【降臨89日目】 所持金9億3079万2783円 「どうせみんな死ぬ。」
TVに映った第二次岸田改造内閣の閣僚名簿を見た瞬間に、心臓が凍るような恐怖に襲われる。
国家公安委員長 宇崎紘子(胡桃倶楽部)
面識こそないが、ヒルダに軟禁されていた時にその名前は何度も耳にしていた。
渋川薫子が越前国を安堵されたのと同様、淡路国を安堵された女だ。
確か長男さんを国会議員にする為にヒルダに忠勤を尽くしている筈。
洲本市の市会議員を1期務めただけの経歴にも関わらず入閣推薦されたという一点でも、主君からの信頼は篤いのだろう。
53歳とのことだが、議員会館前を歩く宇崎の足取りは極めてしっかりしたものだった。
強く結んだ口元が非常に力強く、如何にも女傑という風貌である。
岸田さん、ヒルダ派を入閣させるにしてもですね。
もう少し無難なポジションからと言いましょうか…
治安防諜関連はせめて宏池会系で固めておくべきなんじゃないですかね。
そうかー、ヒルダが警察権力を掌握しちゃったかぁ。
アイツ、地球に来てまだ1年だろ?
もう少しこう何というか、手心というか…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
寝入り際にあんなニュースを見てしまった為、今朝は心が暗い。
皆に慰めて貰いたかったが、今日は人が少ない。
どうやら江本と毛内翁がヒグマ見物に行ったらしい。
運良く会敵出来れば殺害する予定とのこと。
あの2人なら間違いはないだろう。
さて俺の体調。
起床時には既に胃が痛く、食欲が沸いてくれなかった。
『何かフルーツのような、軽い物だけ食べさせて下さい。』
お願いすると寒河江がハスカップなる地元の果物とヨーグルトを和えたものを作ってくれる。
「ハスカップは不老長寿の効能があるとされてます。」
寒河江は冗談めかしてそう言うのだが、あいにく長生きには興味がない。
父親からは短命の家系と聞いているし、ここ最近でダメージを受けすぎた。
異世界で下半身不随になった上に、地球でもヒルダ、鷹見、木下、松村にフルボコにされて満身創痍だからな。
人間は早かれ遅かれ必ず死ぬのだ。
長寿など願ってどうするというのか。
「では、こちらはどうです!
メロンブランデーです!」
どうやら俺が暗い表情をしているので元気付けてくれようとしているのだろう。
坊門翁にも食べさせて貰った事があるが、確かに景気の良い趣向ではある。
少し食べて咽たので、2杯目はジンジャエールメロンとした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昨夜福田にも指摘された事だが、俺の仕事はグランドデザインを皆に示すこと。
それが出来なければ大将失格らしい。
虎ノ門でヒルダの見事な統率を目の当たりにしているだけに同感である。
まず、大目標。
俺の目的は全人類に均等に富を分配すること。
手元には1円も残す気がない。
資本や権力が世襲されない社会を不可逆的に構築するのだ。
その為の中間目標として、全ての地球人に対して俺の思想と能力を開示してコンセンサスを得なくてはならない。
よって政治的身体的な安全を確保する事が必要となり、まずは手勢を再結集しなくてはならない。
…北海道では駄目だ。
目立たずに開拓村でも作るならベストの環境だが、日本全国に散ったパーティーメンバーの拠点とするには辺鄙過ぎる。
本州からの侵入路が限定されている事も減点ポイント。
手配中の俺がそんな環境で頭数を増やそうとすれば、早期に発見されてしまうだろう。
ただでさえ、青森までの経路を松村に知られてしまっている。
高い確率で俺に関する情報は売られているだろう。
青森から更に逃亡するとすれば?
俺が追手なら北海道を疑う。
だからこそ、早く場所を変えなければならない。
一刻も早く次の拠点を確保しなければ。
『寒河江さん。』
「はい、リン子様。」
『一カ所に留まるのが怖いので次の拠点を探しています。
その選定をお願いさせて下さい。』
「…私ですか?
リン子様の御命令であれば労苦は惜しみませんが。
出来るでしょうか?」
『空路を使えない事もあり、私の旅は車両移動がメインでした。
今後も車列を組んでのキャラバン移動を中心に据えると思います。
なので車の運転に熟達した方の視点が欲しいのです。
私は免許すら持っていないので。』
「…畏まりました。
まさかこれまで馬鹿にされて来た運転業が役に立つとは思っておりませんでした。
少し周辺を走りながら思考を整理して来ます。」
『お願いします。』
俺は頭が悪い。
なので、思考に関しても極力仲間の力を借りるのだ。
特に、狩人の毛内やドライバーの寒河江の様に業歴が何十年にも及ぶベテランの知見こそ、若造の俺が貪欲に学ばねばならない事柄である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、反社のベテランにも意見を聞いてみるか。
「キサンは神輿型んリーダーや。
おとなしゅうしとけ。」
『お神輿がやっておくことってありますか?』
「いつ担ぎ手が現れたっちゃ困らんごつ、身だしなみば整えとけ。」
至極まっとうな福田の指摘。
確かに女姿の今、衣装が足りないのも不自然か。
なので周辺に婦人服店が無いか車でグルっと回る。
近所のハイアットにヴィトンのウインターリゾートストアがプレオープンしているらしいので、遊びに行くことにした。
俺はヴィトン趣味の女が大嫌いなのだが、いざ自分の装束を整えるとなると…
うーーーん。
ルイ・ヴィトン辺りが無難かな?
一番嫌いなのはエルメス女なのだが、次のワンピを買う時はエルメスかなぁ。
もう少し身長があればディオールを着たいのだが、俺みたいな女だと服に着られちゃうからな。
『福田さんも何か買いましょうよ。』
「適当に買うとけ。
ある物ば着る。」
『えー、お試着しましょうよー。
と言ってもダサいスキーウェアみたいなのばっかりですけれど。
本当は新しいブラウスが欲しかったんですけどね。』
「…トイチ。」
『あ、はい。』
「これから冬になる。
防寒グッズは幾らあったっちゃ困らん。
買い込んでおけ。」
『はい!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
8億2944万0783円
↓
8億1515万2783円
※ルイ・ヴィトン ニセコ・ハイアットにてパーティー用装備を1428万8000円分購入
[内訳]
雪山仕様ダウンブルゾン 610,500yen×10
インナージャケット 262,900yen×10
インナータートルネック 130,900yen×10
スキーゴーグル 125,400yen×10
スキーパンツ 299,100yen×10
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「たいぎゃ、買い物慣れしとるな。」
『異世界に居た頃、キャラバンの軍装を買い込んだ経験があります。』
「そのキャラバンはどうなったと?」
『隊員が1名殉職しました。
名はハンス・ヴェルナー。
享年は16。』
「…そうか。
今度は死なんばよかね。」
『地球でも既に殉職者が出ております。
名は大西竜志。
享年は46。』
「そうか、死者が増えんば…」
『人間はどうせ死にます。』
「…。」
『私の仕事は命に意義を持たせる事だけです。』
「そうか。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
買い込んだ装備を店員に梱包させている間、ティーラウンジで福田とお茶。
そう思って館内に入ったのだが…
「hey lady boy♪」
背後から声がしたので振り向くと昨日の豪州母娘だった。
他にもガイジン女が何人か居たので、多分金持ち女子会か何かなのだろう。
特にコイツらと仲良くしたいと思わないので、適当に手を振って追い払う。
『アイムプア、ノーマネー。』
ガイジン女共がケラケラ笑う。
「ワタシの国でも金持ちほど、オカネナイって言います♪」
そりゃあそうだろう。
持ってると知られてメリットなんてないからな。
「逆にビンボーはお金持ちのフリします♪」
『でしょうね。
もっとも、それは向上心の発露なので私はしませんが。』
天空院翔真を知るだけに本気でそう思ってるのだが、ジャパニーズジョークと解釈されてしまう。
異文化コミュニケーションって難しいよな。
俺は振り払って帰ろうとするも、福田は逆の意見。
「うんにゃ、トイチ。
キサンはこんガイジン共ん話ば色々聞いとけ。
コイツらは典型的な放蕩金持ちだ。
金ん使い方教わっとけ。」
なるほど。
確かに一理あるな。
季節外れのリゾートで遊び回ってるような女は、世界的に見ても富豪階級だろう。
(そもそもリッツやハイアットに連泊出来る人間なんて限られている。)
俺は今でこそスキルの力でキャッシュを持っているが、先祖代々貧民の家系なので金の使い方を知らない。
お茶くらい付き合ってやるか。
福田と楽しむ予定だったハイアットのティーラウンジ。
豪州母娘に両隣から挟まれ、異世界でのトラウマがフラッシュバックする。
肝心の福田は隣のテーブルで十勝産和牛サーロインを堪能しているようだ。
それでも横目で絶えず俺の安全を見守ってくれているのは頼もしい。
『すみません。
私、母娘丼恐怖症なので、もう少し距離を取ってくれませんか?』
母娘が手をパンパン叩きながら爆笑し翻訳すると、それをを聞いた仲間達も同じ動作で笑う。
繰り返すが、俺はジャパニーズジョークなんか言っていない。
「本物のレディボーイに会えて嬉しいです。」
ニュアンスを変えて、そればかり言われるので反論しておく。
『私の性自認は概ね男ですからね?
アイム、ノーレディボーイ。』
「そういう意味ではアリマセン。
ハングリービジネスとして女性の恰好しているレディーボーイは偽物。
貴方は好きでやってるから本物です。」
『好きでこんな恰好してません。』
「でも、男の人とベッドインする時、おカネは受け取らないでしょう?」
『当たり前じゃないですか。
男の人にそんな失礼な真似は出来ません!』
ガイジン共が嬉しそうに歓声を挙げる。
彼女達曰く、そこいらのビジネスホモと違って俺は本物らしい。
そこに好感を持ったとのこと。
「peraperape---ra♪」
『ナンシーが日本に来て良かったと言ってるわ。』
『…そりゃあどうも。』
その後、豪州(母)にトイレに連れ込まれて無理やり性器を撮影されてしまう。
涙目の俺を尻目に女共は画像を見て爆笑して盛り上がっていた。
「貴方のこと、気に入ったわ。
今度、タヒチの別荘に案内してあげる♪
夕陽を眺めながらポリネシアンセックスを楽しみましょう♪」
『行きません。』
「ahahahahaha♪
機嫌直して下さい♪
さっきの写真アップする時は、ちゃんと貴方の顔にモザイクを掛けてあげます♪」
『プイッ!』
「AHAHHAHAHHAHAHAHAHAHAHA!!!」
…俺、インバウンド政策に滅茶苦茶貢献してるわ。
だって俺と話すガイジン共、みんな凄く嬉しそうだもん。
いや、こっちは不快極まりないのだが。
「日本に来て良かったでーーすww」
楽しませてやったのだから、こちらも対価を貰う。
後学の為にコイツラの行動原理を知っておきたい。
「日本の文化と歴史がドウタラコウタラー♪」
そういうタテマエを無視して本音を探っていくと、要は税金対策であった。
各国で税務上非居住者とみなされる期間だけ滞在をして、合法的に税金を国家に支払わない者をパーマネントトラベラー(永遠の旅人)と言うらしいのだが、彼女達はそれである。
住み易い国に概ね3か月ずつ滞在し、納税はしない。
母娘の場合は豪州・タイ・日本・スイス・アメリカ・カナダを回遊しているとのこと。
ふむ、その手段を潰したい俺としては是非掘り下げて尋ねておきたいな。
『どうして日本?』
「文化的に緩いのに治安が良いです♪」
『どうしてタイ?』
「パタヤは地上の楽園♪」
ああ、どこぞの糞猫もそんなこと言ってたな。
『どうして豪州?』
「本国人が嫌いだから。」
元々、母娘はイギリス本国の一族。
『どうしてアメリカ?』
「金持ちには暮らしやすい。」
『どうしてカナダ?』
「日本と違って英語が通じますw」
『なるほど。』
そんな話を延々と続けて、一定の法則も朧気に見えて来る。
金持ちは住みたい場所に住むし、カネさえあれば税金は払わずに済む。
(優秀な税理士を雇えるからね。)
王都を捨てて自由都市に亡命した俺には非難する資格がないのだが、実にけしからん。
『ねえ、もしも全世界でインフレが発生しておカネが無価値になればどうしますか?』
「兆候が見えたら物資を買い占めるんじゃないかしら?
今、住んでいる所がモスマン(シドニー郊外の高級住宅街)なんだけど、キャンベラの別荘に移るかもね。
敷地が広いから農業でもすると思う。」
…まあ、妥当な答えかな。
最初、アホそうに見えた女共だが経済観念やリスクマネージメントは非常にしっかりしており、多少のインフレでは転びそうになかった。
このレベルの連中が破綻するほどの経済的混乱であれば、無学な貧民が先に破滅していることだろう。
『最後に質問。
人類全員に10億円ずつ配りたいんですけど。
方法をご存じありませんか?』
「?
普通に仮想通貨で良くない?」
『私、デジタルが苦手なんですよ。』
「そんなの男にやらせればいいです。
機械イジリはナードにやらせて、終わったらポイ♪
ワークはナード、ベッドはジョック♥
これ世界の常識でーす♪
『確かに。』
俺、仮想通貨嫌いなんだけどな。
まあ、もう令和だし我慢するしかない。
江本・安宅・孝文辺りにやらせよう。
俺はワークとベッドを同時に与えるけどな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最後に、ニセコでの刺激的な遊びを尋ねられる。
思いついたら連絡する旨を伝えたら、連絡先を尋ねられる。
『…スマホ持ってないんで。』
「さっきチラチラ見てたじゃないですか!」
『あ、これ異世界専用なんで。
地球人はNo thank you。』
ゴチャゴチャ文句を言われたので、福田との連絡先交換を認める。
拒絶させる為にそう言ったのだが、母娘は存外抵抗もなく福田と連絡先を交換した。
この男を俺の専属ボディーガードと誤認したらしい。
「アナタが日本でもトップクラスのセレブだという事は理解してまーす。
レディーボーイとしては世界トップでしょう。」
『ですから。
ただの貧民ですって。』
「うふふふ。
どの国でも怖い人はみんなそう言いまーす。
便宜計りますので、仲良くして下さい♪」
便宜ねえ。
《男にやらせれば理論》を教えてくれただけで十分なんだけどな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
別荘に帰ると16時前だったので、カネ射出態勢にて待機。
福田が寒河江からの電話を繋いでくれた所、帰還は20時を過ぎるとのこと。
マタギコンビからも《成功したから帰るが17時には間に合わない》とのメールが入っていたので、今日は2人でカネ整理をすることに決める。
「まちっと人手がおりなすな。
江本君曰く、明日には増援が4.5に着くらしいが。」
『誰が来るんだろう?
後藤さんだったらいいな❤』
「男色相手やったらやめとけて言おごたるとばってん。
戦国武将でん男色上りが一番忠勇するけんな。」
福田の言いたい事は理解出来る。
陶晴賢、高坂昌信、前田利家、井伊直政、男色相手が家中の中核を担っていく構図は珍しくない。
まあ、俺は身体で他人様を釣るような卑劣な行為は大嫌いだけどね。
「そろそろ17時やけど。
俺、こん家にあるカネば集めようか?
元金は多か方がよかやろ?」
『それも考えたのですけど。
嵩張っても邪魔ですからね。
広めの拠点を確保出来てからにしましょう。』
…どのみち、北海道から脱出してからだな、本格的にカネを集めるのは。
大体、万札って重いから嫌いなんだよ。
異世界は良かった。
10億ウェンなんて超高額決裁通貨を用意してくれていたのだから。
(江戸期の大判のように日常的に使う物では無かったが。)
あーあ、地球でも嵩張らない通貨作ってくれないかな。
それさえあれば、俺もこんな苦労せずに済むんだけどな。
《1億9564万円の配当が支払われました。》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
8億1515万2783円
↓
10億1079万2783円
※配当1億9564万円を取得
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おお、収支が10億突破したったい!」
『福田さん達にお給料を支払うので、突破は明日以降ですけどね。』
「なあ、トイチ。」
『はい?』
「今日も日当1000万くるるんか?」
『はあ、まあ。
別に欲しいなら1億でも構いませんよ。』
「うんにゃ、カネなんて1円でん多かに越した事はなかばってん。
キサンに関しては、手元に置いとくべきやろ。」
『ええ、よく言われます。』
「キサンにとってリスクがあり過ぎんね?」
『?』
「うんにゃ、資本は労働者ば縛り付くる為に、貯金でけんギリギリんラインば攻めた給与設定ばするたい、普通。
独立されたら大損やけんな。」
『でしょうね。』
「なんでキサンは俺達に過剰な額ば与えっと?
慎ましか人間なら、今までん給与持って逃ぐる場面たい?」
『ええ、当初の約束通り、出奔逐電に対しては咎めません。
お支払いして来たのも正当な報酬ですので、気兼ねなく持ち出して下さい。』
「…上手いな。」
『?』
「キサンがハイパーインフレば起こして地球経済ば破壊しようとしとる事は何とのう察しが付く。」
『ああ、バレちゃいましたか❤』
「やけん。
少しでも考ゆる頭んある人間なら、キサンから貰うカネにあまり意味がなか事は嫌でん察する。
来年、紙切れになっとる可能性は高かけんな。」
『ふふっ。』
「…踏み絵か?」
『あははは、怒ってます?』
「いや。
強か組織ば作るコツはイエスマンで周囲ば固めてしまうことや。
嬉々としてタダ働きするアホん数の多か組織には誰も勝てん。
無二念にそれば作ろうと調整する姿勢は驚嘆ん一語に値する。」
『他ならぬ福田さんには紙切れ以外の報酬もお支払いしますので、何でも気兼ねなくお申し出下さいね。
今晩、私の部屋に来られます?』
「キサンは平チャンや隼坊ば気に掛けてくれた。
それだけで十分や。」
『何でそんなに平原さんに義理立てするんですか?』
「そらこっちが聞こごたるくらいばい。」
その後、福田と畳の上で寝転がりながら、結構深い話をした。
俺の構想は概ね見破られていたらしく、その浅薄を叱責された。
「面白味ば通貨に見立つるキサンのやり方は、多分正しか。
もしもカネが無効化された時代が来たら、皆が一緒におって面白か奴について行くやろうしな。」
…問題は、ヒルダや鷹見は俺なんかより遥かに面白いことなんだよな。
「毛内しゃんにしたっちゃ寒河江しゃんにしたっちゃ、もはやカネはどぎゃんでん良さそうだしな。
オマエん悪さに付き合うんば心から楽しんどる。
確かに、毎日手切れ金ば払い続くる発想は正しかかもな。
大金でモチベーションが落つるとしたら、そっがソイツにとって忠誠心ん天井や。」
『流石です。
お察しの通り、私は毎日手切れ金を払ってます。
生涯年収以上の大金を手にしてしまったら、モチベーションが下がって当たり前なんです。
そういうタイプの人は、いつか消えるでしょう。
なら振るい分けは早いに越した事がない。』
「キサン、まだ見限られたことないやろ?」
『母と召喚先に捨てられました。
ですが、おカネ持ってからは誰にも切られてませんね。
私が選ぶ側になったからかな?
それとも、私の価値すらわからない人間とは接点を持たなくなったからかな?』
「世ん中で一番えずか事は、勝ち馬に乗り逃すことじゃなか。
勝ち馬がゴールする前に降りてしまうことや。
やけん、キサンからは誰も降りられん。」
『ふふふ。
意外に詩人さんなんですね。』
「流石に自分が神話に立ち会うとる事に気づかんほど馬鹿じゃなか。」
やれやれ、ああ言えばこう言う男だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
19時55分。
毛内・江本組帰還。
「結論から言うと狩猟法さえ無視すればヒグマの駆除なんて簡単ですわ。
俺なら1日10匹は楽勝で狩れますね。」
江本の第一声がそれ。
今日は毒ガスレベリングを試したらしい。
さっきから2人で垂直飛びやら指立て伏せをして、体力測定に励んでいる。
「多分、俺はレベル上がってますね。
毛内さんが上がって無いのはアシストに徹してくれたからやと思います。」
「リン子様。
江本君と2人で検証していたのですが、毒でもレベリングは可能です。
先日、リン子様がビリ猟でも経験値獲得可能と仰られていたので、恐らくイケるとは思っていたのですが、実証出来て嬉しいです。」
どうやら意識して殺せば、毒ガス散布でも経験値は入るようである。
まあ、狩猟法さえ無視してしまえば、結構どうとでもなるよな。
毛内翁が許可を求めてきたので、アイヌ狩猟術の毒薬の製造を許可。
トリカブトとマムシグサの毒を合わせたもので、ヒグマや人間を楽に殺せるとのこと。
そんなに嵩張らないという事なので、所持と使用の許可も出しておいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
22時01分。
寒河江帰還。
中古キャンピングカー店を回っていたらしい。
「結論から申し上げます。」
『採用。』
「まだ何も言ってませんよ。」
『朝も言ったでしょ。
寒河江さんに任せるって。』
「いや、それはそうなんですけど。
じゃあ、苫小牧経由でいいですね?」
『了解です。』
「…福井を通りますよ?」
『寒河江さんが決めたのなら、きっとそれが正解なんです。』
「北海道はその広大な面積からキャンピングカー文化が日本で一番盛んな土地です。
なので関連店が非常に多いです。
ここで纏まった数の車両を揃えてしまいましょう。
拠点を苫小牧に選んだ理由は3つ。
1、函館以上に本土への航路が多いこと。
2、日本最大級のオートキャンプ施設が存在すること。
3、千歳空港から30分圏内であること。
以上の理由から北の拠点として好ましいと考えます。
1、の補足ですが、苫小牧から青森・秋田・宮城・新潟・茨城・愛知・福井に航路が伸びております。
リン子様の支持者は西国に多いようなので敦賀港から西国入りを目指しませんか?
無論!
リン子様が福井経由に危惧を抱かれている話は先日出たばかりですので、斥候は出すべきかと思います。」
『採用。
そのつもりでおります。
資金が10億しかないんですけど、和室に全額隠してますので必要なだけ経費に使って下さい。』
策は何でも良い。
誰が考えても俺の案よりマシに決まってるし、献策を混ぜておけば思考癖を読まれにくくなる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
10億1079万2783円
↓
10億0079万2783円
↓
9億9079万2783円
↓
9億8079万2783円
↓
9億3079万2783円
※福田魁に日給1000万円を支給
※毛内敏文に日給1000万円を支給
※江本昴流に日給1000万円を支給
※寒河江尚元に日給1000万円を支給
※寒河江尚元に経費5000万円を預託(釣り銭返却の義務なし)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
再度、本州への帰還計画を寒河江に一任することを宣言。
移動に関してはこの男に全て任せる。
失敗して全滅することも含めて俺の決断だ。
ここまで追い詰められた以上、ノーリスクで何かを成し遂げるなど絶対に不可能なのだから。
あの女共を一掃して本懐を遂げたい。
多少の犠牲は出てしまうだろうが、正義の貫徹とはそういう事ではないだろうか?
こういう時、ハンスや大西の意見こそ聞きたいのだがな。
まあ良い。
どうせみんな死ぬ。
【名前】
遠市・コリンズ・リン子・厘
【職業】
便所紙
ホステス
パチンコ台
神聖教団 大主教
東横キッズ
詐欺師
【称号】
淫売
賞金首
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 24
《HP》 温存中
《MP》 温存中
《力》 メスガキ
《速度》 神出鬼没
《器用》 ライジング・カード!
《魔力》 悪の王器
《知性》 奸佞邪智
《精神》 絶対悪
《幸運》 天佑
《経験》 1億2519万0925
本日取得 0
本日利息 2423万0502
次のレベルまでの必要経験値4258万1235
※レベル25到達まで合計1億6777万2150ポイント必要
※キョンの経験値を1と断定
※イノシシの経験値を40と断定
※うり坊(イノシシの幼獣)の経験値を成獣並みと断定
※クジラの経験値を13000と断定
※経験値計算は全て仮説
【スキル】
「複利」
※日利24%
下4桁切り上げ
【所持金】
9億3079万2783円
251万BTC
↓
312万BTC (下4桁切り上げ)
106万XRP (下4桁切り上げ)
↓
132万XRP
106万SOL (下4桁切り上げ)
↓
132万SOL
※ユーロ・ポンド・ルーブル・バーツ・ペソ・ドルも保有。
※ユーロ・ポンド・ルーブル・ドルの保管権を孝文・j・Gに付与。
※仮想通貨の運用権を孝文・j・Gに付与。
※米国債・タイバーツ・フィリピンペソの保管権を児玉繭子に付与。
【残り寿命】
176万8500日 (下4桁切り上げ)
↓
219万8500日
【所持品】
Maison Margiela ショルダーバッグ 白
Archi Diorリング ホワイトゴールド×ダイヤモンド
ティファニー ビクトリア グラジュエイテッド ネックレス
【約束】
〇古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
『100倍デーの開催!』
× 「一般回線で異世界の話をするな。」
『世襲政権の誕生阻止。』
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
「空飛ぶ車を運転します!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
『遠市王朝の建国阻止。』
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
〇藤田勇作 『日当3万円。』
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
〇 「お土産を郵送してくれ。」
「月刊東京の編集長に就任する。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
×警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
「オマエだけは絶対に守る!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
「一緒にかすうどんを食べる」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
×今井透 「原油価格の引き下げたのんます。」
「小麦価格の引き下げをお願いします」
〇荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
×遠藤恭平 「ハーレム製造装置を下さい。」
〇 『子ども食堂を起ち上げます。』
「紙幣焼却によりインフレを阻止する。」
〇田名部淳 「全財産を預けさせて下さい!」
「共に地獄に堕ちましょう。」
三橋真也 「実は配信者になりたいので相談に乗って下さい。」
〇DJ斬馬 『音楽を絡めたイベントを開催する際、日当10万で雇用します。』
金本宇宙 「異世界に飛ばして欲しい。」
金本聖衣 「同上。」
金本七感 「17歳メインヒロインなので旦那との復縁を手伝って。」
〇天空院翔真 「ポンジ勝負で再戦しろ!」
「再戦するまで勝手に死ぬな。」
〇小牧某 「我が国の防諜機関への予算配分をお願いします。」
阿閉圭祐 「日本国の赤化防止を希望します。」
〇坊門万太郎 「天空院写真集を献納します!」
宋鳳国 「全人類救済計画に協力します!」
堀内信彦 『和牛盗難事件を解決します。』
〇内閣国際連絡局 『予算1000億円の確保します』
〇毛内敏文 『青森に行きます!』
神聖LB血盟団 「我々の意志を尊重する者が必ずや遠市厘を抹殺するだろう。」
Top Girls 「招待ホモ枠の仲間として色々便宜を図ってあげマース♥」
〇大西竜志 「知り得る限り全ての犯罪者情報の提供。」
『貴方の遺族に篤く報います。』
坂東信弘 「四国内でのイベント協力」
国重辰馬 「四国内でのイベント協力」
涌嶋武彦 「畜産業界の総力を挙げて遠市派議員を衆議院に最低10名押し込みます!」
斑鳩太郎 『処刑免除を保証します。』
志倉しぃ 「カッコいいホモの人を紹介して下さい。」
〇孝文・j・G 「英国大使館パーティーにて利息支払い」
「永遠の忠誠と信仰を(以下略)」
〇グランツ(英) 「perape-ra!!!!!!!!」
E・ギャロ 「農政助言」
「王都で星を見る。」
福永史奈 「出産すれば1億円支給」
野上絵麻 「以下同文」
桂川風香 「以下同文」
久能木瀬里奈 「ジャンジャンバリバリ!!」
児玉繭子 「ウチの旦那に色目を使うな。」
「アメリカ経済を破綻させないように努力する。」
古河槐 「jetの救済をお願い。」
カミーラ・B 「perape-ra♪」
故バーゼル卿 「perape-ra!」
〇有村拓我 「福田魁との連絡を取る。」
×福田魁 「男らしゅうせー!」
金本光戦士 「どんな危機からも必ず救い絶対に守る。」
古河槐 「シンママで産む」
◎木下樹理奈 「一緒に住ませて」
×松村奈々 「二度と靴は舐めないにゃ♥」
〇 「仲間を売るから私は許して♥」
× 「ウンコは便器の中にするニャ♪」
「未来永劫ずっと一緒♥
ずっとずっとずっとずーーと×∞
厘を守ってあげるね♥」
◎鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
〇 「責任をもって養ってくれるんスよね?」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」
× 「ポン酢で寿司を喰いに行く。」
土佐の局 「生まれた子が男子であればリイチ。
女子であればリコと命名する。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【遠市・コリンズ・リン子・厘の政治構想】
全人類に10億円ずつ配る。
面倒事はとりあえず江本に丸投げ。
【ヒルダ・コリンズの地球政治構想】
「自身のスタンスについて」
日本人配偶者に従うウクライナ人専業主婦。
出産予定の長男、割トイチは日本人として育てたい。
「外交」
英米協調主義者だが、マハンのシーパワー理論にはやや懐疑的。
国防上の観点からも西側社会と足並みを揃える事を最重要視しているが、日米安保に関しては縮小派。
英米との対立軸に関してはインド・イスラエルとの共同歩調によって解消するべきと考えている。
非同盟諸国首脳会議への接近を閣内に強く呼びかけ中。
外務省主導の外交には強く反対。
あくまで防諜・防衛機構がイニシアティブを取るべきと主張している。
「財政」
緊縮派。
但し、現在の現役世代への重課税には反対の立場。
公務員給与(天下り費用も含む)を国際水準まで引き下げ、過剰な高齢医療を中止することを提唱している。
【タックスペイヤーの尊重】を財政面でのスローガンとしている。
「軍事」
重武装中立主義者・防諜至上主義者。
クラスター爆弾禁止条約からの脱退を強く主張。
スローガンとしての専守防衛を絶賛するものの、先制攻撃オプションこそが防衛力と考えている。
先月、胡桃倶楽部が提出したスパイ防止法案が衆議院にて審議中。
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【大魔王リン・コリンズの異世界統治構想】
寄贈した10垓ウェンで何とかして欲しい。
面倒事はとりあえずポールソンに丸投げ。
【コレット・コリンズの統治方針と実績】
大魔王の悲願でもある低負担平等社会の構築を基幹公約としている。
その一環として封建社会から官僚統治社会への移行作業を進めている。
コリンズ王朝に関しては現在は統治機構であるが、最終的には政権の正統性を担保する機関に移行する指針を示している。
「統治」
ポールソン理論に基づく土地私有の制限が公約。
封建領主への容赦ない改易と見せしめ的な族滅刑の連続によって、封土を自主返納する領主が続出。
それらを公有地と転換することで、民衆からの高い支持率を得ている。
また、本籍地及び父・ケビンの墓標を魔界に移した上に、公式行事には必ずゴブリン女性の民族衣装を着用する姿勢により、少数民族・少数種族からの支持を急速に広げている。
「経済」
政権公約かつメインスローガンの三公七民を墨守する意向。
時限措置として運用している二公八民を継続させる意思を仄めかしており、その決断は全世界から注目されている。
大魔王の天下振舞(経済テロ)によって破壊された経済システムを、労働価値・技能価値の評価システムによって立て直した。
特に建築・清掃などの労働力の確保が困難な基幹インフラストラクチャー機能を、住宅優遇や日用品配給の優先によって回復させた手腕は反対派からも絶賛されている。
エッセンシャルワークを身分化してしまわない為の住宅供給制度を急ピッチで整備しており、従事業種に応じて支給される職業住宅の運用に多大なリソースを注いでいる。
大魔王資源に関しては、残高推移を公開した上で世界インフラの整備に費やす事を公約。
街道・運河などの物流網整備を最優先しており、現在は主要街道・港湾の近代化に腐心している。
「教育研究」
大魔王資源の枯渇を自身の死後20年以内と想定。
(悲観的過ぎる数字なので家臣団への牽制と考えられる。)
ミスリル触媒なき社会運営に必要な技術と人材の育成プログラムの公募を開始した。
民衆の富裕化に伴う技術断絶に強い危機感を持っており、技術継承を目的としたカンファレンスを各地で開催させている。
「治安」
維持費低減の為に密告制度を充実させ、酷刑を多用している。
感情的な反発は大きいものの、費用対効果を公表し続け検証も推奨しているので、際立った反対意見は存在しない。
秩序主義者・財政均衡主義者からの支持は絶大。
封建制からの脱却を宣言しているが反封建主義者ではないので、軍事上の要地に対しては的確に武闘派の腹心を配置している。
任務の利権化防止措置として、代替わりによる自動転封・減封システムを整備中。
「外交方針」
なし。
天下万民は慈しむべき大魔王コリンズの臣民であり、叛徒には死あるのみ。