【顛末記33】 神
「よくぞ辿り着いた、我が末裔よ!
よくぞ時の洗練を潜り抜けた、我らが畜肉よ!
我は全のゲノムの祖神也!
崇めよ! 畏れよ!平伏せよ! 絶対神たる我を!
至尊の絶対者たる統合思念への謁見を許す!
宇宙の極たるこの保管惑星に我そのものを保存していた甲斐があった!
その方らが成し遂げた極星直結!
即ち想定よりも623周期早い時空凍結の解放!
天晴である!
至尊の祖神たる統合思念に対する孝道!
褒めて遣わす!
褒美として保管惑星に住まう有機生命には、統合思念のボディとして活用される栄誉を与えようぞ!」
話が長くなるので割愛するが、ポーラの奴がまたヒステリーを起こした。
最近落ち着いて来たと思ったんだがなー。
クレアが来ると発狂スイッチ入るよな。
元嫁も連鎖ヒス起こしたし…
やっぱり更年期障害かなー。
あー、しまったー。
ソドムタウンに参勤していた時に、資材部に鎮静用の麻薬を申請しておくんだった。
ミスったなー。
「聞いておるのか!
末裔よ!
我ら統合思念の時空凍結を解放したからには、一通りのテラフォームと個体増殖は完了したのであろうな。
早速、現在の宇宙図を提出せい!」
朝に色々ギャオーン関連のトラブルがあったので、今日は地底探検で鬱憤を晴らしていた。
ポーラ・元嫁・クレア、誰だよあのキチガイ共を同室に振り分けた愚か者は。
(いや俺なんだけどさ。)
苛立ちが止まらないので、敵っぽい生き物は手当たり次第にスキルを使って消し去る。
サンドワーム、超巨大サソリ、首だけアロサウルス、変な機械人形、ピカピカ光ってる大型機械砲台。
どれだけ消しても、脳裏に刻み込まれた昨夜のクレアのドヤ顔だけは消えてくれなかった。
あの女も年々悪化…
いや、昔からあんなんだったわ。
さっきから通信機が鳴り続けている。
誰だよ、ポーラに通信機の使い方を教えた馬鹿は。
『あ、こちらポールです。』
「ンンンッーーー兄さんッッッ!
フーッ! フーッ!」
『あ、ポーラ。
俺、今は仕事中だから。』
「クレアと関係を持ったって本当なのッ!?」
『あ、いや。
別に関係とか…
ないよ?』
「嘘よッ!
フーッ! フーッ!
あの女、兄さんとキスをしたって自慢して来たわ!
それにブローチまで買ってあげたみたいね!!
散々見せびらかされたわ!!!
キー!! 悔しい!!!!
魔王城にも本当は逢引に行ってるんでしょ!!!
よりによってクレア!?
ふざけないでッ!!」
『い、いや。
本当に仕事なんだよ。
合衆国問題とか、農地規格制定とか、魔界への鉄道延伸プロジェクトとか…
ハロルド皇帝が全土会議に拘っててさぁ…
オマエに言っても仕方ないから言わないだけで、俺も色々忙しいんだよ。』
「ひぐっ、ぐすっ。」
『あのぉ、ポーラ。
兄さんは今仕事中だから…
お仕事。
ポーラは賢いから分かってくれるよな?
切るぞ?
一旦通信切るぞ?』
「…嘘つき。」
『いやー、嘘はそんなに吐いてないんじゃないかな。』
「愛してるって言ったァッ!!」
『(ビクッ)』
「フーッ! フーッ!
私だけを愛してるって言ったァッ!!
オマエだけが妻って言ったァッ!!」
『い、言ったかな。
でも、俺達って兄妹じゃない?
もちろん、俺は誰よりもポーラを愛してるんだけどさ。
妻だと思っては居るんだけどさ。
一般論として兄妹は結婚出来なかったんじゃないかな?
知らんけど。』
「ひぐっ、ぐすっ。」
『あ、じゃあ一旦通信切るね?
今、兄さん仕事で大切な会談中だから。』
「嘘吐きッ!!
フーッ! フーッ!
砂漠の地下に会談相手なんか居る訳ないでしょ!」
『いやいや、俺はポーラにだけは嘘を吐きたくないと思ってるよ。
(後が面倒だから。)
一刻も早く地上に戻って大好きなポーラの顔を見たいんだけどさ。
(本当は見たくない。)
急な予定が入ってさ。
仕事だから、うん仕事。
じゃあ、通信切るね?』
「…フーッ! フーッ!
女でしょ。」
『え?』
「ギャオーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
女と一緒に居るんでしょ!!」
『いやいやいや!!
違うって。
仕事相手だよ、仕事相手。
たまたまアンデット現象の原因を探ってたらね?
どうも諸悪の元凶みたいな高度な装置を見つけて、そこに近づいたら、装置が自動起動しちゃったんだ。
いや!
兄さんも本当はすぐに帰りたかったんだよ ?
でも仕事の話になっちゃったから。
仕方なく、ここに留まってるの。』
「嘘つきッ!!」
『(ビクッ)』
「兄さんはいつもそう。
私の事は置き去りにする癖に!
クレアやエルデフリダばっかりに構って!
この裏切り者ッ!」
『いやいやいやいや。
今はその話はもういいじゃない。
子供の頃の話だよね?
ちゃんと謝ったよね?』
「でも今、また裏切った!
私を騙して地下で女と逢ってる!
愛してるって言った癖に!!」
『(ビクッ)
いやぁ、たはは。
まあ、今度何か埋め合わせするから。
今日はもういいじゃない。
切るよ?
兄さん通信切るよ?』
「どの女?」
『え?』
「そこに居る女と直接話させてッ!!」
『いやいやいやいやいや!
女性ではない!
女性ではない!
仕事! 仕事相手だから!
ですよね?
統合思念さん。』
「ピピーッ ピピーッ」
『統合思念さん!
何か喋って!
アナタ、さっきまでペラペラ聞かれてもないこと喋ってたよね?』
「ピピーッ ピピーッ
データの更新中、データの更新中。
コミュニケート機能の最適化までしばらくお待ち下さい。」
『え?
いきなり女性声に切り替わるの止めてくれません?』
「女の声が聞こえたッ!!
女ッ!! 女ッ!!」
『いやいやいや、ポーラさん違うんですよ。
本当に違うんですよぉ。』
「ギャオーーーーッン!!」
…胃が痛い。
ポーラもなぁ、小さい頃は少しは…
いや、生まれつきのキチガイではあったな。
父のヤクザ的な攻撃性と母の封建諸侯的な攻撃性を悪い方向にハイブリッドしたような女だからなぁ。
ぶっちゃけ母さん似ではあるよな。
ロベールも、もうちょっとガツーンと言ってくれなきゃ困るんだよな。
嫁を黙らせるのも夫の義務だと思うんだよね。
「ギャオーーーーッン!!」
通信機の向こうでは泣きじゃくるポーラが、訳の分からない事を喚き続けている。
アイツ誰に似たんだろ。
もうさー、女に通信機持たせるの法律で禁止しない?
(その法律を作ってるのが摂政を始めとした小娘共なんだけどね。)
正直、疲れるわ。
「解析完了しました。
保管惑星のボディは統合思念の権利所有者全員の個別記録インストールに堪えうると判明。
接収を開始します。」
『えっと、私も忙しいのでそろそろ帰っていいですかね?』
「消毒の為、保管惑星の地表を全焼却する事を提案します。」
『えー?
焼却っすか?
どちらかと言えば私は反対ですねー。』
「統合思念は提案を承認する!」
『あ、男声に戻ったー。
ポーラ、聞こえる?
ポーラ?
今ね? 兄さん仕事だから。
ほら、今から証拠を聞かせるから。
ほら、男の人っぽい声が聞こえるでしよ?』
「ぐすん、ぐすん。
本当?
信じていいの?」
『ああ勿論だよ。
俺がポーラを騙す訳ないじゃないか。
愛してるよー。
世界でオマエだけだ。
ポーラが居ないと寂しくて死んじゃうよー。
(これは完全な嘘、妹が居ない時が一番伸び伸びしてる。)
さぁ、統合思念さん!
一言コメントお願いします!
男らしいコメント希望!
通信機を近付けますよー。』
「畏まりました。
インストール先個体は地下10キロ以下の個体を培養・逐次採取することとします。
地表に生息する99.989%の余剰生命体をデリートします。」
「女じゃない!!」
『あ、あれ!?
おかしいな…
さっきまで…』
「キーキーキーキーキーキーッ!!
ギャオーーーーーーーーッン!!!」
『ちょ!!
ポーラ!!
聞けって、ポーラ!!』
ブツンという音が聞こえたので、大方興奮して通信を切ってしまったのだろう。
やだなー
帰りたくないなー。
アイツが発狂すると最低10日は後を引くんだよなー。
ヤバい、胃が痛くなってきた。
「統合思念は焼却シークエンスの全工程を承認する!
カウントダウンは不要。
エネルギーチャージ完了後、直ちに保管惑星浄化作業に着手されたし!」
…マジかー。
コイツ、妹が通信を切った瞬間に男声で喋りだしやがった。
嫌がらせかな?
「分譲恒星の時空凍結を解除します。
これにより恒星の新規分譲が可能となります。
分譲恒星に対するネゲントロピー配当の支払いを再開します。
管理費の徴収がリスタート可能です。
我々が所有する宇宙の両極以外の分譲恒星が全て通常燃焼している事を確認しました。」
「でかした。
全ては計画通り。
余剰生命体のデリートが完了次第、生命権益の所有権再確認作業に移行せよ。」
ポーラはなぁ。
ヒスを起こしている時に謝っておかないと、後々根に持つからなあ。
くっそ、通信機が繋がらねえ。
ひょっとしてアイツ、主電源切ったんじゃないだろうな。
勘弁してくれよぉ…
あれは貸与品であって支給品ではないって、何回も言い聞かせてるのに。
「卑小なる末裔よ、褒めて遣わす。
よくぞ我らのゲノムを守り通した。
有効活用される事を光栄に思いながら消えよ。」
「エネルギー循環装置、焼却シークエンスに移行。
充填率72.691%」
「以降のシークエンスは省略。
試射も兼ねて即時発射せよ。
循環装置の調子を見ておきたい。」
『セット。』
「畏まりました。
補完惑星の全周をロックオン完了。
2秒後から地表焼却を開…」
「うむ、これこそが絶対神の再降り…」
『清掃。』
(シュワッ)
…やれやれ。
これでアンデッド問題は一段落かな。
『グッ!』
腹部に激痛を感じて思わずうずくまる。
やばいストレス性胃腸炎が再発したかも。
だからポーラ(キチガイ)の相手は嫌なんだよ。
『痛っ、痛い。』
全身から汗が噴き出す。
涙がボタボタ落ちる。
あ、ヤバい!
これ絶対ヤバい奴!
『フー、フー。』
医者から教わった呼吸法に切り替え、少しでも症状が進行しないように腹を押さえる。
そして、思わず床に倒れ込む。
『ヒューッ ヒューッ。』
あ、マジでヤバい。
この呼吸音は生命に深刻な危機が及んでる時のもの。
俺は必死で歯を食いしばり、楽しい事を考えようと試みる。
どの医者も口を揃えて言ったからね。
ストレス性胃腸炎が発症した時は、絶対に嫌な事を考えちゃいけないって。
『ふー。』
俺は目を閉じ、楽しいことを思い浮かべようとする。
『…俺の人生って何か楽しいことあったかな?』
取り敢えずポーラ以外の何か!
ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外ポーラ以外!!
意識し続けたせいか、【ポーラ】の花嫁姿が浮かぶ。
『ぐわぁッ!』
隣には軍礼服姿のロベール。
あのなぁ義弟よ。
オマエ「妹さんは責任を持って僕がお預かりします。」って言ったじゃん!
全然責任果たせてないじゃん!
ため息混じりに意識を切り替える。
もう【ポーラ】以外なら何でもいい!
事もあろうか【エルデフリダ】が浮かび掛けたので慌てて意識を遮断する。
アイツには泣かされっ放しだからな。
次に【クレア】の顔が脳裏に浮かぶ。
論外。
現在進行系で苛め抜かれている。
そして【元嫁】
勘弁してくれ。
地獄の結婚生活。
終わりなきトラウマ。
家と祖国のしがらみ。
必死に頭を振って、もっとちゃんとした子を思い浮かべようとする。
【レニー】
俺のオキニ。
問題ばかり起こす。
息を吐くように暴力を振るう。
俺、何であんな子を好きになったんだろう。
【エミリー】
別にあの女の事は好きでも何でもないのだが、【レニー】とつるんでるので、ついでに後宮入りさせてしまった。
俺の前では猫を被っているようだが、記録を読めば読むほどロクでもない言動ばかりが浮かび上がってくる。
というか、ぶっちゃけヤクザだよなアイツ。
どうして俺はあんな女の身元引受証にサインしちゃったんだろう。
暴力ヒロイン繋がりで…
【シモーヌ】
『うわあああああッ!!』
痛めつけられ殺されかけた記憶がフラッシュバックする。
『嫌ッ! 嫌ッ! やめっ!』
全身に植え付けられた激痛と恐怖。
首筋を掻きむしって記憶を封印しようとするが…
あの女の声や虫を見るような目線を思い出して、悲鳴を上げる。
言うまでもなく胃は痛い。
気が付くと胃液と涙を撒き散らして倒れていた。
例によって失禁していた。
吐瀉物の乾燥具合からして2時間ほど脳機能が停止していたらしい。
『うぐうぅぅ。』
俺は床を掻きむしりながら、全身を丸めて心身の激痛に無言で堪える。
どうせ止まらないので涙は拭わない。
あーあ、大魔王とのゲル暮らしは楽しかったなあ。
あの日々が永遠に続けば良かったのに。
《プルル プルル》
『ひッ!!』
通信機の呼び出し音に思わず悲鳴を挙げる。
とてもではないが、ポーラに費やす体力は残っていない。
いないのだが、放置すると悪化の一途を辿るからな。
『(ビクビク)
あ、はい。
ポールソンです。』
「公王様ッ!
ご無事ですかッ!」
『ホッ。
おお、ゲコ君か。
良かったぁ。
ポーラは?』
「緊急事態なんで、説明は後ッ!
公王様、地下で何かしはりました!?」
『え?
ちゃんとポーラをあやしてたけど。』
「それだけやないですよね!?
他に何か地下であったんやないですか!?」
『ああ、何かねー。
ラスボスみたいな人(?)が居たー。』
「えっ!?
何を言うてはるんですか?
頭とか打ってないですよね?」
『いやぁ、なんかデカい棺?
機械みたいなものが、枯渇中心点の直下にあったんだよ。
多分、アンデッド問題の原因だと思う。』
「いやいや!
あれだけ《異変があったら即座に一報入れて下さい》って言いましたよね?
ボク言いましたよね?
こっちは死ぬ思いで岩盤の下まで潜り込んでトルーパー待機してたんですよ!?」
『ゴメンって。
ポーラがしつこくて。
私も半分パニックになってたんだよ。』
「お言葉ですけど、公王様のそういう所は直ちに改善されなくてはならない点やと思いますよ?
嫁の躾も出来んモンが国の統治とかおこがましいにも程があるでしょ。
ボクの言うてること、何か間違ってます?」
『あ、いや。』
「スミマセン、話が逸れました。
続きを聞かせて下さい。
棺? 機械?を発見して、どうなったんですか?」
『なんかねー。
中の人(?)が天文学的な期間眠ってたらしい。
それで、時が満ちたから目覚めたんだってさ。』
「…眠り? 時?
ハッ! もしかしてコールドスリープッ!?
その人、コールドスリープとか言ってませんでした!?」
『あー、どうだろ。
えっと、時空凍結?
時間凍結?
何かそんなのしてたみたい。
知らんけど。』
「…ちょっと待って下さいよ!
その人と会話したんですか!?」
『人って言うか…
まぁ、ゴブリン種よりかは、やや人間種寄りだったかな。
プカプカ浮かんで目が3つあったけど。
彼曰く、我々の先祖なんだってさ。』
「…続けて下さい。」
『会話と言ってもねぇ。
向こうが偉そうにペラペラ撒くし立ててただけで、殆ど成立しなかった。』
「それで?」
『消した。』
「え!?」
『え?』
「え?
ご先祖様、消したんすか?」
『あ、いや。
2秒後にこの世界を焼却するとか言ってたから。』
「世界を焼く?
じゃあ、あの途方も無いエネルギー反応は、コールドスリープしてたご先祖様?」
『地上からもエネルギー観測出来たんだ?』
「いやいやいや!
砂漠中の砂丘が崩れてると報告が来てます。
地形の起伏が完全に変わってしまったそうなんです。
異常な出力ですよ、アレ。」
『わかる。
エミリー&レニーの合体奥義の3倍くらいの出力は感じたもの。
ご先祖様とは共存不可能だよね。』
「あ、いや。
あの3割の威力って異常ですよ?
奥義ってあの2人がいつもドヤ顔で自慢してるフレイムタイフーンですよね?
ボクとしては、あの犯罪者2名の方が余っ程共存不可能なんですが、それは…」
『まぁそう言う訳でご先祖様には消えて貰ったわ。
何かゴメンね。』
「えっと、あの害獣2匹の殺処分を優先するべきやと思うんですけど。
まぁええですわ。
で?
ご先祖様を消しはったんですね?
いや、まぁ。
ボクも親の介護ですら絶対嫌ですし…
顔も合わせたことない先祖なんか、今更出て来られても困るから…
大きい声では言えませんけど、消してくれて正直助かりました。」
『ここだけの話だけど。
私もテオドラ様に長生きされたら、ちょっと嫌かも。』
「いやいやいや!!
ちょ! アナタねえ!!
言っていい事と悪い事があるでしょッ!!!!
旧帝国人達の感情をこれ以上刺激せんとって下さいよ!!!!
ポールソン家のゴタゴタでどれだけ世間様に迷惑掛けてるか分かってます!?
…聞かなかった事にしますから。」
『ゴメン。』
「公人がね?
謝るような発言やったら最初からするなっちゅー話ですよ。
もっと自覚持って下さい。」
『…はい。』
若者に怒られると凹むんだよなあ。
ゲコ君も、もう少し手心というか…
「兎に角現在ッ!
地上では大変なことになってます!
地殻変動と共に星が一斉点灯!!
それに伴う異音(?)が確認されてます!」
『え? え? え?
星? 何?』
「公王様の所為にされてますよ!
いや、タイミング的に絶対公王様なんでしょうけど。」
『あ、うん。
まあ、私なんじゃない。
知らんけど。』
「そんな悠長な話やないんです!
カロッゾ卿の部隊が領内に押し入ってます!
帝国領への抜け道は全てトルーパーで塞がれました!
抗議はしてるんですけど、非常事態対応の1点張りで。」
『あー、非常事態ではあるよね。』
「どうですかねー。
星の点灯は自然学的な非常事態ではあるんですけど。
政治的なトラブルではない訳でしょ?
明かな越権行為ですよ。」
『あー、まああそうだよね。
御前会議に掛ければペナルティはカロッゾ側かな。
向こうも分かった上で侵攻してるんだろうけどさ。』
「今、ボクが乗ってるトルーパー。
見られたらヤバいんですよね?」
『トルーパーの無断製造・所持は1発アウト。
普通に叛逆罪だよ。』
「だから、ボクも地上に戻れない状況なんです。」
レ・ガンの差し金とは言え、この男は俺に強くコミットしてくれているので粗略には出来ない。
まさかトルーパーにまで乗ってくれるとは思わないじゃないか。
(平衡感覚の優れたゴブリン種は極めてトルーパー操縦の適性がある。)
『やれやれ。
キミは剣と魔法の世界を愛してくれたのにな。』
「ホンマですよ。
弟とスマホ太郎観てる時に酔った親父に乱入されて無理矢理ボトムズ見せられた事を思い出しましたわ。」
『相変わらず何を言ってるのかさっぱり分らんが、言いたい事は伝わったよ。
とりあえず形式的に謝っておくな。何かゴメーン。』
「いえいえ。
口先でも謝れる大人は偉大です。
ボクもオッサンになった時にそう在れる様に精進しまっさ。」
コイツはとことん大魔王と対極のパーソナリティだよな。
…2人が在籍するクラスを担任するのってしんどそう。
「報告を続けます。
宰相様が全員で砂漠各地のセーフハウスに潜伏する事を決めました。」
『潜伏って…
意味あるのかな?』
「100年潜れば政治状況も変わるとの見通しからだそうです。」
『えー、マジ?
100年かあ。
早く摂政死んでくれねーかな。』
「それはボクも内心同感ですけど。
あの人めっちゃ頑健やし、世代的には最年少グループですからね。
最低でも半世紀は権力の頂点に君臨し続けはるでしょ。」
そうなんだよなあ。
摂政とハロルド皇帝の若さって、それだけでとんでもない政治的信用なんだよなあ。
今、生きている大抵の人間より長く生きる事が見えてるからなあ。
絶対、超長期政権になるよなぁ。
あー、早く死んでくれねーかな。
摂政と四天王にだけ効く致死病とか流行ってくれねーかな。
「あ、それと!」
『んー?』
「地上部でかなり大規模な崩落が起こってるんですけど。
そっちはは大丈夫なんですか?
ボク、公王様が圧し潰されてる事も想定してルート選定してるんですけど。
勝手に死なんとって下さいね、迷惑やから。」
『おいおい、君も若い癖に心配性だねぇ。
私も馬鹿じゃない。
スキルで進路を作る時にちゃーんと退路を…』
「ん?
公王様?
どうされました?」
『あ、あれ?
退路?
え? 何で?
お、おかしいな。
退路が無いと普通に死ぬんだけど。』
「ちょ!
公王様!!!
最大の余震を確認!!!
衝撃波の到達、2秒後!!!」
『え!?
にびょ…』
なあ、オマエラ。
2秒って…
何?
俺に思考的猶予を与えないのが流行ってるの?
こっちも心の準備ってものが…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
あー、この地鳴りはヤバい地鳴りだわー。
前に一度死に掛けた事があったわ…
昔ねぇ。
いや昔と言っても子供の頃ね。
色々あってダンジョンの奥深くに誘拐されたエルデフリダを助けに行った事があったんだけど。
その時の崩落オチが丁度こんな感じだったんだよ。
あー、懐かしいなぁ。
悪い意味で懐かしい。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
これこれ。
この重低音がジワジワ迫って来る圧迫感。
まさか人生で2度経験するとは思わなかったわ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
あ、間近に迫った気配。
ここから1秒もしないうちにねー。
ドカ―――――――――――――――――――ンッ!!!!!
ほーらね。
オイオイオイ。
俺、今度こそ死んだわ。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
ガッシャ―――――――――――――――――ンッ!!!!!!
『ぐわあああああああああああああああ!!!!!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
…ヤバい、想定の5000倍くらいヤバい。
え? どれくらいヤバいかって?
『地底の崩落で即死出来なかった。』
言葉に出してみて絶望に圧し潰されそうになる。
これ、人間の死でも最悪ランキングに入る死に方になるんじゃないだろうか。
噴き出す大量の汗を無意識に拭い。
ヌルッ。
『え?』
違う、汗じゃない。
ッ!?
あ!
ヤバい!!!
頭部から出血している!!!!!
『落ち着け、俺。
落ち着け。』
あ!
この出血は中々止まらないパターンの出血!!
ヤバいヤバいヤバい!!!!
何とか地上に出て救護を受けなきゃ…
いや、俺なら出来る!!!
俺の【清掃】さえあれば、強引に地上までの道を…
そうと決まれば早速触媒!!
『あ、あれ?』
右腰に付けていたポーチがいつの間にか無くなっている。
『え? 何で?』
あのポーチにエクスポーションやスキル触媒を全部入れてたのに。
え? この出血状態で無触媒スキル発動!?
全身から冷や汗が噴き出す。
オイオイオイ。
この地底から地上に上がるまでどれだけの質量の砂岩を消さなくてはならない?
平時でなら無触媒でもゴリ押せる自信はある。
でも、この出血量で視界も暗いこの状態で…
変なスキルの使い方をしたら…
死。
『…ゴクリ。』
あ、ヤバい。
今度という今度こそは詰んだ。
俺は眼前に広がる無限の砂岩を呆然と眺めながら…
絶望の涙を流した。
恐怖、寂寥、孤独。
『あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ。』
確定した死。
俺は死ぬのか?
誰も見てない砂漠の地下深くで?
『あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ。』
誰でもいいから声を聞きたい。
(政権関係者及びポーラ・元嫁・エルデフリダ・クレア・レニー・エミリー・シモーヌを除く)
今、俺に優しくしてくれる子。
正ヒロインにしてあげるよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どれだけ無駄に歩き回ったのだろう。
光の具合からして地上までの穴は開いている筈だ。
疲労と出血の所為で視力が完全に麻痺している。
駄目だ、前が見えな…
『ぐわっ!』
派手に転倒。
さっき応急的に塞いだ頭部の傷口が再度開く。
『ごはあっ。』
半狂乱になって手元の通信機に叫ぶ。
『こちらポールソン!!
救援求む!!!
ジミー!! ロベール!! ニック!! ゲコ君!!
誰かいないのか!!!!』
当然ウンともスンとも反応しない。
『遭難してるんだ!!!!
出血が止まらない!!!
医療班!!! 医療班!!!
大至急救援に来てくれ!!!!
誰か!!! 誰か!!!!』
我ながら不様だと思うが…
まあ、死ぬ前の人間なんてみんなこんなモンだ。
『再起動。 【ニャガ―!!】
これだよな、電源は入ってるよな!
何でだ? 【オラートイチデテコイ!】
俺が操作間違ってるのか?』
壊れてしまったのか、雑音だけが流れている。
『あーあー、こちら遠市!
福田さん聞こえますか!【コロスゾトイチー!】
追手から襲撃されて負傷してます!
出血が止まりません! 【デテコイトイチー!】
救援をお願い出来ませんか!
こちら遠市!【ニャガー! ニャガー!】』
そこまで不快ではないのでポーラ達と繋がっていない事は確かだ。
『すみません。 【トイチー!!!】
追手に見つかりますので
これ以上の音量は出せません。
兎に角。 【ニャガー! ニャガー!】
大至急、大至急助けて下さい。
キチガイにッ!
追われてるんです!【コロスゾ―!】』
無駄だと分かっているのに俺は通信機に狂ったように叫び続ける。
『ああ! もう!!!
何でもいいから繋がれよおおお!!!!!』
カチリ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【降臨79日目】 「ねんがんのスマートフォンをてにいれたぞ!」に続く
【異世界紳士録】
「ポール・ポールソン」
コリンズ王朝建国の元勲。
大公爵・公王・総司令官
永劫砂漠0万石を所領とするポールソン大公国の国主。
「クレア・ヴォルコヴァ・ドライン」
四天王・世界銀行総裁。
ヴォルコフ家の家督継承者。
亡夫の仇である統一政府に財務長官として仕えている。
「ポーラ・ポールソン」
ポールソン大公国の大公妃(自称)。
古式に則り部族全体の妻となる事を宣言した。
「レニー・アリルヴァルギャ」
住所不定無職の放浪山民。
乱闘罪・傷害致死罪・威力業務妨害罪など複数の罪状で起訴され懲役25年の判決を受けた。
永劫砂漠に収監中。
「エミリー・ポー」
住所不定無職、ソドムタウンスラムの出身。
殺人罪で起訴されていたが、謎忖度でいつの間にか罪状が傷害致死にすり替わっていた。
永劫砂漠に自主移送(?)されて来た。
「カロッゾ・コリンズ」
四天王・軍務長官。
旧首長国・旧帝国平定の大功労者。
「ジミー・ブラウン」
ポールソン大公国宰相。
自由都市屈指のタフネゴシエーターとして知られ、魔王ダン主催の天下会議では永劫砂漠の不輸不入権を勝ち取った。
「テオドラ・フォン・ロブスキー」
ポルポル族初代酋長夫人。
帝国の名門貴族ロブスキー伯爵家(西アズレスク39万石)に長女として生まれる。
恵まれた幼少期を送るが、政争に敗れた父と共に自由都市に亡命した。
「ノーラ・ウェイン」
四天王・憲兵総監。
自由都市併合における多大な功績を称えられ四天王の座を与えられた。
先々月、レジスタンス狩りの功績を評されフライハイト66万石を加増された。
「ドナルド・キーン」
前四天王。
コリンズ王朝建国に多大な功績を挙げる。
大魔王の地球帰還を見届けた後に失踪。
「ハロルド・キーン」
帝国皇帝。
先帝アレクセイ戦没後に空位であった帝位を魔王ダンの推挙によって継承した。
自らを最終皇帝と位置づけ、帝国を共和制に移行させる事を公約としている。
「エルデフリダ・アチェコフ・チェルネンコ」
四天王筆頭・統一政府の相談役最高顧問。
前四天王ドナルド・キーンの配偶者にして現帝国皇帝ハロルド・キーンの生母。
表舞台に立つことは無いが革命後に発生した各地の紛争や虐殺事件の解決に大きく寄与しており、人類史上最も多くの人命を救済していることを統計官僚だけが把握している。
「リチャード・ムーア」
侍講・食糧安全会議アドバイザー。
御一新前のコリンズタウンでポール・ポールソンの異世界食材研究や召喚反対キャンペーンに協力していた。
ポールソンの愛人メアリの父親。
「ヴィクトリア・V・ディケンス」
神聖教団大主教代行・筆頭異端審問官。
幼少時に故郷が国境紛争の舞台となり、戦災孤児として神聖教団に保護された。
統一政府樹立にあたって大量に発生した刑死者遺族の処遇を巡って政府当局と対立するも、粘り強い協議によって人道支援プログラムを制定することに成功した。
「オーギュスティーヌ・ポールソン」
最後の首長国王・アンリ9世の異母妹。
経済学者として国際物流ルールの制定に大いに貢献した。
祖国滅亡後は地下に潜伏し姉妹の仇を狙っている。
「ナナリー・ストラウド」
魔王ダンの乳母衆の1人。
実弟のニック・ストラウドはポールソン大公国にて旗奉行を務めている。
娘のキキに尚侍の官職が与えられるなど破格の厚遇を受けている。
「ソーニャ・レジエフ・リコヴァ・チェルネンコ」
帝国軍第四軍団長。
帝国皇帝家であるチェルネンコ家リコヴァ流の嫡女として生を受ける。
政争に敗れた父・オレグと共に自由都市に亡命、短期間ながら市民生活を送った。
御一新後、オレグが粛清されるも統一政府中枢との面識もあり連座を免れた。
リコヴァ遺臣団の保護と引き換えに第四軍団長に就任した。
「アレクセイ・チェルネンコ(故人)」
チェルネンコ朝の実質的な最終皇帝。
母親の身分が非常に低かったことから、即位直前まで一介の尉官として各地を転戦していた。
アチェコフ・リコヴァ間の相互牽制の賜物として中継ぎ即位する。
支持基盤を持たないことから宮廷内の統制に苦しみ続けるが、戦争家としては極めて優秀であり指揮を執った全ての戦場において完全勝利を成し遂げた。
御一新の直前、内乱鎮圧中に戦死したとされるが、その詳細は統一政府によって厳重に秘匿されている。
「卜部・アルフォンス・優紀」
御菓子司。
大魔王と共に異世界に召喚された地球人。
召喚に際し、超々広範囲細菌攻撃スキルである【連鎖】を入手するが、暴発への危惧から自ら削除を申請し認められる。
王都の製菓企業アルフォンス雑貨店に入り婿することで王国戸籍を取得した。
カロッゾ・コリンズの推挙により文化庁に嘱託入庁、旧王国の宮廷料理を記録し保存する使命を授けられている。
「ケイン・D・グランツ」
四天王カイン・D・グランツの長男。
父親の逐電が準叛逆行為と見做された為、政治犯子弟専用のゲルに収容されていた。
リベラル傾向の強いグランツ家の家風に反して、政治姿勢は強固な王党派。
「ジム・チャップマン」
候王。
領土返納後はコリンズタウンに移住、下士官時代に発案した移動式養鶏舎の普及に尽力する。
次男ビルが従軍を強く希望した為、摂政裁決でポールソン公国への仕官が許された。
「ビル・チャップマン」
准尉→少尉。
魔王軍侵攻までは父ジムの麾下でハノーバー伯爵領の制圧作戦に従事していた。
現在はポールソン大公国軍で伝令将校として勤務している。
「ケネス・グリーブ(故人)」
元王国軍中佐。
前線攪乱を主任務とする特殊部隊《戦術急襲連隊》にて隊長職を務めていた。
コリンズ朝の建国に多大な貢献をするも、コリンズ母娘の和解に奔走し続けたことが災いし切腹に処された。
「偽グランツ/偽ィオッゴ/ゲコ」
正体不明の道化(厳密には性犯罪者)
大魔王と共に異世界に召喚された地球人。
【剽窃】なる変身能力を駆使して単身魔王軍の陣中に潜入し、摂政コレット・コリンズとの和平交渉を敢行。
王国内での戦闘不拡大と民間人保護を勝ち取った。
魔界のゴブリン種ンゲッコの猶子となった。
「ンキゥル・マキンバ」
公爵(王国における爵位は伯爵)。
元は遊牧民居留地の住民として部族の雑用に携わっていたが、命を救われた縁からコリンズ家に臣従。
王国内で一貫して統一政府への服従を呼びかけ続けた為、周辺諸侯から攻撃を受けるも粘り強く耐え抜いた。
御一新前からの忠勤を評価され、旧連邦アウグスブルグ領を与えられた。
「ヴィルヘルミナ・ケスラー」
摂政親衛隊中尉。
連邦の娼館で娼婦の子として生まれ、幼少の頃から客を取らされて育った。
コリンズ家の進軍に感銘を受け、楼主一家を惨殺して合流、以降は各地を転戦する。
蟄居処分中のケネス・グリーブを危険視し主君を説得、処罰を切腹に切り替えさせ介錯までを務めた。
「ベルガン・スプ男・ゴドイ」
魔界のオーク種。
父親が魔王城の修繕業に携わっていたので、惰性で魔王城付近に住み付いている。
大魔王コリンズの恩寵の儀を補助したことで魔界における有名人となった。
その為、異性に全く縁が無かったのだが相当モテるようになった。
以上の経緯から熱狂的なコリンズ王朝の支持者である。
「ヴォッヴォヴィ0912・オヴォ―」
魔界のリザード種。
陸上のみで生活しているという、種族の中では少数派。
その生活スタイルから他の魔族との会合に種族を代表して出席する機会が多い。
大した人物ではないのだが陸上リザードの中では一番の年長者なので、リザード種全体の代表のような扱いを受ける事が多い。
本人は忘れているが連邦港湾において大魔王コリンズの拉致を発案したのが彼である。
「レ・ガン」
元四天王。
魔王ギーガーの母(厳密には縁戚)
ギーガーの魔王就任に伴いソドムタウンにおける魔王権力の代行者となった。
在任時は対魔族感情の緩和と情報収集に尽力、魔王ギーガーの自由都市来訪を実現した。
「ジェームス・ギャロ」
ギャロ領領主。
現在行方不明中のエドワード王の叔父にあたる人物。
早くからエドワードと距離を置き、実質的な国内鎖国を行っていた。
能書家・雄弁家として知られる。
「ジョン・ブルース」
公王。
王国の有力貴族であったブルース公爵家が主家に独立戦争を挑み誕生したのが公国であり、ジョンは6代目にあたる。
武勇の誉れ高く王国・魔界に対して激しい攻撃を行う反面、綿密な婚姻政策で周辺の王国諸侯を切り崩していた。
「クュ07」
コボルト種の医官。
大魔王の侍医であったクュの孫娘。
紆余曲折あってコレット・コリンズの護衛兼愛人となった。
以前からポール・ポールソンの人格と能力を絶賛しており、即時抹殺を強く主張している。
「ニック・ストラウド」
ポール・ポールソンの義弟。
大公国建国後は旗奉行として軍事面から諸種族の取り纏めに奔走している。
エスピノザ男爵叛乱事件の鎮圧に大功あり南ジブラルタル13万石の領有を許された。
実姉ナナリーが魔王ダンの乳母に就任しその娘キキに尚侍の官職が与えられたことで、全世界からの嫉妬と羨望を集めている。
「ハワード・ベーカー」
大魔王財団理事長。
元は清掃会社の職員だったが、コリンズ家のソドムタウン入り直後に臣従。
大魔王パーティーの一員として、キーン・グランツと共にリン・コリンズを支えた。
主に(株)エナドリの代表取締役としてビジネス界から大魔王の覇業に貢献した事で知られる。
大魔王の経済テロの後始末に誠意をもって奔走したことで、世論からの信頼を勝ち取った。
「テオドラ・ヴォルコヴァ」
ヴォルコフ家前当主。
幼少時に実家が政争に敗れ族滅の憂き目に遭い、単身自由都市への亡命を余儀なくされた。
その後、紆余曲折あって清掃事業者ポールソンの妻となり一男一女を設ける。
統一政府の樹立と同時に旧臣を率いて帝国に電撃帰還、混乱に乗じて旧領を奪還した。
家督を財務長官クレア・ドラインに譲ってからは、領内で亡夫の菩提を弔う日々を送っている。
「シモーヌ・ギア」
大量殺人事件容疑者。
冒険者兼林業ヤクザとして高名だったギリアム・ギアの戦死後、その敵対勢力が尽く家族ごと失踪する事件が発生。
自由都市同盟治安局は妹のシモーヌを容疑者として捜査するも統一政府による国土接収で有耶無耶になった。
「ミヒャエル・フォン・ミュラー」
旧連邦の私的記録に頻出する人名。
新支配者であるノーラ・ウェインの連邦史保存プロジェクトにおいて、その文字列がノイズと判断されたので関連の文言は新史への記載を見送られた。
「アンドリュー・アッチソン」
魔王城剣術師範。
言わずと知れた世界最強の剣士であり、奇術師としても高名。
御一新前はピット商会で護衛隊長を務め、その卓絶した武技で数々の逸話を残している。
摂政コレット・コリンズが三顧の礼で招いた逸材であり、魔王ダンの警護及び不忠者への上意討ちを任務としている。
「アレクサンドル・イワノフ」
農学博士。
帝都大学農学部を主席で卒業後、同大学で教鞭を取る。
専攻は階層生態学。
トハチェフスキー公爵家に招聘され、州都ウラジオストクの農業法人を指導していた。
ソドム大学に特別講師として派遣中にコリンズ朝が成立、自由都市の滅亡に伴い大学ごと統一政府に吸収された。
学識と忠勤が認められ、魔王ダンの学術師範に任命されることとなった。
「コレット・コリンズ」
摂政・録尚書事・大元帥・終身最高判事・ピット諸島及び東アラル地方に対する全権庇護者。
大魔王リンの唯一の妻にして、魔王ダンの生母。
元は卑しい身分であったが、夫の建国を甲斐甲斐しく支えた。
大魔王の帰還後は母ヒルダとの抗争に勝利、卓絶した政治センスと果敢な軍事指導力を発揮し天下一統を果たした。
「統合思念」
神。
現在、宇宙に存在する全有機生命体の祖先にして宇宙の所有者・管理者。
全ての生命に対して、自らを神と認識させるプログラムを埋め込んでいる。
全宇宙の正統なる所有権を保有し、恒星(それに伴う銀河・銀河団)を分譲販売している。
顧客たる恒星からは支配権と支配下生命を分譲代金として徴収し続けているが、ネゲントロピーを配当として支払う義務を負っている。
宇宙に存在する生命のエネルギーを奪い尽くしては自己の時空を凍結して、顧客たる分譲恒星達と永遠の生を謳歌していた。
凍結解除の条件は全宇宙の対極同士に存在する異世界と地球が繋がること。
本来はそれだけの科学力/個体数を生命体が身に着けた事を意味するシグナルなのだが、今回は【宗教団体が考案した召喚術】というとんでもなく原始的な手法で凍結が解除されてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
異世界事情については別巻にて。
https://ncode.syosetu.com/n1559ik/