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【遠征日誌02】 COVID-19

さて、払暁。

夜が明ければ当然として原住民に気付かれる。

何人かが遠巻きにこちらを見て騒いでいるな。

連れているのは犬? ペット?

よく分からない。

しばらくすると、何やら機械音のする自走馬車まで設置された。

いずれにせよ騒然として来た。



そりゃあね。

自分の街に突然軍隊が湧いたら驚くよね。

しかも、あの原子力発電所というのは彼らにとって相当重要な施設とのこと。




【ゲコ】



「公王様。

一応解説しておきますと、あの中型金属体が《自動車》です。」



『ああ、ゲコ君の国の基幹産業と言っていたな。

発光しているのは緊急信号?』



「ええ、あの赤色灯は事件発生の合図ですね。

あと、制止の意味合いもあります。

あれは《パトカー》なる呼称の警察車両です。

警察と言うのは旧自由都市で言うところの治安局を指します。」



『なるほど。


ロベール! 全軍に通達だ!

壕から一歩も出させるな!

揉めても全部俺が解決する!』



  「了解ッ!!

  攻撃されても応戦禁止で宜しいですね!?」



『そちらも俺1人で十分だ。』



「…公王様。

解決とは、スキル行使のことを仰っているんですか?」



『おや、ようやく本気の表情を見せてくれたね。

安心しなさい、約束は守るよ。

日本人には極力手を出さない。


…但し。』



「ええ、作戦行動に必要な情報は提供します。

現にボク、今の時点でかなり役に立ってるでしょ?」



『君の提供してくれた地球情報。

今の所、虚偽の箇所は無いな。

感謝しているよ。』



「そらぁどうも。」



『私はね、地球に着いたら君は脱柵するものと考えていた。

そして、スキルを使って地球でガールハントに勤しむものかと。』



「その予定やったんですけどね。

ボクは庵主様に弱みを握られとるし、何より元の姿に戻れないんですわ。」



『え?

ゴブリンのまま?』



「オーラロードに入る直前までは自由に変身出来てたんですけど、こっちに来た途端にゴブリン種にしか化けれなくなったんですわ。」



『それはスキルが変質したって事?』



「いや、レベルが下がってますね。

これは体感やけど、初期レベルに戻ったんやと思います。

それでスキルも初期状態の【同種にしか変身出来ない】状態にリセットされたのではないかと。」



『各部隊から上がっている、ステータスが閲覧出来なくなったと言う報告と関連があるのかな?』



「ですね。

環境変化によってスキルやステータスにも影響が出たんでしょう。

逆にスプ男君達は全員変化が無いんで、種族差はあるんでしょうね。」



成る程、種族によって誤差があるか…

皆には早めにスキルチェックを終えて貰わねばな。





【ベルガン・スプ男・ゴドイ】



「公王様、どもでーす。」



『スプ男君、作業中に呼びつけてすまない。

手短に質問させてくれ。』



「ええ、どうぞ。」



『既に聞いていると思うが、人間種とゴブリン種がレベルダウンに見舞われている。

自分のステータスすらも確認出来ない状態だ。

オーク種はどうか?』



「全員に確認を取ったんですけど。

ステータス画面は正常に表示されております。」



『おお、良かった!』



「逆にスキルレべルは上がってますね。」



『え?

上がった?』



「はい、以前にも少し説明申し上げましたが、俺のスキルは【牧畜(シェパード)】のレベル2です。

これは《対象の家畜を一頭だけ完全に支配下におく》という効力です。

まあ、ぶっちゃけ外れスキルですね。」



『私は素晴らしい能力だと思うけどなあ。』



「うーーーん。

でも俺達みたいな家畜係って数十頭の家畜を管理しなくちゃならないんで…

一頭だけコントロール出来てもねぇ…

地元でも馬鹿にされてましたし…」



『そういうものか…』



「ところが昨夜からレベル3と表記されてるんです。

備考欄には《家畜全頭を完全に支配下におく》と記載されてます。」



『え?

家畜全頭?

全頭って、どこまで?』



「いえ、ウチの村には【牧畜(シェパード)】をレベル2以上に上げた奴が居ないんです。

なので具体的な事は分かりません。」



『う、うむ。』



「ただ、トリケラは全頭管理下に置けてます。」



『え?』



「いや、だって移動がスムーズだったでしょ?

今も鳴き声1つ挙げてない。」



『言われてみれば。』



「…これは勘なんですけど。

駱駝にも適用出来る気がするんです。

実験的に何頭か…」



『OK。

話を通しておく。


…この遠征、君達が命綱になるかも知れん。

勿論、戦闘義務免除の約束は絶対に守る!

色々と頼らせてくれ。』



「…皆さんが危なくなったら俺達も剣を抜くと思いますよ。」



『いや、そこまでさせてしまうのは。』



「身体が勝手に動いちゃうと思いますよ。

それに、地球人の目線は明らかに敵意が籠ってますしね。


お、新手が来た。

あれは多分、治安局員ではなく軍隊ですね。

確か、ジエータイでしたっけ?」



『ああ、その呼称で合っている。

人数が極端に少ないという事は偵察要員だろう。』



実質的な会敵だな。

互いに目視の距離に近づいたが、攻撃の気配はない。


【自衛隊】

緑系等の迷彩柄を纏っている。


ああ、なるほど。

理解した、この地は緑地面積が広いのだな。

配色からして広葉樹と針葉樹が混在した土地だと理解した。


海岸線と稜線の影から日本の地勢は概ね把握出来る。

ゲコや大魔王は単に【島国】と説明していたが、ここは【火山性の島国】だ。

しかも活火山。

さぞかし地震が多いだろう。


風の吹き方からして東側に陸地はない。

ああ、思い出した。

じゃあ俺が見ている海が【太平洋】なのだな。


そうかそうか。

うん、もう全部把握出来た。




【ジャン・ロベール・レンヌ】



「兄さん!

全部隊の収納完了です。

今からジミーが隠蔽スキルを展開しますが宜しいですね?」



『え?

何でジミーが?』



「ダークエルフ達の疲労が極限まで達しているからです。

オーラロードを越える時に無茶をさせ過ぎました。

なので、代わりに隠蔽を行います。」



『…そうか。

そうだな、ダークエルフ達の休息を最優先してくれ。


…これは、濃霧?

ジミーの奴、飛ばし過ぎだろ。』



「いえ!

合戦は着陣初日でほぼ決まります。

僕は無理をさせるべきだと考えますし、先程ジミーにもそう伝えました。」



『…そっか。

2人で決めた事なら、うん。』



「…それと、ニックはまだ発見出来てません。」



『捕虜になっているのだろうか?』



「…もしそうであれば、包囲している彼らが条件交渉に活用する事でしょう。」



『オーラロードでは生存していたのだな!?』



「ええ、オーラロード内でも諸隊にも的確に指示を出しておりました。」



『無事だと良いのだが…』



「あれ程の猛者は稀有な存在です。

きっとニックは無事で僕らへの合流を図っている途中でしょう。」



『…。』



「逡巡していると、またニックに叱られますよ。」



『そうだな、呆けていたらアイツにどやされてしまうな。

OK、頭を切り替える。

ニックはこちらに向かって移動中。

俺達はアイツに恥じない戦いをする。』



「(コクン)」



まあ、計画通り行かないのが遠征というものだ。

机上演習の再現率など3割もあれば御の字。

軍の要が戦場に辿り着けないという事態にも対応しなければならない。




【エミリー・ポー】



「ふっふっふ、可愛い可愛いエミリーちゃんの出番のようですな♪」



『ポー囚人三等兵。

中央区画に戻るように。

君には庵主様の護衛を任せている筈だ。』



「えー、ポールさん冷たーいww

アレって地球の軍隊だよね?

ここは最前線だよね?

と言う事はエミリーちゃんが活躍するチャンスですぞ♪」



『いや、こちらから戦闘は仕掛けない。

仮に仕掛けられたとしても俺が1人で鎮圧するから、君達の出番はない。』



「あーーーん、私こういうキレキレのポールさんが大好き♪

だいちゅきっ♪」



『じゃあ、俺の言うことを聞いてくれるか?』



「あっはっはww (本性を剥き出しにした邪悪な笑い)」



『あのなあ、大魔王を保護するまでは手荒な行動は取れんのだ。

分かってくれよ。』



「…じゃあ、大魔王さえ回収すれば後は何をしてもいいって事だよね?

エミリーちゃん、新技を試したーい♪

人型の的が目の前にウジャウジャいるんだから100匹くらい殺してもいいでしょ?」



『やめろ!!

交渉だと言ってるだろう!!』



「あははww

新技使いたいですぞーww

折角スキルレベルが上がったしねww」



『え?

スキルレベルが上がった?

ど、どうして?』



「あははははwww

ポールさんのマジな表情、超ウケるww

うん、そうだよね♪

皆のスキルレベルは下がってるみたいだねww

でも、ななななーんとエミリーちゃんのスキルレベルは上がってまーす♪

勿論ステータス画面もバッチリ♥」



『…。』



「風魔法・極。」



『ッ!?』



「あっはっはっはwww

ポールさんのリアクションって最高だよねwww


その困った顔、最高にセクシーだよ。」



『ポー囚人三等兵!!

出陣前も厳しく申し渡したが!!』



「はーい、分かってますーーん♪

交戦禁止だよね?


でもさ?

本陣が攻め込まれたらエミリーちゃんは正当防衛しちゃいますぞ?


福島原発だっけ?

あのチンケな要塞ごと周辺50キロの地球人は皆殺しだねww」



『よせ、福島原発は燃料工場だ。

電気なる彼らの主要エネルギーを生成している。

君のスキルなんか使ったら大爆発が起こるぞ。』



「ふっふっふ♪

でも、その大爆発とやらもポールさんが消しちゃうんだよね?

ポールさんからすれば福島原発も洗い場のお皿も大した違いはないんじゃない?」



『…頼むから騒ぎを起こさないでくれ、エミリー。』



「ふふっ、少しは女の扱い上手くなったんじゃない?

うん、まあいいよ。

許してあげる♪

私、自分が暴れるのは勿論好きだけど、それ以上にポールさんの本性を見物するのが大好きだから。」



『本性も何も、普段君が見ている俺が全てさ。』



「あっはっはっはwwww

特等席で見物させて貰いますぞ、国士無双さん♪」



コイツらだけは連れて来たくなかったんだがな…

まさか本国で野放しにする訳にはいかんしな。

ポールソン公国で暴れられる訳にも行かないので、地球人にぶつける方を選んだ。




【戦士タテタテ】



「公王様、簡易ではありますが全員のメディカルチェックが完了しました。」



『どうだった!?』



「申し訳ありません。

やはり私も含めた全員が弱体化しております。

ステータス画面の閲覧も出来ません。

最初は一時的なものかと思っていたのですが…」



『…そうか。』



「公王様には何とお詫びすれば良いのか。」



『いや!!

君達は良くやってくれている!!

大公国建国以前から、リャチリャチ族にはどれだけ助けられていることか。

君達にはただ感謝の念のみを抱いている、当然今もだ!!』



「ありがとうございます。

そう仰って頂けるだけで救われます。

コンディションは言い訳にしません!!

我々の持てる全てをこの遠征で出し切ります!!

一人一殺の覚悟で地球人と刺し違えますので、何なりと御命令下さい!!」



そうは言うものの、歴戦の戦士であるタテタテの表情にすら拭えない疲労が浮かんでいる。

気候が致命的に彼らとは合わないのかも知れないな。

特にこの多湿。

かなり息苦しそうだ。



『…タテタテ君、個人的な質問なのだが。』



「はっ!」



『もしも、この遠征の総大将がアレクセイ陛下だったら、どう対応したと思う。』



「…僭越ですが、申し上げます。」



『うん。』



「皇帝陛下であれば必ず大将斥候を行ったでしょう。

我々が同行を嘆願しても、単騎で飛び出されておられたと思います。

そういうお方でした。」



『…ほう。』



「駄目ですよ!!」



『まだ何も言ってないのに。』



「公王様は天下に無くてはならないお方です!

こんな所でリスクを負ってはなりません!!」



『…。』



「いえ、本当はみんな分かってるんですよ。

皇帝陛下や公王様の様な突出した超人にとっては単騎進軍こそが最善であると。

軍隊そのものが足手纏いなんですよね?」



そりゃあね。

摂政も言っていたけど、作戦を確実に成功させたいのなら俺1人を派遣するのがベストだよね。



『…君達は私が最も信頼する同志だ。』



「…これからもそう仰って頂けるように精進致します。

なので!」



『安心せよ。

私ももう若くない。

ヤンチャは程々にしておくよ。』



これも嘘。

歳を取って若い頃の様な自制が効かなくなっている。

昔はねぇ。

周りが厳しめの年長者ばっかりだったから、身動き一つにも随分神経を使わされたものだけど…

今は大半の人間が年下だしな。

数少ない年長者も軍隊秩序的には俺の指揮下にあるしな。

その気になれば【上官命令】でゴリ押せちゃうんだよな。



【上官命令である! 

単騎で行う私の大将斥候を邪魔しない様に!】



とかね。

無論、そんなアホな命令を下す気はないが、軍法上は発令する権限を保有しているのである。

そりゃあ自制も難しくなるよなあ。




【リチャード・ムーア】



『俺がお義父さんを連れて来たのは、そんな理由です。』



「あのなあ。

ブレーキくらいは自分で掛けろよ。

オマエもう40過ぎだろ?」



眼前でボヤく男は義父リチャード。

昔から世話になっている上に魔王ダンの直臣なので、俺は安心して彼に掣肘して貰えている。



『まさか自分が最上長になるなんて思いもよらないじゃないですか。』



「皆が通って来た道だ。

オマエにも順番が回って来た。

腹を括って責務を果たせ!」



『まあ、そうなんですけど。』



「そんな愚痴を言う為に私を呼び付けたのか?

自衛隊だっけ?

目の前の軍隊、ジワジワと接近を図っているぞ?

トルーパーを伏せてしまっては対応のし様もないだろうに。」



『ああ、それじゃあ対応します。』



「?」



俺は目が合った若い兵士にゆっくりと手を振る。

さあ、プロファイリングの…



「驚いたな、手を振り返して来たぞ!?」



『いや、俺も驚きました。

なるほどなるほど。

参ったなぁ、やっぱり俺1人で来るべきだったなあ。』



「冗談の通じる相手なら、その方が良かったかもな。」



『お義父さんも賛成してくれますか。』



「でも駄目だ。

肝心のオマエに冗談が通じない。」



『…自分ではコミカルな人間だと自負しているんですけどね。』



「最近誰かに笑われたか?」



『さっきエミリー・ポーが爆笑してました。』



「ほらな、笑えないだろ?

今のオマエの周りには、もうあんな唾棄すべき殺人鬼しか残っていないんだよ。」



『否めませんね、極めて残念ですけど。』



今思えば、御一新前の俺は周囲に恵まれていた。

それを当然の事として甘受していた罰が下っているのだ。





【罰01】



「やあ、ポールソン♪

軍監のボクに隠れて内緒話かい?

相変わらず酷い男だね君は。」



『ウェイン総監、おはようございます。』



「ああ、おはよう。

見なよ、海から太陽が昇っている。

地球の朝も乙なものだね。」



『…。』



「どうしてトルーパーを仕舞った?

原住民共に舐められない為にも、寧ろ積極的に誇示する場面だろう?」



『機械力に関しては地球人の方が遥かに先進的だからです。

中途半端にこちらの戦力を見せては却って侮りを招くと判断しました。』



「…キミが判断したのならそれが正解なのだろう。

一般的には利敵行為とも解釈されかねないけどね。

勘弁してくれよ、愛するポールソンを尋問するなんて、もう2度としたくないからさ。」



『…。』



「ふふふ、そう警戒するなよ。

あれだけ愛し合った仲じゃないか。

恋しくなればいつでもそう言ってくれよ。

次は足の指を全部砕いてあげるからさ。」



『…。』



「それにしても驚いたよ。

即興で掘った塹壕にしては随分清潔じゃないか。


ゲコ君から地球は流行り病が蔓延していると聞かされていたからね。

不潔だったらどうしようと内心不安だったのさ。

確か、【コロナ】とか言ったか。」



『消しておきました。』



「ははは、流石は国士無双だ。

仕事が早いね。」



『本来は軍監の許可を得てから除去すべき場面でしたが、急がなければ遠征の障害になると判断しましたので。』



「ふふふ。」



『何か?』



「やっぱりキミは戦争をしている時が一番活き活きとしている。

昔からそうだった。

ポール・ポールソンは人殺しの天才だからね。

愛する人が本領を発揮する場面を見れて嬉しいよ。」



『自分は誰も殺すつもりはありません。』



「あははは。

いっつもいっつも口先ではそう言うよねキミは。

澄ました顔でボク達を殺人鬼呼ばわりするんだww

本当は自分が一番残忍な癖にww」



『チャンスを与えて下さった摂政殿下の御恩に報いる為にも大魔王救出作戦は必ず成功させます。

無論、その過程は軍監たるウェイン総監に全てお見せします。』



「ふふふ、相変わらず優等生のフリが上手いね。

安心しなよ。

摂政からもキミの指示に従うように厳命されている。

地球人を減らしたい時はいつでも命令してくれたまえ。

愛するポールソンの為にボクもベストを尽くそう。

例えば…

そうだな、日本人とやらを1億人くらい始末してやろう。

ああ、勿論キミの手柄にしてくれて構わないから。

ボクの喜びはポールソンの栄光だけだからね。」



『大魔王の救出が最優先です!

その故郷である日本への攻撃には断固反対します!』



「はっはっは、失敬失敬。

安心しなよ、心構えの話さ。

地球人の始末は大魔王を回収してからだろ?

そんな初歩的な段取りをこのボクが忘れる訳がないじゃないか。」



『無用な殺生は慎んで頂きたい!』



「ふふふ。

ああ、慎むさ。

今回のボクは一介の軍監に過ぎないからね。


それに、ボクが手を下すまでもないさ。

どうせすぐにキミが地球人を大量に殺し始めるのだから。」



『…。』



「なあ、カロッゾ。

オマエもそう思うよな?」





【罰02】



「…。」



『カロッゾ卿、中央区画に御滞在頂くようお願いした筈ですが。』



「…戦場の臭いがしましたので。」



『仮に戦闘が発生したとしても、私が速やかに収拾します。

貴女の出番はありません。

大魔王奪還作戦の総責任者が私である事をお忘れなく。』



「…小弟は、ただポールソン様のお役に立ちたいだけなのです。」



『指揮に専念させて下さい。

それが一番助かります。』



「…では、せめてお側に居させて頂けませんか?

決してポールソン様の邪魔は致しません。」



『見て面白い物ではありませんよ。

地球人に対して大魔王の引き渡しを要求するだけです。

本来、私一人で十分事足りる任務です。』



「…うふふふふ。」



『何が可笑しいのですか?』



「…こんな恐ろしい方と干戈を交えれた幸運に打ち震えております。」



『貴女が攻めて来たから仕方なく応戦しただけです。』



「…ポールソン様。」



『…。』



「どうしてあの日小弟を殺してくれなかったのですか?」



『引鉄は引きました。

ただ不幸にも腕部のアクチュレーターが焼け付いていたのです。』



「…あの日は実に楽しかった。

小弟にとって人生最良の日でした。」



『私にとっては最悪の日でした。

多くの部下が貴女に殺された。

あの恨みは終生忘れる事が出来ないでしょう。』



「良いではありませんか。

全ては所詮、運否天賦です。

小弟達には為すべき使命が残っていたから天に活かされている。

ただ、それだけの事でありましょう。」



『使命?

そう言って貴女はまた無辜の民草を殺戮するのですか?』



「お気に召さないのでしたら増やして下されば良いではありませんか。

小弟は早くポールソン様の子を産みたいと以前からお願いしております。」



『残念ながら、私は貴女の邪悪な血を一秒でも早く消し去りたいと考えております。』



「…随分と長い1秒です。

待ちくたびれました。」



『…。』



「まあいいでしょう。

小弟はポールソン様が帰還するまで作戦命令書を開封する事すら禁止されております故。

ただお側で幸福を堪能し続けると致しましょう。」



『作戦?

そんな話は聞いていない。』



「…まあまあ。

固い話はそろそろ止めにして、互いに自分の任務に専心しようではありませんか。

小弟はポールソン様の御成功を祈っておりますよ。」



『作戦とは何だ?』



「さあ。

摂政と侍従長がお決めになったことですから。

小弟如きの卑官では知る由もありません。」



『…侍従長が?』



「ポールソン様には関係のない事ですよ?

この作戦が始まる頃には大魔王様を魔王城にお連れしているのですから。」



『どこまでも私は蚊帳の外という訳か。』



「地球クリーン作戦。」



『?』



「作戦名だけ聞かされました。

摂政が命名したそうです。」



カロッゾは意味ありげに笑うと中央区画に戻って行った。

やれやれ、せめて背中くらいは味方で固めたかったのだがな。

【魔王軍遠征部隊】



『ポール・ポールソン』 


大魔王救出作戦総責任者/魔王軍総司令官・公王。

ポールソン大公国の元首として永劫砂漠0万石を支配している。

万物を消滅させる異能に加えて、アイテムボックス∞を隠し持っている。



『ノーラ・ウェイン』


軍監/四天王・憲兵総監。

ポールソン及び後任者のカロッゾの監視が主任務。

レジスタンス掃討の功績が認められ、旧連邦首都フライハイト66万石が所領として与えられた。



『カロッゾ・コリンズ』


地球クリーン作戦総責任者/四天王・前軍務長官。

本領は自らが大虐殺の上に征服した南ジェリコ81万石。

旧名カロリーヌ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



魔王軍創設譚については別巻にて。

https://ncode.syosetu.com/n1559ik/

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― 新着の感想 ―
いやー、ポールくんの呪われた人材って、地球へ汚染人材を押し付けるための死罪代行所払いでは?
カロッゾの正体おまえだったんかーーーー!!
なんかもうリンが生きてようと死んでようと地球滅亡確定では コレットはこっちにヒルダ来てるの知ってるでしょ 地球側がヒルダについてリンを追い詰めたってだけで理由は充分だな
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