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【遠征日誌11】 シベリア寒気団

結局、ラジオ放送の調整でヨツクラ関の先にある停車場にて1泊する事にした。

今後の進攻作戦の為にも地球のラジオ技術を接収しておくに越した事はない。


そもそもとして兵達が疲弊している。

地球人達は数時間でフクシマからトーキョーまでを走破するらしいが、敵地を進んでいる俺達にそんな軽率は許されないからだ。

俺達だって内心は怯えている。

小さな丘を越える度に、緩やかなカーブを曲がる度に、野鳥が羽ばたく度に。

俺達はちゃんと怯えている。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【ゲコ・ンゲッコ】



「公王様、1個謎なんですけど。」



『んー?』



「何で怒りはれへんのですか?」



『え?』



「いやいや。

ボク、ケイン君に変身して、軍の方針を歪曲して発表した訳ですやん?

普通何らかのペナルティがあるでしょう。

打首も覚悟してたんですよ?」



『そうは言ってもなぁ…

私も昔、何度か似たような事をしでかしてるし。

若者を叱責する資格は無いような気がするしなぁ。』



「いやいや、そういう論点ではないのですが…

で?

似たような事をした結果どうなったんですか?」



『最後は普通に逮捕されたよ。

取調官に国家反逆罪で死刑って言われた。』



「お、おう。

よくシャバに出られましたね。」



『私が属していた派閥が政争に勝ったからねぇ。

普通に釈放されて勲章も貰った。

対立派閥の人達、要するに当時の執行部の連中は全員逆賊として殺された。』



「うわぁ、未開国特有のオール・オア・ナッシング。」



『政治なんて所詮そんな物だよ。

だから怒るとか怒らないとかは、この状況では的外れなんじゃないかな?』



「…。」



『君が故郷を守りたいなら、我々と戦って勝つしか無いんだからさ。』



少なくともコレット・コリンズはそうやって産んだ子を守っている。



「うーん、そこが難しい所なんですよ。

ボク、あっちには孕ませた女がよーさん居るんですけど…

地球には1人も居ませんからねぇ。

自分を選ばなかった星こそ、ボクにとっては異世界なんじゃないかと。」



『深いねぇ。』



「いや、単なる非モテ論なんですけどね。」



俺はゲコと共に地球人から贈られた大量の物資を検分しながら、そんな取り留めの無い話をしていた。



「それにしても、イケメンにはムカつきますね。

アイツら人生イージーモード過ぎでしょ。

ケイン君には恩しかないですけど、それでもムカつきますもん。」



『まぁ、彼は別格だから。

お父さんもかなりモテる人だったからねぇ。』



ヨツクラ停車場にはゲコ(偽ケイン)への贈り物が積み上げられている。

そりゃあね、天下一の美童に変身したらそうなるよね。



「あ、公王様。

聞いて下さいよ。

さっき、このゴブリン姿に戻った事を忘れて、あの女共に話し掛けたら…」



『悲鳴を上げて逃げ散ったと。』



「着てる軍服は一緒なんですけどね。」



『まあ、女の子なんて脳味噌ルッキズムだから。』



「でも、公王様はモテますやん?」



『その文脈で、でもって言うなよ傷付くだろ。』



「なので公王様はボクの希望です。」



『若い癖に後ろ向きな希望だなー。』



ゲコとの会話に意味は無い。

無いのだが、会話を重ねて腹のうちを探り合っておく必要はある。

何故なら、現時点でこの男こそが地球の利益代表だからだ。

少なくとも、その気概と覚悟を持って魔王軍全体と対峙している。



【変装して軍方針と異なる声明を敵地に発表した。】



本来、ゲコのやった事は斬首刑相当だろう。

(当然ケイン君も同罪。)

そこまで理解した上で、命を賭けて俺にプレゼンをしているのだ。



ゲコの主張はシンプル。

【一任してくれれば、軍の損耗なく大魔王を回収してみせる。】

要は俺にそう訴えたいのだ。

別に賛同してやっても構わない。

元々俺は軍隊を派遣するまでも無いと考えているからである。


ゲコ・ケインの両名は有能な上に既に大魔王との面識がある。

命じれば高い確率で救出に成功するだろう。



「問題はその後なんですわ。」



『カロッゾ卿のこと?』



「ええ。

公王様が帰還したら、あの人が後任でしょ?」



『うん。

ちな、ウェイン総監も引き続き地球に残る。』



「絶対攻撃して来るでしょ。」



『あの2人はそもそもが暴力要員だからねぇ。

摂政は何か言ってた?』



「トイチ君以外の地球人には興味が無いそうです。

ちな、ボクにはやや関心があるらしいですよ、治安面で。」



『まぁ、あまり気にしないで。

あの人、基本的に政治に無関心なだけだから。』



コレット・コリンズは王国にも自由都市にも何の愛着も持っていない。

女がそういう生き物なのかも知れないが、息子の前途以外に何の関心も持っていなかった。

あの女にとって統治とは子育てに付随する義務に過ぎないのだ。



「公王様。

取引に応じて頂けませんか?」



『…要求は?』



「魔王軍の撤退と地球への不干渉。

勿論トイチ君の身柄は熨斗付けてお渡しします。」



『君は何を差し出せる?』



「摂政に対してはダン君の保護を提示しました。

ボクのスキル、色々便利でしょうし。」



『え、マジ?

あの人、何て言ってた?』



《この身が私人であれば迷わず話に乗っていたであろう》

コレット・コリンズはそう告げたとのこと。



『…あの人らしいね。』



公益を鑑みれば、地球人は殲滅しておくべきだろう。

本来なら、あの女が迷う場面ではない。

だが魔王ダンは地球ハーフ。

故郷が滅べば、その分ダンの政治力が弱まる。

ただでさえコリンズ朝はコレット・コリンズ1人の力量によって開闢・運営されているのだ。

縁故地まで消滅してしまったら、ダンの王朝運営に差し障るに決まっている。

それが摂政にしては極めて珍しい逡巡の理由。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【宰相ジミー・ブラウン】



さて、意識を戦場に戻す。

我々は二ホンの首都に向かって南進している訳だが、当然敵の人口が増えて来る。


今、俺達が駐屯しているヨツクラ停車場。

眼前の山を越えればイワキなるそこそこ大規模な都市があるらしい。



『地球人が増えて来たなー。

ジミー、あれは何とかならんか?』



「ケイン君目当てが半分でゴザルからな。」



『後の半分は?』



「ケイン君に化けたゲコ君が話が通じそうなコメントを出しましたからな。

地元の有力者が勇気を出して会談を申請して来た次第。」



『遠征あるあるだな。』



「追い返しておきましたぞ。」



『え? そうなの?』



「厚かましくも市長・州知事クラスがポール殿との面談を申し入れて来たのですよ。

拙者、あまりに腹が立ったのでその場で斬り捨ててやろうかと思いました。」



『別に相手が市長でも賢人であれば面談に応じるぞ。』



「軽率は慎まれよ。

統一政府内でも王号を許されてるのはハロルド皇帝とポール殿のみ。

そんな高位者が市長風情の面談に応じたとあっては、魔王様の威信に傷が付きます。」



『…うん、まぁ、はい。

分かりました。』



「ポール殿の言いたい事は分かりますぞ。

そういう格式ばった振る舞いが苦痛なのでゴザロウ?」



『あ、いえ、頑張ります。』



「…あの頃は良かったでゴザルな。」



『うん。

あの頃は良かった。』



ほんの数年前まで、俺とジミーはオタク仲間と一緒にカフェに集まって、モンスター模型を作って遊んでいたのだ。

掛け替えの無い日々だった。

今は亡き栄光のソドムタウン。

どうして、こんな事になってしまったのだろう。

いや、統一政府の誕生に加担した俺に嘆く資格はないんだけどさ。



「帰参した地球女共がポール殿に嘆願したい旨があると申しているでゴザル。」



『え?何?

俺、国を売るような女が一番嫌いなんだけど。』



「ですが、手柄はある訳ですからな。

奴らが居らねば、これだけ早く全軍が機械化出来なかったですし。」



『まぁなあ。

ここまで無事に辿り着けた以上、功績は讃えるべきか…』



ヨツクラまでの先触れはケイン君目当てで参陣した地球女達が行った。

その時点で勲章ものの手柄であるし、かなりの量の貢納品を受け取ってしまった以上は粗略にも出来ない。



「ケイン様の子供を産みたいんです!」



第一声がそれ。

懐かしいぁ、若い日のドナルド・キーンも狂信的なファンガールに狙われてたなぁ。



『…。』



流石に市長を追い返した後に売国奴に直答を許すのはバランスを欠くので、俺は陣幕の内側から声を聞くだけ。

ジミーが道理を諭してやっているが、相手はしつこく食い下がる。



「なあ、ポールソン。

別に良いのではないか?」



『意外です。

ウェイン総監は賛成派ですか?』



「どのみちボクは摂政に地球事情を報告しなければならないからね。

持ち帰るのがイデハラだけだと資料として機能しないだろう?」



『確かに…

彼女達はオーラロードを渡れるんですか?』



「グランツ卿に求婚している女は50人以上居るからな。

全員オーラロードに放り込めば何人かは生き残るだろ。」



『まあ、誰かは残るかも知れませんが…』



俺は陣幕の隙間から女共を覗き見る。

…全般的に線が細いなぁ。

多分、1人も渡れないだろう。

そもそも渡れた所で、国を売るような女は摂政が一番嫌うタイプだしなぁ…



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



俺が考え込んでいると伝令兵が戻って来る。



「公王様、ラジオ用の機材。

全て接収完了しました。

あちらで御座います。」



『うわー。

あんなに嵩張るのかぁ…

えっと地元の資産家から没収したの?』



「あ、いえ。

我々が発表した提出希望リストを見て地元民が献上して参りました。」



『ああ、そういう事か…

機材を供出する代わりに攻撃しないでくれと…』



「はい、遠回しではありますが、そういうニュアンスだったとの事です。」



『…。』



俺はノソノソと立ち上がり、地球車両の中で休息していたノーラとカロッゾに相談を試みる。

【協力者に対して、どこまで見返りを渡すか。】

地球遠征が長丁場になった場合、ここで決めておかなければ魔王軍の足並みが乱れる可能性がある。



「小弟に指揮権が移るまではポールソン様に全面的に従います。」



カロッゾは即座に断言して黙り込んでしまう。

この女はそもそもが地球人の殲滅を主張している。

俺に指揮権があるうちは従うが、権限が移譲した場合は誰の言葉にも耳を傾けるつもりはない、といういつものスタンス。

軍人としては極めて正しい。



「ポールソンが対価を支払いたいならボクは干渉しない。

ただ、行き過ぎた支払いはやめろよ。

魔王様の威信を損なうからな。」



『では軍票でも支払いますか?』



「払うのは勝手だけど、ボクの所領では地球発行での軍票は引き換えを禁じるぞ?」



『…うーん。

確かに総監の仰る通りですね。』



ノーラの判断も筋が通っている。

そもそも俺が地球で軍票を発行する事自体が、相手を取引相手として承認した証拠になってしまうしな。

対等交渉の土俵に上らせない事も俺の任務に含まれている以上、迂闊な行動も取れないか…

うん、軍票は悪手だよな。


協力的地球人にはポールソン大公国特産のサソリの殻でも恵んでやろうかなと思いながら、ラジオ機材の検分に向かう。

誘った覚えはないがノーラとカロッゾもついて来る。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



目に付いた近習に俺は問う。



『この機材の所有者は、まだ陣中に居るのか?』



「あっ、公王様!

あちらの地球車両に搭乗している者共です。

呼び付けましょうか?」



『いや、それには及ばないよ。』



散歩も兼ねて地球人が車両を並べている区画に近づく。

ノーラとカロッゾが威圧的に軍刀をカチャカチャ鳴らし始めたので窘めて止めさせた。

どうやら恫喝している自覚すら無かったようだ。



『ラジオ機材の貢納に感謝する!』



本心からそう感じていたので言葉にしておいた。

地球人達との距離の取り方がイマイチ分からなかったので、宣言の後は控えていたニガホと雑談をさせる。

大魔王の情報を得られれば幸いだったのだが、例によってルナ・タカミの話題しか挙がらない。

どうやら地球では大魔王よりもタカミの方が高く評価されているらしい。



『…。』



「ポールソンさん、どうかされましたか?」



『…ニガホさん。

ふと疑問に思ったのですが、どうして彼らは停車場に残っているのですか?

帰還許可は出した筈ですが…』



「あ、いえ。

日本は…

ってか世界は超恐慌の真っただ中なんです。」



『ああ、ゴメンナサイね。

慌ただしい時期に侵攻しちゃって。』



「あ、いえ。

平時でも攻められるのは困ると言うか…

まあ、そんな最悪な経済状態だった所に、衛星機能が全停止しちゃったみたいなので。」



『ああ、それは災難でしたね。』



「それで通信とか物流とか経済とかが全部麻痺しちゃって。

みんな死に掛けてます。

海外はもっと酷いそうですけど。」



『へー。』



「ポールソンさんに貢納したら、何か見返りがあるかもって思う人が増え始めてますね。」



『なるほどー。』



「あ、別に催促してる訳じゃないですからね。

怒らないで下さいね。」



『ええ、後ろの2人にはその旨伝えておきます。

彼ら、何を望んでるんですか?

安堵状を発行した方がいい場面?』



「いやあ、望みも何も…

物流が死んでますからねえ。

漁師も農家も食料を卸さずに籠城モードなんです。

それを奪いにいった若者グループが突然猟銃で撃たれて。

いわき市内じゃ大騒ぎらしいです。」



『ああ、そのレベルですかぁ。

要するに最悪のタイミングで軍隊が来ちゃったと。』



「みんな絶望してますよ。

毎年この時期になると大陸から大寒波が来るんです。

正確なタイミングを知りたいのですけど、気象庁も機能してないみたいで…

みんな途方に暮れてます。」



『今、消しました。』



「はい?」



『いえ、こっちの話です。

他に何か困ってる件はありますか?』



「あ、いや。

ポールソンさんの前で言いにくいんですけど。

やはり皆さん、軍隊が居座っちゃうんじゃないかと不安がられておられますね。」



『行軍については発表通りです。

このままジョーバン道を南下し、トリデ市に布陣します。

ここに一泊したのもイレギュラーで、通過するだけの予定でしたからね。』



「ああ、そうなんですね。

皆さん喜ばれる事でしょう。

東京の人は嫌がるでしょうけど。」



トーキョーの人が嫌がってくれない事には、話が始まらないのだ

…俺はソドムタウンのど真ん中で生まれ育った人間だから分かるんだけどさ。

都会の人間って、田舎が攻撃されて数万人が死んでも大して何も感じないけど、敵軍が首都に迫る気配を見せただけで大パニックになるからな。

だからこそ、分かりやすく南下しなくてはならない。

大魔王の身柄を地球側から差し出させる為にもな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【ゲコ・ンゲッコ】



『燃料が無い?』



「そうなんですわ。

いわき市内のガソスタも全部閉まってるそうです。」



ゲコ曰く、地球車両は燃料不足に苦しんでいるとのこと。



『へー、地味に辛いね。』



「いや、ボクら日本人にとっては派手に致命傷なんですけどね。」



『でもさあ、地球人ってみんな車に乗ってるんだろ?

燃料が無かったら困るんじゃない?』



「ええ、日本は詰んでますねえ。

助け船出してやって下さいよ。」



『助け船?

私が君達の衛星を消したから?』



「いや、まあ。

公王様が来なくてもトイチのアホがこの世界を滅ぼしてたとは思うんですけど。」



『まあ、大魔王に関してはノーコメントで。』



「何か施しを下さいよ。

公王様はご存じないかも知れませんけど、毎年この時期になるとシベリア寒気団というのが来るんですよ。」



『もう来ないから安心してくれて構わない。』



「え?」



『要するに燃料が無くなって暖を取れないから困っているのだな?』



「あ、いや。

まあ、そうなりますけど。」



清掃(クリーンアップ)。』



「え!?」



『じゃあ、地球車両はここに捨てて行くか。

ゲコ君、本陣に戻るぞ。』



「え?

あ、はい。」



俺は微調整が苦手なのだが、冷気もある程度消したので多分23℃くらいで落ち着くと思う。

加減ミスってたら、ゴメンね。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【レ・ガン】



『庵主様は地球車両をお気に召しましたか?』



「最初は恐ろしかったが、慣れてみるとトリケラに牽かれるよりマシだね。」



『では、庵主様の車両は引き続き保持しましょう。

このままお寛ぎ下さい。』



「至れり尽くせりだね。」



『庵主様には色々助けられておりますから。』



「アタシは何もしていない。

ただの老醜さ。」



『お口添えのお陰でゲコ君がこちら側に踏み留まってくれております。』



「それはゲコ坊が自分の意思でやってることさ。」



『アレが敵に回ってしまうと手に負えませんから。

以前に庵主様が仰られた通り、大魔王に匹敵する怪物ですね。』



「どうだい?

怪物同士上手くやれそうかい?」



『うーん、現在進行系で彼の祖国を蹂躙している訳ですからね。

後ろから撃たれる事は覚悟してます。』



「ゲコ坊の弱点は計算高い点だ。

だから融和的な気質の公王を撃てない。」



『俺って融和的なんですかね?

最近、そう刷り込まれてるだけだと思うようになって来たんですけど。』



「逆を刷り込まれるよりは健全じゃないか。」



『…俺の父親って反社だったじゃないですか。

地上げ屋でのし上がった男です。』



「らしいね。

アタシは晩年のお父上を一度見掛けただけだが。」



『過度に温和な性格に誘導されて育ったんです。

ジャック・ポールソンの様な悪漢にならないように』



「悪漢どころか今や総司令官様だ。」



『…結局、教導虚しくこうなってしまいました。

まさかの流転ですよ。』



そうなんだよなぁ。

流石の俺も、まさか宇宙の果てで地上げに精を出す羽目になるとは予想も出来なかったわ。



「そうだね。

昔の公王を知る者にとっては意外極まりない変貌だよ。

1人を除いてはね。」



『ええ…

旧知の者は皆驚きます。』



■○▲だけがこの結末を予測していた。

40年以上前から俺の本質を知っていた。

俺は稀代の悪漢ジャック・ポールソンを煮詰めたような男なのだ。

そりゃあ、外征には向いているだろう。

父ジャックがソドムタウンの貧民達から無慈悲に住処を奪ったように、俺も地球人相手に同じ事をやっている。



「ゲコ坊もアタシも公王を気に入っている。

そういう内省的な性格は将の器だと思う。」



『…精進します。』



「じゃあ現実の話に戻ろう。」



『はい。』



「ガソリンとか言ったか…

公王が布告すれば持参する者も居るんじゃないか?」



『それも考えたのですが、地球人により衝撃を与える為にも、何喰わぬ顔で進軍を続けるべきだと判断しました。』



「成程。

地球人はガソリンが無ければ何も出来ないが、魔王軍は意に介さない、と。」



『ええ、有っても無くてもどちらでも構わない。

そういう態度を見せていた方が、いずれガソリンが必要になった時に足元を見られず済みます。

それにダークエルフ達の暗黒魔法で生成出来るかも知れないので。』



「ほう。

エルフ共は不調と聞いていたが…」



『1番気温変化に苦しんでいるのが彼らですからね。

先程も車両放棄を思い留まるように嘆願されました。

水を油に換える暗黒魔法は彼らの口伝に存在するそうなので…

俺は内心不本意なのですが猶予を与えております。』



ダークエルフ達がなあ…

「理論上は地球車両用の燃料を生成出来ます!」

と食い下がって来たからチャレンジさせているのだが…

最後に発動した事例が1000年前だそうだからなぁ。

地球車両は相当デリケートな構造のようだし、魔法なんぞで生成した油で動くとは到底思えない。



『もう出立したいのですけどねえ。

地球人に考える時間を与えたくないのです。』



「でも、領民の顔も立てなければないない、と。」



『…ですねえ。

ここが単なる軍隊であれば、命令書一枚で切り上げさせたのですが…

うーーーーん。

領主である以上、領民の面子にも気遣わねばならず…

辛いところです。』



折角なのでレ・ガンと一緒にダークエルフの陣を見物に行く。

内心微塵も期待していないのだが、さも全面的に信頼しているかの様にニコニコと上機嫌を装おう。



『やあ、マグダリオン長老。

あまり根を詰めすぎないようになさって下さいね。』



「あ!

こ、公王様!!

…申し訳御座いません。」



俺の姿を見た途端、ダークエルフ達が目を伏せてしまう。

どうやらガソリンとやらの生成は出来なかったらしい。



『いやいや。

さっきも庵主様と、エルフ部隊の精勤について讃えていたところですよ。』



「あ、いえ。」



長老は申し訳なさそうな顔で黙り込んでしまう。

まあな。

ダークエルフは体調不良もあってあまり動けてないからな。

出征前に大言壮語していた事もあり気まずいのだろう。



『長老達はナミクラの塹壕を暗黒魔法で隠してくれたじゃないですか。

アレは助かりました。』



「…いえ。」



彼らが消沈するのも無理はない。

ダークエルフの認識疎外魔法よりもジミーの水魔法(霧)の方が遥かに役に立っていたからである。

しかもジミーは副将としての任務の片手間に濃霧を発生させ続けていた。

まあね、昔からアイツは変わり者だから。

ソドム大学の法学部に主席で入学した癖に魔法ゼミなんて受講していたからな。

(キャリアに傷が付くと周囲から相当窘められたらしい。)

実践する機会こそ無かったものの、基礎理論は結構詳しいぞアイツ。



「あ、あの!

公王様、聞いて下さい!」



『あ、はい。』



「油の生成自体には成功しているんです!!

ほら、見て下さい!!」



マグダリオン長老が地球人から接収したポリタンクなる容器を俺に差し出して来る。

ん?

この臭い…



『おお、油の臭いがしますねえ。

流石はダークエルフの秘術だ。

では早速地球車両に…』



「あ、いや!

違うんです!」



『?』



「先程お客人のニガホ様にもチェックして頂いたのですが…

これは地球人が【軽油】と呼ぶ油らしいのです。」



『?

燃料ではないのですか?』



「そ、その…

申し上げにくいのですが、現在我が軍が保有している車両は軽油では動かないと…

それどころか誤って給油してしまうと、破損してしまうそうです…」



『な、なるほど。』



ダークエルフ達は余程面目を失ったのか顔を真っ赤にして唇を噛み締めている。

その後、小一時間ほどを掛けて彼らを必死に慰めた。

この時間があればフクシマ県を出てイバラギ県に侵攻出来た様な気もするのだが、ありったけの愛想を動員して宥め賺す。

コイツらはすぐにイジけるので、定期的にメンタルケアを行う必要があるのだ。

これって絶対に司令官の仕事じゃないよねと思いながらも、小一時間ピエロに徹した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『それでは諸君!!

地球車両に慣れて来たところを申し訳ないが駱走に戻って貰うぞ!!』



縁台に登った俺はそう宣言する。

ベテラン兵は神妙な素振りで頷いているのだが、新兵共はまだ不満を隠す術が身に付いてない。


さっきも部隊長から説明させただろ。

地球では豊富に石油が算出されるが何故かこの二ホンでは採れないのだ。

なのに主産業が石油動力自動車の製造?

何を考えとるんだコイツらは。



『それでは私が駱駝を召喚するから。

スプ男君!

各部隊に誘導するように!』



  「はい!」



『あー、諸君。

もう少し下がりなさい。

面倒だから全騎出すわ。

スプ男君、イケるな?』



  「お手柔らかに!」



『アイテムボックス・宇宙!!

駱駝全騎射出!!』



エ゛エ゛~~~~~~~~~~ッ!!!!

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エ゛エ゛~~~~~~~~~~ッ!!!!

エ゛エ゛~~~~~~~~~~ッ!!!!



相変わらず五月蠅い生き物だよな。

もう慣れたけど。

駱駝共はスプ男に命じて黙らせる。

途端に聞こえる新兵達の愚痴。



「公王様もどうせなら地球車両出して欲しいよな(ヒソヒソ)」

「俺、あのプリウスって車が気に入ったよ。(ヒソヒソ)」

「駱駝ダルいわー。(ヒソヒソ)」

「なあ、地球車両って戦利品にしちゃ駄目なの?(ヒソヒソ)」



同感なので内心クスリとする。

あー、俺もあっち側で愚痴りたかったわあ。



『地球車両は約束できないが!!

住環境の改善には気を配る所存だ!!

トリデ市に布陣するまでは我慢するように!!』



思わず愚痴を言ってた連中の方を見ながら宣言したので、叱責を恐れたのか新兵達は慌てて下を向いてしまった。

放言は若者の特権だと思うのだが、ここも一応軍隊だからゴメンな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



再度、ゲコ・ケイン組と地球女共に先触れを任せる。

ユノタケ(フクシマ県)なる駅を素通りさせ、セキモト(イバラギ県)なる駅で宣撫をさせるのだ。

俺は再度レオンティーヌの肩に乗り本軍の先頭に立つ。


うん、やはり寒気を消して正解だったな。

少しは快適になった。

【魔王軍遠征部隊】



『ポール・ポールソン』 


大魔王救出作戦総責任者/魔王軍総司令官・公王。

ポールソン大公国の元首として永劫砂漠0万石を支配している。

万物を消滅させる異能に加えて、アイテムボックス∞を隠し持っている。


首長国テクノロージーの粋を尽くした指揮官用X507改を乗機としている。

機体愛称はレオンティーヌ。




『ノーラ・ウェイン』


軍監/四天王・憲兵総監。

ポールソン及び後任者のカロッゾの監視が主任務。

レジスタンス掃討の功績が認められ、旧連邦首都フライハイト66万石が所領として与えられた。


配下軍団と共に乗機がオーラロードを侵攻中。




『カロッゾ・コリンズ』


地球クリーン作戦総責任者/四天王・前軍務長官。

本領は自らが大虐殺の上に征服した南ジェリコ81万石。

旧名カロリーヌ。


配下軍団と共に乗機がオーラロードを侵攻中。




『レ・ガン』


元四天王・ポールソン大公国相談役。

市井のゴブリン女性であったが、親族が魔王職に就任したことを切っ掛けに駐ソドムタウン全権に任命された。

魔界の権益保護の為、統一政府に様々な協力を行っている。


種族の慣例に従い、ゴブリン種搭乗員に対しての機体愛称授与を行っている。




『出原信之』


地球人。

捕虜兼現地徴用兵。

塹壕内ではノーラ・ウェイン、カロッゾ・コリンズの2名の将校部屋にて生活する事を強いられている。


ノーラ・ウェインのトルーパーに愛玩動物として搭乗する事が決定した。




『ジミー・ブラウン』


大魔王救出作戦副将/ポールソン大公国宰相。

ポール・ポールソンの無名時代から扈従し続けてきた腹心。


レオンティーヌの複座でポールソンと仲良く搭乗。

大国トップとナンバー2が同機体で戦闘をも行うという革命政権特有の狂気を体現している。




『ケイン・D・グランツ』


前四天王であるカイン・D・グランツの長男にして、摂政コレット・コリンズのクラスメート。

父親から長身と端正極まりない顔立ちを受け継いだ正統派の美少年。


特に訓練を受けた形跡はないがトルーパーの操縦もイケメン補正でお手の物。




『ゲコ・ンゲッコ』


大魔王と共に召喚された地球人。

どんな姿にも変身可能なレアスキル【剽窃】の持ち主。

紆余曲折を経てゴブリン姿でレ・ガンに近侍している。

地球名はカネモト・ピカチュー。


乗機はコルネイユ強硬偵察型。

機体愛称はギーガー。




『キムラ・エリカ』


ケイン・D・グランツのファンガール。

元々親子3代でのジャニーズの追っ掛けだったが、ケインに運命を感じてしまったと目が合ってしまった事で転向。

嫁ぎ先の金品を奪って魔王軍に献上した。


愛機はスズキ・ジムニーXL 4WD。

ちなみに本車両の所有者は配偶者のキムラ・クニヒコ氏である。




『ビル・チャップマン』


ポールソンの馬廻りの1人。

階級は少尉。

父のジム・チャップマンが僭称していた候王号が正式に認定された為、数少ない王族待遇者である。




『ニガホ・タモツ』


ポールの私的な客人。

仙台市に本社を置くタクシー会社「ずんだ交通」の社員。

大魔王のパーティーメンバーである寒河江尚元と面識がある。



『マグダリオン・イル・ギャラルホルン』


ダークエルフ族の長老。

暗黒魔法の達人で衣装を厨二仕様に変化させる秘奥義の使い手だったが、ドナルド・キーンが実生活の役に立つ水魔法を普及させた事により大いに威信を落とした。

孫娘のアネモネが出奔の際に暗黒魔法の奥義書を盗んだので、想定したパフォーマンスが発揮出来ていない。

即興で古代魔法を復活させ、水から軽油を生成する技術を確立した。

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― 新着の感想 ―
ポール、トイチ 最悪のコンビ
トイチが経済を壊して、ポールが気候を壊す…人類絶滅待った無しやん!
トラックとかバスとか手に入れたら使えるね。
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