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【降臨109日目】 所持金0円 「大魔王パワーでチョチョイのチョイですぅ♥」

「ボクの名前は光戦士(ずんだもん

犯罪者の逃避行に巻き込まれた哀れな哀れなネグレクト枝豆なのだ。

実家に戻ろうにも洋菓子のカネモト総本店は強制執行済♪

前から近所の鼻摘み者一族だったので誰も助けてくれなかったっす。

やっと辿り着いた九州で、令和最悪犯罪者の松村容疑者と人類の敵サトシ・ナカモトと再会してしまったのだ。

以降、犯罪者集団との絶望逃避行。

ボクの人生どーなるのだー!!」



『ふっふーん、大丈夫大丈夫♪

私には勝算がありますから♥』



「あ、うん。

リン兄ちゃんがドヤ顔してる時は大抵ロクな展開にならないのだ。」



『もー♪

光戦士君は疑い深いですねー。

私は天下無敵の大魔王ですよ?

多少のピンチなんて大魔王パワーでチョチョイのチョイですぅ♥』



「…ボク、リン兄ちゃんに関しては逃げ回ってる姿しか見たことないんすけど、それは…

国際指名手配は多少じゃないっすよね?

各国で死刑判決出てるっすよ、ナカモト博士。」



『うーん。

私はナカモトでは無かった気がしますけどぉ。』



「ナカモトであるか否かを決めるのは、国際世論であってリン兄ちゃんではないので、そこは勘違いしちゃ駄目なのだ。

兎に角、ウォレットだけは絶対に見られちゃ駄目っすよ。

その場でリンチ殺人されても文句は言えないんすからね?」



『むー。

大丈夫ですよー。

だって私、《うぉれっと》とやらが何なのか未だに理解出来てないですからぁ。』



「あ、うん。

無知に勝る自己防衛はないんすけど。

リン兄ちゃんはもう少し当事者意識を持てなのだ。」



『はぁーい♥

こう見えて責任感ありまぁーす♥』



「語尾にハートマーク付ける奴に責任感あるわけねーだろなのだ! (べちっ!)」



『キャッ!』



「ハァハァ。

兎に角、リン兄ちゃんは世界経済をリカバリーさせる方法を考えておけなのだ。」



『分かりましたぁ。

昴流クンに考えさせますぅ。』



「兄ちゃんは全て丸投げだけど、自分の構想とか戦略とかないのだ?」



『…ふふっ、あっても無いですぅ。』



「あー、これオチに二番底があるタイプの悲劇なのだ。」



坂東が用意した川之江のセーフハウスでカネの分配を行う。

日本銀行券に効力があるうちに寒河江班を支援しておきたい。

作戦計画通りに事が運べば、寒河江班は来週には堀内兄弟と合流出来る。

後は山陰道経由で畿内入りさせれば、英国大使館事件前に近い戦力は整う筈だ。

俺も共に因島に向かいたいと希望したのだが、皆に却下された。

愛媛・広島・岡山の三県警がかなり検問に本腰を入れており、今後も銃撃戦の発生確率は高いとの予測を小牧達が立てたからだ。


俺は荒事の場で足手まといだし、警察庁と交戦したグループの中に含まれていると認識されれば、今までの旅が全て無駄になる。

それだけは避けなければならないのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


165億4977万円

  ↓

65億4977万円



※100億円を軍資金として寒河江班に送付。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「何?

もう日本円は紙切れになるのだ?」



俺の隣でねそべっていた光戦士が尋ねる。



『うーーん。

多分なりませんね。』



「でも、インフレになったらおカネに価値が無くなるって常識なのだ。

兄ちゃんはワイマール共和国やジンバブエの札束トランクの写真見たことない?」



『でも、通貨が無価値化しても、交換機能は残る訳じゃないですか?

結局人間は長年慣れ親しんだ《通貨を介して商品・サービスを交換する》という習慣を捨てませんよ。

もっと便利なシステムが登場しない限りね。』



「おお、リン兄ちゃんも結構考えてるのだ。」



『うふふ、昔どこかで誰かから聞き齧ったことですよ。』



  「フェックション!

  やれやれ誰かが噂してやがるニャ。

  (パチスロ台の電子音)

  ひょっとしてイケメン君かぁ?

  ニャヒヒ♪」



「ねぇ、兄ちゃん。」



『なんですか?』



「おカネ配りなんか止めて…

皆で楽しく暮らそうなのだ。

兄ちゃん1人がそんなに頑張らなくても、幾らでも社会を良くする方法はあるのだ。」



『そんな方法あるのでしょうか。』



「ボクは自分の動画で政治思想を紹介する事が多いんだけど、《税率を下げて刑罰を厳しくする》だけで社会は良くなるのだ。

凄く地道だけど…

10億円配るよりも、1人1人が真面目に社会と向き合う方がよっぽど大事なのだ。」



『ふーむ。

確かに犯罪者さんは放置すべきではないですね。

分かりました。

税率の引き下げに加えて、犯罪撲滅も公約に加えておくですぅ。』



「死刑判決が下った連中が法務大臣の選挙対策で執行されないとか、法治国家として異常な状況っすからね。」



『なるほど。

私は死刑積極派ではないのですが、凶悪犯罪者に関してはキッチリ処刑するべきとは考えてます。』



  「フェックション!

  今日は奈々ちゃんの噂が多いニャガねー♥

  (パチスロ台の電子音)

  モテ期来ちゃったニャ? 

  モテ期来ちゃったニャ?

  何度目だよーww ニャヒヒヒヒ♪」



「でも、一番処刑台に近いのがリン兄ちゃんなのだ。

状況理解してる?」



『私は何一つ悪い事してないんですけどねぇ。』



「悪いか悪くないかを決めるのは世間様なのだ。」



『ふふふ♪』



「あ、狙ってその位置に居るんすね!?

問題提起型の悪党発見なのだ。」



『あはははは♪』



「もー、リン兄ちゃん全然反省してないでしょ♪

さっきもゴールドマンサックスの会長が射殺されたんすよ。

お仕置きだー、えいっ♪」



『あははははは♪

やーーww

ごめんなさーいww

反省しまーーーーすwww』



「反省してる奴が語尾を伸ばすななのだ♪

うりうり、こちょこちょ♪」



『反省反省www

あはははははははwwwwwww』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



久し振りの休息。

坂東が差し入れてくれた菓子パンを光戦士と半分こして食べる。



「ムシャムシャ♪

はあ、久しぶりにまともなお布団なのだ。」



『ムシャムシャ♪

安心して下さい。

これからは毎日フカフカの柔らかお布団の日々ですぅ♪』



「あ、フラグ!!

苦難の日々が始まる予感なのだ。」



『だーいじょうぶだいじょうぶ♥

本州にさえ辿り着けば、勝利確定ですぅ♪

だいじょう、ぶいっ♥』



「これは漫画とかだと地獄展開の前フリ…

ボクも腹を括らざるを得ないのだ…」



疲労も溜まっているので、敷きっ放しの布団の上に戻る。

光戦士とネイルを塗り合って遊ぶ。

今日は寝転がって過ごすと決めていた。

…もはや俺が動くステージではないしな。


だってそうだろ?

我、複利ぞ?

しかも日利31%。

こんなもん何をどうしたって勝ち確だし。



「で?

勝ち確兄ちゃんはこの状況をどう打開するつもりなのだ?」



『ですよねぇ。

四国を拠点化しても良かったんですけど…

愛媛県警さんをあれだけ怒らせちゃった以上、滞在は危険ですよねぇ。』



「まあ、まずは愛媛脱出っすね。

日振島以来、ずーっと愛媛でウロウロしてるイメージなのだ。」



『変な亡霊も取り憑かれちゃいましたしね。』



純:好きでここに居る訳じゃないぞ!



『うわっ、びっくりしたですぅ。』



「純友さん、アナタは顔が怖いから急に出て来ないで欲しいのだ。」



純:フンッ! (消滅音:スゥーーーーーー。)



『…早く悪霊退散の方法を考えなきゃですぅ。』



##ちょっと待ちなさい!##



「うわっ縦巻きオバサン。」



『何か御用ですか? 悪霊2号さん。』



##勝手にワタクシを呼び出したのはアナタでしょう!

それを悪霊呼ばわりとは何事!!##



『はぁ?

私、エルデフリダさんなんて呼んだ覚えないですけどぉ↑

早く成仏してくれませんかぁ↑』



##まだ死んでない!!

ワタクシのボディは意識不明重体のまま、かろうじて生存している!##



『それって時間の問題じゃないですかぁ↑www

御愁傷様ですぅ↑www』



##ねえ、もう忘れたの?

ワタクシのボディが死んだ場合、このボディにワタクシが定着するのよ。

十中八九、アナタの自我は圧殺されるから。##



『むむむ!

うーーーーん、そんな話もありましたねぇ…

エルデフリダさんって本当に迷惑な人ですぅ。

悪霊退散のお祓いとかで消滅してくれませんかね?』



##ワタクシは悪くない!!

悪事なんて生まれてこの方一度も働いたことがない!!##



『悪人特有の無謬思考ですぅww』



##はぁ!?

悪はそっちでしょ!!##



『えー、私は悪い事を一度もしたことが無いですよぉ。』



##身重の新妻を捨てた!!!

最低の男!!!!##



『…チッ。

その話はもういいじゃないですか。

養育費も払いましたし。』



##悪! 悪! 悪!!!##



『あのですねぇ。

私は今、世界全体の改革事業を行っているんですよ?

そういう私事はノイズなんで、一々蒸し返さないで貰えますぅ↑?』



##は!?

ノイズ!?

アナタ、今自分が何を言ったか分かってるの!!!

妻子を邪魔者扱いするなんて人間の思考じゃないわ!!!##



…邪魔なんだよなぁ。

俺が忙しいの見て分からないのかな?

そんな下らない事で時間を盗まれたくないなあ。



##たまには妻の立場になってみなさいよ!!!

大体!!

ワタクシが来たのにダンの様子1つ尋ねることがない!!!

それは本当に酷いことよ!!!##



…ダン?

ああ、ダグラスの名をくれてやった者も居たな。

気安くその名を呼ばないで欲しいものだ。



『コレットの奴は…

やはりダンが大切なのだろうか…』



##当然でしょ!!!

腹を痛めて産んだ我が子よ!!!

女にとっては自分の命と同様なの!!!!##



『あっそ。

別に俺の腹じゃないしな。

まあ、健康に育ってくれるに越した事はないとは思ってるよ。』



##アナタって最低の屑ね!!##



ヒステリックに叫ぶとエルデフリダは俺に肩パンしてから消えた。

(魂で魂を叩かれているのでちゃんと痛い。)

あの女の主張も分からなくはないのだが…

俺は忙しいんだよ。

あー、忙しい忙しい。

少し髪が伸びていたので光戦士と風呂場で切り合った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて話を本筋に戻す。

どうやら岡山・香川の両県警が瀬戸大橋を本気で全車監視しているらしく、かなりの数の指名手配犯の捕縛に成功しているとのこと。

当然世論の反発は強いのだが、検挙実績と世界の混乱を論拠に当局も強気である。

勿論、反対者ばかりではない。

世界中で暴動と略奪が起きている所為で治安への不安が高まっており、検問賛成派も多い。


特に先週検問所で緊急逮捕された金属窃盗犯の件が大きい。

1人の窃盗犯のスマホから国内窃盗グループ全体の摘発に繋がり、更には中国・ベトナム・韓国・バングラデシュの4か国の犯罪組織の存在が明るみになった。

こういうご時世だが、いやこういうご時世だからこそ、各国は積極的に連携し国際犯罪の撲滅を共同宣言した。

そういう経緯があって、瀬戸大橋や鳴門大橋での大規模厳重検問は続いている。



「海路しかありませんよ。」



偵察から戻った小牧の結論。

もう船は見たくもないので、何とか橋を渡る方法を探らせていたのだが、プロの小牧が断念した以上は無理なのだろう。

昨今の検問厳重化で大小合わせて大量の犯罪者が検挙されているからな。

警察庁としても手を緩める理由がない。



「猊下!

渡橋よりもマシという程度でしかありません!

海路も油断はなりませんぞ!」



『ですねぇ。』



さて、仲間の大半は本州に居る。

四国から渡らない事には話が進まないがどうする。

瀬戸大橋強行突破案も出たが、最近の簡易バリケードが優秀で任意の車両を瞬時にパンクさせる事が出来ると聞いて断念する。

現に環状七号線の検問を突破しようとした車両がタイヤを破裂させられ現行犯逮捕されている。

(続報が不自然に消えた事から、小牧は《東側の工作員》と分析している。)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ドーピングタンポポで回復したとは言え、傷の深かった福田には強制的に休養を取らせる。

この男、俺が目を放すと勝手に働くからな。



『福田さーん。

何か欲しいものはありますかー?』



「女かな?」



『えへへへー♪』



「うんにゃ、オマエは違うけんな?

性自認ばちゃんと戻しとけや。

大仕事ばするとじゃろ?」



…なるほど。

みんなよく見ているな。



『福田さん。

何か必要なものがあれば…』



「世界にでも聞いてやれ。」



『報道を見る限りおカネが足りないようですね。』



「何?

支給してやっと?」



『ええ、支給しますよー。

人類1人1人に平等にね♪』



「オマエは無能だが、執念ば現実化する能力がある。」



『ふふふ。

褒められてるのか貶されているのか分かりませんね。』



「どちらも違う。

俺はただ戒めとるだけや。」



『肝に銘じましょう。』



布団から上半身を起こした福田は右手を何度も開閉してコンディションを確認している。

表情は既に準臨戦態勢。



『戦闘があるんですか?』



「…今更避けられる訳がない。」



『ですね。』



「トイチ。

異世界では戦闘はしたのか?」



『クラスの女子が絡んで来たので柔道技で投げ飛ばしてやりました。』



「他には?」



『兎と亀を退治しました。』



「後の世があるのならオマエを題材にした昔話が語り継がれているだろうな。」



曰く、愚かさの見本は必要とのことだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて、同じ愚者界の豪州代表。

この剣呑な状況を楽しんでいるフシがある。

ケイト夫人に至っては、何がおかしいのか画面に映っているロサンゼルスの大規模暴動を見てパンパン手を叩いて爆笑。



「perapera」



『あいむそーりー。

のー、いんぐりっしゅ、なう。』



エルデフリダを怒らせてしまった為か、先日まで機能していた自動翻訳能力は完全に喪失していた。

心の中を覗いてみるが、物凄く怖い顔でこちらを睨んでいたので慌てて目を逸らす。

ったく、これだから女は…



「perapera」



ジョーンズ夫妻は特に動じることなく、手元のタブレットで筆談を試みている。

どうやら、俺を豪州に高飛びさせたいらしい。

夫妻の知人にも政府資金を横領して逃亡して来た中国人が複数居るらしく、いずれも悠々自適に暮らしているとのこと。



「peraperaperapera」



翻訳文越しなので細かいニュアンスは分からないが、どうやら亡命東洋人枠を中国人から日本人に置き換えたいらしい。

ケイト夫人が醜く顔を歪めて「Chink!」と連呼しているので、何らかの軋轢があるのだろう。



『あいむ、ろんりー。』



自分に組織力が無いことを伝えてみるが、ジョーンズ氏の見立ては異なる。

曰く、俺が亡命すれば幾名かの日本人シンパが付いて来るらしいし、何より俺の性格なら豪州の国益にも配慮してくれるだろうとの読み。

何やら誤解があるようなので、《仮に亡命したとしても、貴国の成立過程とそれに伴う白豪主義を軽蔑しているので最低限の義務履行以上はしないと思う》と打ち明けておく。


ここまで言えば諦めてくれるかと思ったが、夫妻は却って上機嫌になってしまう。

どうやら豪州に移住して来る外国人に最低限の義務履行の発想が無いらしい。

特に本国である英国人と中国人が酷く、しかもこの両国からの移住者が無駄に多いとのこと。

ジョーンズ氏は拳を震わせて本国人の傲岸な態度を糾弾していた。

どうやらJapはまだ我慢の範疇に含まれているらしい。


まぁ実際。

英国人に落ち度がある訳ではなく、移民行為に踏み切る者には社会より自己を優先する傾向が強いのだろう。

ソドムタウンへの亡命者だった俺はウェーバー局長から一通りのレクチャーを受けているので冷静に分析出来るが、住民たるジョーンズ夫妻にとっては我慢出来ない点もきっと多いのだ。



「peraperaperapera」



世界経済がここまで崩れてしまった以上、リカバリーには丸々1世紀以上を要するだろう、とテッド・ジョーンズは読んでいる。

であれば、資源に恵まれた豪州が次の時代の勝者になる事は間違いないので、こちらに移民して損は無い。

それがジョーンズ夫妻の言い分。


彼らの理屈は通っているのだが、俺の能力が理外のものだからな…

とうせ何でも増やせるのだから資源の多寡はあまり関係がない。

例えば小麦の生産量。

豪州は日本の100倍以上あるそうだ。

石炭に至っては3000倍以上の生産量。


だが、俺の【複利】の前では誤差に過ぎない。

俺がコンビニで小麦粉一袋を買えば、来年には捨て場に困るほどの小麦粉を人類は得る事になるだろう。

(地球での俺は相当手加減してやってる。)


なので、資源は移民する理由には含まれない。

それに俺が逃げ込んだと知れば、ヒルダが豪州を攻撃する可能性がある。

ロシア各地に甚大な被害をもたらしている水素車自爆攻撃はあの女の企画だし、それ位のことは平然とやる。



『のーさんきゅー。

ゆあかんとりー、いえろー、へいと。

ゆあかんとりー、いえろー、へいと。』



日本の英語教育は糞だなと思いながら、謝絶。

夫妻の表情を見るに大意は伝わった模様である。

但し、豪州の申次は引き続き夫妻に任せる旨も伝える。

こちらのスポークスマンと言うよりも取材エージェント的な立ち位置に落ち着くと思うが、それでも俺の周囲に侍ることを許された時点で、彼らは勝確である。

本能でそれを悟っているのか夫妻は極めて上機嫌である。


水岡一郎警部とも約束したんだよ。

逃税の為の出国はしないと。

まあ、俺が徴税側に回った時に諸人民の越境を許す気は無いしな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



萩森が日用品を買い揃えてくれたので、褒美としてキュアマリン。

余程嬉しかったのか、即興で漁師料理を皆に振る舞ってくれる。



「もぐもぐ。

粗野な切り口とは対照的に繊細な口当たり。

鯛の旨味が凝縮されて卵の黄身と溶け合う様は、まさしく海と陸とのマリアージュ。

お酒の飲める年齢になったら、また食べたいのだ。」



『もぐもぐ。

萩森さん、お仕事はよろしいのですか?』



「え?

君を助ける以上の仕事やらあるか?」



『でも、私の所為で世界経済破綻しちゃったらしいですよ。

ちな、仮想通貨に全ベッドしていたエクアドルは悲惨極まりない事になってますぅ。』



これはマジ。

画面の中のエクアドル人は全員号泣しながら火炎瓶を投げている。

多分、この国に俺がナカモトであると知られたらリンチ程度では許して貰えないだろう。



「でもリン子さんは可愛いし…」



『えへへー♪

私なんか全然ですよー♪』



萩森曰く、小型船舶で四国から本州へ渡るのは意外に難しいとの事。

瀬戸内海は海流が複雑で本職の漁師でも操船に苦労するらしい。

例えば寒河江班が落ち延びた愛媛北部の島嶼群。

来島海峡なる難所中の難所がある。

純友によると地元を知り尽くした水軍でも難破被害に遭っていたと言うから素人がどうこう出来る訳ではないのだろう。

東に行けば鳴門海峡なる更なる危険地帯がある。

そりゃあね、《渦潮》で有名になるくらいなのだから、どれだけ荒れてるんだよって話だよね。



「どのみちフェリー乗り場はこんまい離島でもトレイルカメラで監視されとるけん。

それだけは忘れちゃいかんよ。」



『ですねぇ。

私達なんて特に目立ちますし。』



  「アタシはちゃんと溶け込めてるっスよ?

  (大麻スパー)」



  「アネモネちゃんすっかり地球人♪

  (大麻スパー)」



レニモネなんか目撃されたら、一発で通報だもんな。



『アネモネさん。

大麻を吸う時はちゃんと暗黒魔法で消臭するって約束しましたよね?』



  「んー?

  そんな話ありましたっけ?

  (大麻スパー)」



『ちゃんとお片付け出来ない子には大麻をあげませんよ、ぷんすこ!』



  「…チッ、るっせーな。

  はいはい、やればいいんでしょ、やれば。

  詠唱省略、臭い消し!

  ほら、これで文句ないでしょ。

  大麻に忙しいから話しかけないで!!

  (大麻スパスパスパスパーーーーー!!!!)」



  「けっ、女の悪いトコだけ凝縮した大魔王!

  あーあ、まるでキチガイポーラBBAッス。

  大麻くらいのんびり吸わせろっての。

  (大麻スパスパスパスパーーーーー!!!!)」



うーむ。

大麻中毒にすれば簡単に服従させられるかと思ったのだが、摂取させ過ぎたみたいだな。

やはり薬物支配はノウハウの蓄積が必要か…

まぁいい、この2匹で実験しているうちにコツは掴めるだろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



佐田岬では情報収集をする余裕が殆どなかったので、皆に現在の状況を整理して貰う。

俺が驚いたのはロシアの進軍が完全に停止してしまったこと。

どうやらSWIFTの代替として決済に用いていた仮想通貨が暴落した事によって電子部品などの戦争必需品の輸入が止まってしまったらしい。

先月までプーチン大統領が誇らしげに自慢していた巨大マイニング工場が洒落にならない負債となってしまったらしい。

稼働させても巨額の赤字が出るし、稼働させないのなら大量の精鋭エンジニアを解雇せざる得ない。

今後の人類が仮想通貨を用いるかさえ分からない状態なので、これ以上のリソースは割けない。

だが、マイニング工場を閉鎖してしまったら、判断ミスを責められかねない。

恐らくこれまではインド・東欧・中国経由で戦争物資を買い込んでいたのだろうが、今は相手にされてない気配があるとのこと。


じゃあウクライナが有利になったかと言えばそうでもない。

何故なら今秋にウクライナ政府が仮想通貨を合法化した矢先だったからだ。

当然、ロシアの侵攻に対するリスクヘッジとして多くのウクライナ国民が資産を仮想通貨に変えている最中だった。

同政府も国家戦略としてビットコイン(BTC)準備金の創設に向けた法整備を猛スピードで進めていた。

そんな最中に仮想通貨の価値が大暴落してしまった。

結果、ウクライナの反攻作戦もストップしてしまった。

援兵を乞おうにも肝心の英米が兵力を他所に割けるような状態ではない。



「何せロンドンやニューヨークが炎上しているっすからね。」



『これ実写?』



「リアルタイムライブっすね。

警官隊や州兵じゃ手に負えなんで、海兵隊が鎮圧に駆り出されてるみたいなのだ。」



『へー。』



「200年ぶりにウォール街の外壁(ウォール)が復活したそうっすよ。

ほら見て。」



『あ、本当だー。

ゴツい有刺鉄線が道に張られてるー。』



「どうやら高圧電流を流してるみたいなのだ。

あー、触ったら死ぬ仕様で草。」



『へー、物騒な時代になりましたねー。(棒)』



「最も皮肉な形でウクライナ戦争が休止しちゃったのだ。」



『まあ戦争が止まれば、その分死人が減るからいいんじゃないですか。』



「うーーーん、減ったのかなぁ?

世界超恐慌が起こるまでは死者数をカウント出来ていたんすけどね。

今はもう暴動と略奪が激し過ぎて、各国政府が把握出来ないレベルで死んでるのだ。

確実にウクライナ戦争時よりも人が死んでるっすよ。」



『へー、大変ですね。(棒)』



「で、本音は?」



『特に感慨はありませんね。

ただ、民度と死者数の相関性が知りたいですぅ。』



「またまたー。

日本が1番マシだって知ってる癖に。」



『じゃあ、やっぱり民度と死者数は反比例してる?』



「何を以て民度とするかのコメントは差し控えるっすけど、統計上犯罪率が高かった国ほど悲惨な状態になってるのだ。

これは人種差別に繋がりかねないセンシティブな問題なんで、言及を避ける事を強く推奨するのだ。」



『南米とかヤバい?』



「具体名出すな、このお馬鹿!」



『ゴメンて!』



「ブラジル・ベネズエラ・コロンビアはガチのマジでヤバいのだ。

大使もとっくに帰国済。」



『マジかー。』



「戦車が実戦投入されるレベルでマジなのだ。

南米だけは絶対行っちゃ駄目っすよ。

現在、絶賛黄色人種狩りの真っ最中。」



『聞くからに怖そう。』



「中国大使の車が普通に狙撃されるレベルなのだ。」



『それ、戦争に発展しない?』



「もはや新規に対外戦争する余裕がある国は存在しないのだ。

アルメニアとアゼルバイジャンも戦端を開いたきりグダグダしてるし。」



『あらぁ、これぞ世界平和ですぅ。』



「リン兄ちゃんの平和の定義を熱く問い質したいっすね。」



『ねぇ、光戦士君。

要するにどういうことですか?』



「世紀末突入、早い話が世界が滅んだってことなのだ。」



『まさかぁ。

コンビニも開いてるじゃないですか。』



「日本はそうっすね。」



『?』



「治安の良くない国で店を開けてる馬鹿は1人もいないのだ。」



『?

じゃあ、買い物とかどうしてるんですか?』



「どうしようもないから、各国で商店が襲撃されてるのだ。」



『そんなの世紀末じゃないですか。』



「だから皆そう言ってるのだ。

ちな、21世紀はまだ77年以上残っているのだ。」



『まあ、前倒しの世紀末ということにしておきましょう。』



「倒し過ぎてて草も生えないのだ…」



情勢は理解出来た。

随分とスケールの小さな鉄槌になってしまったが、概ね構想通り。

後は、どうやって平等なる分配に移行するかだな。


どうしよう。

具体案は江本・安宅・孝文に考えさせる予定だったからな。

早く合流したいな。

あー、でも孝文死んだかも知れんな。


画面には焼け落ちたロンドン市街。

崩れ落ちて居るのはV2ロケットの爆風を耐え切った事が自慢の大聖堂。

ロンドンっ子の精神的支柱だったらしい。

…孝文、生きててくれよ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



17時まで時間が余っているので、坂東の差し入れてくれたNintendo Switchで光戦士と遊ぶ。

俺は本当にゲーム文化と縁が無かったので、光戦士が動画風に定番ゲームを紹介してくれる。



『へー、色々あるものですねー。』



「ほら、リン兄ちゃんもやってみそ。」



『私は見てるだけでいいですぅ。』



「あ、牝ムーブなのだww」



『そんなのじゃありませんよぉ♪』



今月は新作ゲームが大量に発売されたらしく、坂東が気を遣ってリクエストを求めて来る。

そうは言われても、どんなゲームがあるのか知らないからな。

安宅と鳩野が秘密連絡に使っている《あつまれどうぶつの森》には当然触れない。

それは完全に足が付かない場所を確保してからの話だ。



『坂東さんもゲームするんですか?』



「しますよー。

私の地元の徳島は特に娯楽がないから。

飲み会行くか家でゲームするしかないです。」



『へえ、最近はどんなゲームをやってるんですか?』



「いえ、最近は激動だったので…

買ったゲームは全部積んでます。」



『勿体ないですぅ。

合間に遊べばいいのに。』



「いやいや、そうは仰っても。

今月は特に重大ニュースラッシュじゃないですか?

報道追ってるだけで日が暮れちゃいますよ。」



『何か凄いニュースありました?』



「あ、いえ。

世界超恐慌…」



『あらあら、うふふ♪』



「勘弁して下さいよー。

日本はまだマシですけど、今月に入って10か国がデフォルトしてますからね。

仮想通貨を担保に融資引っ張ってた連中は全滅しちゃったし。」



『えへへ、プリキュアするから許して下さいですぅ♥』



「あ!

もー、猊下はすぐHな御褒美で誤魔化そうとするんだから!」



『えー、誤魔化すつもりは無いんですぅ♪』



「まあ兎に角!

スマホを開けば毎日大事件!

なのでゲームの売上はすっごく落ちてます。」



『そんな事でゲーム売れなくなっちゃうんですねえ。』



「いや、例えばね?

グランド・セフト・オートって人気シリーズがあるんですよ。

ほら、こんな画面です。

プレイヤーは犯罪者になり切って、強盗やカーチェイスを追体験するんです。」



『やだー、リン子怖ーい。』



「これの新作が全然売れてないんです。

ゲームとしては相当面白いんですけど、売上は壮絶爆死。」



『え?

どうして?』



「世界が滅茶苦茶になって、皆がリアルに強盗するようになったからですね。

新作のゲームグラフィックはかなりレベル高いんですけど、スマホを開けばもっと強烈な強盗シーンが見れる訳ですからね。


特にアメリカは酷いですよ。

《今時、強盗の1つもしない奴は男じゃねえ》みたいな風潮が生まれちゃったんで、中学生まで列車強盗を嗜むようになりました。」



『世も末ですね。』



「ええ、皆がそう言ってます。」



『でも、みんな楽しそう。』



「そりゃあ、秩序なんかに従うより破壊する方が楽しいに決まってますよ。

ほら、私のスマホ見て下さい。

TikTokのおススメを開くだけで。」



『うわ、火事の動画ですぅ。』



「ああ、これはウォルマートの巨大倉庫を焼き討ちしている実況ですね。」



『ほえ?』



「今、全世界で倉庫襲撃が流行してるんですよ。

ほら、コンボイ野郎がトラックごとシャッターを突き破ったでしょ。」



『わー、すごーい。

あ!

なんか制服を着た人が…

え?

ライフル?


あ!

撃たれた!!!』



「そりゃあ警備員さんだって撃ちますよ。

それが仕事ですからね。」



『えー、このコンボイの人死んだんでしょうか?』



「さあ、画角切れてるから断言は出来ませんけど…

頭から血が出てましたからね。

下手に生き残っちゃったらそっちの方が悲劇ですよ。

アメリカって医療制度ゴミだし。」



『はえー。

何で周りの人は笑ってるんですかね?』



「さあ、自分が撃たれない限りは銃撃戦に優る非日常ショーはありませんからね。」



『はえー。』



「言っておきますけど、アメリカはまだマシな方ですよ?

ギリシア・スペイン・インドはガチのマジで洒落になってないみたいです。

アメリカってショー・ビジネスの国だから暴動って言ってもどこかお約束感のあるプロレスなんです。

ギリシアとかスペインは一族総出のデスマッチなんで。

絶対アイツらに喧嘩売っちゃ駄目ですよ。

現地政府が暴動対策で電話やネットを遮断してますからね。

私も国際ニュースでチラっと見ただけですけど…

実質的な内戦状態ですね。

溜め込んでいた地域対立とか再燃したみたいですし…

かなり後まで禍根が残ると思いますよ。」



『はえー。』



「あ、猊下が他人事モードになってるww」



『いやいやwww

ちゃんと当事者意識を持ってますぅ♥』



「もーww

反省している人が語尾にハートマークを付ける訳ないでしょww」



『えへへですぅ♪』



坂東曰く、海外は暴動のレベルが高過ぎて一度動画を見始めると止まらなくなるそうだ。

あまりに流血が酷すぎて、全世界的にアクションゲームやアクション映画が冬の時代を迎えてしまった。


そりゃあね。

本気の銃撃戦や青龍刀を使ったチャンバラが無料で見れるのだから、フィクションなんかにカネを払う意味ないよね。

俺も海外暴動数動を数本見ただけだが、撃たれたり斬られたり轢かれたりして人間が死んでいた。

人類の感覚が麻痺しているのか、死体を見て動揺する者がいない。

それどころか、誰かが倒れると周りにいた者が喜び勇んで死体から財布を盗む始末。

コイツらには人の心が無いのだろうか?



「海外はレベル高いですからねー。

特に暴力レベルが日本人とは段違い。

今バズってるナイジェリア人同士の殺し合い動画なんて、レベル高過ぎてオシッコ漏れますもの。

こんな連中とやり合ったら、私なんかワンパンで殺されますね。」



『はえー。

この人達、格闘家か何かですか?』



「えーっと、雰囲気的に八百屋さんとそこに入った泥棒でしょうか。

あ! ハゲてる方が勝った!!」



『はえー。

伊達にハゲてませんねー。』



世界中で人類が原始時代に先祖返りしていた。

バトル! バトル! バトル!

ガイジンと言うのは余程狂暴な種族なのだろう。

飽きもせずに暴動と略奪を繰り返している。

光戦士曰く、スマホがいけないらしい。

何せ世界中の犯罪者共が自撮りで戦果を自慢し合っている。

1人新手の犯罪手口でバズる奴が出てくると、その実況を見た者が嬉々として手口を模倣する。

人類は愚かで無知蒙昧な生き物だが、悪知恵の伝播に限っては脳が活性化するらしかった。



『その割に日本は平和ですねぇ。』



「まぁ、外人さんとは基礎民度が違いますから。」



『本当だ。

日本は割と普通に野球中継とかグルメイベントやってますね。

またチュニドラ負けてる…』



「まぁ、景気は悪化しつつ日常は続いてるって感じですね。

日本だけですよ。

犯罪動画が稀なのは。

だから、ちょっとした実況がすぐニュースになっちゃうんです。」



確かに。

今やアメリカでは、列車強盗くらいでは誰も見向きしないらしいからな。

有名人を射殺してやっとバズれるらしい。

画面の中では顔中に刺青をしたヒップホップのお兄さんが、涙ながらに犯罪動画界の過当競争を嘆いている。

昔は犯罪動画の第一人者であった彼も、米国秩序の崩壊でその座から追われてしまった。

《素人は犯罪配信をしないでくれ!》

言葉は分からないなりに、そんな悲痛な叫びが伝わって来る。

まぁ、どんな世界にも競争はあるのだ。



「お!猊下!

日本人も負けてませんよ!

実況ランキングに日本勢が上がって来ました!」



坂東の喜悦に俺も嬉しくなる。

うむ、やはり日本も諸外国に負けてられないからな。



「えっと、どれどれ。

ん?

パチンコ屋?

何だろう?

何でこんな平凡な配信が世界ランキングに?」



『あ、本当だ。

パチンコ屋さんの駐車場での…

喧嘩か何か?』



  「ニャガーッ!!!」

  ニャガーッ!!!」



「あれ、何だか聞き覚えのある雑音が…」



『ええ、何やら不快な雑音が聞こえましたね。』



  「ポリ公にチクった奴は誰だァ!!!

  ぶっ殺してやるニャ!!!!」



「あ!」



『あ!』



  「オラあ!!!

  鉄パイフルスイングの刑だニャ!!!!」



「あーーーーーーーーー。」



『あーーーーーーーーー。』



鉄パイプ(どうしてそんな物が簡単に手に入るのだろう?)で頭部を振り抜かれた男性が地面に倒れ込んで痙攣する。

出血量的にヤバい雰囲気。



  「ニャガーーー!!!!!

  ニャガーーーーー!!!!!」



鉄パイプを振り回しながら野次馬を掻き分け松村が疾走している。

…早い。

あの女は人間時代から身体能力を自慢していたが、凄いフィジカルだな。

ナイジェリア勢にも見劣りしない堂々たる高速走行である。



『坂東さん。

私、命令以外で絶対に外に出るなと指示をしたつもりなんですけど。』



「どうも松村容疑者はパチンコに行ってたみたいですね。」



『あの人、指名手配犯の自覚が乏し過ぎですぅ。』



「なまじ腕が立つから危機意識が鈍るのでしょうね。」



『まあ、良かったんじゃないですか。

私もあの畜生を切るタイミングを探してましたし。

後は司法当局がきっちり死刑を執行してくれれば、地球が1つ綺麗になります。』



「そうですね。

私は死刑反対派ですけど、反対運動は松村容疑者に執行されてから再開します。」



『「はっはっはは。」』



2人で松村の醜態を笑いながら出前のピザを摘まむ。

今までバジル系のピザは敬遠していたが、案外いけるものだな。



「あ!

ヤバい!!」



『え?』



「松村さん、こっちに逃げ込む気です!

スミマセン!

そりゃそうだ!!」



『あー、感覚が麻痺してましたねー。

ヒップホップのお兄さんも警鐘を鳴らしてましたけど、配信動画って現実感覚が麻痺するんですよねえ。』



そんな話をしていると福田が血相を変えて飛び込んで来る。



「ヤバかぁッ!!!」



まあ、あまり良い状況ではないだろうな。

余程、荒事慣れしているのだろう。

福田は荷物すら纏めずに俺達を軽トラの荷台に乗せて幌を掛ける。



「愛媛はもう駄目ばい!!」



そりゃあ、お巡りさんを8人も殺したらアウトだろう。

オマケに駄猫がやらかしやがったからな。



「県ば跨ぐぞ!!

俺は小牧君と合流するッ!!

カネはこん車両に積め!!」



『あ、もうおカネはそっちで処分しといて下さい。』



「!?」



『だって私が本気を出したらおカネも車もチョチョイのチョイですから。

それに重い荷物を運ぶとお洋服のラインが崩れちゃいますし。』




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


65億4977万円

  ↓

0円



※残金を配下に下賜



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「全部吐き出す馬鹿がいるか!!」



『全部?

私にとっての全部は皆さんだけを指しますよ。

皆さんの生存率を上げる方が優先ですぅ。』



「…わかった。

こん資金で全軍ば合流さする!!

俺達は指紋ん付いた全車両ば処分しながら脱出する!!

坂東君!!

後は頼んだ!!!」



  「はい!!

  お任せ下さい!!」



『くすくす。

じゃ、そういうことで。』



「トイチ!!

集合場所は!?」



『私、逃げ隠れを最優先するので勝手に見つけて下さい。』



「小牧君でんオマエば見つけられんだったんだぞ!!」



『ふふふ。

じゃあ、私が勝手に皆さんを見つけます。』



「わかった!!

オマエは今捕まったらヤバか!!

絶対に仮想通貨ん話はするなたい!?」



『くすくす。

善処しますぅ♪』



「くっ!!

もう速報になっとる!!


坂東君!!

トイチば頼んだァッ!!!」



光戦士と共に幌の中に隠れて固く抱き合う。

軽トラが静かに動き出す。

運転手の坂東も安全圏ではない。

かつて俺をチャンネルに出演させたことがあるからだ。

恐らくは地元県警もマークはしていることだろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「(ヒソヒソ)

ねえ、リン兄ちゃん。」



『(ヒソヒソ)

んー?』



「どうしてそんなに嬉しそうなのだ?」



『昔、馬車に隠れて逃げ回ってたのを思い出したからですぅ。』



「楽しかった?」



『盗賊や領主に襲われましたねぇ。』



懐かしいな。

あのキャラバン逃避行は本当に色々あった。

アウグスブルク卿、見ておられますか?

貴方に託された国土論の社会を必ずや地球でも築いて御覧に入れます。

不幸にも貴方とは敵味方に別れて討たざるを得ませんでしたが…

貴方が始めた三公七民の減税戦争は俺が引き継ぎます。

どうか安らかにお眠り下さい。



『…ランスチャージを喰らって下半身不随にもなりました♪

護衛兵たちが泣きながら謝るんで、こっちも心苦しかったですぅ♪』




「今は護衛も居ないのだ。」



『ええ、だから私が勝ちます。』



「…兄ちゃんは1人の方が強い?」



『くすくす。

本当は分かってるんでしょ?

光戦士君は資本の本質を知ってますよね?』



「…資本は身軽な時が一番強いのだ。」



『正解♥』



「でもゴメンね。

お荷物かもだけど、ボクはリン兄ちゃんの側に居たい。」



『ふふふ、奇遇ですね。

私も光戦士君にはずっと居て欲しいです。』



途中、赤色灯の光や車の衝突音が幌の中に飛び込んで来る。

思わず身をすくめるが、光戦士が頼もしく肩を抱いてくれた。

運転席の坂東がこちらに向かって何事かを叫んでいる。

内容は聞き取れないが、かなり焦っているな。




《0円の配当が支払われました。》




『ふふふ。』



「もぉー、リン兄ちゃん。」



『?』



「今、すっごく悪い笑顔をしてたのだ。」



『そんなに?』



「顔だけで逮捕されるレベルの邪悪な笑顔っすよ。」



『あはは。

私もまだまだですねぇ。

じゃあ、これでどうですかぁ?


にぱーっ♪』



「うーーーん。

インチキ聖女っぽいっすね。

わざとらし過ぎて女の人には嫌われそうですけど。

女慣れしてない男は結構コロッと騙されるかも。」



『じゃあ、この路線で行きますぅ。

にぱーっ♪』



「本当に懲りない人なのだw」



坂東が何事かを叫んでから、軽トラが激しく揺れ始める。

山道に入った?

10分ほど走って急停車。



「猊下!!

現在、川之江ジャンクションの裏側!!

飼谷池のオートキャンプ場!!

補給用のハイエースを隠してました!!」



『あらぁ。

懐かしい。

キャンプ場は色々巡りましたねえ。

今日はここで泊まります?』



「いえ!!

県警の反応が早すぎます!!!

パトカーが絶対に来ます!!!」



『あらあ。

大麻を置いてきて正解でしたねえ。』



「大急ぎで県境を跨ぎますよ!!

ここから香川・高知・徳島に抜けれます!!」



『じゃあ香川…

私にはどうしてもやるべき事が…』



「香川は駄目!!

11号線は毎日かなり厳重な検問をやっているので!!!

猊下は以前高知に行かれてましたが、現地に仲間や友人は居ますか?」



『さあ、土佐人に知り合いなんて居ませんねぇ。』



「…仕方ない!!

では山を越えますッ!!

徳島なら私のホーム!!

幾つか潜伏可能な場所も心当たりがあります!」



『じゃあ、それで。』



「…猊下は本当に胆が据わってらっしゃる。」



『にぱーっ♪』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『ふぇ?』



「申し訳ありません。

本当は運転を任せ得る同志が集合する予定だったのですが…

検問が激し過ぎてここに来れないのだと思います。」



『はぇー。』



「なので!!

本当に不本意なのですが、猊下に軽トラの運転をお願いさせて下さい!!」



  「この人、ボク以上の鈍臭なのだ。」



『わかりました!

私、自信がありますぅ!!

車の運転なんて大魔王パワーでチョチョイのチョイですぅ♥』



  「あ、出来ない人間特有の自己客観視点の欠如。」



「では、猊下!

少しぐるっと回ってみて下さい!!」



『チョチョイのチョーイ♥

(エンスト音)

ぐえ!』



  「兄ちゃん!

  ボクが運転した方がマシなのだ!」



『駄目ですよー。

光戦士君はまだ中学生でしょ?

車の運転は大人の仕事ですぅ。』



  「あ、兄ちゃんって自己認識は大人だったんすね。」



『チョチョイ…

(エンスト音)

ぐえ!』



エンストし過ぎてかなり不審ポイントが高まったが、余裕余裕。

こう見えても俺、ホーンラビットを討伐したこともあるからね。

本気を出せば(エンスト音)ぐえ!



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



坂東はハイエースの荷物を処分する為に山奥の溜池に向かう。

車内に積まれているヤバい品々を警察当局に見られたら一発アウトだからだ。


俺のミッションは伊予街道を東進し、境目峠を越えて阿波入りすること。

所轄さえ違えば警察の追跡も大きく緩む。

三好にさえ辿り着けば、坂東の同志が手助けをしてくれる見込みとのこと。



『チョチョイのチョーイ♪

チョチョイのチョーイ♪

(エンスト音)

ぐえ。』



「上機嫌っすねえ。」



『男は孤独に戦う時、野生が蘇るんですぅ♪』



「あ、まだ男の性自認残ってたんすね。」



『私、異世界ではホーンラビットを倒した事もあるんですぅ♪』



「えっと、その話は聞き飽きたと言うか…

てか兄ちゃんがホーンラビット戦以外で活躍した話を聞いた事がないのだ。」



『今、軽トラを自由自在に操ってますぅ♪』



(エンスト音)



『「ぐえ。」』



自分で何かアクションを起こしたのはいつ以来だろう…

たまに身体を動かすのは

新鮮な気分だ。

やっぱりさあ、男は己の腕一本で世の中を渡っていくべきなんだよね。

俺もこう見えて異世界帰りの猛者だからさ。

自分自身のメンテも兼ねて、たまには動ける所を見せなきゃならな…



(エンスト音)



『「ぐえ。」』



「兄ちゃんエンストしすぎ!!」



『ゴメンナサイですぅ、にぱーっ♪』



「もー、すぐにそうやって媚び笑いで誤魔化そうとするんだからーww」



『誤魔化してないですぅww』



『「あはははははwwww」』



「…2人っきりになっちゃったのだ。」



『寂しい?』



「兄ちゃんが居るから寂しくないのだ。」



『うふふ、私もー。』



「ねえ、リン兄ちゃん。」



『んー?』



「もしも本州に帰れたら、大阪で少し羽根を伸ばそうなのだ。」



『そうですね。

聖衣さんや坊門さん達にも逢いたいですし、少しのんびりしますか。』



「坊門のジジーは座敷牢に閉じ込められてるらしいから、励ましてやるのだww」



『あの人も歳の割に無茶しますからねえ。

御家族さんも我慢出来なかったんでしょうww』



すっかり暗くなった無人の伊予街道でくすくす笑い合う。

そうだな、この子と2人なら俺も…



  「おーーーーーいっ!!

  待ってくれニャーーーーーー!!!!」



『…さあ、出発しますか。』



「…うん、早く徳島に入らなきゃなのだ。」



  「ニャガーーー!!!!

  待ってくれニャーーー!!!!!」



『鈴虫の鳴き声が素敵ですねぇ。』



「今度2人でキャンプに行こうなのだ。」



  「ニャー!!!!! (猫号泣)

  仲間ッ!!  仲間ァあああ!!!!」



いつしか空には満天の星が浮かんでいた。

ああ、あの無限の星々の中にはきっと異世界があるのだろうな。


待っていろよ、地球人類。

こっちでも俺は正義を執行してやるからな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




【四国中央市 パチンコ店で男性が鈍器で殴打され死亡、指名手配犯の犯行】



本日午後4時頃。

愛媛県四国中央市のパチンコ店【出る出る天国】にて、男性2名が指名手配中の逃亡犯に鈍器で殴打され死亡する事件が発生した。

被害者は同店の経営者である弓長真佐男氏(48)と遊戯の為に来店していた原田淳太郎氏(23)。

原田氏がスマートホンで遊戯を配信中に犯人が映り込んだことでトラブルに発展したものとみられる。


警察は原田氏の配信記録などから犯人を逃亡中の指名手配犯・松村奈々容疑者(29)と断定し、殺人容疑で足取を追跡中。


松永容疑者は大麻所持容疑の取り調べの為に護送中に警察職員3名を殺害して逃亡し指名手配されており、周辺住民からは不安の声が上がっている。


松村被告は身長約175センチで猫耳。

グレーのスエット上下で、足元はピンクのサンダル履き。

愛媛県警は近隣住民に情報提供を呼びかけ中とのこと。

【名前】


遠市・コリンズ・エルデフリダ・リン子・厘



【役職】


大魔王

松村流大麻術正統伝承者



【ステータス】  


※全基礎パラメーターに1.75倍のバフが掛かっているが、元数値が低すぎて効果を体感出来ず。


《LV》  31

《HP》  全快

《MP》  全快

《力》   最弱 (1.75倍)

《速度》  鈍臭ギリ健アスペ低運動性IQ野郎

《器用》  エンスト (1.75倍)

《魔力》  微弱   (1.75倍)

《知性》  ド低能  (1.75倍)

《精神》  病    (1.75倍)

《幸運》  金運宇宙最強/女難の相  (1.75倍)


《経験》 155億9697万1210


本日取得  0

本日利息 36億9088万6317

次のレベルまでの必要経験値58億7786万5260


※レベル32到達まで必要合計ポイント214億7483万6470




【スキル】


「複利」 


※日利31%

下4桁切り上げ 




【所持金】


所持金0万円




3億1237万BTC  (下4桁切り上げ)

  ↓ 

4億0921万BTC



1億3373万(下4桁切り上げ) 

 ↓

1億7519万XRP



1億3373万SOL (下4桁切り上げ)

 ↓

1億7519万SOL




【残り寿命】


3億4042万8500日 (下4桁切り上げ)

  ↓

4億4596万8500日




【約束/エルデフリダ】


 コレット・コリンズ  「ヒルダ討伐を邪魔しない。」

 ヒルダ・コリンズ   「コレット討伐を邪魔しない」

× ハロルド・キーン   「義絶届にサインしておくように。」

× ドナルド・キーン   「離婚届にサインしておくように。」

 クレア・V・ドライン  「所領監査に応じる」

 金本光戦士      「王朝存続の暁にはヒルダを連れて異世界に帰還すること」

 ウラジミール7世    「全時空永遠帝国の建国を託す!!」

 レニー・A      「四天王権限でエミリー共々減刑申請する。」


〇ポール・ポールソン   「君のことはボクがずっと守ってあげりゅ!」




【約束/リン子】


 上甲小夜       「離島支援の為の補正予算を獲得する。」

 松村奈々       「大麻解禁法案への不干渉。」

 萩森一誠       「明日のナージャの続編制作に出資する。」

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― 新着の感想 ―
まさか、一夜を共にした、あの御方が再臨するのかな?
あちゃー、真姫さんのパパ(?)、死んじゃったかー…。
やはり、何も持っていない方が、全てを捨てたあとが一番輝くなぁ、大魔王様
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