【転移31日目】 所持金207億3500万ウェン 「身内を屈辱に耐えさせるという屈辱にも耐えた。」
異世界転移して31日目。
1ヶ月か…
長いようで短かったな。
『ヒルダ、コレット。
2人と逢って丁度1ヶ月になったよ。
ありがとう。
この出逢いがあったからこそ、俺はこうやって生き延びられている。』
「それはこちらの台詞ですよ。
胡桃亭を見つけて下さって感謝しております。
これからも娘共々宜しくお願い致します。」
「…リン。
最高の1ヶ月だった。
こんな毎日がずっと続けばいい。」
俺達は熱く抱擁し合った。
『変な客でゴメンな。』
と付け加えると、2人はそのままの姿勢でいつまでも笑い続けていた。
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打診の末、西軍側の武将と連絡が付いた。
小一時間もしないうちに1個中隊がこのキャンパスにやって来る。
一応ここは天領なのだが、誰一人武装解除せずに平然と踏み込んで来る。
兵卒たちが唾を吐いたり立小便をしていたりしたので身の危険を感じたが、武将はまだ話が通じそうな雰囲気の男だった。
「単刀直入にお願いする。
手柄を譲って欲しい。
私がジョージ殿を発見したことにして欲しいのだ。
謝礼に関しても恩賞が発給され 『ええ、構いませんよ。』
「え!?
か、構わない?
で、幾ら払えばいい?
恩賞さえ出れば、ちゃんと代金は払うぞ!
このままジョージ殿を連れて行けば、私が一番手柄間違いなしだからな!」
『特に謝礼は求めてません。
我々はこのまま伯爵様の領地を通り抜けたいのですが…
構いませんか?』
「う、うむ!
無欲なのは良い心掛けである!
安心しなさい。
褒美として私が護衛してやろう。
こう見えても軍の中では顔の効く方でね!」
こんな遣り取りがあったので、俺達はその武将にジョージ殿(5歳)を引き渡して、彼らの隊列に続いた。
彼が《軍の中の顔が効く》というのは半分は本当だったようで、他の部隊とすれ違う度に愛想笑いを浮かべてペコペコ頭を下げに走り回っていた、との事である。
まあ、こういうタイプが出世するのだろう。
武将はどうあっても手柄を100%独占したがっていたので、「伯爵とは面会せずに、そのまま領地を抜けてくれまいか?」と拝み倒して来た。
俺達も快諾して、そのまま伯爵領を走り抜けるルートを取る。
別れ際。
「そなたらの忠勤は断じて忘れぬぞ!
恩賞が発表され次第、ただちに報奨金を賜ってくれようぞ!」
『いえいえ司令官閣下。
我々こそ閣下の御温情を生涯忘れません。
このお礼は後日必ず!』
と、熱く抱擁し合った。
共に名乗りもしなかったので、お互い後腐れがなくて良い。
護衛の約束に関しては心配せずに済んだ。
武将が1個小隊を貼り付け続けていたからである。
何が何でも独力でジョージ殿を捕獲したことにしたいらしい。
彼らが豹変して口封じのために襲い掛かって来る事も警戒したが、そこまでの余力もなさそうで伯爵領の南限まで来ると、挨拶もせずに馬首を返して去って行った。
『御二方。
あんな感じで良かったですか?』
「…見事だ。
あれだけ無礼な態度を取られてよく我慢出来たな。」
『皆さんの我慢を無駄にしたくなかっただけです。』
「コリンズさんは若いのに良い心掛けですよ。」
まあ若いと言ってもコレットやジョージ殿よりは年長だ。
伯爵領の参戦武将の中にも十代の武将は沢山いたらしい。
もう俺は大人にならなければならないのだ。
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護衛団の疲労が激しい。
やはり戦場の通行は、異常なまでに神経を遣うようだ。
ダグラスやグリーブの様な歴戦の猛者でさえ、表情に疲れが見える。
諸貴族領混在地に入った。
景色は普通のフィールド。
遥か遠目に集落が幾つか見える。
『ダグラスさん。
休憩出来るポイントがあれば、休憩なさって下さい。』
「駄目だ。
ここは地形的に休憩に向かない。
奇襲を防ぎにくい立地なんだ。
大丈夫だ、夜までには宿場町に辿り着ける。」
『ちゃんとポーションは使って頂いてますか?』
「使う様に指示はしている。
だが、俺も含めて殆どの者は温存している筈だ。
不慮の事故が怖いからな。」
『ポーション余ってるので、一旦飲み干して下さい。
今から妻に全員分を支給させます。』
「余裕はあるんだな?」
『潤沢にストックしています。』
「わかった、オマエを信じる。」
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治安がいい訳ないのだ。
隣の伯爵領で内戦が続いていたのに、こちらに飛び火していない訳がないからな。
敗将が逃げ込んで来る可能性もあるし、それを待ち伏せる落ち武者狩りも当然居るだろう。
80年も内戦を続けるような連中が、隣領に多数派工作を行ってない筈がない。
親東軍派・親西軍派、両方存在して当然である。
護衛団の幾名かが幌越しに礼を述べに来る。
彼らも相当苦しかったのだろう。
礼を言いたいのはこちらの方である。
途中、検問が張られていた。
急ごしらえの逆茂木、徴発されたと見られる農兵。
ここの領主と面識があるキーンが応対に出る。
どうやら伯爵領からの逃亡者をシャットアウトしているようである。
そりゃあ敗将に逃げ込まれでもしたら、ここが戦場になってしまうからな。
「申し訳ありませんが、臨検にご協力頂けませんか?」
穂先を突き付けながら「頂けませんか?」もあったものではないが、黙って馬車のチェックに応じる。
例によって娼婦が騒ぐ。
ここで検問役人が殺してくれれば手間が省けるのだが、残念ながら話が付いてしまったようだ。
臨検中、1人の農兵がヒルダに侮辱的な言葉を投げ掛ける。
到底ここに記す気にもなれないレベルの暴言だった。
俺達3人は無言で屈辱に耐えた。
俺は身内を屈辱に耐えさせるという屈辱にも耐えた。
再び馬車が動き出すも、しばらくの間俺達は歯を喰いしばり続けていた。
《33億5000万ウェンの配当が支払われました。》
無料で時報が聞けるのはありがたい。
多少嫌な事があっても、頭を切り替える切っ掛けになる。
ヒルダがポーションやエリクサーの詰め替えを行いながら、宿屋に来た面白い客のエピソードを語り始めた。
暗に「ハズレを引く日もあって当たり前だから気にするな。」と言ってくれているのだ。
俺なんかには出来過ぎた母である。
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【ステータス】
《LV》 19
《HP》 (4/4)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 3
《幸運》 1
《経験》 270万7547
次のレベルまで残り239万5749ポイント
【スキル】
「複利」
※日利19%
下7桁切上
【所持金】
175億9700万ウェン
↓
209億4700万ウェン
※33億5000万ウェンの配当を受け取り。
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19レベル到達。
想像以上に早かった。
先週位かな。
流石にレベルはもう上がらない、と思い込んでいた。
だが、これまだまだ上がるな。
日利19%までくると、数字の暴力で強引に経験値が増加する。
人間を殺せば数万の経験値を得られる事も判明したしな。
盗賊の親玉で24万、忠義の騎士が90万。
相場は理解した。
もう戦闘はしない。
明日から50万ポイント以上の経験値が入り続けるからだ。
毎日盗賊の親玉を2人ずつ殺して行くようなものだ。
それ以上を求めるのは貪欲に過ぎるだろう。
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宿場町に到着、全員で歓声を挙げる。
護衛団たち曰く、地形的にも状況的にも相当神経を擦り減らすルートだったらしい。
素人の俺ではわからなかったが、なまじ戦況が理解出来てしまう彼らにとってこそ辛かっただろうと推測する。
ダグラスにお願いして、三家から護衛全員に女を当てがわせて貰った。
向こうもプロなので交代制で女を抱く。
却ってせわしない思いをさせたかも知れず、それが心苦しかった。
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【所持金】
209億4700万ウェン
↓
207億3900万ウェン
↓
207億3500万ウェン
※カイン・R・グランツに2200万ウェンの利息を支払。
※ドナルド・キーンに1億6400万ウェンの利息を支払。
※護衛団の福利厚生費として400万ウェンを支出
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あれは22時くらいのことだったろうか?
地元の領主が表敬訪問をして来た。
領主と言っても若い。
見た所、二十歳くらいだろうか?
昨年病没した先代がキーンと友達付き合いをしていたらしく、若領主はよく懐いていた。
挨拶と情報交換が終わっても若領主は席を立たない。
杯もとっくに空になってしまった。
ん?
何だろう?
ずっとモジモジしている。
『もしも、何か御座いましたら
気軽に仰って下さい。』
もう眠りたかったので、話を打ち切る意味でも促してみる。
これが裏目に出た。
「領地を買って頂けませんか!?」
それが若領主の用件だったのだろう。
後は堰が崩れるように、涙ながらに本音を並べ始めた。
王国への不満、領民の民度への嫌悪、無意味な戦争への不安、見えない前途。
「私もキーン社長のように自由都市で文明的な暮らしがしたいのです。」
言うまでも無くキーンは王国人ではない。
それどころか王国長年の宿敵である帝国出身の人間だ。
若いとは言え爵位を継いだ領主が外国人に領地売買を懇願する。
これが亡国の末路である。
ただ、彼は売国奴ではない。
こんな糞みたいな土地の支配権が5億ウェンもの大金で売れる訳がないから。
土地だけなら20億でも30億でも値段は付くだろう。
まともな土地造成業者を入れて、まともな農業運営法人と契約すれば、良質の農園が再来年にも完成する。
ただ残念ながらこの国は封建制国家である。
合理的なビジネスが成立し得ない。
そもそも領地には重い軍役が課せられている。
なので買わない。
5000万でも500万でも50万でも同じだ。
5億貰った所で要らん。
悪政に紐づいた土地は負債だからだ。
しかも民度が相当低い。
断言しよう。
この土地は負債だ。
「一緒に連れて行って貰えませんか?」
俺がキャラバンのリーダーと聞いた彼は、こっちに縋って来る。
『義務は… どうしますか?』
「放棄… します。」
王国を追放された日。
当然俺は報復を考えた。
【複利】が最強スキルなのは自覚していたので、落ち着いたら意趣返しをする予定だった。
…あの王国さん、勝手に滅ぶのやめて貰えませんかね?
『それって…
出奔ですよね…
えっと、流石に貴族の方が無断で領地を離れてしまうのは…
差支えがあるのではないでしょうか?
せめて親族の方に引継ぎとか…』
「私が一番年少ですので。」
『ああ、なるほど。』
「移住するにしても、相続の形式だけは踏んでおきたいんです。
追手を差し向けられるのが怖いので。」
本人は移住とか言っているが…
王国から見れば裏切り以外の何物でもないだろう。
俺が王様なら見せしめのために絶対に刺客を送る。
普通はそうする。
大体、今夜の発言だけでも100回くらい斬首されても文句言えない筈だ。
『では遠縁の方を養子に迎えるとか?』
「コリンズさん、私の養子になりませんか!?」
いやいやいや!
どうしてそうなる!
そんなに年も変わらないじゃないか!
『あ、いえ。
私は最近コリンズ家に婿入りしてきた身ですので。』
「ああ、それじゃあ。
民法的に無理ですねぇ。」
何言ってやがる。
道義的にも心情的にもオールアウトだよ。
『流石に誰でもいい訳じゃないんでしょ?』
「王国での居住実態があれば、法律的には誰でも養子に入れますよ?
その人にこの子爵領を譲ります!
別にカネさえ出してくれれば誰もいいんですよ!
相手が農奴だろうが盗賊だろうが、それこそ薄汚い遊牧民共だって構やしない!」
オイオイ。
その発言、マジで叛逆罪扱いされるぞ?
…ん?
アンタ最後なんて言った?
あー、頭の中で色々繋がってきたかも。
『この領地、5億ウェンでしたか?』
ようやく、このスキルの使い方を俺は知った。
愚かにも、異世界転移から1ヶ月も経ってしまっていた。
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【コリンズキャラバン移動計画】
「8日目」
中継都市ヒルズタウン (宿が込んでた。)
↓
侯爵城下町 (風光明媚な土地だったらしい)
↓
大草原 (遊牧民を買収した。)
↓
教団自治区 (10億ウェンカツアゲされた)
↓
王国天領 (プロポーズした。)
↓
伯爵城下町 (落ち武者狩りの駄賃で通行)
↓
諸貴族領混在地 ←今ココ
↓
王国軍都 (軍部が独自に警察権を保有している)
↓
王国側国境検問所 (賄賂が横行。 逆に言えば全てカネで解決可能)
↓
非武装中立地帯(建前上、軍隊の展開が禁止されている平野。)
↓
連邦or首長国検問所 (例の娼婦に付き纏われているか否かで分岐)
↓
自由都市(連邦領経由なら7日、首長国経由なら5日の計算)
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先は長いが、時間は俺の味方である。
【名前】
リン・トイチ・コリンズ
【職業】
流浪のプライベートバンカー
【称号】
ファウンダーズ・クラウン・エグゼクティブ・プラチナム・ダイアモンド・アンバサダー信徒
【ステータス】
《LV》 19
《HP》 (4/4)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 3
《幸運》 1
《経験》 270万7547
次のレベルまで残り239万5749ポイント
【スキル】
「複利」
※日利19%
下7桁切上
【所持金】
207億3500万ウェン
※カイン・R・グランツから12億ウェンを日利2%で借用
※ドナルド・キーンから82億ウェンを日利2%で借用
※バベル銀行の10億ウェン預入証書保有
【常備薬】
エリクサー 34ℓ