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【転移26日目】 所持金120億9000万ウェン 「こんな小さな金庫だとは思わなかったんだ。」

少し後から知った事だが。

この侯爵領というのは、ワインの一大生産地である上にキノコ料理の名店が多いのでグルメにとっては垂涎の街らしい。

先に知っていれば、コレットとヒルダに馳走してやったのだが…

まあ、俺の旅というのは万事がこんな様子だ。


きっと俺はそういう人間なのだ。



===========================



「今、預けても大丈夫ですか?」



俺の馬車に首だけ突っ込みながらキーンが言う。

一応、表情だけは遠慮がちなものを装っている。



『あ、どうぞ。

中へお入りください。』



「いや、流石に奥様達が休まれているスペースに立ち入るのは憚りがあるから。」



母娘は微笑と共に会釈しながら車外に出る。

この2人は余計な発言をしない点に非常に好感を持てる。

そして、それは「オマエも倣え」との暗黙のメッセージでもある。



「では、用件だけ…

手短に。」



言いながらキーンは俺にとって未知の貨幣を並べた。



『これは大白金貨ではなく?』



「王国が発行している最高貨幣は

御存知の通り、1000万ウェン分の価値がある大白金貨です。」



『ええ、最近ようやく見慣れて来ましたが。』



「経済が発展している自由都市では、高額決済が日常的ですから1000万ウェンが最高通貨では経済活動が止まってしまいます。」



『でしょうね。』



「これが10億ウェンの価値があるミスリル貨です。」



『じゅ、10億?

こんな小さな金属片が?』



「我々不動産業者にとっては必須なんですよ。

後、金融業もこれが無ければ回りません。」



『いや、高額なことは理解出来たのですが…

こんなもの持ってたら物騒でしょう?』



「ですから。

自由都市でも貴族区や富裕区でしか用いられませんし

超魔導による認証システムが採用されてます。」



それ科学じゃん。

とか思うが、話の本筋と異なるので黙っておく。



『つまり、水晶球システム同様に契約等を追跡するシステムでしょうか?』



「はい。

最近は大型金融機関で採用され始めております。

ここの凹んだ部分に指を置くことにより所有権が個人に紐づきます。

現在は私に紐づいている状態ですね。」



『なるほど。』



「で、これが盗難・強奪されてもすぐに魔導追尾が始まります。

世界共通システムですから国外持ち出しは意味を持ちません。

そして盗難加害者の身柄を拘束した場合、世界金融機関連盟から多額の謝礼金が出ますので…」



うむ。

それ以上は説明の必要がない。

問題は俺が使用できるか否かだな?


今後、資産が膨れて行けば白大金貨を持て余す事は確実だろう。

正直、置き場所に困る様になる。

10億なんて法外な高額通貨の存在は渡りに船だが…

これって登録出来るのか?

わからん?

想像が付かない。



『で、そんな物騒なものを8枚も持ってこられたと。』



「ええ、緊急の大型不動産売買と偽って法人口座から引き出して来ました。

自由都市の本社に戻れば、もう少し引き出せます。」



『な、なるほど。』



「コリンズさんの表情を見ればご迷惑なのは承知です。」



『あ、いえ。

迷惑とかではないんですけど。』




迷惑だなあ。

抜き打ちで大金持ってこられると心臓に悪いよ。



「追加で80億…

預金させて頂けませんでしょうか?」



『あー。

迷惑ではないのですが。

こんな規模の金額は自分でも想定外だったので…』



「申し訳ありません。」



『わかりました!

お預かりします。

1日だけ運用させて下さい。

但し、手に負えないと感じたら返却させて貰います。』



「ええ!

勿論です!

コリンズさんの負担になるような真似はしたくないので!」



『これを預かった場合。

キーンさんからの預金総額は82億ウェンとなります。

2桁億ウェン預金は日利2%の取り決めですから。

本日の夜は、無条件で1億6400万ウェンをお支払いします。』



「ゴクリ!」



『ただ、くどいようですが。

私に扱い切れないと判断したら、配当を支払ってから貴方に返却致します。

その条件で良ければお預かりさせて頂きますが。』



「はい!

お願いします!」




==========================



【所持金】


26億7600万ウェン

  ↓

106億7600万ウェン



※ドナルド・キーンから80億ウェンを日利2%で追加借用



==========================



うーん。

当然100億は狙っていた。

但し、それは自由都市で安全を確保した上で、手金でこっそり増やして到達する予定だったのだ。

いや、今の日利を考えれば80億はありがたいよ?

でも、こんな旅先で渡されても…

正直、怖いよ。



『キーンさん。

御存知だと思いますが、この件の支払能力は私個人に紐づいてます。

私も注意は払いますが…』



「はい!

命に代えてもコリンズさんをお守りします!!」



『いやいや、流石にカネより命を優先して下さい。』



「いやいや、80億ですよ?

流石に私一個の命より重いと判断せざるを得ない。

もしもこの旅で私が…」



『縁起の悪い事を言わんで下さい!

ちゃんと御家族に引き継ぎますから!

お互い長生きしましょうよ!』



その日の行程はカインも呼んで3人で予備車両に籠り、お互いに託す遺言状を作成していた。

俺達は何度も何度も遺言書を書いては破り書いては破って頭を抱え続けていた。

まるで沈没間近の甲板に居るような表情だった。



昔の俺は大金が手に入ったら、無邪気に狂喜乱舞するものだと思い込んでいた。

生まれが貧しいから、いつもそんな妄想をしていた。


実際に器以上の大金を手にしてみると、まず恐怖を感じた。

このカネが失われる想像をして胃が痛くなるのだ。


犯罪・事故・天災・政治・そして世論。

この世の全てがこのカネを狙っている錯覚に陥る。



安心が出来ない!


だから安心が欲しい!


この身、このカネが、何人からも侵略されないという絶対的な保証が欲しいのだ!




…昔の俺は何を考えていただろう。

複利を身に着けてから1ヶ月も経過していない筈なのに

これ以前の思考を上手く再現出来ない。

思い出せ。

俺は何を考えていた?

俺って何だ?



《もしも金持ちになったら何を買おうw》

《車や豪邸、宝石や時計、最高の物を買い占めてやるんだw》

《世界中に俺が贅沢を満喫している姿を見せつけて、妬む顔を笑ってやるw》

《俺を捨てたあの女はきっと悔しがるだろう。》

《カネの力で父さんを馬鹿にした奴らを叩き潰してやる。》



毎日毎日飽きもせず、無力な俺はカネだけを渇望していた。

カネを持っているか否かの違いだけで、俺の思考は何の進歩も改善もしていない気がする。

俺はカネが欲しいのだ。

そしてこの獲得への激しい欲求は、自分が誰よりも持つ側に回った時には過剰な防衛姿勢として現れるのだろう。



俺は【複利】という可愛気の無いスキルを身に着けた事を不思議に感じてはいない。

成るべくして成り。

在るべくして在るのだ。



==========================



男というのは余程身勝手な生き物なのだろう。

コリンズ家の車両に戻った俺はヒルダとコレットにしがみついて甘えていた。

軽蔑されるかと危惧したが、ヒルダは静かに俺を慰めてくれている。

存外、彼女の亡夫である猛者ケビンも家庭ではこういう面も見せていたのかも知れない。


今まで意識をした事が無かったが、金額が大きいと言う事は失敗した時のダメージが大きい事を意味する。

恐らく俺が真っ当な商人で正規の手段で蓄財したのであれば、もう少し精神的な安定を保てただろう。

だが、俺は違う。

突如沸いたスキル、借りたカネ、自分で身を護る術はなく、女の陰に隠れて震えている。



「楽しいこと、考えよ?」



コレットには俺の内心が見透かされているのだろう。

気恥ずかしい反面、一声掛けられただけで心が和む。




《16億0200万ウェンの配当が支払われました。》




==========================



【所持金】


106億7600万ウェン

  ↓

122億7800万ウェン



※16億0200万ウェンの配当を受け取り。



==========================



俺の金庫の中には先程見たばかりのミスリル貨が無造作に増えていた。

これ、逆に扱いに困るぞ?

金融機関で通用するのか?

いや、しないだろう。


あー、あれだ。

カネ持ち階級ってキャッシュ持っただけじゃ成れないんだな。

持ったキャッシュを堂々と運用出来る信用と立場も備えておかなければならないんだ。


恐らくそこに不可視の壁がある。

地球も異世界も同じなんだ。

そこに立つ大きな壁を乗り越えてはじめて

俺は俺になれるのだ。



==========================



その日、停車したのは大草原の入り口。

いつの間にか侯爵領は通過していたらしい。

道中、美しい滝や荘厳な遺跡が見えたらしく護衛達が興奮して語り合っている。

普段、仏頂面のダグラスが珍しく破顔していたので、それは心から嬉しかった。


当然、ホテルは無い。

居留地の遊牧民族が運営するコテージ区画に乗り入れて、馬車内で夜営するのだ。



「コリンズさん。

遊牧民が物を買ってくれと強請ってますが…

どうします?」



グリーブ傭兵団のメンバーが幌の外からこっそり囁いて来る。

(大将がどの馬車に乗っているかは決して知られてはならないのだそうだ。)



『あ、じゃあ護衛団の皆さんが使いそうな消費財があれば補充しておいて下さい。』




==========================


【所持金】


122億7800万ウェン

  ↓

122億7600万ウェン


※居留地民への慰撫費用として200万ウェン支出


==========================



「コリンズさん、額が大きすぎますよ!

俺がリーダーに怒られてしまいます!」



そんな事を言われてもなあ。

スキルの性質上、小銭を用意するのが難しいんだから仕方ない。



『あー、では余ったら予備費ということで。


ほら、少しでも護衛団の皆さんが仕事に集中出来るように

私もベストを尽くしたいんです。』



「…俺の一存では判断出来ません。

リーダーに確認して来ます。」



結局。

居留地の遊牧民から37万ウェン程、水や干し肉やロープを買い込んだらしい。

どうやら相手は喜んでくれたようなので、これで良しとする。


グリーブがお釣りを返しに来たが

『咄嗟に経費が必要な場面もあるだろうから、貴方が持っていて欲しい

無論、用途は追及しない。』

と強引に押し付けた。



いや、こういう振舞が良くないのは知ってるよ?

でも、俺の事情も考慮してくれよ。


こんな小さな金庫だとは思わなかったんだ。

俺だって困ってるんだよ!




==========================


【所持金】


120億9000万ウェン



※カイン・R・グランツに2200万ウェンの利息を支払。

※ドナルド・キーンに1億6400万ウェンの利息を支払。



==========================



『キーンさん。』


「…はい。」


『ミスリル貨の両替って貴方にお願い出来ます?』


「やや時間は掛かりますが

所有権移転手続きを用いれば可能です。」



『それって自由都市じゃなくても出来ますか?』



「教団自治区なら…

アソコは近隣の富が集中しておりますので。」



『じゃあ、そこで両替出来るか実験させて下さい。

もしも駄目なら…

申し訳ありませんが、高額預金は諦めて貰いますよ。』



「…はい。」




======================


【コリンズキャラバン移動計画】  


「3日目」


中継都市ヒルズタウン  (宿が込んでた。)

 ↓

侯爵城下町 (風光明媚な土地だったらしい)

 ↓

大草原  ←今ココの入り口。

 ↓

教団自治区 (借金のカタに王国で一番肥沃な農地が接収されてしまった)

 ↓

王国天領(施設農業・手工業・錬金術特区)

 ↓

伯爵城下町 (この80年ほど絶賛家督紛争中)

 ↓

諸貴族領混在地 (戦時にもかかわらず内戦を起す馬鹿がいっぱいいる。)

 ↓

王国軍都    (軍部が独自に警察権を保有している)

 ↓

王国側国境検問所 (賄賂が横行。 逆に言えば全てカネで解決可能)

 ↓

非武装中立地帯(建前上、軍隊の展開が禁止されている平野。)

 ↓

連邦or首長国検問所 (例の娼婦に付き纏われているか否かで分岐)

 ↓

自由都市(連邦領経由なら7日、首長国経由なら5日の計算)



==========================



なあ、みんな。

宿屋と旅人って、どっちの人生が面白いんだろな?

【名前】


リン・トイチ・コリンズ



【職業】


流浪のプライベートバンカー



【ステータス】


《LV》  15


《HP》  (4/4)

《MP》  (2/2)


《腕力》 1

《速度》 2

《器用》 2

《魔力》 2

《知性》 3

《精神》 2

《幸運》 1


《経験》 203193


次のレベルまで残り121903ポイント。 



【スキル】


「複利」


※日利15%  

 下6桁切上



【所持金】


所持金120億9000万ウェン


※カイン・R・グランツから12億ウェンを日利2%で借用

※ドナルド・キーンから82億ウェンを日利2%で借用

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― 新着の感想 ―
認証システムの設計次第だねぇ 突破できるんかな。異世界ガバだし、シリアルすらないかも?
[良い点] 金庫の心配をしてるの草 [一言] この作品読んでたら金銭感覚麻痺してきたんだが!?
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