【顛末記34】 侍従長
後宮文化の盛んな国は身分・貧富の格差が酷い。
何故なら、【女】という価値ある資源を少数のオスが独占している証拠だからである。
なので強権が私欲の為に運営される国家ほど後宮の規模が巨大化する。
断言しよう。
名君とは女を独占しない君主を指す。
絶大な権力や財力を持ちながらも、女を囲わない君主が仮に存在したとしたら。
その者こそ神君である。
もっとも、歴史上そんな殊勝な君主は殆ど見当たらない。
天下を制覇した者は臣下の性欲になど目が向かないのである。
それどころか、ただ己の欲を満たさんと権力を濫用するばかり。
強欲な君主達はあらゆる理由を付けて、この暴虐を正当化しようとする。
【初夜権】などという愚かしい概念は、まさしくその不正義の産物である。
【初夜権】を現代までシステム化して運用していたのは、たったの2カ国。
即ち、今滅亡の危機に瀕している東方文明圏と近年滅びた首長国である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゾンビホースやスケルトンバッファローが大量発生している。
アロサウルスの群れは何とか第2陣を消滅させたが、次の群れがダークエルフのオアシスの付近に出現したらしい。
帝国の観測班も砂漠の拡大スピードが加速している事を示すデータを送って来た。
やはり、この永劫砂漠の地下深くで何かが起こっているのだ。
もう一刻の猶予もない。
「1人で潜るとか常軌を逸してますわ。
アンタ王様ですやん。」
『…すまないねぇ。』
「いや、ボクに謝られても…
せめて探索師団の形式を踏みましょうよ。」
『…分かった。
探索師団の隊長は私。
副長はゲコ君。
総員2名、突入するぞ。』
「いやいやいや。
子供やないんですから。」
否定しながらもゲコは微かな反響音から地底空間のマッピングを行ってくれている。
自分でもよくないと理解しているのだが、便利な男なのでついつい危ない橋に付き合わせてしまうのだ。
遊び半分でトルーパーに乗せてみたら適性があったので極秘に訓練も始めさせた。
(コブリン種は平衡感覚が非常に優れているのでトルーパー操縦に向いている。)
『バレたら私が確実に処刑されるから気を付けてねー。』
「トルーパーを隠し通せたとしても、公王様は何かの罪状で殺されると思いますよ?
地底に1人で潜るのも、厳密には軍規から逸脱してますからね?」
『そんな軍規あったかな?』
「総大将の単騎斥候とか、大抵の軍隊で禁忌なんとちゃいます?
知らんけど。」
『分かった。』
「ほっ。
ようやく理解してくれましたか。」
『手早く済ませるわ。』
「このオッサン何1つ分かってへんなー。
頼むから、死なんとって下さいよ!」
『お、ゲコ君は心配してくれるのかい?
いやあ、若者と情が通じるのは素晴らしい事だねえ。』
「アンタが死んだら親衛隊のヘイトが全部ボクに回って来るんですわ。
公王様にはあのキチガイ女共のデコイとして末永く頑張って貰わな。」
『私、近いうちに粛清されると思うから、後は頑張ってね。』
「そ、そんな!
公王様ー!!!!
死なんとってーーーっ(涙)!!」
『ふふふ。』
砂漠の地下に異変の原因となった何かがある。
俺は単騎で潜砂し、その何かを消滅させる。
シンプルな話なのだが障害が多い。
君主としての雑務が俺の時間を容赦無く奪うのだ。
その際たる存在が隣領のグレード・オアシスに遷都して来た摂政である。
親衛隊を引き連れて頻繁に我が国を来訪する。
(入国拒否=叛逆罪なので泣く泣く歓待している。)
この女の顔など見たくもないのだが、唱える世界構想には聞き入るべき点が多く、ついつい話し込んでしまう。
特に東方鎮定後の統治方式。
早急に決めて置かなくてはならない。
「東方の天領化には私も反対です。
ダンに火中の栗を拾わせたくありません。」
『ええ、彼らが平穏な社会を構築するまでは最低でも半世紀を要するでしょう。
そんな不安定な地域を魔王様が抱え込んでしまうのは、あまりにリスキーです。
必ず現地人の王を立て、恨みはその者に集中させますように。
ただし、畏怖と感謝は魔王様に向かわせなくてはなりません。』
「ふむ。
先日、ハロルド皇帝とも相談したのですが、そんなに上手く行くものでしょうか?」
『現地王に最高裁判権までは与えないこと。
人心を得てない判決に対して魔王様が再考を促す制度が必要です。
また、酷吏悪官に対する処罰権も魔王様が…
いや、これは直接持たない方がいいですね。
監査部署をそろそろ整備しましょう。
申し上げにくい事ですが…』
「ええ。」
『現状、百官の賞罰は摂政の専決事項です。』
「ご指摘の通りです。」
『現状、とても上手く行っております。
ただ、これだけ統治範囲が広がった今、人治に正当性を持たせにくくなりました。
現時点で摂政は十分世界をカバー出来ております。
ですが、不本意な判決を受けた者は摂政の壟断により自分が不当に罰されたと吹聴するでしょう。』
「私の耳に届いてないだけで、すでにそうなっているのでしょうね。」
『政治腐敗の第一歩であることは重々承知なのですが、制度と法令を定める事を強く推奨します。』
言っててアホらしくなる。
変革期の政治など天才の独裁がベストに決まっている。
しかも眼前の少女はまだ14歳で誰よりも長い健康寿命を保持しているのだ。
(おまけに誰よりも潔癖である。)
だが、魔王ダンへの権力継承にとってはこれ以上のマイナス要素はない。
後の天下静謐の為には、何としても完璧な人治から欠陥だらけの法治に移行しておく必要があるのだ。
人知を超越し過ぎていて、その偉業に再現性がない。
これこそがコリンズ夫妻の致命的な欠点。
「…私は構わないのですが。」
『はい。』
「システム化すれば最初に罰されるのは公王ですよ?」
『否めませんな。』
「システムによる厳格な統治。
これに関しては侍従長が強く進言しているのです。
怠ればダンの元服後に禍根を残すと。
正論だけに、私も無下には出来ず。
押し切られてしまうでしょうね。」
乳母上がりの侍従長は、子たる魔王ダンの安全と栄光を最優先する。
彼女は元々は捕虜同然の立場だったが、乳母としての実績が卓抜していた為に乳母衆に抜擢され、衆望を得て現在の立場に昇格した。
魔王が最も懐いていることもあり、侍従長の発言力は今や諸将を上回るまでに至った。
『生真面目な方ですから、魔王様の御安全を最優先した提言をなさるのでしょう。』
「侍従長曰く、ダンの安全を脅かす者がこの世界に1人だけ居るそうです。」
そう言ってコレット・コリンズは俺の目を覗き込む。
『…。』
「大丈夫。
私は楽観しております。
例えその様な危険人物が存在したとしても、国士無双と名高い公王が必ずや誅戮してくれるでしょうから。」
『善処します。』
こういうパワハラが日々繰り返されているのだ。
誰か代わってくれないかなー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、統一政府は不本意ながらも砂漠の向こうの東方文明圏を吸収することとなった。
(なので如何に直接統治せずに済むかを統一政府は思案している。)
経済的にも軍事的にも優位に立っている我々ではあるが、他に選択肢がないのだ。
何故なら、とてつもなく大規模な地主殺しが彼の地で始まっているからである。
断片的にしか情報が入って来ないので正確に現状は分からないのだが…
役人という役人が惨殺されているらしい。
それこそ末端の捕吏や獄吏の親族まで殺されてるとのこと。
辛うじて俺の宮殿に辿り着いた東方貴族は涙ながらに「農奴を煽動するのは止めて下さい。」と訴えた。
何か気の利いた返答をしなければならないと思って考え込んでいると、いつのまにか貴族氏は事切れていた。
困ったことに、俺達統一政府は農奴を煽動していない。
彼らは煽動されたから地主を殺害している訳ではなく、憎いから殺しているのだ。
俺も資料を読んだだけなので断定的な事は言えないのだが…
九公一民+労役+軍役などを課していれば、そりゃあ恨みも買うだろう。
そして、あまりに不快な話なので詳細は語りたくないが【初夜権】の濫用。
俺も最愛の人がその被害を受けただけに、断じて寛容な視線を向ける事が出来ない。
いずれにせよ。
生きてここまで辿り着いた東方貴族は数名だけである。
逆に蜂起した農奴側の使者は数も多いし、組織立っている。
彼らの主張はシンプル。
「我々を魔王ダン様の天領民にして下さい。」
そりゃあね、何千年も九公一民の圧政に苦しんでいた人達から見たら、二公八民の君主なんて神様みたいなものだからね。
一度魔王ダンの寛治を知っちゃったら…
どんな手を使ってでも、こちら側の民になりたいと思うだろうね。
恐怖政治的な側面は強いものの、統一政府は概ね善政を敷いているもの。
税率は二公八民と極めて軽く、人民住宅や人民農園などの公有インフラが発達している。
向学心の強い者に対しては技術官僚のキャリアパスが開かれている。
何より、政権の中核を担っている摂政とハロルド皇帝は透明性の確保に真摯である。
東方の支配層はこの事実を必死で人民に隠していたらしい。
が、当たり前だが話は自然に広まった。
隠せると思う方がどうかしている。
特に摂政コレット・コリンズの清貧な生活態度は、無学な東方農奴にとってもあまりに分かり易かった。
摂政は兵士と同じ天幕で起居し、兵士と同じ軍服に身を包み、兵士と同じ食事を取っている。
身辺周りの清掃は常に自分で行っている。
華美を厳しく戒め、宝飾やドレスといった贅沢品を頑なまでに遠ざけている。
それでいて人民の装飾を一切掣肘していない。
とある村落の側を摂政が所用で少数行軍していた際、豊作祈願の祭礼が行われていた。
派手に着飾る村娘達の横を粗末なゴブリン外套を纏ったまま通り過ぎた。
あまりに質素であまりに静粛だったので、村人達は摂政を下士官か何かと思い挨拶すら行わなかった。
最近になってあれが摂政であったと知り村長が慌てて謝罪に駆け付けたが、摂政は柔和に笑って村の経済状態が順調かを尋ねただけだった。
コレット・コリンズの凄味は、この手の逸話が無数にあることだった。
本人は自己宣伝を激しく嫌ってはいるが、政治的美談の数々は既に人口に膾炙している。
彼女と比較されるのはあまりに酷であるが、現在進行形で人民に惨殺されている東方の貴族婦人達は摂政と真逆の絢爛豪華な生活を送っていた。
「盗んだ税金で何を飾れと言うのか。」
御一新直後、莫大な献上品を拒絶した時のコレット・コリンズの台詞である。
無論、当時の政治情勢からして東方を意識した台詞ではない事は明白なのだが。
結果として、この時の摂政の台詞が現在の東方情勢を決定した。
宿屋の小娘に過ぎない事、母と覇を競った事、戸籍的には魔族であること。
それら全てを知った上で、東方人民はコレット・コリンズの統治を望んでいる。
大魔王の神話はその妻によって歴史に落とし込まれたのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺の中で結論は出ている。
この世界と人民にとって摂政は必要不可欠。
そして摂政体制にとっての邪魔者こそが…
『まぁ、確かに俺の存在は魔王ダンにとっても脅威だよな。』
「先王の功臣は次代にとっての障害でゴザルからな。」
『功臣も何も、俺は大魔王に対して特に手柄は無いんだけどな。』
「魔界での御即位に立ち会われたでゴザロウ?」
『ついでに拉致られただけだよ。
まさかあんなのがターニングポイントになるとは思わないだろ?』
懐かしいなあ。
俺と大魔王が港を散歩してたら、魔族の港湾労働者達に騙されて誘拐された事件。
怒り狂って奪還に来た摂政達が魔界で洒落にならない規模の大量虐殺を行った。
「あの当時は魔界など滅亡寸前の最貧国でしたからな。
魔王などという聞き慣れない響きも、未開種族の蛮称と皆の笑いものだったでゴザル。
それが、まさか天下人の役職名になるとは…」
『世も末だな。』
「…ポール殿。」
『分かっているさ。
別に魔王や政権を批判している訳ではない。』
俺はただ過ぎ去った日々を懐かしんでいるだけなのだ。
決して戻らない、あの美しき日々。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ゲコ君、音響マッピングは終わった?』
「公王様!?
摂政殿下との会談中でしょ!?」
『終わったから、ここに来たんだよ。
東方には平和維持軍10万を投入する。
候補者リストの中から使えそうな者を現地王に抜擢して完全独立を保証するが、徴税権と裁判権に関しては統一政府が最終決定権を保有する。
移民・難民は認めないが流入数が増えるなら、その数に比例した面積の領土を東方から接収し、統一政府が立法権・人事権を持った特別自治区を設立拡張する。』
「あっさり決まりましたね。」
『だって俺も摂政もこれ以上の妥協案を思いつかなかったもの。』
「まあ、お二人の意見が一致したなら、それが最適解なんでしょ。」
『1つ問題があってさ。』
「はい?」
『平和維持軍の総大将を押し付けられちゃったんだよねー。』
「いや、押し付けも何も公王様は総司令官なんですから当然やないですか。
大体、公王様が就任を拒否したらカロッゾ卿が総大将でしょ?
東方人が絶滅してまいますよ?」
『それな。
奴は絶対にジェノサイドに持っていくからな。』
カロッゾが攻めた先では必ず未曾有の規模の大量虐殺が発生する。
本当に血も涙もない。
命乞いを受け付けた前例すらない。
「ええことですやん。
摂政殿下は殺戮の天才ではなく侵略の天才を選びはったんでしょ?
東方人にとったら最後の蜘蛛の糸や。
公王様に手間さえ掛けさせへんかったら、後任のカロッゾ卿に殺されずに済む。」
『アイツと名前を並べられるのは辛いな。
それに侵略って…』
「知らんかったんですか?
世間はずっと前から公王様とカロッゾ卿をワンセットの戦争兵器として認識してますよ?」
『マジかー?
近年最大の驚きだわー。』
「いや、民衆からしたら公王様に自覚が欠如してるのが最大の脅威やとは思いますけどね。」
『参ったなぁ。
私、侵略なんてしたかなぁ?』
「ははは、笑えんわ。
公王様は征服速度が速すぎるんですよ。
相手が認識する間もなく全てを征服している。
本人にさえその認識が無いのは流石に呆れますけど。」
征服?
したかなぁ?
そうかな?
そうかも。
思えばカロッゾもあまりジェノサイドの自覚がない。
俺は会議で何度も奴の蛮行を糾弾したが、不思議そうな顔で見返されただけだった。
あの時は叩き殺してやろうと思う程に腹が立ったが、世間から見た俺も案外カロッゾと似たような生き物なのかも知れない。
ゲコの軽口かと思ったが、【殺戮の天才】【侵略の天才】という一対の評価は以前から定着していたとのこと。
…地味に凹むな。
「それにしても会談時間、短過ぎませんか?」
『あの人の政治判断が早いんだよ。
しかも極めて的確と来ている。』
「なるほど、じゃあ公王様がまだ粛清されてないのも?」
『現在の俺には得難い価値があるんだってさ。』
「まだ狡兎が東方に残ってますからね。
どうせ一瞬で狩り尽くしはるんやろうけど。」
『摂政や侍従長は俺を生かしてやる為に遠征先を割り当ててくれてるんだってさ。』
「いやぁ、心温まる御配慮ですなぁ。
普通はギャロ領やら公国やらで10年は時間稼ぎ出来てた筈やったんでしようねぇ。」
『だって、いつの間にか話が付いちゃたんだもん。』
「アレは神速やった。
見てて戦慄しましたから。」
『なので神速で摂政も帰らせた。』
「アウトォッ!
せやから親衛隊の皆さんが怒るんですよ!
ポーズだけでも歓迎の意思を示さな!
摂政殿下に塩対応してるの公王様くらいのモノですよ!?」
『私は無駄話と摂政が大嫌いなんだよ。』
「これは粛清不可避。」
『あの人もあっさりしてるんだよ。
【忙しいから帰れ】って言ったら、ちゃんと帰ってくれるしね。』
「これは粛清もあっさり行われるというオチ。」
『大体さぁ。
王様なんて、どんな無能でも務まるんだから、俺以外の誰かにやらせろよ。
逆に世界の救済なんて俺にしか出来ないんだから、足を引っ張らないで欲しいんだよねー。
一々時間を盗まれるから困るわ。』
「ご、傲岸!」
『じゃあ、ちゃちゃっと砂漠の地下探検しますか。』
「何でそんなに急ぐんですか?」
『先週からポーラがキチガイ期に入っちゃってるからね。
摂政と一緒にクレアの奴が来ちゃってるのもあって、ギャオーンが止まらないんだよ。』
「機会があれば鎮静期の大公妃様にも謁見してみたいものですな。」
『だから、パッと潜ってサッと解決しなくちゃいけないんだよ。』
「妹1人黙らせれへん人間が、よく世界の救済を語れたモンですね。」
『もうさー。
ゲコ君がポーラ貰ってくれない?
ポールソン兄弟4人がかりでも、アイツの脳味噌治せないんだよね。』
「いや、最強兄弟の手に負えん相手は流石にノーセンキューで。」
『あ、そうだ!
ポーラ係に就任してくれたら、今回の作戦参加も免除してあげるよ。』
「打ち合わせ通り中継シフトに入りますわ。
岩盤の位置は突き止めましたから、その真下で機体を固定しときます。
なんかボクだけ貧乏籤引かされてるような気もしますけど。」
『あっはっは。
大丈夫大丈夫♪
落盤でも無い限り、ゲコ君は安全圏♪』
「作戦前に巨大フラグ立てんとって下さいよ。」
ゲコと共に周辺にマーキングを行い、周辺のモンスターを駆逐する。
よし、後は宮殿で作戦図面を起こせば即出発だ。
ポーラのキチゲがMAX解放されるタイミングで俺が不在なのが好ましい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本当に1人で潜るのでゴザルか?」
『だってその方が早いだろう?』
玉座の間に入って来たのはジミー。
茶菓子代わりにエミレニを追っ払う。
「否めませんな。」
『介添え人はゲコ。
俺がアンデッド問題を解決出来なかったら、彼がフォローに回る。』
「随分信頼の篤いことで。」
『いや、アンデッド問題は俺が取り組めば一瞬で解決する。
だから、アイツ位で丁度いいんだよ。
砂漠拡大だの何だのは全然大した事がないから。』
「大したことなくはないでゴザルよ。
原因不明の大異変でゴザル。」
『俺はそういうの絵巻物で全パターン読んで履修済みだから無問題。』
「で?
こういう場合は何が原因なんでゴザルか?
冒険絵巻の大文豪先生に御教示願いたいものですな。」
『昔、オマエにもそういう作品見せてやっただろ。
ラスボスだよ、ラスボス。
大抵は神様か宇宙存在。
俺、そういう絵巻物書いたことあるから知ってるもん。
人知を超越したチートスキルを持ってて、人間をゴミか何かの様に思ってるんだよ。』
「要するにポール殿や大魔王様のような存在が地下でアレコレやっているのでゴザルな。」
『俺も大魔王も人様をゴミ扱いなんかしてないって。』
「人知を超越云々の部分は否定しないのでゴザルな?」
『まあ、大魔王は別格として…
俺は全宇宙で2番目のチートスキル使いだとは思うぞ。』
「そのチートがまるで実生活を益してない件について小一時間問い詰めたいですな。」
『取り敢えず速やかに消してくるわ。』
「もし本当に神様だったらどうするんでゴザルか?」
『人民が求める神は大魔王リン・コリンズのみだよ。
何せおカネをくれるんだぜ?』
「あのまま摂政のデコイとして機能してくれれば、絶対神として終生崇めたのでゴザルがな。」
『大魔王は俺と一緒でそっちの方面は役に立たない。』
「はーつっかえ。」
『ゴメンって。』
「神やら宇宙存在を消すのは黙認しますが、摂政殿下を刺激しない形で頼みますぞ。」
『分った。
こっそり消すわ。』
「一応確認しますが、摂政殿下にスキルは効かないのですな?」
『何度も言ってるだろ。
俺が消せるのは不要物だけ。』
「ああ、それなら無理でゴザルな。
摂政殿下は神話時代を含めても、人類五指に挙がる名君でゴザル。」
『これで俺の粛清に成功すれば、間違いなく人類史第一等の天下人だよ。』
「潔く殿下の偉業に協力する気は?」
『やだよ。
命は1つしか無いんだから仕方ないだろ。』
そんな軽口を叩き合っているうちに準備が整う。
よし、これで潜れる!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
…筈だったのが、邪魔者来訪。
「廃嫡長男♥
御機嫌よう♪
ジミーも元気にしてた?」
『…クレアか。』
「丁度、今までは元気でゴザッたよ。」
『オマエが来るとポーラが発狂するから勘弁してくれ。』
「あら、私が居ない時はどれだけ正気なのかしらね?」
『ゴメン、人の所為にするのは良くなかったな。』
「そんなことより。
良いニュースと悪いニュースがあるわ。
どっちから聞きたい?」
『…じゃあ悪いニュースからで。』
「廃嫡長男の処刑が内定したわよ♥」
「えーっ!?
あれだけやらかして、今まで内定してなかったでゴザルか!?」
「それだけ愛されてるって事よ♪
特に私にね♥」
『あ、うん。
じゃあ次は良いニュースを聞かせてくれ。』
「安心して頂戴♪
処刑は全世界を平定し終わるまでは免除という事になったから♪
のんびりやりなさい、総司令官殿♥」
『ああ、それじゃあ来月までは何とか生き延びれそうだな。』
「自己評価が高いのか低いのかよく分らん人でゴザル。」
「馬鹿ねぇ。
廃嫡長男の為にどれだけ皆が頑張ってると思ってるの。
特に私とかね♥」
『あ、ども。』
「取り敢えず、総司令官の不逮捕特権を刑事訴訟法に盛り込んでおいたから。」
『法律を曲げるのは良くないんじゃないかな?』
「ばぁか♪
不穏分子の廃嫡長男さえ死ねば、曲げずに済む世の中が到来するわよ。
東方征服は理由を付けて目一杯引き伸ばしなさい。
そうね、軍編成だけで3年は粘れるわ。
魔王さえ元服すれば風向きは変わるから、10年は時間を稼ぎなさい。
本気を出して1ヵ月制圧なんてしちゃ駄目よ?」
『俺が本気なら1週間で東方を鎮定出来るんじゃないかな?』
「あのねえ。
これからの時代にそういうミュータントは不要なの。
もう令和よ?
ちゃんとアップデートしなさい。」
『…色々ゴメンな。』
「何はともあれ、これで一安心ね。
廃嫡長男が宇宙規模の超常被害+言い逃れの出来ない大逆罪でも犯さない限り、処刑されずに済むわ。」
『いつもすまないねぇ。』
「いーえ。
愛する廃嫡長男の面倒を見るのは私のライフワークよ。」
『うん、ありがと。
じゃあ用事も済んだみたいだし、暗くなる前に帰れよ。
俺、忙しいから。』
「ばぁか。
本題はここからよ。」
『まだ、あるのかよ。』
「今から、カロッゾのオアシスに向かうわよ。」
『やだよ。
俺がアイツを嫌いって知ってるだろ?』
「向こうは随分買ってくれてるのに?」
『…勘弁してくれ。』
「廃嫡長男の総司令官就任も今までは口頭だけの話だったでしょ?
節刀と総司令官旗の授与式を行うから来なさい。
当主命令よ、拒否は許さないんだから♪」
『おいおい、節刀なら摂政が来る時についでに渡してくれればいいだろ。
どうせ大した用もないのに押し掛けるんだから、次に持って来させろよ。』
「…節刀は魔王ダンから授与されるわ。」
『!?
いや、まだ言葉もロクに…』
「不敬。」
『…。』
「節刀は魔王ダンから授与される。
光栄に思いなさい。
魔王初公務がアナタへの授与式になったいう栄誉を。」
『…。』
「ねえ、私達はここまでお膳立てしてあげてるの。
賢い賢いポールソン君なら、この厚遇を裏切ると言う事が何を意味するか理解出来るよね?」
『…いや、俺は。』
「ポール・ポールソン。
復唱は?」
『…ポール・ポールソンは授与式出席の為、カロッゾ四天王領グレードオアシスに伺わせて頂きます。』
「グーッド。
私、お利口さんは大好きよ。
じゃあ、早速正装を用意しなさい。
武官大礼服、ちゃんと勲章も装着。
まかり間違っても旧時代の勲章なんて着けないこと。」
『…はい。』
「出発は30分後、さあ私はいつでも全力疾走可能よ!
急ぎなさい! ハリーハリーハリー!!!
待ってる間、私はキチガイポーラを煽って遊んでおくから!!」
方向性は違えどポーラと双璧を成しているのがこの女なんだがな。
まあいい、支度しよう。
ほらな?
皆が邪魔するだろ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜、懐かしき魔王ゲルに向かって俺は平伏していた。
篝火の隙間からカロッゾ隊のトルーパーがこちらに照準を向けている。
「ポール・ポールソン。
節刀を授ける。
汝、この刀を以て、敵を討ち、国を守れ。」
懐かしい声。
その謹厳さは母性の裏返しだが、今やその対象は俺ではない。
『…。
一死を以て君恩に報う所存であります。』
夜と言うこともあり、魔王ダンは乳母ナナリーの腕に抱かれて眠っている。
乳母子のキキもまだ幼い筈なのに、女官正装で傍らに控えている。
儀礼用の音曲が途切れると、三方を恭しく掲げたキキがゆっくりと俺に歩み寄って総司令官旗を授けた。
古式に従い俺とキキは輝く軍旗を五拝する。
ただひたすらに痛々しい。
俺がこの子の年齢の頃は愛する人の腕に抱かれて子守歌を聞かされていたというのに。
「魔王様の御期待を裏切らぬように。」
侍従長が節刀を大きく掲げて、俺の首を静かに撫でた。
『…。』
「公王。
魔王様の御期待を裏切らぬように。」
感情のない目で侍従長が跪く俺を観察していた。
『魔王様に全てを捧げる所存であります。』
「…。」
侍従長はそれに対しては何も答えず、寝返りを打ったダンに対して恭しく一礼する。
「公王であれば必ずや期待に応えてくれるだろう、との魔王様の御言葉です。」
『ありがたき幸せ。』
いつの間にか喉が焼け付くように乾いていた。
この悪夢はいつ覚めてくれるのだろうか。
「近く出征命令を下します。
必ずや任務を全うするように。」
『…畏まりました、侍従長閣下。』
勝てば勝つほど、俺の大切なものが奪われていく。
あの黄金のように幸福な日々が不快な現在に圧し潰され続けていくのだ。
「…。」
『…。』
気が付くと魔王ダンも侍従長もゲルに戻っていた。
俺は与えられた節刀をいつまでも凝視していた。
【異世界紳士録】
「ポール・ポールソン」
コリンズ王朝建国の元勲。
大公爵・公王・総司令官
永劫砂漠0万石を所領とするポールソン大公国の国主。
「クレア・ヴォルコヴァ・ドライン」
四天王・世界銀行総裁。
ヴォルコフ家の家督継承者。
亡夫の仇である統一政府に財務長官として仕えている。
「ポーラ・ポールソン」
ポールソン大公国の大公妃(自称)。
古式に則り部族全体の妻となる事を宣言した。
「レニー・アリルヴァルギャ」
住所不定無職の放浪山民。
乱闘罪・傷害致死罪・威力業務妨害罪など複数の罪状で起訴され懲役25年の判決を受けた。
永劫砂漠に収監中。
「エミリー・ポー」
住所不定無職、ソドムタウンスラムの出身。
殺人罪で起訴されていたが、謎忖度でいつの間にか罪状が傷害致死にすり替わっていた。
永劫砂漠に自主移送(?)されて来た。
「カロッゾ・コリンズ」
四天王・軍務長官。
旧首長国・旧帝国平定の大功労者。
「ジミー・ブラウン」
ポールソン大公国宰相。
自由都市屈指のタフネゴシエーターとして知られ、魔王ダン主催の天下会議では永劫砂漠の不輸不入権を勝ち取った。
「テオドラ・フォン・ロブスキー」
ポルポル族初代酋長夫人。
帝国の名門貴族ロブスキー伯爵家(西アズレスク39万石)に長女として生まれる。
恵まれた幼少期を送るが、政争に敗れた父と共に自由都市に亡命した。
「ノーラ・ウェイン」
四天王・憲兵総監。
自由都市併合における多大な功績を称えられ四天王の座を与えられた。
先々月、レジスタンス狩りの功績を評されフライハイト66万石を加増された。
「ドナルド・キーン」
前四天王。
コリンズ王朝建国に多大な功績を挙げる。
大魔王の地球帰還を見届けた後に失踪。
「ハロルド・キーン」
帝国皇帝。
先帝アレクセイ戦没後に空位であった帝位を魔王ダンの推挙によって継承した。
自らを最終皇帝と位置づけ、帝国を共和制に移行させる事を公約としている。
「エルデフリダ・アチェコフ・チェルネンコ」
四天王筆頭・統一政府の相談役最高顧問。
前四天王ドナルド・キーンの配偶者にして現帝国皇帝ハロルド・キーンの生母。
表舞台に立つことは無いが革命後に発生した各地の紛争や虐殺事件の解決に大きく寄与しており、人類史上最も多くの人命を救済していることを統計官僚だけが把握している。
「リチャード・ムーア」
侍講・食糧安全会議アドバイザー。
御一新前のコリンズタウンでポール・ポールソンの異世界食材研究や召喚反対キャンペーンに協力していた。
ポールソンの愛人メアリの父親。
「ヴィクトリア・V・ディケンス」
神聖教団大主教代行・筆頭異端審問官。
幼少時に故郷が国境紛争の舞台となり、戦災孤児として神聖教団に保護された。
統一政府樹立にあたって大量に発生した刑死者遺族の処遇を巡って政府当局と対立するも、粘り強い協議によって人道支援プログラムを制定することに成功した。
「オーギュスティーヌ・ポールソン」
最後の首長国王・アンリ9世の異母妹。
経済学者として国際物流ルールの制定に大いに貢献した。
祖国滅亡後は地下に潜伏し姉妹の仇を狙っている。
「ナナリー・ストラウド」
魔王ダンの乳母衆の1人。
実弟のニック・ストラウドはポールソン大公国にて旗奉行を務めている。
娘のキキに尚侍の官職が与えられるなど破格の厚遇を受けている。
「ソーニャ・レジエフ・リコヴァ・チェルネンコ」
帝国軍第四軍団長。
帝国皇帝家であるチェルネンコ家リコヴァ流の嫡女として生を受ける。
政争に敗れた父・オレグと共に自由都市に亡命、短期間ながら市民生活を送った。
御一新後、オレグが粛清されるも統一政府中枢との面識もあり連座を免れた。
リコヴァ遺臣団の保護と引き換えに第四軍団長に就任した。
「アレクセイ・チェルネンコ(故人)」
チェルネンコ朝の実質的な最終皇帝。
母親の身分が非常に低かったことから、即位直前まで一介の尉官として各地を転戦していた。
アチェコフ・リコヴァ間の相互牽制の賜物として中継ぎ即位する。
支持基盤を持たないことから宮廷内の統制に苦しみ続けるが、戦争家としては極めて優秀であり指揮を執った全ての戦場において完全勝利を成し遂げた。
御一新の直前、内乱鎮圧中に戦死したとされるが、その詳細は統一政府によって厳重に秘匿されている。
「卜部・アルフォンス・優紀」
御菓子司。
大魔王と共に異世界に召喚された地球人。
召喚に際し、超々広範囲細菌攻撃スキルである【連鎖】を入手するが、暴発への危惧から自ら削除を申請し認められる。
王都の製菓企業アルフォンス雑貨店に入り婿することで王国戸籍を取得した。
カロッゾ・コリンズの推挙により文化庁に嘱託入庁、旧王国の宮廷料理を記録し保存する使命を授けられている。
「ケイン・D・グランツ」
四天王カイン・D・グランツの長男。
父親の逐電が準叛逆行為と見做された為、政治犯子弟専用のゲルに収容されていた。
リベラル傾向の強いグランツ家の家風に反して、政治姿勢は強固な王党派。
「ジム・チャップマン」
候王。
領土返納後はコリンズタウンに移住、下士官時代に発案した移動式養鶏舎の普及に尽力する。
次男ビルが従軍を強く希望した為、摂政裁決でポールソン公国への仕官が許された。
「ビル・チャップマン」
准尉→少尉。
魔王軍侵攻までは父ジムの麾下でハノーバー伯爵領の制圧作戦に従事していた。
現在はポールソン大公国軍で伝令将校として勤務している。
「ケネス・グリーブ(故人)」
元王国軍中佐。
前線攪乱を主任務とする特殊部隊《戦術急襲連隊》にて隊長職を務めていた。
コリンズ朝の建国に多大な貢献をするも、コリンズ母娘の和解に奔走し続けたことが災いし切腹に処された。
「偽グランツ/偽ィオッゴ/ゲコ」
正体不明の道化(厳密には性犯罪者)
大魔王と共に異世界に召喚された地球人。
【剽窃】なる変身能力を駆使して単身魔王軍の陣中に潜入し、摂政コレット・コリンズとの和平交渉を敢行。
王国内での戦闘不拡大と民間人保護を勝ち取った。
魔界のゴブリン種ンゲッコの猶子となった。
「ンキゥル・マキンバ」
公爵(王国における爵位は伯爵)。
元は遊牧民居留地の住民として部族の雑用に携わっていたが、命を救われた縁からコリンズ家に臣従。
王国内で一貫して統一政府への服従を呼びかけ続けた為、周辺諸侯から攻撃を受けるも粘り強く耐え抜いた。
御一新前からの忠勤を評価され、旧連邦アウグスブルグ領を与えられた。
「ヴィルヘルミナ・ケスラー」
摂政親衛隊中尉。
連邦の娼館で娼婦の子として生まれ、幼少の頃から客を取らされて育った。
コリンズ家の進軍に感銘を受け、楼主一家を惨殺して合流、以降は各地を転戦する。
蟄居処分中のケネス・グリーブを危険視し主君を説得、処罰を切腹に切り替えさせ介錯までを務めた。
「ベルガン・スプ男・ゴドイ」
魔界のオーク種。
父親が魔王城の修繕業に携わっていたので、惰性で魔王城付近に住み付いている。
大魔王コリンズの恩寵の儀を補助したことで魔界における有名人となった。
その為、異性に全く縁が無かったのだが相当モテるようになった。
以上の経緯から熱狂的なコリンズ王朝の支持者である。
「ヴォッヴォヴィ0912・オヴォ―」
魔界のリザード種。
陸上のみで生活しているという、種族の中では少数派。
その生活スタイルから他の魔族との会合に種族を代表して出席する機会が多い。
大した人物ではないのだが陸上リザードの中では一番の年長者なので、リザード種全体の代表のような扱いを受ける事が多い。
本人は忘れているが連邦港湾において大魔王コリンズの拉致を発案したのが彼である。
「レ・ガン」
元四天王。
魔王ギーガーの母(厳密には縁戚)
ギーガーの魔王就任に伴いソドムタウンにおける魔王権力の代行者となった。
在任時は対魔族感情の緩和と情報収集に尽力、魔王ギーガーの自由都市来訪を実現した。
「ジェームス・ギャロ」
ギャロ領領主。
現在行方不明中のエドワード王の叔父にあたる人物。
早くからエドワードと距離を置き、実質的な国内鎖国を行っていた。
能書家・雄弁家として知られる。
「ジョン・ブルース」
公王。
王国の有力貴族であったブルース公爵家が主家に独立戦争を挑み誕生したのが公国であり、ジョンは6代目にあたる。
武勇の誉れ高く王国・魔界に対して激しい攻撃を行う反面、綿密な婚姻政策で周辺の王国諸侯を切り崩していた。
「クュ07」
コボルト種の医官。
大魔王の侍医であったクュの孫娘。
紆余曲折あってコレット・コリンズの護衛兼愛人となった。
以前からポール・ポールソンの人格と能力を絶賛しており、即時抹殺を強く主張している。
「ニック・ストラウド」
ポール・ポールソンの義弟。
大公国建国後は旗奉行として軍事面から諸種族の取り纏めに奔走している。
エスピノザ男爵叛乱事件の鎮圧に大功あり南ジブラルタル13万石の領有を許された。
実姉ナナリーが魔王ダンの乳母に就任しその娘キキに尚侍の官職が与えられたことで、全世界からの嫉妬と羨望を集めている。
「ハワード・ベーカー」
大魔王財団理事長。
元は清掃会社の職員だったが、コリンズ家のソドムタウン入り直後に臣従。
大魔王パーティーの一員として、キーン・グランツと共にリン・コリンズを支えた。
主に(株)エナドリの代表取締役としてビジネス界から大魔王の覇業に貢献した事で知られる。
大魔王の経済テロの後始末に誠意をもって奔走したことで、世論からの信頼を勝ち取った。
「テオドラ・ヴォルコヴァ」
ヴォルコフ家前当主。
幼少時に実家が政争に敗れ族滅の憂き目に遭い、単身自由都市への亡命を余儀なくされた。
その後、紆余曲折あって清掃事業者ポールソンの妻となり一男一女を設ける。
統一政府の樹立と同時に旧臣を率いて帝国に電撃帰還、混乱に乗じて旧領を奪還した。
家督を財務長官クレア・ドラインに譲ってからは、領内で亡夫の菩提を弔う日々を送っている。
「シモーヌ・ギア」
大量殺人事件容疑者。
冒険者兼林業ヤクザとして高名だったギリアム・ギアの戦死後、その敵対勢力が尽く家族ごと失踪する事件が発生。
自由都市同盟治安局は妹のシモーヌを容疑者として捜査するも統一政府による国土接収で有耶無耶になった。
「ミヒャエル・フォン・ミュラー」
旧連邦の私的記録に頻出する人名。
新支配者であるノーラ・ウェインの連邦史保存プロジェクトにおいて、その文字列がノイズと判断されたので関連の文言は新史への記載を見送られた。
「アンドリュー・アッチソン」
魔王城剣術師範。
言わずと知れた世界最強の剣士であり、奇術師としても高名。
御一新前はピット商会で護衛隊長を務め、その卓絶した武技で数々の逸話を残している。
摂政コレット・コリンズが三顧の礼で招いた逸材であり、魔王ダンの警護及び不忠者への上意討ちを任務としている。
「アレクサンドル・イワノフ」
農学博士。
帝都大学農学部を主席で卒業後、同大学で教鞭を取る。
専攻は階層生態学。
トハチェフスキー公爵家に招聘され、州都ウラジオストクの農業法人を指導していた。
ソドム大学に特別講師として派遣中にコリンズ朝が成立、自由都市の滅亡に伴い大学ごと統一政府に吸収された。
学識と忠勤が認められ、魔王ダンの学術師範に任命されることとなった。
「コレット・コリンズ」
摂政・録尚書事・大元帥・終身最高判事・ピット諸島及び東アラル地方に対する全権庇護者。
大魔王リンの唯一の妻にして、魔王ダンの生母。
元は卑しい身分であったが、夫の建国を甲斐甲斐しく支えた。
大魔王の帰還後は母ヒルダとの抗争に勝利、卓絶した政治センスと果敢な軍事指導力を発揮し天下一統を果たした。
「統合思念」
神。
現在、宇宙に存在する全有機生命体の祖先にして宇宙の所有者・管理者。
全ての生命に対して、自らを神と認識させるプログラムを埋め込んでいる。
全宇宙の正統なる所有権を保有し、恒星(それに伴う銀河・銀河団)を分譲販売している。
顧客たる恒星からは支配権と支配下生命を分譲代金として徴収し続けているが、ネゲントロピーを配当として支払う義務を負っている。
宇宙に存在する生命のエネルギーを奪い尽くしては自己の時空を凍結して、顧客たる分譲恒星達と永遠の生を謳歌していた。
凍結解除の条件は全宇宙の対極同士に存在する異世界と地球が繋がること。
本来はそれだけの科学力/個体数を生命体が身に着けた事を意味するシグナルなのだが、今回は【宗教団体が考案した召喚術】というとんでもなく原始的な手法で凍結が解除されてしまった。
「マーサ・ニューマン」
侍従長。
ポールソン家の古参使用人であったことから、御一新の際に人質として抑留される。
遠征続きのコレット・コリンズが魔王ダンの育児に悩み、ベテランの乳母を求めた際、最も乳母歴の長かった彼女がアドバイザーとして雇用された。
当初は女官秩序の中でも下位の存在だったが、その沈着謹厳な性格で衆望を得て乳母頭に昇格。
文武百官からの強い推挙もあって侍従長に抜擢された。
摂政との不仲説が濃厚ながらも、魔王ダンに対する愛情と献身は実母の如くであり非常に懐かれている。
それに伴い、諸将への発言力も急速に増大した。
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異世界事情については別巻にて。
https://ncode.syosetu.com/n1559ik/




