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【転移24日目】 所持金23億5000万ウェン 「やあ、お父さん。 今日は孝行に来ましたよ。」

朝。


キーンは部下との打ち合わせに向かう。

俺とヒルダは家財の処分を行う。

一応、隊商の体を取るので美術壺やら絵画やら、わかり易い商品は数点だけ馬車に積むことにした。

検問所で複雑な問答をしたくないからな。



『やあ、お父さん。

今日は孝行に来ましたよ。』



「やあ、息子よ。

無沙汰は無事の便りと、安心していた所だよ。」




ロバート質店。

初日に俺が制服を売った相手。

どう計算しても、初日にこの男に会えなければ俺の異世界生活は詰んでいた。

口や顔に出す気は無いが感謝してもし切れない相手だ、

制服を売り終わった後に、俺に関する噂がそこまで広がっていなかった点を非常に高く評価させて貰っている。



『この倉庫を現金化したいんです。』



「なるほど。

互いの鑑定師に鑑定書を作らせる?

それとも急ぎ?」



『金額には頓着しておりません。』



「なるほど。

父子の心温まる値段交渉はもう出来ないのか…

少し寂しいな。

希望額はある?」



『そちらはお任せしますが

胡桃亭の廃業が目立たないように計らって頂けますか?』



「…わかった。

では、買取品の再現金化は2ヶ月後から開始する。

それで意に添えるかい?」



『ご厚情感謝します。』



後はヒルダとゴードンの取引だった。

倉庫の品が幾らで引き取られていったのかは聞いていない。


こういう取引はよくあるのだろう。

ロバートの甥兄弟が大八車のようなものを曳いて来て、手早く積み込みをすると会釈だけして城門を潜っていった。

郊外にロバート家の邸宅兼事務所があるらしい。



===============================



昼過ぎ。

和田一党が来訪する。

どうやら王国公務員には昼休憩の習慣があるらしく、この時間帯なら集団で外出可能らしい。


それにしても制服姿の集団を見ると日本が思い出される。

日本か…

俺は改めて帰還への決意を固めた。


来たのが女子生徒ばかりである点からも、ジェンダー的な軋轢がクラス内か王宮内であった事が推測される。


「これで安心ね。」

とか

「やっと夜の安全が確保出来たわ。」


等という話し声が聞こえたので、今の環境は安心も安全も欠乏しているらしい。

昨日の和田は胡桃亭の購入を即決した。

彼女達にとって安い買い物ではなかった筈だ。

それを即断せざるを得ない状況に追い込まれていたのだ。

お互い大変だろうが、それぞれ頑張って行こうや。



手筈通り、ダグラス組も隣のテナントを去りニコニコ金融付近にある彼らのアジトに帰還する。

秘密保持条項に基づき、和田を始めとした異世界勢との接触は許可しないし、彼らにもその意図はない。



「カズコさんがリンと《今後の話をしたい》って言ってるけど。」



コレットが念のために確認してくるが、俺の側には話も用事も無い。

(平原であれば色々と相談もしたかったので残念だ。)

そのままコリンズ家は手荷物を持って城門から外に出た。

俺達の痕跡は不自然にならない範囲で消去済である。

家具・調度は全て向こうで揃える。



===============================



小一時間ほど整列済みのキャラバンで待っていると、妻子を連れたカインがやって来た。

身元証明書も完璧に揃えてくれている。

そのまま出発。

合図も号令も禁じてある。

衛兵や厩舎員すら振り向かないほどに静かにキャラバンは出発した。

彼らの視界から消えるまでは鈍足前進を心掛ける。



===============================



【コリンズキャラバン車両内訳】


1、コリンズ家車両

2、貨物車両

3、ダグラス組車両

4、グランツ家車両

5、キーン家車両

6、キーン家予備車両

7、グリーブ傭兵団車両


※計7車両



===============================



特に話す事も無いので、俺達は川の字になって馬車に横臥していた。

数度の小休止を挟んでキャラバンは淡々と進んでいる。

7台分の車輪音が聞こえ続けているという事は、露骨に裏切られるような不幸にはまだ見舞われていないということだ。



《2億9175万ウェンの配当が支払われました。》




===============================


【所持金】


20億8390万ウェン

  ↓

23億7565万ウェン


※2億9175万ウェンの配当を受け取り。



===============================




…23億か。

キーンから2億、カインから11億を預かっている。

つまり顧客預金13億を全額返却したとしても、10億ウェンのキャッシュが手元に残る計算だ。

10億か… 遂に大台に乗ったな…

車両の揺れに耐え、硬い干し肉を咀嚼しながら、俺は1人静かに拳を握りしめた。


必ず地球に帰還してやる。

こんな程度の低い未開世界などではなく、俺は故郷の地球で絶対に勝者になるのだ。



===============================



配当アナウンスが聞こえてから、数時間。

車列が停止した。


騎馬のグリーブがやって来て幌越しに話し掛ける。



「予定よりかなり早いですが、ヒルズタウンに到着しました。

先触れが御一家の宿所を確保しております。」



『護衛の皆さんは泊まらないのですか?』



「いえ、今は混む時期だそうで。

どこの使用人宿も便乗値上をしているのです。

交代で野宿しようかと。」



『支出すべき経費だと考えます。

私から宿代を出させて頂いても差し支えないか、確認を取って下さい。』



「ご厚情感謝致します。」



ここは王都から侯爵領を結ぶ街道の中継都市とのこと。

グランツ・キーンの両家に許可を取れたので、護衛団に臨時費用を支給した。



===============================


【所持金】


23億7565万ウェン

  ↓

23億7400万ウェン



※護衛団に165万ウェンを雑費として支給

 用途の申告義務は免除


===============================



俺達3家は割り当てられた宿に入る。

取り決め通り3家の宿泊費はキーンが負担する。

彼の法人が一括して経費処理してくれるそうだ。


それぞれの家族を休息させてから、カイン・キーンとランプを囲む。



『御二方、ありがとうございました。

ここまでスムーズに出立出来るとは思っておりませんでした。』



「いや。

義理だの挨拶だの、そういう下らないことにリソースを注ぎたがる人間がメンバーに居なくて助かりました。」



「どういたしまして。

それにしても、まさかグランツ社長がキャラバンに加わって頂けるとは思いませんでした。」



「便乗申し訳ありません。」



「いえいえ、固まっていた方が長距離移動の成功率が上がりますからな。」



「コリンズさん。

奥様と義母様の御体調は如何ですか?」



『おかげさまで今のところは大丈夫です。

先は長いので、出来るだけおとなしくして体力を温存しようとしております。

御二方は如何でしょうか?』



「弊社の社員は旅慣れておりますから。

平常運転です。」



「ウチは力ずくで連れて来ました。

妻は自由都市に憧れていたから良いのですが…

息子がいじけてしまっていてww」



そりゃあね。

ある日突然、父親が家財全てを売り払って他国に移民すると宣言しちゃったらね。

俺がその立場なら発狂する自信がある。


でもまあ、どう考えても。

グランツ家は俺と一緒に居た方が得に決まっているが。



==========================



【所持金】


23億7400万ウェン

  ↓

23億5000万ウェン



※カイン・R・グランツに2200万ウェンの利息を支払。

※ドナルド・キーンに200万ウェンの利息を支払。



==========================



「移動中でも契約は有効なのですか!?」



2人に驚かれた事で、逆に俺が戸惑う。

当たり前じゃないか。

契約は日利なんだから。

例えばその日が、祝日でも平日でも元日でも命日でも、それらは単なる1日に過ぎない。

単に太陽が昇って沈むだけである。



手元の配当金を眺めるカインは改めて己の判断の正しさを噛み締めている。

最低20日の行程計画だ。

理論上4億4000万ウェンのキャッシュが馬車に揺られているだけで手に入る。


親の代から金融業に携わっている彼だからこそ、この金額の重みは誰よりも正確に認識出来ている筈だし、恐らく脳内では移住後のビジョンも色々と描かれているのだろう。


三人で旅の無事を祈り合うと、固く抱擁しあって自室に帰って寝た。




==========================



【コリンズキャラバン移動計画】


「1日目」


中継都市ヒルズタウン   ←今ココ。

 ↓

侯爵城下町 (先代は忠臣だったが、当代は帝国への通謀疑惑が濃厚。)

 ↓

大草原(強制移住させられた遊牧民の居留地区)

 ↓

教団自治区 (借金の形に王国で一番肥沃な農地が接収された)

 ↓

王国天領(施設農業・手工業・錬金術特区)

 ↓

伯爵城下町 (この80年ほど絶賛家督紛争中)

 ↓

諸貴族領混在地 (戦時にも関わらず内戦を起す馬鹿がいっぱいいる。)

 ↓

王国軍都    (軍部が独自に警察権を保有している)

 ↓

王国側国境検問所 (賄賂が横行。 逆に言えば全てカネで解決可能)

 ↓

非武装中立地帯(建前上、軍隊の展開が禁止されている平野。)

 ↓

連邦or首長国検問所 (例の娼婦に付き纏われているか否かで分岐)

 ↓

自由都市(連邦領経由なら7日、首長国経由なら5日の計算)



==========================



こうして改めて書き起こしてみると…

俺って異世界に来たんだな。

【名前】


リン・トイチ・コリンズ



【職業】


流浪のプライベートバンカー



【ステータス】


《LV》  14


《HP》  (3/3)

《MP》  (2/2)


《腕力》 1

《速度》 2

《器用》 2

《魔力》 2

《知性》 3

《精神》 2

《幸運》 1


《経験》 153642


次のレベルまで残り9414ポイント。 



【スキル】


「複利」


※日利14%  

 下4桁切上



【所持金】


23億5000万ウェン



※カイン・R・グランツから11億ウェンを日利2%で借用

※ドナルド・キーンから2億ウェンを日利1%で借用

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 城から追い出される時の10万は借りた事になっていたけど踏み倒し?
[良い点] とても面白いです! 日利なので、1日1日を濃く書くことで、違和感なく読めます! [気になる点] 揚げ足を取るようで恐縮なのですが、気になってしまったので。 ミリオネアは100万ドル、ビリオ…
[良い点] >伯爵城下町 (この80年ほど絶賛家督紛争中) 両陣営?しぶとすぎて笑う。
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