に雇用した現地協力者。
大洗町のアダルトショップ経営者。
怠惰な性格であり周囲の顰蹙を買う事が多い。
最近も母・波留の葬儀を欠席して評判を落とした。




