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【顛末記31】 大賢者

トリケラトプスの第1期孵化作業は8頭全て成功した。

流石に生命力特化の畜獣であると皆が驚嘆する。

半年もしないうちにヒョコヒョコと走り回り始め、生後一年以内に調教を開始すれば中々優秀な輜重獣に育つ。



『スプ男君。

成体に育つまで餌が持たないぞ?』



「いいんすよ。

優秀な個体だけ残して、他は食肉にするんすから。」



『え?

そういうものなの?

ちょっと惨くない?』



「あのねえ公王様。

御慈悲は皆さんの健康状態に向けて下さいよ。

俺、驚いたんすからね。

まさか天下のポールソン家の皆様が本当にサソリの殻を食べてるなんて…

ハッキリ言って異常ですよ。」



『いや、散々そう言ったじゃない。

講演会では頻繁にネタにしてるし。』



「いやいや、場を和ませる為の定番ジョークかと思ってました。」



『でも結構ウケてるでしょ?』



「…実際食ってることが広まったら、世間様はドン引きですよ。」



『ゴメンて。』



「いや、怒ってる訳じゃないんすけど。

もう少しQOLを上げて下さらないと周りが困ります…

トリケラで恐縮ですけど、これからはちゃんと肉も食って下さいね。

ムーア先生も呆れておられたでしょう?」



『まあ、文明的な栄養状態ではないわな。』



「大体、お子様の発育とかどう考えられてるんすか?」



『あ、忘れてたー。』



「やめてー。

ポーラ大公妃様がまたギャオーンしますよ。」



『アイツもねー。

子供の頃は…


あ、昔からあんなんだったわ。』



「それきっと公王様がギャオーンさせ続けてる所為っすよ。」



『よく言われるー。』



オークチームには菌類の養殖とトリケラトプス牧場の管理を任せる。

現在は種族間軋轢防止の為に、遊牧ゴブリン・リャチリャチ族・ダークエルフの3種族への挨拶回りに注力して貰ってるところ。

オーク種が砂漠に根付くかは疑問だが、それくらいの覚悟を持って砂漠開拓事業に取り組んでくれているのは嬉しい。

現在は俺の近習衆として扱っているが、種族規模が膨れた場合、旗奉行を務めているニック・ストラウドの指揮下に入る予定だ。



「あ、公王様。

マッシュルームは軌道に載ると思いますよ。」



『そうなの!?

凄いねオーク技術。』



「いやー、どうなんすかねー。

公王様が掘った地下空間の存在ありきですからね。

ぶっちゃけ、この空間でなら人間種の栽培業者さんの方が実績挙げると思いますよ。

色々新種を栽培してるじゃないっすか。

小松菜、リザード連中が感謝してました。」



『新種って言っても神聖教の連中が勝手に召喚しただけだよ?

もう、本当に迷惑でさぁ。

ヒグマやヒッポーみたいな危険害獣もアイツらが呼んだんだよ。

ったく、どれだけ死人が出たんだって話だよな。』



「国教批判は(笑)(指でバッテン)」



『まぁ、兎に角。

新種に感謝なんてしなくていいって話。』



「うーん、公王様の召喚反対論も分からなくはないんですけど…

でもトータルしたら世界の富を爆増させてますからね。」



『まあ、総計では否定しないけどさ。』



「大魔王様が召喚でこちらに来られた以上、もはや召喚否定は無理筋じゃないっすか?」



俺は昔から召喚反対派だ。

いや、人類の大半は今でも召喚を快く思ってない筈なのだ。

誰にだって未知の生物が生活圏に侵入する生理的嫌悪は持っていると思う。

ただ、コリンズ朝の建国者である大魔王リン・コリンズが召喚者である以上、もはや反対論を大っぴらに公言は出来ない。

どれだけオブラートに包んでも政権批判になってしまうからね。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



御一新前は経済性の悪い召喚生物は全て駆除対象だった。

だが、今は強引に活用方法をこじつける風潮になっている。

召喚生物=悪玉の構図を覆さないと、魔王ダンが悪玉とのハーフになっちゃうからね。

そりゃあ摂政も血眼になってイメージアップを図るよね。

当然、その血眼は俺の永劫砂漠にも送り込まれて来る。



「以上を踏まえてクズで砂漠を緑化します。」



『マジっすかー。』



アレクサンドル・イワノフ。

元帝都大学教授。

農学・生態学の権威。

魔王ダンの判始めと同時に学術師範に就任する事が内定している。

カロッゾに殺害されたフッガー博士の称号【大賢者】も、この男に与えられる。


彼とは御一新前、共にクズの駆除に勤しんだ仲である。

もっとも当時の俺達は所属陣営が異なっていたので、パートナーというよりも政敵としての側面が強かった。

もしも俺と摂政が別陣営だとすれば、この男とは引き続き政敵関係なのだろう。



「会議には公王様も出席されてたでしょ?」



『結論ありきの方針発表会を会議と呼称するの止めません?』



「どこもそんなものですって。

帝国アカデミーなんてもっと酷いし。」



『あー、学者さんの世界は大変らしいですねー。』



「公王様も経済学者でしょ。」



『私はずっと干されてましたし。』



「今、主流派なんだからいいじゃないですか。」



…権力握った途端に皆が掌を返して学説を賛美する風潮やめないか?

まだ何者でも無かった頃、学会は俺の学説を排斥し続けた。

最近知った事だが、博士号の剥奪も議論されていたらしい。

俺が四天王になった瞬間、反対者達は最初から賛同者だったような顔をし始めた。

この仕打は人生で一番傷心が付いた。

きっとアカデミーとは馬鹿の決勝リーグなのだ。



「そろそろ思考を切り替えて下さい。

公王様は既に選ぶ立場におられるのですから。」



確かに今の俺はどの学説を政権が支持するかの決定に深く関与している。

どの経済学者にスポットライトを当てるかは、俺とクレアが会議前の立ち話で決めてるしな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



砂漠を駱駝で並走しながら俺は叫ぶ。



『博士!

如何ですか?

トリケラトプスの乗り心地は!』



「最悪でーす!」



曲学阿世共を激しく糾弾し続けて来た硬骨の碩学だけあって、一切忖度がない。



『強引に褒めてくださーい!!』



「フォルムが格好いいでーす。」



『恥ずかしながら私も内心そこを誇りに思ってましたー!』



「男は幾つになっても少年ですからー!!」



スプ男が御者を務めるトリケラトプス車に乗ってイワノフは砂漠を疾走する。

確か軍歴は無かった筈だが、目線の動きは極めて俊敏である。

俺達は砂漠をクズで緑化するプロジェクトの遂行を摂政から命じられていた。

色々言いたい事はあるが、主命なので従わざるを得ない。

我、ゼロ万石ぞ?



「もしも、この砂漠が緑に包まれたら…

革命の甲斐があったと思いませんか?」



『殺されていった連中にも多少は顔向け出来るかも知れませんね。』



「革命前もいっぱい死んでたじゃないですかー!

公王様もいっぱい殺した!!」



『そんなに殺してませんよー!!!』



「御自分が奪った命にだけは自覚がないんですか?

いつも摂政やカロッゾ様を批判している癖にー!!」



俺達は罵り合ってる訳では無い。

専攻は違えど、ディスカッションに忖度を挟まないタイプの学派に身一つで属しているのだ。



『猛省しまーす!!』



「でも本音はー!?」



『後世の史家に任せまーす!』



イワノフ博士が合図したのでスプ男がトリケラを停めた。

どうやらクズ栽培の実験ポイントを見つけたらしい。



「環境さえ整えれば、人類に後世を残せます。

そうでしょ?」



『…まさか、貴方とクズを植える日が来るとは思ってませんでした。』



「御一新直前は躍起になって駆除してましたからな。」



『あの時言いそびれていた礼を述べます。

自由都市を救って下さりありがとうございました。

イワノフ博士の駆除プログラムによって多くの農地が救われました。』



イワノフ博士は遊牧民のみで構成されたクズ駆除チームを編成し、自由都市に迫りつつあったクズを一掃した。

加えて、故フランク・セルピコ上級司祭が普及に尽力した小松菜の栽培指導も行ってくれた。

まさしく自由都市の恩人である。

もうそんな国はどこにも存在しないが。



「…この峡谷状の地形、似ていると思いませんか?」



『自由都市とトハチェフスキー公爵領の国境…

随分苦労しましたが、あの調査は楽しかった。』



「ここならクズは繁殖しますよ?

月内には茂みが生まれます。」



『まさか…

幾らクズの生命力が…

いや、あり得るか。』



イワノフ博士は助手を呼び寄せ、クズを植えた。

かつて俺達はクズを栽培する馬鹿の出現を防ぐ為の法案作りに奔走したものだが…

まさかその馬鹿が自分だったとはね。

人生わからない物だよね。



「カロッゾ様からの伝言です。」



『…はい。』



その名を聞いた瞬間に全身が強張る。

カロッゾ・コリンズ。

人類史上最悪の虐殺者。

際限なく殺戮を続ける真性の狂人。



「砂漠の緑化は祝福するがオアシスにはみ出さないように配慮するように。

とのことです。」



『…立場が逆なら私も同じ発言をしていたでしょう。』



カロッゾが治める肥沃なオアシス地帯にはデーツやオリーブ、ブドウや小麦が咲き誇る様に植えられている。

なので住民はオリーブをたっぷり混ぜ込んだパンを貪り、食後にはワインとデーツ菓子を楽しんでいるのだ。

…カロッゾの赴任以来、味覚水準が飛躍的に向上したそうだし今更クズに侵食される訳にはいかないよな。



「私はカロッゾ様や摂政殿下は不世出の英雄だと思います。」



『…らしいですね。』



「公王様同様、歴史に名を刻む英雄です。」



『…。』



参ったな、俺の名があんな殺人鬼共と並んで残ってしまうらしい。

…勘弁してくれよ。


イワノフと俺は手際よくクズを砂漠に植えていく。

御一新前の駆除作業は何だったのだろうな。



「適材適所。

田園のクズは侵略者ですが、砂漠のクズは救世主です。」



『その点は…

まあ、強く賛同します。』



「カロッゾ様がそうであるように!」



『…あの御仁は治世であれば単なる奸雄でしょうな。』



「革命期にはカロッゾ様の果断さが必要なのですよ。」



『物には限度があります。』



「ええ、確かに行きすぎな面もありますな。

人命を過度に奪っているとも思います。」



『それがお分かりならば…』



「世間は公王様にも似た評価を下しておりますよ。」



『…俺はあんな奴とは違うッ!!』



「落ち着いて下さい。

褒めているのですよ、人々は。

革命期にはポールソン公王のような剛腕が必要であると。」



『私は…

剛腕呼ばわりされるような手法を取った覚えはありません。』



「人民の目にはそう映っているのですよ。

公王の目にカロッゾ様や摂政殿下が武断的に見えているようにね。」



『貴方もお説教ですか。』



「ええ、生まれて初めて政治に口を出しました。

自分でも驚いています。」



『…そいつは、どうも。』



呆れた事に、この男は自身のこれまでの言動が如何にポリティカルであるかを自覚していなかった。

オマエや俺が生き残れているという事は、案外世界は優しいのかもな。


イワノフ博士との雑談はそれで終わりである。

後は実務に忙殺された。

レポートの様式を定めたり、試験区を割り当てたり、コリンズ大学からの書簡に返答をしたためたり。

社会運営にはこういった無駄なタスクが必要不可欠なのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



翌週。

クズは全滅。



「教授、やはりこの環境で植物の生育は無理ですよ。」



助手達が口々に砂漠環境の苛酷さに言及するが、俺とイワノフは別の結論に達していた。

人払いを済ませてから、トリケラの影で意見を擦り合わせる。



『イワノフ博士。

明らかにこれは…』



「ええ、通常であればクズは繁殖します。

そういう立地を選定したのですから。」



御一新前の俺とイワノフ博士は所属国家や政治信条こそ異なっていたが、【外来種の駆除を最優先すべし】との志で強く結ばれていた。

特に《グリーンモンスター》の異名を取るクズの危険性には早くから警鐘を鳴らしており、駆除運動の陣頭に立っていたと言っても過言ではない。

故に、世界で俺達ほどクズの生態を把握している者が居るとは考えにくいし、その俺達が繁殖を確信した場所でこんな枯れ方をするのは異常だった。



『砂に…

生命を吸収する作用はありますか?』



「まさか!

御伽噺じゃあるまいし。」



『ですよね。』



「ですが、スキルによっては…

植物の生命力を奪うような性質のものもあると思います。

古代魔法の文献を探れば、或いは類似現象が発見出来るかも知れません。」



『魔法… ですか。』



我が故郷の自由都市は経済大国であったこともあり、スキルや魔法は早々に教育現場の一番隅に追いやられていた。

花形の学問と言えば何を置いても金融工学を指し、受験生達は競ってそれを学べる理工学部の門を叩いた。

高校時代の俺が魔法学の書籍を捲っていると級友達に嘲笑されたものである。



  「おいおい、ポールソンw

  今年受験だぞ? 

  分かってるのかオマエww」



あの頃の俺は何と反論したのだろう?

覚えていない。

素直に本を閉じて、経済学部受験の準備を再開したのだと思う。



「ええ、帝都大学時代の後輩が魔法学部長に就任してますので、調べさせましょうか?」



一方、帝国は随分と魔法やスキルの研究に熱心だった。

理由は明白。

侵略戦争の道具として有用だったからだ。

眼前のイワノフも超一流の農学者でありながら普通に魔法を使える。

自由都市であれば学者が魔法行使などしたら乱心したと見做されて直ちに役職を剥奪されただろうが、そこら辺は文化の違いである。

帝国人にとって魔法やスキルは科学の一部であって、話題に挙げることを恥じるものではない。



「公王様の意見が聞きたいです。」



『これは自然環境の苛酷度の話ではありません。

クズを枯らしたのは超常です。

我々人類がスキルや魔法と呼んでいるのと同質の超常。』



「どうされますか?」



そう問うイワノフ博士は既に学者の目をしていなかった。

自覚がないだけで元から政治性の強い男なのだ。

たまたまキャリアを学会から進めたから、自分をノンポリと誤認していた。

…参ったな、とことん俺の同類じゃないか。



『善処します。』



「そんなお茶を濁すような…」



『このポールソンが善処するのですよ?』



この俺が取り組めば全ての問題は解決する。

日常だの社会だのの有象無象が邪魔さえしなければこの世の問題は全て【清掃クリーンアップ】される。



「失礼、それは多いに頼もしいです。」



『解決後は魔王ダンに功績を譲ります。

それで宜しいか?』



「天下に取っては慶事です。」



俺の仮説。

この真下に何かが要る。

それが生命エネルギー(何じゃそりゃ)を吸い取ってるから、この地が砂漠化し広がっている。



「公王様。

何かとは?」



『私に聞かれても困りますよ。

人類にとって未知の強大極まりない存在なんじゃないですか?』



「いや、そんな漠然とした…」



『でも博士もそう思うでしょう?』



「まあ、この遥か地下深くに何かがあるんでしょうな。

それこそ神魔の域にある強大な何かが。」



『東方への義援米送付が終わったら、ちょっくら潜って駆除してきます。』



「え!?

駆除!?」



『砂漠を広げる存在なら早めに駆除するべきでしょう?

かつてのクズを我々が除去したように。』



「いやいやいや!!

え? 

まずは調査チームを編成して、討伐軍の装備を来年度の予算から…」



『博士。

正直に言っていいっすか?』



「あ、はい。」



『軍隊も国家も私にとっては足手纏いなんです。

ポーラ程でないにしてもね。

さっさと解決したいので私1人で潜ります。』



「相変わらず豪気な方ですなあ。」



『我が領地は御覧の通り貧しいですし、統一政府の予算にも限りがあります。

神魔駆除なんぞに補正予算を申請したら、クレアの奴が五月蠅いんですよ。

来期はドワーフ領までの鉄道敷設に着手しなければなりませんし。』



「鉄道もねえ。

本来なら急ぐ必要はないと思うんですけど。

王国さんが落ち着いてる間に既成事実を作っておきたいですしねぇ。」



『そういうことです。

1人で潜って駆除しておきますわ。』



「そんな害獣駆除のノリで仰られましても。

だってどう考えても!

神話に登場する天地開闢の神魔の類ですよ、この現象。」



『まあ、そうなんでしょうけど。

大魔王の法外さに比べたら…

別に。』



「いや、確かに大魔王様は偉大な方だと思いますけど…

でも軍隊経験はなかったですよね、確か?」



やれやれ、アレクサンドル・イワノフほどの碩学でもこの程度の理解か。

何でみんな大魔王の恐ろしさが分からないのだろうな。

ひょっとしてアレが人間か何かに見えていたのだろうか。

勝つとか負けるとかそういう次元の話じゃないのにな。



「いえ、でも!

大魔王様の偉大さは重々承知ですが…

戦史を紐解けば、こういうケースですと!」



イワノフな極めて聡明な男である。

大賢者の称号が与えられるに相応しいとは思う。

当代の枠組みの中では間違いなく第一等の学者であろう。

その程度のスケールでは観測し得ないから、大魔王は偉大なのだ。


もしかして皆はアレが生み出しているのが富か何かと誤認していたのだろうか?

大魔王が万民への分配者か何かに見えていたのだろうか?

だとすれば実に愚かしい。




…まったくの逆なのに。




大魔王の解釈1つ挙げても人類はかくも愚かしい。

愚者代表の俺が断言するのだから間違いない、俺以外は全員使えないのだ。

勝負所に単騎で向かう習慣が身に付いたのはその所為だ。

問題解決能力なら俺が突出しているので1人でやらせて欲しい。

今思えばドナルド・キーンやドラン・ドラインは俺のそういう性質を理解・尊重してくれていた。

逆に女は駄目だな。

妹を筆頭に、元嫁、エルデフリダ、ハーレムメンバー達。

足手纏いの自覚がない癖に纏わりついてくる。

クレアがややマシな程度か。

まあ、アレは脳構造が雄寄りだからな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『なあ、ゲコ君。』



「はい?」



『私、今から世界を救う孤独な戦いに挑むんだけどね?』



「あ、はい。

今、ボク忙しいんですけど?

見たら分りますよね?」



『ポーラの奴を上手く誤魔化しておいて。』



「いやいやいや!

そんなん嫌ですよ!

あの人マジモンのキチガイですやん!」



『おいおい、人の妹を酷評するなよー。』



「でも妹やのに大公妃を名乗る神経は普通やないですよ。」



『それな。

もう俺の子供も生まれちゃったし。』



「いやいや、それに関しては責任の半分は公王様にあるような…」



『兎に角、探索路を掘るよ。

地下に潜って駆除して来るわ。』



「駆除って何を?」



『いや、神話級の有害生物が居るっぽいから。』



「え?

公王様とどっちが有害なんですか?」



『いや、それは勿論俺だけど。

ぶっちゃけ俺が死んだら政権安定するんじゃない?』



「じゃあ公王様は探索路やなくて御自身の墓穴掘った方がええんちゃいますのん?

世の中の為にも。」



『えー、俺は閉所恐怖症なんだよー。

ゲコ君も付き合ってくれない?』



「スンマセンけど魔界の服務規程で殉死は(笑)(両人差し指でバッテン)」



『じゃあ、ゲコ君をポーラ大臣に任命ってことで。』



「いやいや旦那のロベールさんが居られるじゃないですか。」



『駄目だよー。

ロベールが居なくなったら、俺が寂しいんだよ。』



「ボクやったら死んでもいいみたいな鬼畜発言やめてー。」



『キミ、死ぬ訳?』



「いえ、ギャグキャラ不滅の法則というのが故郷にありまして。」



『ソドムタウンにもあったよ。』



「え!?

異世界にギャグキャラの概念があるんでっか!?」



『あるよギャグキャラくらい。

地球マウントやめろよな。』



…コイツと話してると脳が適度にクールダウンしてくれるから助かるわ。

革命だの世界だのマジになってた自分を程々の距離で客観視出来る。

まあ、ある程度は計算してやってるんだろうけどさ。



『なあ、ゲコ君。』



「え?

まだ話が続くんでっか?

ボク、遊牧ゴブリンの女子会に遊びに行くという大事な使命があるんですけど?」



『キミに贈りたい称号があるんだけど。』



「どうせ何かの皮肉でしょ?」



『おお、よく分かったね!?』



「最近、公王様の思考パターン読めて来ましたわ。」



『はっはっは、そんなにヘソを曲げるなよー。』



「別に拗ねてる訳やないですよ。

トイチ君と一対の称号でもない限りね。」



やれやれ。

なあ、イワノフ博士よ。

アンタの後任はもうコイツでいいだろ。

【異世界紳士録】



「ポール・ポールソン」


コリンズ王朝建国の元勲。

大公爵・公王・総司令官

永劫砂漠0万石を所領とするポールソン大公国の国主。



「クレア・ヴォルコヴァ・ドライン」


四天王・世界銀行総裁。

ヴォルコフ家の家督継承者。

亡夫の仇である統一政府に財務長官として仕えている。



「ポーラ・ポールソン」


ポールソン大公国の大公妃(自称)。

古式に則り部族全体の妻となる事を宣言した。



「レニー・アリルヴァルギャ」


住所不定無職の放浪山民。

乱闘罪・傷害致死罪・威力業務妨害罪など複数の罪状で起訴され懲役25年の判決を受けた。

永劫砂漠に収監中。



「エミリー・ポー」


住所不定無職、ソドムタウンスラムの出身。

殺人罪で起訴されていたが、謎忖度でいつの間にか罪状が傷害致死にすり替わっていた。

永劫砂漠に自主移送(?)されて来た。



「カロッゾ・コリンズ」


四天王・軍務長官。

旧首長国・旧帝国平定の大功労者。



「ジミー・ブラウン」


ポールソン大公国宰相。

自由都市屈指のタフネゴシエーターとして知られ、魔王ダン主催の天下会議では永劫砂漠の不輸不入権を勝ち取った。



「テオドラ・フォン・ロブスキー」


ポルポル族初代酋長夫人。

帝国の名門貴族ロブスキー伯爵家(西アズレスク39万石)に長女として生まれる。

恵まれた幼少期を送るが、政争に敗れた父と共に自由都市に亡命した。



「ノーラ・ウェイン」


四天王・憲兵総監。

自由都市併合における多大な功績を称えられ四天王の座を与えられた。

先々月、レジスタンス狩りの功績を評されフライハイト66万石を加増された。



「ドナルド・キーン」


前四天王。

コリンズ王朝建国に多大な功績を挙げる。

大魔王の地球帰還を見届けた後に失踪。



「ハロルド・キーン」


帝国皇帝。

先帝アレクセイ戦没後に空位であった帝位を魔王ダンの推挙によって継承した。

自らを最終皇帝と位置づけ、帝国を共和制に移行させる事を公約としている。



「エルデフリダ・アチェコフ・チェルネンコ」


四天王筆頭・統一政府の相談役最高顧問。

前四天王ドナルド・キーンの配偶者にして現帝国皇帝ハロルド・キーンの生母。

表舞台に立つことは無いが革命後に発生した各地の紛争や虐殺事件の解決に大きく寄与しており、人類史上最も多くの人命を救済していることを統計官僚だけが把握している。



「リチャード・ムーア」


侍講・食糧安全会議アドバイザー。

御一新前のコリンズタウンでポール・ポールソンの異世界食材研究や召喚反対キャンペーンに協力していた。

ポールソンの愛人メアリの父親。



「ヴィクトリア・V・ディケンス」


神聖教団大主教代行・筆頭異端審問官。

幼少時に故郷が国境紛争の舞台となり、戦災孤児として神聖教団に保護された。

統一政府樹立にあたって大量に発生した刑死者遺族の処遇を巡って政府当局と対立するも、粘り強い協議によって人道支援プログラムを制定することに成功した。



「オーギュスティーヌ・ポールソン」


最後の首長国王・アンリ9世の異母妹。

経済学者として国際物流ルールの制定に大いに貢献した。

祖国滅亡後は地下に潜伏し姉妹の仇を狙っている。



「ナナリー・ストラウド」


魔王ダンの乳母衆の1人。

実弟のニック・ストラウドはポールソン大公国にて旗奉行を務めている。

娘のキキに尚侍の官職が与えられるなど破格の厚遇を受けている。



「ソーニャ・レジエフ・リコヴァ・チェルネンコ」


帝国軍第四軍団長。

帝国皇帝家であるチェルネンコ家リコヴァ流の嫡女として生を受ける。

政争に敗れた父・オレグと共に自由都市に亡命、短期間ながら市民生活を送った。

御一新後、オレグが粛清されるも統一政府中枢との面識もあり連座を免れた。

リコヴァ遺臣団の保護と引き換えに第四軍団長に就任した。



「アレクセイ・チェルネンコ(故人)」


チェルネンコ朝の実質的な最終皇帝。

母親の身分が非常に低かったことから、即位直前まで一介の尉官として各地を転戦していた。

アチェコフ・リコヴァ間の相互牽制の賜物として中継ぎ即位する。

支持基盤を持たないことから宮廷内の統制に苦しみ続けるが、戦争家としては極めて優秀であり指揮を執った全ての戦場において完全勝利を成し遂げた。

御一新の直前、内乱鎮圧中に戦死したとされるが、その詳細は統一政府によって厳重に秘匿されている。



「卜部・アルフォンス・優紀」


御菓子司。

大魔王と共に異世界に召喚された地球人。

召喚に際し、超々広範囲細菌攻撃スキルである【連鎖】を入手するが、暴発への危惧から自ら削除を申請し認められる。

王都の製菓企業アルフォンス雑貨店に入り婿することで王国戸籍を取得した。

カロッゾ・コリンズの推挙により文化庁に嘱託入庁、旧王国の宮廷料理を記録し保存する使命を授けられている。



「ケイン・D・グランツ」


四天王カイン・D・グランツの長男。

父親の逐電が準叛逆行為と見做された為、政治犯子弟専用のゲルに収容されていた。

リベラル傾向の強いグランツ家の家風に反して、政治姿勢は強固な王党派。



「ジム・チャップマン」


候王。

領土返納後はコリンズタウンに移住、下士官時代に発案した移動式養鶏舎の普及に尽力する。

次男ビルが従軍を強く希望した為、摂政裁決でポールソン公国への仕官が許された。



「ビル・チャップマン」


准尉→少尉。

魔王軍侵攻までは父ジムの麾下でハノーバー伯爵領の制圧作戦に従事していた。

現在はポールソン大公国軍で伝令将校として勤務している。



「ケネス・グリーブ(故人)」


元王国軍中佐。

前線攪乱を主任務とする特殊部隊《戦術急襲連隊》にて隊長職を務めていた。

コリンズ朝の建国に多大な貢献をするも、コリンズ母娘の和解に奔走し続けたことが災いし切腹に処された。



「偽グランツ/偽ィオッゴ/ゲコ」


正体不明の道化(厳密には性犯罪者)

大魔王と共に異世界に召喚された地球人。

剽窃(パクり)】なる変身能力を駆使して単身魔王軍の陣中に潜入し、摂政コレット・コリンズとの和平交渉を敢行。

王国内での戦闘不拡大と民間人保護を勝ち取った。

魔界のゴブリン種ンゲッコの猶子となった。



「ンキゥル・マキンバ」


公爵(王国における爵位は伯爵)。

元は遊牧民居留地の住民として部族の雑用に携わっていたが、命を救われた縁からコリンズ家に臣従。

王国内で一貫して統一政府への服従を呼びかけ続けた為、周辺諸侯から攻撃を受けるも粘り強く耐え抜いた。

御一新前からの忠勤を評価され、旧連邦アウグスブルグ領を与えられた。



「ヴィルヘルミナ・ケスラー」


摂政親衛隊中尉。

連邦の娼館で娼婦の子として生まれ、幼少の頃から客を取らされて育った。

コリンズ家の進軍に感銘を受け、楼主一家を惨殺して合流、以降は各地を転戦する。

蟄居処分中のケネス・グリーブを危険視し主君を説得、処罰を切腹に切り替えさせ介錯までを務めた。



「ベルガン・スプ男・ゴドイ」


魔界のオーク種。

父親が魔王城の修繕業に携わっていたので、惰性で魔王城付近に住み付いている。

大魔王コリンズの恩寵の儀を補助したことで魔界における有名人となった。

その為、異性に全く縁が無かったのだが相当モテるようになった。

以上の経緯から熱狂的なコリンズ王朝の支持者である。



「ヴォッヴォヴィ0912・オヴォ―」


魔界のリザード種。

陸上のみで生活しているという、種族の中では少数派。

その生活スタイルから他の魔族との会合に種族を代表して出席する機会が多い。

大した人物ではないのだが陸上リザードの中では一番の年長者なので、リザード種全体の代表のような扱いを受ける事が多い。

本人は忘れているが連邦港湾において大魔王コリンズの拉致を発案したのが彼である。



「レ・ガン」


元四天王。

魔王ギーガーの母(厳密には縁戚)

ギーガーの魔王就任に伴いソドムタウンにおける魔王権力の代行者となった。

在任時は対魔族感情の緩和と情報収集に尽力、魔王ギーガーの自由都市来訪を実現した。



「ジェームス・ギャロ」


ギャロ領領主。

現在行方不明中のエドワード王の叔父にあたる人物。

早くからエドワードと距離を置き、実質的な国内鎖国を行っていた。

能書家・雄弁家として知られる。



「ジョン・ブルース」


公王。

王国の有力貴族であったブルース公爵家が主家に独立戦争を挑み誕生したのが公国であり、ジョンは6代目にあたる。

武勇の誉れ高く王国・魔界に対して激しい攻撃を行う反面、綿密な婚姻政策で周辺の王国諸侯を切り崩していた。



「クュ07」


コボルト種の医官。

大魔王の侍医であったクュの孫娘。

紆余曲折あってコレット・コリンズの護衛兼愛人となった。

以前からポール・ポールソンの人格と能力を絶賛しており、即時抹殺を強く主張している。



「ニック・ストラウド」


ポール・ポールソンの義弟。

大公国建国後は旗奉行として軍事面から諸種族の取り纏めに奔走している。

エスピノザ男爵叛乱事件の鎮圧に大功あり南ジブラルタル13万石の領有を許された。

実姉ナナリーが魔王ダンの乳母に就任しその娘キキに尚侍の官職が与えられたことで、全世界からの嫉妬と羨望を集めている。



「ハワード・ベーカー」


大魔王財団理事長。

元は清掃会社の職員だったが、コリンズ家のソドムタウン入り直後に臣従。

大魔王パーティーの一員として、キーン・グランツと共にリン・コリンズを支えた。

主に(株)エナドリの代表取締役としてビジネス界から大魔王の覇業に貢献した事で知られる。

大魔王の経済テロの後始末に誠意をもって奔走したことで、世論からの信頼を勝ち取った。



「テオドラ・ヴォルコヴァ」


ヴォルコフ家前当主。

幼少時に実家が政争に敗れ族滅の憂き目に遭い、単身自由都市への亡命を余儀なくされた。

その後、紆余曲折あって清掃事業者ポールソンの妻となり一男一女を設ける。

統一政府の樹立と同時に旧臣を率いて帝国に電撃帰還、混乱に乗じて旧領を奪還した。

家督を財務長官クレア・ドラインに譲ってからは、領内で亡夫の菩提を弔う日々を送っている。



「シモーヌ・ギア」


大量殺人事件容疑者。

冒険者兼林業ヤクザとして高名だったギリアム・ギアの戦死後、その敵対勢力が尽く家族ごと失踪する事件が発生。

自由都市同盟治安局は妹のシモーヌを容疑者として捜査するも統一政府による国土接収で有耶無耶になった。




「ミヒャエル・フォン・ミュラー」


旧連邦の私的記録に頻出する人名。

新支配者であるノーラ・ウェインの連邦史保存プロジェクトにおいて、その文字列がノイズと判断されたので関連の文言は新史への記載を見送られた。




「アンドリュー・アッチソン」


魔王城剣術師範。

言わずと知れた世界最強の剣士であり、奇術師としても高名。

御一新前はピット商会で護衛隊長を務め、その卓絶した武技で数々の逸話を残している。

摂政コレット・コリンズが三顧の礼で招いた逸材であり、魔王ダンの警護及び不忠者への上意討ちを任務としている。



「アレクサンドル・イワノフ」


農学博士。

帝都大学農学部を主席で卒業後、同大学で教鞭を取る。

専攻は階層生態学。

トハチェフスキー公爵家に招聘され、州都ウラジオストクの農業法人を指導していた。

ソドム大学に特別講師として派遣中にコリンズ朝が成立、自由都市の滅亡に伴い大学ごと統一政府に吸収された。

学識と忠勤が認められ、魔王ダンの学術師範に任命されることとなった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



異世界事情については別巻にて。

https://ncode.syosetu.com/n1559ik/




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砂漠の地下に潜むシシ神の首を切ったら デイダラボッチに変身して大暴れしそう
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