【転移35日目】 所持金386億8600万ウェン 「ランスチャージって何だ?」
非武装中立地帯。
国際条約に基づき、この広大な岩石地帯に軍を展開させる事は禁止されている筈なのだが…
『グリーブさん、何か普通に兵隊さんが見えるんですけど。』
「皆が国際条約を守るなら、そもそも戦争が起こりませんから。」
『なるほど。』
「私も普通にこの辺に派兵された事ありますよ?」
『え? そうなんですか?』
「普通に公式の派兵命令書を受領して、正規の指揮系統から下りて来た攻撃計画に則って連邦の騎士団と交戦しました。
ちなみに停戦協定期間でしたけど。」
『それ戦争じゃないですか!?』
「今思えば異常ですよね。
ただ問題は、ずっと兵舎で寝起きしていると、命令書に疑問を感じなくなるんです。
多分、どこの国の兵士もそうなんじゃないでしょうか?」
『じゃ、じゃあ。
ここを通り抜ける際に軍隊から攻撃をされる可能性も?』
「いや、どこも貿易収支の改善に躍起になってますから。
キャラバンが軍事的な攻撃を受けることは滅多にないですね。
まあ、他国も愛国フェアを開催中の可能性はありますがww」
『あれは酷かったww
キーンさん曰く、今まではこんな事一度も無かったとの事ですけど。』
「多分、昨今の給料の遅配が原因だと思います。」
『遅配!?
国境検問所なのに?』
「ここ数か月は顕著ですよ。
今に始まった事ではないんですが。
なーんか色々名目を付けて、騎士団やら軍隊へ支払われる給料の支給日が後にずらされてます。
私が現役時代は毎月10日が給料日だったんです。
それが…
退役してからしばらくして15日支給に変更されて。
それが20日、25日と支給日が後に後にずらされて行って…
現在の給料日は毎月の末日になってしまいました。」
『あ、召喚されたメンバーも月末支給って喜んでました。』
「いや、元来月末っておかしいんです。
そもそも月給ってその月に働く事への褒賞じゃないですか?
昔は月初1日が給料日だったんです。
だってそうでしょ、軍人は命を懸けてるんですよ?
月初に給料が貰えないと言う事は、支給日までは戦場でタダ働きさせられるのと同じことです。
やってられませんよ。」
『確かに、危険が多い職業ですものね。』
「もう先月分が支給されてないとおかしいんですが…
最近は翌10日とか翌15日とか…」
『財政難、ということでしょうか?』
「そりゃあ、これだけ教団に資産を抑えられたら…
コリンズさんも見たでしょう?
王国で一番肥沃な田園地帯を抑えられていたのを。
鉱山や製薬会社、山麓沿いの国営牧場も差し押さえ済です。
老人達に言わせれば、《王国は既に終わっている》と。」
…そんな金欠政府が、俺みたいな利殖特化の能力者を追放してどうするんだよ。
別に追い出してくれるのは、そちらの勝手なんだが…
せめて見慣れない物を確保したら使い道がないか検証しろよな…
「各国の軍隊が距離を取りながら牽制し合っているな…
いつもはこんな事ないんですけどね。
かなりキナ臭くなって来ました。」
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昼過ぎまでは、各国の部隊を避ける様に車列を進めていた。
途中、難民キャンプがあったので小休止。
ここは連邦への亡命を希望する王国難民グループと、王国への亡命を希望する連邦難民グループにとっての休息ポイントなのだそうだ。
両国の難民は共に重税を苦に故郷を逃散してきたとのこと。
聞けば連邦政府も神聖教団に対して莫大な債務を負っており、増税に次ぐ増税で何とか予算編成を行っているとのこと。
国民にとっては行くも地獄帰るも地獄である。
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15時。
突然、幌越しにダグラスの怒声が響く。
「2時の方向!
重装の騎士団!
こちらに真っすぐ向かって来る!!
迎撃態勢!!
そのまま突っ込んで来るぞ!!」
「フォーメーション崩すな!!!
30秒後ッ、ランスチャージ来ます!!!
馬車内っ!!
対ショック姿勢!!!」
幌の中からは何も見えず、何も分からないが…
護衛団の声色は尋常ではない。
ランスチャージ?
ランスチャージって何だ?
思いながらもコレットとヒルダを抱き寄せて、本能的に身を縮める。
荷台の床越しに雨音が聞こえて徐々にその音が大きく…
馬蹄音?
そう思った瞬間、激しい衝撃と共に天地がひっくり返った!
馬車ごとひっくり返された!?
全身に激しい激痛!
頭部を激しく打って世界が光る様に白んで消えた。
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い、痛い。
全身、特に左腕と腰が痛い。
骨でも折れたのだろうか?
痛みで息が出来ない。
何が起こった?
理解不能。
ただ俺がかなりのダメージを受けた事だけは理解出来る。
意識があるのか無いのかすら分からない。
や、やばい。
指先がビリビリ痺れている。
これ、マジで致命傷を負ったんじゃないか?
「コリンズ社長を予備車両に移します!」
「ハンスがやられた!!」
「1号車両はもう駄目だ!」
「すぐに出るぞ!」
「コリンズ! コリンズの容体は!?」
「回収! 急いで回収!」
何だ?
何が起こっている?
皆に尋ねたいが、身も起こせないし声も出せない。
あれ?
俺、死ぬのか?
「…リンズ!!!」
「コリンズ!!!」
『…あ …あ』
「よし息はあるな!?
奥様、引き続きお願い致します。
みんな、ボスは無事だ!!
車速を落とさずこのまま突っ切るぞ!!!」
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『…こ、コレット?』
「リン、安心して。
戦闘は終わったから。
今は敵影無し。」
『敵影?』
「ゴメンね、私達の独断だけど1号車両は放棄しました。
今、私達が乗ってるのは予備車両。
金庫・アイテムは全てこちらに移しました。」
『あ、ああ。
コレット達が対処してくれたのか…
肝心な時に… 痛ッ!』
「まだ起き上がらないで!!
エリクサーの回復効果でも、すぐには完治しないから!」
『す、すまない。』
「リン、聞いて。
首長国ルートは諦めたの。
規模の大きな戦闘が見えたから。
今、迂回して連邦ルートを通ってます。
勝手に決めちゃってゴメン。」
『い、いや。
戦闘を避けるのは賛成だ。
多少の遅延は問題ない。』
「…リン、コレットが今《戦闘》と言いましたが
キーン社長は《戦争》が再開されたと見立てています。
帝国と首長国、双方の騎士団旗を確認しています。」
『そうか。
俺が判断したり決断したりする事はある?』
「リンの回復を確認してから、三家の意思確認。
その後、連邦側の検問所に向かいたい、とのことです。」
《よしわかった。》
と答えたつもりではある。
が、それが声になっていたのか、いなかったのかは分からない。
…吉岡、渡辺。
死ぬ時ってこんな感覚だったのか?
怖かった? 痛かった?
俺さぁ。
地球に居る時、もっとオマエらとも話しておけば良かったよ。
嫌な態度ばっかり取ってゴメンな。
【名前】
リン・トイチ・コリンズ
【職業】
流浪のプライベートバンカー
【称号】
ファウンダーズ・クラウン・エグゼクティブ・プラチナム・ダイアモンド・アンバサダー信徒
【ステータス】
《LV》 20
《HP》 (1/4)
《MP》 (3/3)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 4
《幸運》 1
《経験》 542万9553ポイント
次のレベルまで残り486万7023
【スキル】
「複利」
※日利20%
下8桁切上
【所持金】
386億8600万ウェン
※カイン・R・グランツから14億ウェンを日利2%で借用
※ドナルド・キーンから82億ウェンを日利2%で借用
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
【常備薬】
エリクサー 60ℓ
【コリンズキャラバン移動計画】
「12日目」
中継都市ヒルズタウン (宿が込んでた。)
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侯爵城下町 (風光明媚な土地だったらしい)
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大草原 (遊牧民を買収した。)
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教団自治区 (10億ウェンカツアゲされた)
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王国天領 (プロポーズした。)
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伯爵城下町 (落ち武者狩りの駄賃で通行)
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諸貴族領混在地 (5億ウェンで伯爵領購入交渉中)
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王国軍都 (護衛団フルチューン)
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王国側国境検問所 (秋の愛国フェアに参加)
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非武装中立地帯 ←今ココ
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連邦or首長国検問所 (例の娼婦に付き纏われているか否かで分岐)
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自由都市(連邦領経由なら7日、首長国経由なら5日の計算)