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【顛末記30】 道化師

さて、人員も充実して砂漠も賑やかになった。

と言っても最近は地下から出ないので、あまり砂漠で暮らしている実感はない。



「しかし、ポール殿のスキルレベルがこうも飛躍的に向上するなんて…

幼少の頃から観ていた拙者ですら驚いてるでゴザル。」



『ジミーが言うなら本当にそうなんだろうな。』



隣で寝転んでいるジミー・ブラウンは俺以上に俺を知っている。

何せ文字通りに生まれた時からポール・ポールソンを観察している訳だからな。

そのジミーが《スキルも含めて神魔の域に達してしまった》と評するのだから、額面通りに受け止めるべきなのだろう。

指摘されても、あまりピンと来ないのだが、百万石規模の地下空間を一瞬で生み出すのは奇跡の領域らしい。

その気になれば少年時代からこの程度は簡単にこなせた様な気もするが…

まぁいい。

伏せるべきカードが分からない程に俺は馬鹿ではない。



『あのなぁ。

そりゃあ、ここが田地なら百万石の収穫は見込めるのだろうが…

単なる地下だぞ?

大袈裟じゃないか?』



「ですがスプ男君曰く、この地下をマッシュルームで覆い尽くす事も十分可能との事でゴザル。

庵主様が授けて下さった養魚技術も順調ですしな。」



俺達2人は身を起こし、眼下の試験区画を眺める。

確かに、このペースで行けば年内には軌道に乗るだろうな。



「公王様ー♪」



スプ男の妹のキリイ嬢がポーラと共に手を振って来る。



『キリイ殿!

ポーラも少しは休憩を取りなさい。』



「兄さん程じゃありませんが、ちゃんと休んでますー♥」



『…やれやれ、相変わらず口の減らない妹だ。』



スプ男率いるオークチームがここまで熱心に技術移転をしてくれるとは思わなかった。

到着するなり彼らは砂漠地下の地質調査に着手。

翌日には地下活用案をプレゼンしてくれた。

以降、与えた試験区画で着実に成果を上げてくれている。

義父リチャード共にトリケラトプスの食肉利用を成功させてくれたのは特にありがたい。


3部族の視察係に対しても懇切な対応をしてくれており、君主としては実にありがたい。



レ・ガンも地下の僅かな湧き水を活用して、ナマズや鯉の養魚を開始してくれている。

彼女もまた、それぞれの部族の食性に合わせた企画案を提示してくれていた。

リャチリャチ族にはドジョウ。

遊牧ゴブリンには雷魚。

ダークエルフにはザリガニ。

オークにはスッポン。



『人間種たる我々には何を勧めて下さるのですか?』



「そりゃあ、決まってるじゃないか。

旦那はいつもコメを食べたがっている。」



『え!?

こ、コメですか!?

地下で!?

いや、流石にそんなのは不可能だ!』



「うーん。

我々ゴブリンは地下でキビを育てるノウハウを蓄積してきたからね。

稲作も…

そんなに難しいとは思わない。」



『あ、いや!

それでもですね!

稲作には日照時間が必須とされておりますし。』



「そんな事を言われてもゴブリンの辿って来た歴史自体が、光と闇の克服そのものだからね。」



レ・ガンは事も無げに言うと、遊牧ゴブリンの里からスカウトした少女達と培養ケースの整頓を始めた。

いや、分かっている。

分かっているのだ。

このゴブリン老婆の手腕・知見は別格であると。

かつて彼女は俺の故郷ソドムタウンの食糧事情改善に力を貸してくれた事がある。

しかもあの時は官憲から隠れての屋内野菜栽培に成功していた。



「あの頃の苦労に比べりゃ、こんなに広い区画を旦那が提供してくれている今は天国だよ。」



『あ、いや。

庵主様であれば、幾らでも提供しますが。』



「流石にこれ以上は高望みだねぇ。

広すぎるネグラは年寄りには堪える。」



そう言うと少女達を引き連れて高台に登り、掘削中の縦穴を楽しげに検分し始めた。

この縦穴も最初は俺がスキルで掘ってやる事を提案したのだが、レ・ガンに笑って謝絶されたものだ。

曰く、縦穴掘りはゴブリン男性が女性に生活力を誇示する為に行うPR行為の一環でもあるらしい。

当然、手際の良い掘削を披露した者はモテるし、鈍臭い奴は失笑の対象となる。

ここらへんの感覚は人間もゴブリンも大した違いはなさそうである。



「ハァハァ!

どうですか公王様!

ボクの華麗な掘削術は!!」



『人間種の基準なら凄いんじゃないかな?

ゲコ君は零細の工事現場でなら副職長くらいには出世出来そう。』



「ハァハァ!

ちなみにゴブリンの女の子達はボクの30倍くらいの早さで掘り進みます。」



『そりゃあ、彼女達は地下種族だもの。

私達が太刀打ち出来る筈ないでしょ。』



「ハァハァ!

でも公王様は一瞬でこの地下空間を出現させたやないですか!

アナタ、ゴブリン的価値観でモテモテですよ!?」



『へー、それは光栄だ。

長生きはしてみるものだね。』



「公王様ばっかりモテてズルい!」



『いやー、ズルいも何も私は歳が歳だし。

若い頃、モテたかったわー。』



「砂漠に来て悟りました!

ハーレムは実在する!!

うーん、妬ましい!」



『まぁ、我ながら恵まれたとは自覚しているよ。

最近はレニーちゃんと遊ぶ時間も作れてるしね。』



「あ、1番に名前を挙げるのが、あの人なんですね…」



『?』



「いやー、マズいでしょ。

公王様は世界的な要人やねんから、あんなガチの犯罪者を後宮入りさせるべきではないですよ。」



『そうは言ってもねー。

レニーちゃんはオキニだから。』



「いやぁ、ははは。

流石に笑えないですよ。

しかもエミリーさんと同房はヤバいですって。

あの2人、朝から晩まで悪巧みしてますから。

…エミリーさんはねぇ、周囲を悪に染めるタイプの1番性質の悪い極悪人ですよ。

ぶっちゃけ、世界規模でのパブリックエネミーでしょ、あの人。」



『前も話したかもだけどさぁ。

昔、一度だけ冒険者登録した時期があって、その時のパーティーメンバーがあの2人なんだよ。』



「それは地味に政権スキャンダルなので、2度とその話題には触れんとって下さいね?

子供やないねんから、社会秩序をもっと尊重して貰わな困りますよ?」



『あの頃は意識してなかったけど、あの2人には結構愛着あるのかも。』



「ソドム大学とか債権市場とか、もっと愛着持つべき対象がありますよね?」



『ノーラの奴が乗っ取るまでは、冒険者ギルドも牧歌的な組織だったんだよ。

今は単なる密告網になっちゃったけど。』



「憲兵批判は(笑)(両指を交差してバッテン)」



『君は若い癖に神経質だねー。』



「いやー、公王様かフリーダム過ぎるんですよ。

どうしてまだ粛清されてないんでしょうね?」



『きっと狡兎がまだ残ってるんだよ。』



「後、何匹くらい残ってるんでっか?」



『5匹も残ってないでしょ。』



「あははは!

粛清まで秒読みやないですかー(笑)

そのうち、刺客が派遣されて来ますよー(笑)

怖いなー(笑)」



『うん、君も含めて駆除されるのにそんなに時間は掛からないと思う。』



「えーーッ!?

ボクもそっちにカテゴライズされとるんでっかー!?」



『いや、キミに自覚が無い事に驚いてるんだが。』



「公王様!

これ以上、武勲挙げたらあきまへんよ!

ボクの順番が回って来てまう!」



『そうは言ってもねえ。

私のスキルの性質上、全てが瞬時に解決しちゃうからねぇ。』



「ええ、まぁ。

あのスキルは反則でしょ。

砂漠中のアンデットモンスターを1秒掛からずに全消滅とか…

エグ過ぎですよ。」



『私さぁ。

家業が掃除屋だったからねぇ。

富裕層向けの物件を受注してたんだけど…

少しでもシミとか残ってると凄いクレームが来るんだよ。

アイツラ、便所の黒ずみ1つで大騒ぎするからね。

富裕層ビジネスは怖いよー。

元請けの馬鹿嫁に夜中に呼び出されてネチネチ説教された事もあったなぁ。

それで几帳面になったんだよ。』



「あ、いや。

モンスタースタンピードを便所の黒ずみ扱いする人の方がよっぽど怖いんですけど。」



『まぁ、そういう訳だ。

我々は遅くても年内には始末されてるだろう。

ゲコ君、絞首台では宜しくな。』



「えー!

一人で死んで下さいよー。

ボクは縛り首とか絶対嫌やー。

公王様は人生十分楽しんだでしょー!」



『まぁ、最後にレニーの顔も見れたし。

割と楽しんでるのかも。』



「その熱いレニー推しは何なんですか!

凶悪犯罪者なんか贔屓するから粛清されるんですよ!」



『はっはっは。

返す言葉もないな。

はっはっは。』



「ボクが摂政殿下でもこの不穏分子だけは絶対始末するやろうなー。」



そんな与太話をしている間にゲコは縦穴を掘り終える。

見計らったようにレ・ガンが戻って来て、薄着に着替えさせた遊牧ゴブリンの少女達を縦穴に送り込んだ。

男というのは現金な生き物で、さっきまで悲壮な表情で喚いていたゲコの陽気に燥ぐ声がここまで響いて来る。



「庵主様!!

決めました!!

やっぱりボク、ゴブリンになりますぅ!!

あの糞パクリ実家を捨てて庵主様のウチの子になるぅー!!」



「おやおや、愉快な仲間が種族に加わってくれたものだね。」



『おーいゲコ君。

キミ、人間種やめちゃうの?』



「公王様!!

男はその場その場でヤラせてくれる相手の味方ですよー!!」



『あー、わかる。

私も男だから凄く分かるわー。


でも、そういう発言を軽率にするから地球でモテなかったのでは?』



「心を抉るプロファイリングせんとって下さい!!」



『私も若い頃に周囲から指摘されたんだけどさあ。

キミは露悪的過ぎるんだよ。

もう少し言動を取り繕ったら?』



「男はピエロでナンボですわ!!」



『その意気や良し。』



「まあ、そういう訳で。

今、ヤラセてくれたぺぺンジャちゃんとハ・クロちゃんへの感謝の証として、ボクはゴブリンになりまぁす!

明日はきっと違うこと言ってるやろけど。」



『うん、それはおめでとう。


で? 本音は?』



「…いや、政治的なゴタゴタを避けるにはこれが最善でしょ?

公王様の自爆芸に巻き込まれそうになったらゴブリン社会に潜りますよ。

庵主様にも許可貰ってますし。」



『Good!

私はキミのクレバーさが大好きだ。』



まぁ、巣穴の兎は退治困難と言うしな…

この狡兎は何とか生き延びるだろう。



『どうせ庵主様からゲコ君に持ち掛けたのでしょう?』



「こちらの種族内で仔を成せば、あの子は悪いようにしないだろうからね。」



『…しかし巧妙な変身スキルを使ってるとは言え、彼は人間種ですよ?

子が生まれるものなのでしょうか?』



「生まれるだろうさ。」



『随分、確信されておられるのですね。』



「ゲコ坊も大魔王と一緒に呼ばれたんだろう?」



『あ、いや。

確かにそうですが。』



「アラキ・テツオはどうだった?

ウラベ・ユキは?」



アラキは紛れもない異能者だった。

スキル云々の話ではない。

世界に【鉄道】の概念をもたらし、来年にはドワーフ領から帝都までの路線が開通する。

(大魔王に《異世界鉄道》なる絵巻物を執筆する約束をしてしまったんだよな、俺。)

ウラベもそうだ。

封印せざるを得ない程の危険スキルを身に着けた上に、菓子屋に入り婿として王国で数々の功績を挙げた。

魔王ダンが愛食している《たまごボーロ》も彼の発案だ。



『…両名共、ひとかどの男です。

いや、極めて秀逸と言っても過言ではない。』



「アタシの言いたいこと、わかるかい?」



『…つまり地球からの転移者全てが大魔王級の逸材だったと?』



「おっと、それ以上は不敬罪だ。

言葉には出すんじゃないよ。」



『…ですね。』



リン・コリンズの能力は《カネ》という最も分かり易い分野に纏わるものだった。

故に、世界はリンのみを持て囃したが…

確かにゲコもアラキも持つスキルはチートだ。

チートだから、異種族との間に子もなせる。

そういう滅茶苦茶な仮説。

だが、きっと正解だ。


レ・ガンは概ね俺にコミットしてくれているが、種族が異なる以上100%利害を共にしている訳ではない。

当然、人間種たるゲコも利害の完全一致はあり得ないのだが…

だが、ゴブリン種との間に子をなしてしまえば?

今後のゲコはゴブリン寄りの政治的選択を採るようにだろう。


相変わらず恐ろしい御婦人だ。

種族を存続させる為にありとあらゆる手を打って来る。



「旦那は生き延びないのかい?」



『私が生き延びるということは、その分誰かが消滅することを意味しますからね。

自粛するべきでしょ。』



「本気でそう思ってる訳じゃないだろ?」



『…そりゃあ、まぁ、ポーズではありますけど。』



「ふふふ、悪い子だ。

ゲコ坊と話が合う訳だよ。」



『私と1番哲学が近いのは庵主様なのですけれどね。』



レ・ガンはもはや戸惑う素振りすら見せずに鼻で笑った。

当然だろう。

この老婆は誰よりも戦略と意志を持って戦い続けて来たのだから。


そう。

今日まで生き残った者には皆それなりの強かさがあり、何より各々秘めた思惑があるのだ。

言葉にせずとも、それは必死さは伝わって来る。


無論、思惑らしき物を全く感じない者も存在する。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




アンドリュー・アッチソン。



元剣客である。

御一新前の世界を牛耳っていたピット商会の護衛隊長を務めていた男。

道化師としても高名であり、青年時代は大劇場で華麗な奇術ショーを何度も披露している。


大魔王の統率姿勢に感銘を受けてピット家に見切りを付けて帰郷した。

武人としては褒められた行為ではないのだが、摂政がその進退を革命プロパガンダに用いたことにより、御一新前以上の名士となった。


アッチソンは自分がいつまで経っても独り身なのにピット会長が大量の側室を抱えている事に内心不満を感じていた。

しかも護衛隊長という役職上、ピット会長がセックスしている間は必ず寝所を警備させられていた。

会長からすれば一番無防備な瞬間を最も信頼する腹心に守らせていただけなのだが、確かに他人のセックスを見せつけられ続けるのは気分の良いことではなかったのだろう。


秘かに不平を抱いている時、ソドムタウンに大魔王がやって来た。

長い旅路の中で、配下を気遣ってセックスはおろか笑い声すら立てないという徹底ぶりだった。

しかも邸宅を構えた大魔王はピット家を上回る莫大な富を持ちながらも、側室を増やす気配を見せなかった。

この姿勢にアッチソン達は感動し、ピット家よりもコリンズ家こそが天下の主に相応しいと考えるようになった。



「我が夫、大魔王リンは側室を増やす気配を一切見せませんでした!」



この話題になると摂政は力強くこのフレーズを繰り返す。

《そんな気配を見せてたら摂政に殺されてましたよね?》

みんな内心ではそう思っているのだが、口に出す馬鹿はいない。

命は1つしかないからね、仕方ないよね。



アッチソンはそんな大魔王夫妻のハートフル(?)な逸話に絡んだ男なので、大魔王との接点が殆ど無いにも関わらず優遇枠に入っている。


政治に無関心なのも優遇の理由なのだろう。

長年暮らした自由都市が消滅したことにも、合衆国がコリンズ王朝の属邦に成り下がったことにも、疑問なく受け止めていた。



「要はコリンズ家の皆さんが一番偉くなったんですよね?」



砂漠を訪れた彼は開口一番そう言った。

その言葉は極めて正鵠を射ていたので、《はい、それも世界で一番偉い家門です。》と正確に付け加えた。

彼の旧主であるピット家の生き残りが摂政の保護下にあることも付け加える。



「いやあ、めでたいなぁ。

ポールさんも出世して凄いですねぇ。」



アッチソンは無邪気に俺を褒め称えてから、合衆国土産のピクルスを無造作に渡してくれた。

慌てて礼を言う。



「私の故郷の珍味なんですよー。

ドワーフ料理の影響が強い地方なんで。」



聞けば、このアッチソン。

ドワーフとの混在地の出身らしく、幼少の頃はドワーフの戦士団に武術を教わっていたとのこと。

なるほど。

それなら轟く剣名にも納得がいく。

2,4メーターの図抜けた長身に加えて、異常に長い四肢。

そんなアッチソンが長刀を片手大上段に構えてしまったら、熟練の戦士でも近寄れなくなってしまうらしい。

(距離を相当離さないと切っ先が視認出来なくなるからね。)


対人戦の経験も豊富だが当然不敗。

今の所、アッチソンの放つ強烈な唐竹割から生き残った者は存在しない。


こんな時代になっても、優れた剣客は一目置かれるのでアッチソンはどこに行っても人気者だった。

嘘か真か昨年は異常繁殖したジャイアントタートルを一夜で100匹以上退治したらしい。

全頭が甲羅ごと一刀両断されていたというから、その剣技は健在なのだろう。



『…その、討伐依頼をお探しで?』



「ふぇ?

いや、斬れと言われれば斬りますが。」



世界第一等の剣士の癖に全く好戦性がない。

以前から薄々感じていたが、極めて受動的な男だ。

頼まれれば何でもする癖に、指示が無ければ一切動かない。

なるほど、金持ちの護衛には最適の人材かもな。



『ははは、見ての通りの貧乏所帯でして。

誰か腕利きに討伐をお願いしたいのですが、払う報酬もなく頭を抱えております。』



「それでポールさんがご自分で討伐を?」



『…まあ、そんな所です。』



「はぇぇ、大したものですなあ。

御伽噺の中の王様みたいです。」



…現代社会でそんな政治家は百害あって一利ないんだけどな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



故郷への土産話を必要としているアッチソンに砂漠を案内してやる。

流石に最強と称されるだけあって駱駝にも一発で適応してしまった。

センスの塊のような男だ。



「はぇー。

改めて驚きますけど…

ポールさんはこんな辺鄙な領地に住んでるんですねぇ。」



『辺鄙どころか地獄ですよー。

洒落にならない高温に加えて、ちょっと気を抜くとアンデッドが湧きます。』



「ふーん。

アレですか?」



アッチソンが無造作に鞭で砂丘の麓を指す。

かなり距離があるので、俺には視認出来ない。



『え?

もう湧いたんでしょうか?』



「あ、本当だー。

うまー。」



その子供の様な無邪気な感嘆に俺が呆れようとした瞬間、アッチソンの表情が戦士のそれに切り替わる。



「退治します。」



そう聞こえた気がした。

俺が我に返った時には、猛スピードで砂丘を掛け下っていた。

駱駝とはあれほど敏捷な生物だったのかと、まずその点に驚かされる。



アッチソンの駱影が眼下に蠢く黒点に接近した瞬間。

光が僅かに乱反射した。

そのまま速度を変えずに戻って来て一言。



「いやあ、面白い土産話が出来ました。

ドワーフ連中がね?

変わったモンスターの話題を好むんですよ。」



既にいつもの柔和な表情に戻っている。

つまり眼下の黒点は全滅したのだ。



「あはは、ゾンビホースとはよく言ったものですね。」



そして切っ先には無造作にゾンビホースの首が串刺しになっている。

驚嘆すべきは切り口。

線でも引いたように直線的なのだ。

しかも正中線に対して真垂直に斬っている。

俺もそれなりの数のゾンビホースを斬ったが…

この先1000頭を討伐したとしても、ここまで鮮やかな一撃を放つ事は不可能だろう。

こうも見事に格の違いを見せつけられると嫉妬すら湧かない。

最強の最強たる所以なのだろう。



「ポールさん、これ食べれます?」



『まさかww

絶対駄目ですよ。』



「ですよねー。

明らかに毒々しいですもの。」



『せめて食べれる生き物が存在してくれれば助かるのですけど…

芋虫やサソリを泣きながら食べてます。』



「さっきマッシュルームを食べさせてくれたじゃないですか?」



『あれは最近ですよ。

お試し移住のオーク達が栽培してくれたんです。』



「はぇー。

凄いですねー。」



『ええ、私も彼らの適応力には驚かされてばかりですよ。

オークってもっと粗雑な印象があったのですけどね。』



「ポールさんがですよ。」



『?』



「ゴブリン・エルフ・オーク。

神代から戦争し続けていた連中を見事に共存統治している。

あのリャチリャチ族というのは人間種?」



『リャチリャチ族は人間種ですよ。

長年の砂漠生活で肌が岩みたいに硬質化してますけど。

それ以外は我々と何ら変わらない血の通った人間です。』



「…。」



アッチソンは優し気に目を細める。

ああ、そうかこの男も俺の観察を命じられているのか。



「砂漠、帝国側にもかなり広がってました。

幾つかの防砂林が飲み込まれております。」



『申し訳ありません。

善後策を試行錯誤しているのですが。』



「いえ、ポールさんの責任ではありませんよ。

大体、解決を図ろうにもずっと軍務に従事されておられたじゃないですか。」



『領地運営に専念したいのは他領の皆様も同じですので。

軍役も統治も共に私の責務です。

どちらかを果たしたからと言って、どちらかを怠るのは筋違いです。』



「ふふふ、名君名君。

国士無双と称えられているだけのことはあります。」



ただの道化です。

そう言い掛けて自粛する。

流石に本職の前では憚るべきだろう。



『買い被りですよ。』



2人で笑いながら駱首を返した時だった。




『あ!!』



「あ!!」



まさしくモンスターがポップアップする瞬間を目撃してしまったのだ。

それもスケルトンバッファロー。

いや、厳密に言えば牛が砂の中から首を出しながら…

同時に高速で白骨化したのだ。



『え!?』



間の抜けた話で恐縮だが、驚くしか出来ない。

俺も無数のスケルトンバッファローを退治して来たが、ポップアップの瞬間を見たのは初めてだった。



「ポールさん!

右側ッ!!」



アッチソンが指を指す方法を慌てて見ると、やはり砂の中から牛頭が浮いて、目が合った瞬間に白骨化する。

立ち上がったスケルトンバッファローは呆然と見ている俺に近づこうとしたが、アッチソンの剛剣により文字通り一刀両断された。

あまりの剣速に、死骸が左右に分かれるまで振ったことすら認識出来なかった程である。



『あ、すみません。

ボーっとしてしまって。』



「あ、いえ。

こちらこそ指示もないのに勝手をしてしまって恐縮です。」



『…。』



「…。」



『アッチソンさんはピット会長の護衛として世界中に出張されたと伺っているのですが、アンデッド系モンスターってこんな風に生まれるんですか?』



「いえいえ!

そんな事例は見た事がありません!

少年時代、ドワーフ戦士団のゾンビ討伐に何度か参加させて貰いましたが…

そもそもアレは腐乱死体や白骨死体に軟体生物が大量寄生したものなので。」



『ええ、私は実物は見た事はないのですが、本来のゾンビってそういうものであると認識しておりました。

ですが、さっきのスケルトンバッファロー。

明らかに生きた状態で砂から出て来ましたよね?』



「はい、二頭ともそうでした。」



『まさか生きた牛がその場で白骨化していたなんて…』



「ポールさん。

1つ補足していいですか?」



『あ、はい。

是非お願いします。』



「アレは肉牛でした。」



『は?

肉牛… ですか?

いや、そうなんですか?

一目で分かるものなんですか?』



「都会で育ったポールさんが戸惑うのも仕方のないことです。

ですが、私は実家が貧しかったので物心ついた時には地主の牧場で下働きをしておりました。

肉牛・乳牛・野生牛、その3つを見間違える事は絶対にあり得ません。

賭けてもいい。

アレは食肉用に品種改良された肉牛です。

それも筋肉のバランスからしてかなり高価な品種と見ました。」



突飛過ぎて困惑するが、アッチソンの眼力の正確さは、その華々しい戦歴が証明している。

単なる力自慢・体格自慢の男ではない。

今日、行動を共にして痛感したのだが戦闘IQが突出しているのだ。

文弱者の俺など足元にも及ばない。



『…いや、アッチソンさんが断言されたという事は、アレは肉牛なのでしょう。


でも、こんな砂漠にどうして肉牛が?』



「…。」



俺の問いには答えず、アッチソンは無言で大地に耳を近づけている。

ポップアップの気配を探っているのか?

いや、まさか。

こんなに広大な砂漠で…



「ポールさん!!

左前方5キロ、馬の気配!!

確かめましょう!!!」



5キロ?

この男、今5キロと言ったか?



『あ、はい。

行きます!』



2人で駱駝に鞭を入れる。

アッチソンは要領を掴んだらしく、完全に1点張りで目標地点に俺を誘導した。



「ポールさん。

30秒以内にあそこから馬型の生物がポップアップします!」



『あ、はい。』



「私が護衛しますので、ギリギリまで近づいて視認しませんか?」



『はい!』



俺は臆病者だ。

普段ならこんな熱砂でリスクを取る真似なんてしない。

だが、世界最強の剣客が護衛を申し出てくれた今なら別だ。

この僥倖を活かせない者に君主を名乗る資格はない。



「ここで止まりましょう!」



アッチソンが短く叫ぶとほぼ同時に砂が盛り上がり…



『馬だっ!!!』



「やはりですよ!!!」



今度は見間違いではない。

砂の中から赤鹿毛の馬が這い出て全身をゆっくり振りながら…

みるみる間に腐敗した。

そして崩れる目玉で俺を睨むと、不意に前足を…



「ムンッ!!」



横薙ぎ一閃。

振り上げた前足ごと胴を両断される。



『お見事!!』



「いえ。

少し接近し過ぎました。

お怪我はありませんか?」



『はい!

お陰様で。』



アッチソンは人の好さそうな微笑を一瞬だけ浮かべると、すぐに真顔に戻ってゾンビホースの死骸を慎重に観察し始めた。

長刀を鞘に仕舞い、脇差で骨の感触を確かめている。



「ポールさん。

我儘を言って申し訳ないのですが、もう何匹か確認させて頂いて宜しいですか?」



『ええ、是非お願いします。』



「…可能であれば手の空いている御兄弟にも立ち会って頂きたい。」



直訳:ポールソン4兄弟以外には見せるな。



『承知しました。』



ジミーが遊牧ゴブリンの拠点に出張中なので、ロベールとニックを秘かに呼ぶ。

俺達はお調子者の受刑囚が付いて来てないかを確認してから、アッチソンの調査に立ち会った。



肉牛

青鹿毛

栃栗毛

肉牛

佐目毛



会敵5回。

全て生物として牛馬がポップアップしてからアンデッド化していた。

砂上に現れた時には、ほぼアンデッド化しているケースもあったが、それでも這い出た瞬間は生物としての痕跡が僅かに残っていた。



ニックがアッチソンの指南の元で最後のゾンビホースを斬り伏せる。

大魔王も絶賛していたが、この男は指導力まで一級品だ。



「兄貴、アッチソン先生の言う通りだぜ。

これは俺達がアンデッドと呼んでいるのとは別の現象だ。」



「兄さん、僕もニックの意見に賛成です。

付け加えると、これらの馬。

未知の種です。」



『未知?

どういうこと?

自由都市や首長国の品種ではない?』



「いえ、士官学校では世界中の馬種を学ぶのですが、明らかに姿勢・骨格が異なります。」



『いや、ここは東方文明圏との境目だから、東方の馬なんじゃない?』



「僕は対東方戦を見越して彼らの乗騎全てをチェックしておりますが、今の所帝国のものと品種はほぼ同じです。

これは当然の話で、帝国は建国時に東方から軍馬を大量輸入しているからです。

余談ながら、その帝国から軍馬を輸入して軍を起こしたのが自由都市です。

なので、帝国・自由都市・東方文明圏の馬の系譜はほぼ同一と認識して下さい。」



軍歴が長いロベールが言うのだから間違いないだろう。

ゾンビホースは、未知の馬が砂漠に出現し、その場でアンデッド化しているのだ。



「…。」



アッチソンは俺達兄弟の会話には入らず、無言で俺の結論を待っている。

いや、結論はもう出ている。

肉牛、未知の馬種…

これは何らかの原理で召喚されたものだ。


どこから?

言うまでもない。

俺もニックもロベールも直感的な答えは出ているが口には出さない。

不敬罪に問われてしまうからな。



「いやあ、それにしても面白い土産話を拾いました。」



背後から陽気な声がした。



『アッチソンさん?』



「まさか()()()()()()()()()()()()()()とは!

ドワーフ連中の驚く顔が目に浮かびます。」



『え、いや。

それは…』



「でもポールさん。

私が斬ったと言うのは内緒にしていて下さいね。

今は冒険者業は憲兵本部が統括しているんでしょ?

ああいう武張った女の子達は苦手なんですよ。

あ! これ聞かれたら逮捕されちゃうかな、はははw」



俺と目が合うと真摯な表情で頷く。



『確かに白骨が飛び出すなんて異常ですよね。

責任を持ってこの事態の真相を究明します。』



「えーw

私ら庶民からしたら真相なんてどうでもいいですよー。

早く解決して貰わなきゃww」



『ははは、これは御手厳しいww』



了解。

アンタの配慮、しかと受け取った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



アッチソンはスプ男達の求めに応じて幾つかの奇術を快く披露すると、颯爽と駱駝に跨った。



「言い忘れておりましたが、これから摂政殿下の下に伺います。」



『護衛任務?』



「ええ、以前から魔王様の剣術師範を打診されておりまして。」



『アッチソンさんであれば見事にお役目を果たされることでしょう。』



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なるほど。

俺への討手に選ばれたのはこの男か。

参ったな。

生存の目が完全に消えてしまった。



「本当は道化芝居が一番性に合ってるんですけどねぇ。

剣名なんて挙げなければ、旅芸人にでもなれたのに。」



『安心して下さい。』



「?」



『剣なら兎も角、道化なら私も負けておりませんから!』



刹那、真顔で見つめ合ってから2人で大いに笑った。

夕陽が余韻を圧し消す頃には駱影は遥か果てに消えていた。

【異世界紳士録】



「ポール・ポールソン」


コリンズ王朝建国の元勲。

大公爵・公王・総司令官

永劫砂漠0万石を所領とするポールソン大公国の国主。



「クレア・ヴォルコヴァ・ドライン」


四天王・世界銀行総裁。

ヴォルコフ家の家督継承者。

亡夫の仇である統一政府に財務長官として仕えている。



「ポーラ・ポールソン」


ポールソン大公国の大公妃(自称)。

古式に則り部族全体の妻となる事を宣言した。



「レニー・アリルヴァルギャ」


住所不定無職の放浪山民。

乱闘罪・傷害致死罪・威力業務妨害罪など複数の罪状で起訴され懲役25年の判決を受けた。

永劫砂漠に収監中。



「エミリー・ポー」


住所不定無職、ソドムタウンスラムの出身。

殺人罪で起訴されていたが、謎忖度でいつの間にか罪状が傷害致死にすり替わっていた。

永劫砂漠に自主移送(?)されて来た。



「カロッゾ・コリンズ」


四天王・軍務長官。

旧首長国・旧帝国平定の大功労者。



「ジミー・ブラウン」


ポールソン大公国宰相。

自由都市屈指のタフネゴシエーターとして知られ、魔王ダン主催の天下会議では永劫砂漠の不輸不入権を勝ち取った。



「テオドラ・フォン・ロブスキー」


ポルポル族初代酋長夫人。

帝国の名門貴族ロブスキー伯爵家(西アズレスク39万石)に長女として生まれる。

恵まれた幼少期を送るが、政争に敗れた父と共に自由都市に亡命した。



「ノーラ・ウェイン」


四天王・憲兵総監。

自由都市併合における多大な功績を称えられ四天王の座を与えられた。

先々月、レジスタンス狩りの功績を評されフライハイト66万石を加増された。



「ドナルド・キーン」


前四天王。

コリンズ王朝建国に多大な功績を挙げる。

大魔王の地球帰還を見届けた後に失踪。



「ハロルド・キーン」


帝国皇帝。

先帝アレクセイ戦没後に空位であった帝位を魔王ダンの推挙によって継承した。

自らを最終皇帝と位置づけ、帝国を共和制に移行させる事を公約としている。



「エルデフリダ・アチェコフ・チェルネンコ」


四天王筆頭・統一政府の相談役最高顧問。

前四天王ドナルド・キーンの配偶者にして現帝国皇帝ハロルド・キーンの生母。

表舞台に立つことは無いが革命後に発生した各地の紛争や虐殺事件の解決に大きく寄与しており、人類史上最も多くの人命を救済していることを統計官僚だけが把握している。



「リチャード・ムーア」


侍講・食糧安全会議アドバイザー。

御一新前のコリンズタウンでポール・ポールソンの異世界食材研究や召喚反対キャンペーンに協力していた。

ポールソンの愛人メアリの父親。



「ヴィクトリア・V・ディケンス」


神聖教団大主教代行・筆頭異端審問官。

幼少時に故郷が国境紛争の舞台となり、戦災孤児として神聖教団に保護された。

統一政府樹立にあたって大量に発生した刑死者遺族の処遇を巡って政府当局と対立するも、粘り強い協議によって人道支援プログラムを制定することに成功した。



「オーギュスティーヌ・ポールソン」


最後の首長国王・アンリ9世の異母妹。

経済学者として国際物流ルールの制定に大いに貢献した。

祖国滅亡後は地下に潜伏し姉妹の仇を狙っている。



「ナナリー・ストラウド」


魔王ダンの乳母衆の1人。

実弟のニック・ストラウドはポールソン大公国にて旗奉行を務めている。

娘のキキに尚侍の官職が与えられるなど破格の厚遇を受けている。



「ソーニャ・レジエフ・リコヴァ・チェルネンコ」


帝国軍第四軍団長。

帝国皇帝家であるチェルネンコ家リコヴァ流の嫡女として生を受ける。

政争に敗れた父・オレグと共に自由都市に亡命、短期間ながら市民生活を送った。

御一新後、オレグが粛清されるも統一政府中枢との面識もあり連座を免れた。

リコヴァ遺臣団の保護と引き換えに第四軍団長に就任した。



「アレクセイ・チェルネンコ(故人)」


チェルネンコ朝の実質的な最終皇帝。

母親の身分が非常に低かったことから、即位直前まで一介の尉官として各地を転戦していた。

アチェコフ・リコヴァ間の相互牽制の賜物として中継ぎ即位する。

支持基盤を持たないことから宮廷内の統制に苦しみ続けるが、戦争家としては極めて優秀であり指揮を執った全ての戦場において完全勝利を成し遂げた。

御一新の直前、内乱鎮圧中に戦死したとされるが、その詳細は統一政府によって厳重に秘匿されている。



「卜部・アルフォンス・優紀」


御菓子司。

大魔王と共に異世界に召喚された地球人。

召喚に際し、超々広範囲細菌攻撃スキルである【連鎖】を入手するが、暴発への危惧から自ら削除を申請し認められる。

王都の製菓企業アルフォンス雑貨店に入り婿することで王国戸籍を取得した。

カロッゾ・コリンズの推挙により文化庁に嘱託入庁、旧王国の宮廷料理を記録し保存する使命を授けられている。



「ケイン・D・グランツ」


四天王カイン・D・グランツの長男。

父親の逐電が準叛逆行為と見做された為、政治犯子弟専用のゲルに収容されていた。

リベラル傾向の強いグランツ家の家風に反して、政治姿勢は強固な王党派。



「ジム・チャップマン」


候王。

領土返納後はコリンズタウンに移住、下士官時代に発案した移動式養鶏舎の普及に尽力する。

次男ビルが従軍を強く希望した為、摂政裁決でポールソン公国への仕官が許された。



「ビル・チャップマン」


准尉→少尉。

魔王軍侵攻までは父ジムの麾下でハノーバー伯爵領の制圧作戦に従事していた。

現在はポールソン大公国軍で伝令将校として勤務している。



「ケネス・グリーブ(故人)」


元王国軍中佐。

前線攪乱を主任務とする特殊部隊《戦術急襲連隊》にて隊長職を務めていた。

コリンズ朝の建国に多大な貢献をするも、コリンズ母娘の和解に奔走し続けたことが災いし切腹に処された。



「偽グランツ/偽ィオッゴ/ゲコ」


正体不明の道化(厳密には性犯罪者)

大魔王と共に異世界に召喚された地球人。

剽窃(パクり)】なる変身能力を駆使して単身魔王軍の陣中に潜入し、摂政コレット・コリンズとの和平交渉を敢行。

王国内での戦闘不拡大と民間人保護を勝ち取った。

魔界のゴブリン種ンゲッコの猶子となった。



「ンキゥル・マキンバ」


公爵(王国における爵位は伯爵)。

元は遊牧民居留地の住民として部族の雑用に携わっていたが、命を救われた縁からコリンズ家に臣従。

王国内で一貫して統一政府への服従を呼びかけ続けた為、周辺諸侯から攻撃を受けるも粘り強く耐え抜いた。

御一新前からの忠勤を評価され、旧連邦アウグスブルグ領を与えられた。



「ヴィルヘルミナ・ケスラー」


摂政親衛隊中尉。

連邦の娼館で娼婦の子として生まれ、幼少の頃から客を取らされて育った。

コリンズ家の進軍に感銘を受け、楼主一家を惨殺して合流、以降は各地を転戦する。

蟄居処分中のケネス・グリーブを危険視し主君を説得、処罰を切腹に切り替えさせ介錯までを務めた。



「ベルガン・スプ男・ゴドイ」


魔界のオーク種。

父親が魔王城の修繕業に携わっていたので、惰性で魔王城付近に住み付いている。

大魔王コリンズの恩寵の儀を補助したことで魔界における有名人となった。

その為、異性に全く縁が無かったのだが相当モテるようになった。

以上の経緯から熱狂的なコリンズ王朝の支持者である。



「ヴォッヴォヴィ0912・オヴォ―」


魔界のリザード種。

陸上のみで生活しているという、種族の中では少数派。

その生活スタイルから他の魔族との会合に種族を代表して出席する機会が多い。

大した人物ではないのだが陸上リザードの中では一番の年長者なので、リザード種全体の代表のような扱いを受ける事が多い。

本人は忘れているが連邦港湾において大魔王コリンズの拉致を発案したのが彼である。



「レ・ガン」


元四天王。

魔王ギーガーの母(厳密には縁戚)

ギーガーの魔王就任に伴いソドムタウンにおける魔王権力の代行者となった。

在任時は対魔族感情の緩和と情報収集に尽力、魔王ギーガーの自由都市来訪を実現した。



「ジェームス・ギャロ」


ギャロ領領主。

現在行方不明中のエドワード王の叔父にあたる人物。

早くからエドワードと距離を置き、実質的な国内鎖国を行っていた。

能書家・雄弁家として知られる。



「ジョン・ブルース」


公王。

王国の有力貴族であったブルース公爵家が主家に独立戦争を挑み誕生したのが公国であり、ジョンは6代目にあたる。

武勇の誉れ高く王国・魔界に対して激しい攻撃を行う反面、綿密な婚姻政策で周辺の王国諸侯を切り崩していた。



「クュ07」


コボルト種の医官。

大魔王の侍医であったクュの孫娘。

紆余曲折あってコレット・コリンズの護衛兼愛人となった。

以前からポール・ポールソンの人格と能力を絶賛しており、即時抹殺を強く主張している。



「ニック・ストラウド」


ポール・ポールソンの義弟。

大公国建国後は旗奉行として軍事面から諸種族の取り纏めに奔走している。

エスピノザ男爵叛乱事件の鎮圧に大功あり南ジブラルタル13万石の領有を許された。

実姉ナナリーが魔王ダンの乳母に就任しその娘キキに尚侍の官職が与えられたことで、全世界からの嫉妬と羨望を集めている。



「ハワード・ベーカー」


大魔王財団理事長。

元は清掃会社の職員だったが、コリンズ家のソドムタウン入り直後に臣従。

大魔王パーティーの一員として、キーン・グランツと共にリン・コリンズを支えた。

主に(株)エナドリの代表取締役としてビジネス界から大魔王の覇業に貢献した事で知られる。

大魔王の経済テロの後始末に誠意をもって奔走したことで、世論からの信頼を勝ち取った。



「テオドラ・ヴォルコヴァ」


ヴォルコフ家前当主。

幼少時に実家が政争に敗れ族滅の憂き目に遭い、単身自由都市への亡命を余儀なくされた。

その後、紆余曲折あって清掃事業者ポールソンの妻となり一男一女を設ける。

統一政府の樹立と同時に旧臣を率いて帝国に電撃帰還、混乱に乗じて旧領を奪還した。

家督を財務長官クレア・ドラインに譲ってからは、領内で亡夫の菩提を弔う日々を送っている。



「シモーヌ・ギア」


大量殺人事件容疑者。

冒険者兼林業ヤクザとして高名だったギリアム・ギアの戦死後、その敵対勢力が尽く家族ごと失踪する事件が発生。

自由都市同盟治安局は妹のシモーヌを容疑者として捜査するも統一政府による国土接収で有耶無耶になった。




「ミヒャエル・フォン・ミュラー」


旧連邦の私的記録に頻出する人名。

新支配者であるノーラ・ウェインの連邦史保存プロジェクトにおいて、その文字列がノイズと判断されたので関連の文言は新史への記載を見送られた。




「アンドリュー・アッチソン」


魔王城剣術師範。

言わずと知れた世界最強の剣士であり、奇術師としても高名。

御一新前はピット商会で護衛隊長を務め、その卓絶した武技で数々の逸話を残している。

摂政コレット・コリンズが三顧の礼で招いた逸材であり、魔王ダンの警護及び不忠者への上意討ちを任務としている。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



異世界事情については別巻にて。

https://ncode.syosetu.com/n1559ik/

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リンくんが遣りたかった格好いい世界闘争をポール君がしてる。 ポール君がしたかった? 平和なワチャワチャをりんくんがしてる。 どっちもりんくんの責任なんですけどね。 ああ、日本復帰当初は複利の猛毒も広が…
> 砂の中から赤鹿毛の馬が這い出て全身をゆっくり振りながら… 昔のモンハンのブルファンゴみたいだな(白目)
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