【遠征日誌08】 蚊
遂に航空兵器の飛来が途絶えた。
全機を俺が消したのかも知れないし、温存態勢に入ったのかも知れない。
「ポール殿、やはり地球人にとっては致命的だったようですぞ。」
『え?
何が?』
「人工衛星でゴザルよ。
地球人は我々が考えていた以上に通信や移動を人工衛星に依存していたようでゴザル。
陸地面積の少ない地球は物流の大半を海運が担っていたとのことなのですが、その航行を人工衛星が管制していたらしいのでゴザル。」
『ふーん、大変だね。』
「相変わらずの他人事感よ。」
ジミーが収集して来た情報によると、地球人はかなり高度な文明を築いていたようだが、最近発生した謎の経済テロ(どうせ大魔王の仕業)と人工衛星消滅(俺の仕業)により、ガチのマジで悲惨な状況に陥ってるらしい。
『なぁ、ジミー。』
「はい?」
『俺も茶番に疲れた。
もう作戦を完遂しちゃって構わないかな?』
…要は大魔王を捜索して保護するだけの話だろ?
俺の得意分野だよ。
何度エルに泣かされたと思ってるんだよ。
「それは例によってヒーローごっこタイムが始まるのでゴザルか?」
『辛辣だなぁ。
でも、兵達の疲労も溜まって来ている。
そろそろ帰還の道筋だけでも立ててやらんと。』
「申し訳御座いません。」
『何故謝る?』
「本来、将兵の任務は総大将を守る事ですからな。
ですが、我が軍に限ってはポール殿に一方的に守られ養われ…
あべこべも極まれりですぞ。」
『俺も余力の範囲でやっている事だ。
気にしないよう、皆に伝えてくれ。』
「ここらで一戦やらせてくれませんか?」
『おいおい。
ジミーまでどうした。
無駄な流血を1番嫌っていたのがオマエだろうに。』
「兵達がこれ以上の後ろめたさに耐えられないのです。
総大将1人に仕事をさせて、自分達は無為徒食。
しかも食料事情まで劇的に改善されている始末。」
『食料に関してはお義父さんとスプ男君のお陰だよ。
俺は何もしていない。』
「…。」
だよな。
その2人を大公国に引き抜いたのが俺だからな。
しかも無理を言ってこの地球遠征に従軍させた。
そう、食料も含めた生活環境の改善すらも全て俺の発案なのだ。
兵達が俺に対して後ろめたさを感じるのも仕方ない事か…
食わせても食わせなくても文句を言われるのだから、軍隊の統率というのはアホらしいなあ。
『だがなぁ。
実際問題、攻める必要すらないからなぁ。』
俺は塹壕の外側に停められた数台の自動車に目をやる。
地球の情報や物資は全てケイン・D・グランツの元に集まって来ている。
別に彼が原住民を恫喝した訳ではない。
地球女達が稀代の美少年である彼の歓心を買おうと貢いでくるのだ。
塩や砂糖、米や果物が山のように積まれている。
(イケメンってホントにムカつくよな。)
侵略軍に絶対に渡すべきでは無いと思うのだが、現地人が発行している新聞や書籍も献上された。
1人だけファンガールに偽装した密偵が居たので消したが、残りは全員純粋にケイン君に惚れている。
さて、献上書籍。
本来、この解読は我が軍の中で希少な博士号取得者である俺とジミーが行うべきなのだが、ダークエルフ達に投げた。
『オマエの言う通り、俺が全部やってしまったら兵達の立場が無くなってしまうよな。』
「申し訳ありません。
書見でポール殿に勝る者などおりませんのに。」
『まあ、《頼りにしてる》って皆に伝えておいて。』
「…承知。」
想定外だった。
俺は軍隊というものは、作戦目的さえ達成すれば良いものだと思い込んでいた。
まさか、拗ねたりイジケたりする兵士の機嫌を取ることまでが仕事に含まれるなんて思わないじゃないか。
もう地球の事は全て把握したので、ここからは俺1人で解決可能である。
その気になれば今すぐにでもミッションを終える事が可能だ。
大魔王だけを残して地球を消滅させれば良いだけなのだから。
30分も経たずに大魔王を担いでオーラロードに帰還する自信がある。
ただなぁ、それをやってしまうと兵士達がヘソを曲げるからなぁ。
さっきも若いゴブリンの兵士が涙ながらに訴えて来た。
戦士として死に場所が欲しいそうだ。
気持ちは分からんでもないが、兵卒が勝手に死に場所を決めるのは統制上好ましくないなぁ。
他にも同調する若手が何人かいて、決死隊へ志願して来た。
『え?
決死って何の?』
「いえ!
もし危険な任務の予定がありましたら是非お役に立ちたいと!
一死を以て公王様の御恩に報いる所存であります!!」
『ああ、そっちの…』
言いにくいので黙っているが、危険は全部俺が消滅させている。
1番焦ったのが地球の湿度だな。
有害生物が無尽蔵に湧いてくる。
特に恐ろしいのが病原菌を媒介する蚊だ。
本国よりも僅かにサイズが小さい気もするが、紛れもなく害虫の蚊である。
当然根こそぎ消した。
あくまで経験則だが、この日本列島から蚊は消滅したと思う。
軍隊行動で1番怖いのは疫病だからな。
その他にも敵諜やら狙撃兵やら無人偵察機やら、兵士の身に危険が及びそうな物は根こそぎ消した。
口に出せば角が立つので黙っているが、そういう事なのだ。
大体さぁ、俺が単なる職業軍人なら君達兵卒を消耗品扱いする選択肢も選べるんだよ。
でも俺は魔王軍の総司令官であると同時にポールソン大公国の君主でもあるのね?
君達は気軽に【一死を以て】とか言うけどさぁ。
実際死なれたら、俺が君達の親御さんに合わせる顔が無くなっちゃうのね。
(ちな、弔慰金を払うのも結局は俺だ。)
若い人達に言っても難しいかも知れないけど、それでも少しは俺の事情も勘案して欲しいのだ。
頼むから塹壕で大人しくしていてくれないかなぁ。
「ポールソン様。」
『これはこれはカロッゾ卿。
何か御用ですかな?』
「小弟もポールソン様のお役に立ちたいと思い…」
『いえいえ、カロッゾ卿のお手を煩わすまでもありません。
提出した報告書の通りですよ。
物資も情報も全てケイン君が入手してくれました。
流石は摂政の御学友です。』
「…ええ、仰る通りです。
グランツ殿の叙勲にも賛成です。
ですが、小弟もポールソン様のお役に立ちたいのです!
如何なる大敵でも討ち取って御覧に入れますので、何なりと御命令下さい!」
『…。』
カロッゾはフラストレーションが溜まった猪武者を装ってているが、実は違う。
この女は自分が命じられている作戦の遂行にしか興味がない。
なので少しでも成功確率を上げる為に前倒しで自軍を地球に召喚したがっている。
その為には現総司令官である俺の許可が必要なのだが、当然そんな許可を出す訳が無い。
なので、あの手この手で探りを入れているのだ。
非難する事は出来ない。
それが彼女の仕事なのだから。
オーラロードの通行には時差がある。
俺の作戦予定が読めなければ、カロッゾも自軍の呼びようがないという訳だ。
最低でもトルーパーを250機投入するつもりらしい。
つまり作戦開始までに着地地点も確保しておく必要があるのだ。
『カロッゾ卿。
引き継ぎを怠るつもりはありません。
現に入手資料は全て共有しております。
卿も地球情勢にかなり詳しくなったのではありませんか?』
「…。」
あ、これは地球に微塵も興味を持ってない目だ。
…俺もこの女も随分好奇心が喪失したよなぁ。
やっぱり軍隊って人間性を容赦なく削るよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて随分と住心地が良くなったこの塹壕。
作ったのはゴブリン種である。
地下種族の彼らは掘削や整地に一日の長があり、俺達人間種から見れば広大な地下空間も簡単に住居化してしまう。
またトリケラトプスを用いた大規模掘削を得意とするオークチームの功も大きい。
おかげでトルーパーも屋内に収容出来た。
こんな快適な軍事基地は生まれて初めて見た。
故にこそ、この拠点を捨てる事を密かに決めた今。
功労者である彼らには真っ先に丁寧なケアをしなければならない。
『諸君らのお陰で超長距離遠征にも関わらず、まだ1人の病死者も出ていない。
これほどまでの大功があろうか。』
常にこういう1言を添えておく必要があるのだ。
俺が単なる職業軍人なら一方的に基地の放棄を伝達すれば良いだけの話である。
だが封建領主の統治とはそんなに粗雑なものではない。
彼らは兵士である前に領民なのだ。
極力、面子を立ててやらねば後の統治に支障を来たす。
『庵主様、内々に申し上げたい事があるのですが…
宜しいでしょうか?』
「おや、総司令官閣下じゃないか。
わざわざ、この老醜を訪ねてくれるとは光栄の至りだね。」
『えっと、そろそろ陣を動かしたいのです。』
「ん?」
『いや、庵主様の許可を取っておこうと。』
「おやおや。
陣地選定は総大将の専決事項だろう。
それをアタシなんぞに相談されても。」
『この陣地はゴブリン種とオーク種が作ってくれたものじゃないですか?
だから頭ごなしに放棄するのも申し訳ないな、と。』
「いやいや、スキルで塹壕の原型を作ったのは公王だろうに。
アタシらは整えただけさ。」
『…あれ?
そうでしたか。』
あれっ?
塹壕掘ったの俺だったかな?
ニックを探すので必死だったからな…
着陣時の事はよく覚えてないな。
『まあ、兎に角。
陣を進めたいのです。』
「あ、うん。
アタシらは公王の命令に従うだけだからね。
で?
次はどこに布陣するんだい?」
『あ、はい。
会議でもありました通り、南下すればこの国の首都なのですが。』
「ああ、トーキョーね。」
『取り敢えずは、恫喝も兼ねてこのトネ川なる大河の手前で布陣します。』
「ああ、大魔王を渡さなければ、河を押し渡って東京に乱入すると…
しかし、みすみす進軍させて貰えるのかね?
かなりの激戦になるんじゃないのかい?」
『あ、もう戦闘は省略する事にしました。
障害物は全消滅って事で。』
「公王も宰相様もスキルを使いっ放しだろう。
負担が大き過ぎるよ。」
『どうせ長くはない身です。
こんな下らない任務で領民を損傷させたくありませんし、この遠征ではスキルの出し惜しみはしないつもりです。
ちなみに俺もジミーもスキルレベルが上がっちゃいました。』
「…実質的に2人で戦争しているような物だね。」
実際、アイツが居れば大抵の問題は解決するからな。
兵士達が拗ねるから口には出せないが…
『庵主様からも皆を宥めておいて下さい。
摂政の影響もあるのでしょうが、最近の若い子は無茶な蛮勇で手柄を挙げようとしますから。
見ていて気が気でないんですよ。』
「アタシは公王の影響も強いと思うけどね。」
『だとしたら嫌ですねー。』
「分かった。
皆の体面が傷付かないように基地を放棄するんだね。
そしてトネ川の手前で作り直すと。」
『ええ、なので特別部隊を編成します。
トリデ市にはこの橋型道路を用いて進軍するのですが…
この入り口を占拠する為の先発隊ですね。』
「ああ、ジョーバン道だね。
これ本当に使えるのかい?」
『インターチェンジなる関所からではないとトルーパーやトリケラトプスを搬入出来ないんですよ。
なので、このナラハ関を制圧します。
まあ、まずは先に中間点のタツタ駅ですね。』
ナラハ関に向かうまでの間にタツタなる駅が存在する。
いずれ魔界や大公国にも鉄道は敷かれるだろうし、皆に実物を見せておきたい。
特に敷設や整地を任せているオークチームには本場の鉄道運用を学んでいて欲しい。
「ふーん。
まあ、公王のことだから容易く制圧するのだろうがね…」
『それで1つだけ悩んでるんですよねー。』
「また一騎駆けかい?」
『どう考えても俺1人で行くのが1番なんですけどね。
それを言ったらみんな怒るでしょ?
最近は若い子達が恨みがましい目で俺を見て来るんですよ。』
「怒るだろうねぇ。」
『なので、次は志願者を連れて行きます。』
「ああ、
公王が先陣を切ることは決定なんだね。
いや、世間の総大将は全員後方でふんぞり返ってるものだけどね。』
『ですが魔王ギーガーは身に四刀七槍を受けても陣頭で指揮を執り続けたと聞いてます。』
「…今は昔の物語さ。」
『それを踏まえてです。
人選に困っておりまして。』
「何個師団連れて行くんだい?」
『あ、いや。
一個分隊でもしんどいのですが…』
「…酷い大将だ。」
『ほら、俺って昔は掃除屋だったじゃないですか?
その時も多くて数十名の引率が上限だったんですよ。
本来その程度の男なんです。』
「でもウェイン四天王は孤児院上がりなのに頑張ってるよ?」
『いやいや、あの人はローティーンの頃から大人を顎で使ってましたから。
俺なんかとは格が違うんですよ。』
あの頃のノーラ・ウェインはまだ幼年学校生の年頃だったが、【店番屋】なる独創的なビジネスを発案し数百名の大人を各所に派遣労働させて口銭を取っていた。
そりゃあ四天王にもなるよな。
俺はノーラとは真逆だ。
性分的に組織が肌に合わない。
勿論下っ端も務まらないし、大将然としてふんぞり返るのも嫌いだ。
だから今の生活は苦痛で仕方ない。
…世捨て人になったドナルド・キーンが羨ましい。
俺も暢気な旅人になりたい。
『本当は誰も連れて行きたくないんですけど。
どうすればいいですかね?』
「もう全軍で動けば?」
『迂闊にそれをすると全面戦争に突入しちゃいますからね。
地球のどこかに居るであろうニックや大魔王の身に危害が及びかねません。』
「なら。
もう答えは出ているんだね。」
『ええ。
まあ、丁度適任者がおりますから。』
「なるほど。
それでアタシに話を通しに来た、と。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『やあ、ゲコ君。
呼び出してしまって済まないね。』
「いーえ。
お互い仕事ですからね。」
『前線を上げる事に決めた。』
「…はい。」
『この地図を見てくれ。
全軍ジョーバン道を南下し、イバラギ県トリデ市に布陣する。』
「…利根川を防衛線にして首都圏に睨みを利かせると言うことでっか?」
『話が早くて助かるよ。』
「…。」
『で、先発してジョーバン道の入口を占領する部隊が必要だ。
ますは進路上にあるタツタ駅を占拠してからだがな。』
「あ!
今回のオチが見えた!」
『最初は私が1人で同地を占領する予定だった。』
「このオッサンならやれてしまうやろなー。」
『と言うより、今でも自分が適任者であるという判断は揺らいでいない。
てか、【もうオマエら足手まといだから全員帰れよ】とすら思ってる。』
「そんなんもはや軍隊ちゃいますやん。」
『だから次戦では皆に花を持たす事に決めた。
希望者を同行させてあげようと思ってね。(チラッチラッ)」
「…じゃあボクは残留組を志願します。(プイッ)」
『とりあえず、地球人に対してここでトルーパーを見せておく。』
「ふーん。」
『私はレオンティーヌで出撃する。(チラッチラッ)』
「いってらっしゃい。
公王様の逆武運を祈っときます。(プイッ)」
『勿論トルーパーの単騎運用など自殺行為だ。
なので僚機が必要になって来る。(チラッチラッ)』
「えっと、単騎運用の危険性が理解出来てるのなら、1人でフラフラするのはいい加減やめて下さいね?
キチガイ共を宥めてるのボクですからね?」
『え?
どのキチガイ?』
「アレとかアレとか。」
『ゴメンねぇ。
アイツらちょっとおかしいんだよ。』
「いーえ。
公王様よりはマシですんで。」
『そうかなー。
私はマトモ寄りだと自負しているんだけどなぁ。
まあいいや。
それではナラハ関の制圧部隊のメンバーを発表します。』
「…。」
『はくしゅー。』
「(プイッ)」
『大将、私。』
「…。」
『そして相棒枠!
な、な、な、なーんと!
ゲコくーん!』
「拒否しまーす。」
『うん。
でも、ゲコ君には後で庵主様から正式に命令が下ると思うよ。』
「ぐぬぬ。」
『じゃ、機体の最終チェックだけ済ませておいて。』
「ちな、出撃は何時ですか?」
『え?
ゲコ君のチェックが終われば出るけど。』
「…。」
『まあまあ、地球人の生存率を上げるチャンスだよ。
君もアレコレ思案してたんだと思うけどさぁ。
状況を変えたいなら最前線に張り付いるのが1番だから。』
「…公王様が東奔西走しておられた話は皆さんから伺ってます。」
『ご感想は?』
「ボクの様な凡人は公王様の百倍は奔らんとアカンな、と。」
『君ならきっと成果を出すだろう。』
「…1つお願いがあります。」
『んー?』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
首都トーキョーまでの進軍に関しては軍議で決定済なので文句は出なかった。
ジョーバン道を用いる事も諸将の賛同を得ている。
タツタ駅を占拠し中間点を確保してから後、ナラハ関に先鋒が突入。
まずはこんな感じで強く当たって後は流れで。
問題は先発隊の人選である。
塹壕中から志願者が殺到した。
当然だろう、皆が戦闘に飢えているのだ。
特に若手は功を焦っている。
「まだ我々は1人の地球人も討っておりません!」
扉の向こうから下士官の嘆願が響く。
そりゃあね。
コイツらは手柄を立てる気満々で転移して来てるからね。
《遠征したけど手柄首はゼロです》では故郷に帰れないよね。
『ジミー。
タツタ駅の占拠部隊への志願を認める旨の布告を出して。』
「承知。」
当然、兵士達が嬉々として志願する。
ぶっちゃけ塹壕生活に飽きていただけだと思うのだが、口々に祖国や俺への忠誠を唱えている。
『なあ、ロベール。』
「はい?」
『ニックさえ居ればオマエを遊撃で使えたんだがなぁ。
ゴメンね。
負担全部行っちゃってるでしょ。』
「ははは、兄さんのお役に立てているだけで満足ですよ。
ニックもすぐに見つかります。
気にせず何でもご命令下さい。」
ロベールとニック。
この2人の義弟こそがまさしく俺の両手である。
両手が別動隊を率いて常に動き続け、ジミーという胴体が全体を支え、俺という頭脳が作戦立案と状況判断に専念する。
いつの間にか確立されていたこの体制が機能したことで、大公国は無事に建国された。
上手く行っていたのだ。
だからこそ、ニックが欠けた事で俺のパフォーマンスは著しく落ちている。
ロベールとジミーに対してもとてつもない負担が掛かっている。
『本営にはジミーが残る。
ジョーバン道の確保と同時に陣地を引き払って全軍を率いて先遣隊と合流させる。
ロベールはタツタ駅を保持しろ。
出来るな?』
「はい!
行けます。」
『地球人の狙いは分かるか?』
「我々の誰かを捕獲する事です。」
『そうだ。
彼らは今、情報に飢えているからな。
特にゴブリン種・オーク種・エルフ種は地球に存在しない種族だそうだ。
形振り構わず虜囚にしようと目論むだろう。』
「尋問というより解剖を目的にしそうですねよ。」
『だろうな。
俺が地球人ならそうする。
なのでロベールの任務は極めてシンプルだ。』
「捕虜を取らせないということですね?」
『うん。
今は大抵の敵を俺が消滅させてるんだけどさ。
この先も拉致を試みると思うよ、彼らは。
…死体すらも絶対に渡すな。』
「はい!」
『ブリーフィングでも説明した事だが彼らはDNA鑑定なる技術を保有している。
髪一本からでも情報を手繰れるんだ。』
「万が一死者が出た場合はストックしてある火魔法で処分します。」
『若い連中はイマイチ戦争を理解してないからな。
ロベールからも念を押しておいてくれ。
騎士物語は絵本の中だけの話だってな。
そしてどうやら地球も同様らしい。』
「如何に情報優位を保ち続けるかですね。」
『ああ、その通りだ。
絶対にバラけさせるな。
タツタ駅を占拠したら即座に警戒態勢。
点呼を怠るなよ。』
ロベールは無言で頷く。
篤実な男だ、かならず成し遂げるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ィオッゴ常務。
人間種のコックピット規格で申し訳ないが。』
「ご安心下さい!
乗りこなせております!」
『分かった。
レオンティーヌの操縦は一任する。』
レオンティーヌの操縦は遊牧ゴブリンのィオッゴに任せ、俺は肩部バルカンに腰掛ける。
懐かしいなあ。
まだトルーパーがゴーレムなんて呼ばれた頃にも肩に乗ったなぁ。
あの頃から比べて乗り心地は飛躍的に向上した。
「ゲコ・ンゲッコ、北搬出口から発進します!」
無線機からゲコの声が聞こえる。
振り返ると、その機体には俺同様にケイン君も肩部に立っていた。
進軍に当たってゲコが俺に出した条件。
【ケイン・D・グランツを軍の前面に立てること。】
妥当な条件だと思う。
ケイン君のソフトな物腰と美貌は、無用な戦闘を回避し得る確率を大いに向上させるだろうから。
『部隊に通達!
ただいまより本軍はタツタ駅の制圧を開始する。
先鋒はキムラ・エリカ。
乗機はスズキ・ジムニー。
当該車両が攻撃されないうちは、こちらも絶対に地球人に攻撃するな。』
「キムラ?」
不審気にィオッゴが呟いたので慌てて補足する。
『キムラ・エリカは現地徴用兵である。
当面はグランツ卿の旗下で行動する。』
そう、グランツ卿なのである。
貴族制を打倒した統一政府には革命貴族が誕生した。
【革命は正しいので革命幹部は偉いのだ!】
という訳の分からない理屈が何故かまかり通っており、特に四天王やその身内は貴族扱いである。
前四天王カイン・D・グランツも指名手配の身でありながら貴族っぽい位置づけ。
(大魔王擁立にとてつもない功績を挙げてるからね。)
その息子さんのケイン君も政権内で優遇されている。
摂政の御学友である上に超絶イケメンなので、その崇敬ぶりは言葉では言い尽くせない。
なので、(勝手に)地球女を部隊に組み込んでも誰からも苦情が来ないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【ナラハ関占領部隊】
「先鋒隊」
キムラ・エリカ
ノノイチ・リナ
ハラ・チエ
キッカワ・ユリコ
サカイ・マナ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この五名がそれぞれの自家車両に搭乗し部隊に先行。
軍移動を円滑に進める為の宣撫を務める。
栄誉ある魔王軍の先陣を素性も分からぬ原住民に任せるなど言語道断なのだが、ハラ・チエはコメ1㌧を貢納してくれたし、サカイ・マナが献上したイラスト付き百科事典は我が軍の地球理解を大いに助けた。
なので、あまり粗略にも扱えない。
まあいいか、大魔王も地球人だしな。
その捜索に地球人を抜擢するのはある意味自然かも知れない。
「公王様、視界は如何ですか?」
『ああ、問題ない。
ィオッゴ常務!
ちょっとスピード落として。』
「え?
はい!」
『…。
よし、速度戻していいよ。』
「何かありましたか?」
『いや大きめのカトンボが目障りだっただけさ。
常務は操縦に専念してくれ。』
「了解!」
地球側はプロペラ機なる形状の航空機を出して来た。
それも軍用ではなく民間用のカラーリングだ。
やはり地球側は高い確率で軍用の航空兵器が尽きかけているな。
その後も2機消滅させたが、どちらも軍人の気配がする民間機。
やれやれ、地球側は早く理解してくれないかな。
例え刺されなくとも、俺はその羽音に我慢する気がないんだよ。
【魔王軍遠征部隊】
『ポール・ポールソン』
大魔王救出作戦総責任者/魔王軍総司令官・公王。
ポールソン大公国の元首として永劫砂漠0万石を支配している。
万物を消滅させる異能に加えて、アイテムボックス∞を隠し持っている。
首長国テクノロージーの粋を尽くした指揮官用X507改を乗機としている。
機体愛称はレオンティーヌ。
『ノーラ・ウェイン』
軍監/四天王・憲兵総監。
ポールソン及び後任者のカロッゾの監視が主任務。
レジスタンス掃討の功績が認められ、旧連邦首都フライハイト66万石が所領として与えられた。
配下軍団と共に乗機がオーラロードを侵攻中。
『カロッゾ・コリンズ』
地球クリーン作戦総責任者/四天王・前軍務長官。
本領は自らが大虐殺の上に征服した南ジェリコ81万石。
旧名カロリーヌ。
配下軍団と共に乗機がオーラロードを侵攻中。
『レ・ガン』
元四天王・ポールソン大公国相談役。
市井のゴブリン女性であったが、親族が魔王職に就任したことを切っ掛けに駐ソドムタウン全権に任命された。
魔界の権益保護の為、統一政府に様々な協力を行っている。
種族の慣例に従い、ゴブリン種搭乗員に対しての機体愛称授与を行っている。
『出原信之』
地球人。
捕虜兼現地徴用兵。
塹壕内ではノーラ・ウェイン、カロッゾ・コリンズの2名の将校部屋にて生活する事を強いられている。
ノーラ・ウェインのトルーパーに愛玩動物として搭乗する事が決定した。
『ジミー・ブラウン』
大魔王救出作戦副将/ポールソン大公国宰相。
ポール・ポールソンの無名時代から扈従し続けてきた腹心。
レオンティーヌの複座でポールソンと仲良く搭乗。
大国トップとナンバー2が同機体で戦闘をも行うという革命政権特有の狂気を体現している。
『ケイン・D・グランツ』
前四天王であるカイン・D・グランツの長男にして、摂政コレット・コリンズのクラスメート。
父親から長身と端正極まりない顔立ちを受け継いだ正統派の美少年。
特に訓練を受けた形跡はないがトルーパーの操縦もイケメン補正でお手の物。
『ゲコ・ンゲッコ』
大魔王と共に召喚された地球人。
どんな姿にも変身可能なレアスキル【剽窃】の持ち主。
紆余曲折を経てゴブリン姿でレ・ガンに近侍している。
地球名はカネモト・ピカチュー。
乗機はコルネイユ強硬偵察型。
機体愛称はギーガー。
『キムラ・エリカ』
ケイン・D・グランツのファンガール。
元々親子3代でのジャニーズの追っ掛けだったが、ケインに運命を感じてしまったと目が合ってしまった事で転向。
嫁ぎ先の金品を奪って魔王軍に献上した。
愛機はスズキ・ジムニーXL 4WD。
ちなみに本車両の所有者は配偶者のキムラ・クニヒコ氏である。




