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【顛末記09】 吟遊詩人

コリンズ王朝建国への功績を評された俺は魔王ダンによって永劫砂漠に封建された。

ニートが国主になってしまうのだから革命とは真に恐ろしいものである。

そして、なってみて改めて痛感した事だが封建領主の権限は絶大極まりない。

何せ徴税権と司法権を握っているのだから。

無論、与えられたのは権利だけではない。

主君に対して義務も負っている。


軍役。


封建領主として当然なのだが、俺は魔王ダンに対して参戦義務を負っている。

動員令が下れば、俺も自軍を率いて馳せ参じなければならない。

ポールソン大公国に課せられているノルマは2個師団。

つまり、俺は最低2万人の兵士を準備しておかなければならないのだ。



「で?

年初の馬揃えの儀、どうするでゴザルか?」



『他の連中は出るんだよな?』



「当たり前でゴザロウ。

魔王様の鎧初めも兼ねているのでゴザルからな。

閲兵によって初めて軍権がダン様に正式移行するのですから。

ただでさえ草創期の王朝ほど不安定なものもありません。

速やかに魔王軍全軍の威容を天下に示し、新王朝が盤石である事を証明せねばならんのでゴザル。」



『まあなあ。

旧時代はハト派政権下の共和制国家でも絶対に馬揃えは挙行してたからな。』



「天下万民が魔王ダンへの政権移行確定を望んでおります。

我々にはその声に応える義務がありますぞ。」



『そりゃあね。

ここまで下がった税率は手放せないよな。

納税者サイドは超長期政権を望むよな。

一刻も早い親政も望まれてるみたいだし。』



「御親政は禁句ですぞ。

摂政殿下への批判と捉えられ兼ねません。」



『…だな。

俺も言葉には気を付けるよ。』



コリンズ王朝は極めて不安定な政権である。

そもそも創業者のリン・コリンズが17歳と極めて若年であった上に、さっさと故郷の異世界に帰ってしまった。

残された摂政は当時12歳。

現魔王ダンに至っては生まれてすらいなかった。

後事を託された摂政は歴史上誰よりも勤勉に働き、時には自ら弓矢を取って夫の天下平定事業を完遂したが、その所為で万民から激しく嫌悪されている。


人民は摂政が打ち出す諸政策にあらん限りの歓呼で応えながらも、摂政その人を嫌い抜いている。

各地で挙行されている大魔王への過度な崇拝集会も半分は摂政への当てつけであろう。


思えば、大魔王には妙な愛嬌があった。

一個人としては抜けた所の多い少年だったのだが、そこが皆の緊張を程良く緩和していたのだ。

惜しみなくカネを配り、それでいて極めて柔和な態度を崩さなかったので人心を掴んでいた。

あの少年こそが王器だったのだ。


反対に摂政には隙がなさ過ぎる。

回り過ぎる頭、明晰過ぎる論旨、勤勉過ぎる姿勢。

そのどれもが人心に途方もないプレッシャーを掛けている。

おまけに彼女が選んだ新四天王も全員威圧型のキャラクターである。

人々は現政権に怯え、大魔王とフェルナンの緩いマスコミ対応を強く懐かしむ。


だが、民衆にとって感情論は二の次。

蛇蝎の様に嫌っている摂政による専制体制だが、政治方針に関しては何が何でも続いて貰わなくては困る。

もっと率直に言えば税率上限の三公七民を社会常識として定着させたいのだ。

その為には現政権が超長期政権となり、寛治をコリンズ朝の祖法として根付かせる必要がある。

民衆は本能で理解しているのだ。

その反映として、謀反が起こっても誰も味方しない。

それどころか鎮圧軍の進軍に呼応して毎回大量の義勇兵が馳せ参じる。

皆が裏で摂政殿下を激しく嘲罵しながらも、文字通り命を賭して政権を守っているのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて、2個師団。

兵士2万人を早めに確保したいのは山々なのだが、こんな糞砂漠からその数の壮丁を集めるのは至難の業である。

(集めたら集めたで兵装も用意しなくてはならない。)


リャチリャチ族や遊牧ゴブリンは部族総動員を提案してくれているが、そもそも彼らに御天領へ立ち入る資格があるかすらも怪しい。


馬揃えの先頭に俺が指名される可能性も高いので、ビジュアル的な政治効果は特に意識しておかなければならない。

魔王の馬揃えである以上、魔族比率が高くなるのは当然なのだが、それでも一般的な人間種の感性ならゴブリンだらけの馬揃えに喝采は送れないだろう。

馬揃えが人間比率99.9%超のコリンズタウンで挙行される事を鑑みれば、やはり俺には人間を主力とした軍隊を編成する義務があるのだ。

…リャチリャチ族もなあ、目鼻立ちからして完全な未開部族だからな。

下手をすればゴブリン以上に世論を刺激しかねない。


ダークエルフも俺への仕官を熱望してくれているが、ビジュアル的な異質感が突出してるんだよな。



「そんなこと言わずに私も軍隊に入れて下さいよー♪」



能天気な口調でねだって来るのはダークエルフの少女アネモネ。

彼女が遊牧ゴブリンの集落に行商に来ていた際に俺と出会った。

馴れ馴れしい態度はトラブルの元なので勝手に玉座の間に入って来ないで欲しいのだが、族長の孫娘なのであまり粗略には出来ない。



「コラー!

新入りの分際でアタシのポールさんに馴れ馴れしいのは許さんッスー!」



『レニー受刑囚。

牢獄から勝手に出ないように。』



「ぐぬぬ!」



「ちょっと兄さん!

神聖なる玉座の間に相応しくない小娘!

早く追い出して!」



「うーうー! (激しく同意)」



レニーのみならず、ポーラや元嫁もアンチダークエルフ派。

何せ自分より若い娘が露出の激しい民族衣装を着てるからね。

まあ同性としては許せないよね。



「あーら、こっちは部族の仕事でここに居るのですけど(笑)

邪魔しないで下さるぅ↑、オ・バ・サ・ン♪」



「「「キー!!」」」



先日からずっとこんな感じである。

要するに、アネモネと当家の女共は恐ろしく相性が良いのだ。


地図を見る限りダークエルフは俺の領民ではある。

ただその居住地は永劫砂漠の遥か端っこであり、途方も無い距離がある。

アネモネ曰く、我が居城《ひんやりとした岩場》から七日七晩を掛けて不眠不休で疾走すれば辿り着けるとのこと。



「だからぁ、視察に来て欲しいんですって。

大公爵様に献上する宝物や年貢芋も、もう用意してちゃってるんです。」



『年貢芋?

米や麦ではなくて?』



「砂漠でそんなの取れるはずないじゃないですか。

サボテンに暗黒タロイモを植え込んで収穫するんです。」



『凄い謎技術だね。』



「伊達に3000年、砂漠を這いずり回っちゃいないです♪」



4000年前、ドワーフとの一大決戦に敗北したエルフは領土の半分(肥沃な農耕地帯)を奪われ、僻地に追いやられた。

そこから千年掛けて国力を回復させたのだが、大規模な内戦が始まってしまう。

そう、その内戦で負けた部族こそがダークエルフであり、故郷を追われた彼らは永劫砂漠に逃げ込み、以降3000年雌伏しているとのこと。

なので彼らはコリンズ朝の誕生に強い期待感を抱いている。

新王朝開闢とは、それまで冷や飯を食わされていた民族が一発逆転する唯一のチャンスであるからだ。

それが彼らが俺への仕官を切望する理由。

俺というコネを使って、何とか肥沃な領地に移住したいのだ。

あわよくば新王朝で官職にありつけるかも知れないとも期待している。


現に吉例があるのだ。

大魔王がクュなるコボルトの老医師を近侍させていたのは有名な話だが、その孫娘であるクュ07なる者が摂政に重用されている。

(最初は単なる女医だったのが、今では摂政の護衛兼相談役になってしまった。)

それに関連しているのかは不明だが、魔界内でコボルト族の発言力が増大しているらしい。

その話を訪問中の行商人から小耳に挟んだダークエルフ達は喜悦した。


【コボルトなど我々の先祖が奴隷のように使役していた畜生以下の存在。

そんな連中にすらチャンスが与えられたなら、かつて北方の覇者であった我らダークエルフ族もやり方次第で気に入って貰えるはず!】


そんな論法。

恐らく中央政界では通用しないと思うのだが、それでも彼らは一縷の望みに賭けている。



「それで!

大公爵様はいつ視察に来てくれるんですか!」



『いやいや、視察と言われても。

随分、距離もあるしねぇ。』



再度、地図に目を落とす。

広大な永劫砂漠を端から端まで不眠不休で疾走すればどうなるか?

賭けてもいいが、行程の半分すら進めずに俺は死ぬ。



「でも、私達も大公爵様の領民です!

視察を賜る権利があります!」



『君達には色々権利があっていいねぇ。』



「大公爵様には徴税権があるじゃないですか!」



『徴税権と言っても、今年の上限は二公八民って通達が来てるしねぇ。』



「ですから!

その二公を徴収してくれなきゃ困ります!」



『そもそも論としてさ。』



「あ、はい。」



『年貢って一般的には米か麦で取り立てるものだからねぇ。

その、暗黒タロイモだっけ?

そう言う芋科の植物が存在すると仮定して、徴税品目に該当するのかなぁ。

税法上、認められない気がするんだけど。』



「え!

駄目なんですか?」



『いやぁどうだろ?

多分中央政府もそんな植物の存在は認識してないんじゃないかな?

これねぇ、徴税云々じゃなくて、もはや人文科学的な分野の話になって来ると思うよ?』



「えー。

困りますよぉ!」



アネモネがゴネるので、仕方なく財務長官クレアに書簡を送る。

《暗黒タロイモなる植物で食いつないでる連中が居るんだけど、彼らのイモも徴税対象にした方がいい?》

との趣旨。


翌週、摂政と財務長官の連名でタロイモ及びその近種が徴税対象とならない旨の布告が出される。

そりゃあそうだろう。

俺が財務官僚でも同じ判断を下す。



「じゃあ兵役で応じるしかないですね♪

軍隊作るんですよね?

ダークエルフ部隊も徴兵して下さいよぉ。」



『うーん、それも本国に確認してからだな。

多分中央政府も君達の存在を認識してないんじゃないかな?

これねぇ、徴兵云々じゃなくて、もはや人文科学的な分野の話になって来ると思うよ。』



「私達がタロイモと同列に扱われとるー!」



『まあまあ、落ち着きなさい。

お互いにファーストコンタクト位の心構えで挑もう。』



かつて王国の北辺はエルフ領と接しており多少の交流はあったと聞く。

ただ、30年程前にドワーフの攻勢で分断されてしまった。

つまり摂政殿下はエルフとの交流が途絶えてから生まれた世代だ。

そもそもとして殿下はエルフ族に対して接点がなかった。

当然、ダークエルフの存在を知らない可能性の方が高い。

なので、まずは根回し。



《弊領地にダークエルフなる種族が居住しておりました。

彼らは魔王様の臣民に加わる事を願っているのですが如何でしょうか?》



如何も何も、摂政としても拒絶のし様がないのである。

新政権が臣従を跳ねのけた勢力は必ず反体制側に合流するのだから。



「で?

具体的に臣従ってどうすればいいんですか?

私が魔王様の側室になるとか(笑)?

やだー、きゃは❤」



『魔王様はまだお若い。

側室は当面先だな。

後、摂政殿下や侍従長は非常に潔癖な方だから。

絶対にシモの話をしないように。』



魔王ダンの正室・側室は全て摂政が決める。

というより、魔王の正室・側室は全て摂政親衛隊から選抜される。

そう、戦火を勝ち抜いた者だけに3代目を産む権利が与えられるのだ。

ダークエルフも一兵卒として摂政の為に槍働きをすれば、割と簡単に側室資格を与えられるかも知れない。

問題は、彼女達の穂先が遠くない未来に俺に向く事が目に見えている事だ。

案外、俺を殺すのは君かもな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『はい。

と言う訳で!』



「マジでゴザルかー。」



『ダークエルフの隠れ里に視察に向かいます!』



「いやー。

地図を見る限り、生きて辿り着けるとは到底思えませんぞ。

せめて中間地点にオアシスでもないのでゴザルか?」



『あるかも知れないが、そんな都合の良い話はない。

王国経由で行商人が来れたみたいだから、全くの絶地ではないだろう。』



「うーーーん。

七日七晩を全力駱走の距離?

しかもアロサウルスの発生地点と思われる箇所を横切って?」



『駄目かな?』



「いや、法律的にも慣習的にも騎士道的にも。

ポール殿の視察は称賛される壮挙なのですよ…

生還さえ出来ればの話ですが。」



『実はそこはあまり心配してないんだ。

だってダークエルフはこっちに来ている訳だろ?

独特のノウハウを学べるチャンスだと思わないか?』



「それはそうでゴザルが。」



『なあアネモネ。』



「はい♪」



『君達はゴブリンの縄張りまで行商に頻繁に来てるみたいだけど。

どうやって辿り着いてるの?』



「私達ダークエルフは体感気温80度までは耐えられます!」



『マジか?

凄いな。

それは耐熱の為のスキルや道具を持ってるってこと?』



「いえ!

3000年の歴史の中で80度如きで死ぬ弱者は全員淘汰されました!」



『な、なるほど。

君達の力強い歴史に敬意を表する。』



「えへへ、どもども♪」



『参ったなぁ。

私が弱者だからなぁ。

80度か…

早々に淘汰されちゃうだろうなあ。』



「うーーーん。

根性で何とかなりませんか?」



『根性が有ったら、もう少し人生何とかなってた気もするしな…


まあいい。

私を安全に案内する方法を考えておいてくれ。

君が思いつくまで、私は準備をしておくから。』



「準備?」



『進路上のアロサウルス発生状況を予測しておく。』



「そんなもの、予想出来るんですか?」



『胃袋の中身で奴らの状況が大体が読めるようになった。

パターンはあるよ。』



「え!?

いや、流石にそんなので…」



『例えば、胃袋の中にサボテン比率が多いなら、遊牧ゴブリンの縄張りの北側を通って来た事を意味する。

アソコらへんのサボテンは毒性が強いから、数日経たずに動けなくなって死ぬ。

だから、先頭個体の胃にサボテンがあった場合、無理に戦わず衰弱を待った方が賢い。

また胃袋に共食いの形跡があった場合、その個体はゾンビホースやサボテンの存在しないエリアからやって来た可能性が高い。

必然、群れがどういう進路を取って来たか逆算が可能だ。』



「大公爵様って意外に色々考えておられるんですね。」



『それが仕事だからな。』



まさかこの歳になって、こんなに生産性の無い仕事に従事する羽目になるとは思わなかったが、部屋に引き籠って模型を作っているよりは幾分か有意義ではある。

いや、あの頃のオタク趣味が現在のサバイバルに繋がっているのだから、馬鹿にも出来んか。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



そんな遣り取りから数日。

リャチリャチ族の大峡谷に皆で集まり、ダークエルフの隠れ里に赴く旨を発表。

100%生還する自信もないので皆に遺言を残しておく。

それと同時にパーティーメンバーの選抜も行う。



「はいはいはーーーい!!」



『レニー受刑囚、勝手に牢獄から出ないように。』



「うふふ、パーティーメンバーと言えば原点に立ち返るべきではありませんかな?

ポールさんのパーティー処女を奪ったのは、このエミリー&レニーですぞ。」



『あのなあ、エミリー受刑囚。

今は砂漠を越える手段を模索しているんだ。

あまりパーティー歴は関係ない。』



「手段の話なら尚更かな♪

私達の新必殺技を見れば納得すると思うけど。」



あまりに受刑囚×2がしつこいのでプレゼンに付き合ってやる事になる。

…それにしても。

あれだけ説教したのにまた戦闘スキルを増やしてやがる。

やはり更生の余地はないな。

流石に女子犯罪者の賞金額で新記録を更新しただけの事はある。




「ポールさん!

アタシらの新技行くッスよーーー!!!」



「目標!!!

向かいの砂丘のゾンビホース5体!!!」



『あ、うん。

時間も押してるから手短にね。』



「行くぜ相棒!!!!」



「Yeaaaaaaaahooo!!!」」



「最初から全開で行くッス!!!

レニーファイヤー!!!!」



「出し惜しみはしないよ!!

エミリーハリケーン!!!」



『ゴメン、何かオチが見えたからプレゼン中止ね。』



「アタシの火系スキルとぉ!!」



「この風系スキルを組み合わせてぇ!!」



『ねぇ聞こえてる?

中止だからね?』



「「合体奥義ッ!!

フレイムタイフーーーーーンッ!!」」



受刑囚×2の咆哮と共に地獄の炎が噴き出し、遥か遠方を歩いていたゾンビホースの群れを一瞬で焼き尽くした!!



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「えー、ポールさん。

何で却下なのー?

この技を完成させる為に、私もレニーも凄く頑張ったんだよ?」



「納得のいく説明を要求するッス!!」



『うん。

体感温度55度越えの砂漠で熱風をまき散らす技なんて使ったら周りが迷惑するよね?

社会通念上、それは明らかだよね?

明らかに周辺気温が15度は上がったよね?

現に私が熱中症で倒れちゃってるよね?』



と言うかコイツラ、絶対に対軍戦闘を想定したスキルビルドしてるだろ。



「ポールさんも歳だからねえ。」



「そこは根性で我慢して欲しいッス。」



生憎、若い頃から根性はない。

受刑囚×2は収監継続とする。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【ポールソンパーティー結成】


パーティー名 「なし」


ポール・ポールソン     (大公爵:人間種)

アネモネ・I・ギャラルホルン (族長の孫:ダークエルフ)

ィオッゴ・ゼゼ       (家畜商:ゴブリン種)

タテタテ          (採掘工員:砂漠民族)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



この4人をメインメンバーにして、各部族が補助要員を供出する段取りになった。

俺は駱走に巧みなロベールを同行させ、中継ポイントの設営と保持を一任する。


慣らしも兼ねてメインメンバー4騎で大峡谷の周辺を疾走し、連携が可能かを確認。

お互いのスペックや得手不得手を見ながら擦り合わせを行う。

大峡谷を大きく一周するうちに、タテタテのサバイバル技術とィオッゴの索敵能力に思いの外シナジー効果がある様に感じたので、2人のコンビネーションを旅の主軸に据える事に決める。


当然、スキルも見せ合う。

タテタテ、ィオッゴが自部族にも隠しているような奥義を惜し気もなく開示したので、俺も【清掃】について改めて解説し実演する。



「アネモネ殿は何かスキルをお持ちか?

ダークエルフは魔術系スキルに長けているとの話だが?」



タテタテがそう問う。

彼は普段は寡黙な青年であまり主張をしないのだが、軍歴が長い所為か命の懸かった場面では遠慮がない。



「えっとですねぇ。

一応、私も黒魔術スキルを使えるんですけど。

ダークエルフの魔術って、どれもビジュアル重視で実用性に欠けるんですよぉ。」



「確か、暗黒魔法なる特殊な魔術と小耳に挟んだことがある。」



「それです。

私の両親は、ダークエルフの秘伝とか言ってドヤってるんですけど。

ぶっちゃけ大したスキルじゃないんですよ。

あの人達馬鹿だから…

利用価値の無いスキルだから他種族は掘り下げてないって事実に気付けないんですよ。

暗黒魔法を覚える暇があったら水魔法の習得にリソースを割くべきだと思いません?」



「あ、いや。

自分は伝統を守るダークエルフの皆様の気高い姿勢に敬意を抱いているが。」



タテタテはローティーンの頃から帝国軍の補助兵として勤務していた男なので、かなりの苦労をしている。

なので、受け答えにも如才がない。

これが俺が彼を選んだ理由でもある。



逆にアネモネはまだそういう加減が分からないのか、無邪気に自種族を酷評している。

特に現在来訪中の自称吟遊詩人(実態は行商人とのこと)が申し出ている生活魔法の伝授に対しても返答を渋っている事が許せないらしい。

(魔法文明の始祖を自称するエルフ種が人間種からのレクチャーを拒むのは仕方がないと思う。)

日頃の鬱憤を晴らしたい気持ちは理解出来なくもないのだが、付き合わされる方にとっては苦痛である。

ィオッゴもタテタテも必死に愛想笑いを浮かべているが、困ったように俺を見て来たので話題を切り替える事にした。



『戦士タテタテの意見に私も賛成だ。

御先祖様の遺して下さった技術を継承しようとする貴種族の姿勢は尊敬に値する。

これも何かの機会だ。

暗黒魔法を私にも見せてくれないか?』



「えーー。

恥ずかしいですよぉ。

さっきィオッゴ常務の見事な弓捌きを見せて貰ったばかりですからねえ。

こんな田舎芸は…

逆に失礼なんじゃないかなと。」



『いやいや。

無理強いはしないが。

後学の為に、是非。』



ィオッゴとタテタテが「「見たいなー(棒)」」と合いの手を入れる。



「えー、しょうがないなー♪」



口ぶりこそ嫌がっていたが、表情が極めて嬉しそうだったので安心する。



「じゃあ、アネモネ行きまーーーーす!!」



さっきまでの逡巡が何だったのかという程にアネモネはキレキレの動きで印を結び始める。



「ホアアアアアアアアッ!!!

来たれ、暗黒ぅッ!!!

暗黒魔法ッ!!!

ダ―――――――――――ックネスッ!!!!」



アネモネが絶叫すると、俺達の周辺がまるで昼夜逆転したかのように暗くなる。

恐らくは半径5メートル程の範囲に遮光効果をもたらすスキルなのだろう。

普段何事にも動じない駱駝達もやや驚いたようにキョロキョロしている。



「あはは、実はこれだけなんです。

限られた範囲を夜にするだけの魔術。

暗黒魔法とか大そうな事を言って、他もこんな陳腐な術ばっかりです。

下らないでしょ?

ウチの種族は馬鹿だから、こういう使い道のない死にスキルを奥義だの秘伝だの大袈裟に言って延々と固執して来たんですよ。

貧すれば鈍すとはよく言ったもので。

いやあ、お恥ずかしい。」



アネモネは寂しそうに笑いながら俯いた。

きっと彼女は己の境遇を心底恥じているのだろう。

親不孝者の俺は率直に伝統を継承している事を偉いと思った。



『…なあ、アネモネ。』



「あ、はい。」



『そのスキルって真上にも撃てるの?』



「え? 真上?

いや、どうなんでしょう?

これ、夜襲時に隠行する為のスキルですからね。」



『直上にこの暗闇を展開出来ないか試してみて。』



「あ、はい。


…ダークネス。」



天性の器用人なのだろう。

アネモネはあっさりと俺達の頭上に闇を展開してしまった。



「えっと、大公爵様。

こういう事で合ってるんですか?」



『…。』



「あの?

ご指示への解釈間違ってました?」



『結論。

君の種族は素晴らしい伝統を守っている。

惜しみない称賛に値するよ。』



「え?

あ、どうも。」



『暑さに強い君には実感が無いかも知れないが…

太陽を覆ってくれたおかげで、体感温度がかなり下がった。

戦士タテタテ、君はどう思う?』



  「まるで岩陰が如く涼やかさです!」



『常務は?』



  「見事です!

  ひんやりして気持ちいい!」



余程暑さに鈍感なのかアネモネはしきりに首を捻っていたが、俺達3人はこのスキルを心の底から羨み感嘆した。

特に俺は受刑者達の愚技に殺され掛けたばかりなので、感謝と尊敬の念を隠せない。



『アネモネ。

これを君に渡しておく。』



「うわああ!!!

空中からコインを出したあ!?

も、も、も、もしかして伝説のアイテムボックスぅ!?」



『それは本筋とは関係ないので割愛させて。』



「あ、はい。」



『今、渡したのはミスリル貨な。』



「ええええええ!!!

1枚10億ウェンの価値があると言われているっ!

あのミスリル貨ぁああ!!!」



コイツのリアクションは逆に新鮮だよなぁ。



『法律が変わって、もう10億ウェンの価値は無くなったから、それは気にしなくていい。

今はミスリルは公益性のあるスキルの持ち主に託すように政権が推奨してるんだ。

街道や農地の整備が急速に進んでるのは、その方針の賜物な。』



「あ、はあ。」



『取り敢えず、君の闇を買うわ。

進路の頭上に展開出来ないか探っておいて。』



「あ、はい。

ええ、まあ。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



このように念入りな事前準備に基づいた砂漠越えだったので、無事にダークエルフの隠れ里に辿り着く事は出来た。

彼らの先祖が魔法を用いて人工的に生み出した4箇所のオアシスに2万人弱が居住していた。

オアシスの風景なんてどこも大差ないので描写は割愛。


問題は俺達が到着した頃には、1番巨大なオアシスが殆ど干上がってしまっていた事である。

ロクに挨拶も済まさぬうちから、アネモネの祖父である族長に泣きつかれてしまう。



「オアシスが干上がってしまったんですぅ!」



『ええ、大変ですね。

大至急対策を練らねば!』



「いえ、既に対策済なんですぅ!」



『え?

そうなんですか?』



族長が泣き顔で指さす方角を見ると、反対側には僅かに水が揺れている。



『ああ、なるほど。

また水が湧き始めたんですね。

良かったじゃないですか。』



俺がそう言うと族長は羞恥に歪んだ表情で唇を噛んでしまった。

どうやら余計な発言をしてしまったらしい。



「…人間種の方の手助けをお借りして、復旧の目途は立っております。」



『なるほど。』



族長は最初説明を逡巡していたが、俺が問いただすと渋々語り出す。

要は、アンデット系モンスターの出現に連動してオアシスの水位が下がり出していたのだ。

あれこれと手は打っていたらしいのだが、どれも功を奏さず頭を抱えていた所に吟遊詩人を自称する人間種の行商人が現れた。

彼は水系のスキルを持っていた。


問題はその者が商人の癖に見返りも求めず、水魔法による水位回復を申し出て、しかもそれを成功させつつある事だった。

おかげで里の若者達が暗黒魔法に対して「実用性に乏しいのではないか?」と懐疑的になって来てしまった。



『ああ、転換期あるあるですよね。

画期性のある技術が急に生まれちゃうと、既存の伝統が軽視されてしまいがちですよね。』



「中央でもそんな感じですか?」



『ええ、紡績機なる物を発明したどこぞの馬鹿者の所為で、産業構造が激変してしまいました。

誇り高き織物職人の地位は大幅に下がり、今では未成年女工しか従事していません。

誰でも安価で上質な量産衣服を買えるようになったので、仕立て屋の地位も随分下がりました。

しかも政府がこの流れを推進してますからね。』



「なんと!

中央でも伝統技術の地位が下がっているのですか!

恐ろしい話です。

我らが代々守ってきた暗黒魔法の伝統も廃れてしまうのでしょうか…」



族長は涙を流して天を仰いだ。

何でもダークエルフ社会の序列は暗黒魔法の習得度合で決定するらしい。

族長である彼は当然暗黒魔法の名手であり、武器や防具を暗黒(中二病)風に変貌させる究極魔法を使う事で若い頃から頭角を現していた。

皆が彼を称え、自らの装備や馬具を暗黒風に改造するように頼んで来たという。


それが今ではどうだ。

若者たちは大人の説諭に耳を貸さず、実用的な水魔法の修練に励んでいる。



『ははは、若者には困ったものですねえ(棒)』



「大公爵様からも厳しく叱責してやって下さい!

若僧共は種族の伝統を軽んじ始めているのです!」



『ははは、いやはや。

何と言いましょうか。

地方自治法の関連もありまして、幾ら自領と言えど種族内の文化や風習に干渉するのも難しく。

お役に立てずに恐縮です(棒)。』



「そ、そうですか。」



族長が寂しそうにうなだれるので、俺はアネモネの道中での活躍を大袈裟に褒めた。



『私も暗黒魔法は素晴らしいと思いますよ。

お孫さんの応用(思いついたのは俺だが)のお陰で砂漠を渡れた訳ですし。』



「大公爵様に仰って頂けますと救われます。」



俺に称賛された事で心理的に落ち着いたのか、以降の族長は実務面での説明を粛々と進めてくれた。

こちらが疎い為に魔術者としての彼の評価は困難なのだが、行政官としては概ね有能な部類だとは感じた。

彼らが貢納するつもりだった暗黒タロイモの山も見せられるが、《当面免税》との中央政府の意向を伝えると、驚いたような表情で恐縮された。

(こんな量の芋類をどうやって持ち帰るんだよ。)


最後に、族長と副族長が恭しく地図と名簿を提出し為政者としての俺の仕事は終わり。

この後、地図と名簿は統一政府に提出され、彼らの待遇が正式決定する。

恐らくは、魔王ダンの判始めが終わり次第、リャチリャチ族・遊牧ゴブリンと共に本領安堵状が発給されることだろう。

それまでは摂政+四天王連名の仮安堵で我慢して貰うしかない。



「大公爵様がいつ来て下さっても良い様に、腕によりを掛けて作りました。」



『あ、どうも。』



《暗黒タロイモ》などという仰々しい名前で警戒していたが、所詮は芋である。

見た目は禍々しく毒性が強いだけだ。

可食状態まで加工するのが非常に手間であり、攪拌してから力強く練り凝固させてから型に入れて茹でた後に冷やして熟成しなければならないらしい。

しかも賞味期限は一週間もない上に栄養価が乏しく食べ過ぎると胃腸を痛めるらしい。

おまけに食感がクニャクニャして気持ち悪かった。

そんな物を貢納されても困るので、彼らの自治権保証に向けて尽力する事を内心で決意する。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて。

公人としての仕事が一段落したので、去る前に私的な用事を済ませておくか。

俺はアネモネに頼み、オアシスの反対側から水を注いでいる男にゆっくりと歩み寄る。

周囲には目を輝かせたダークエルフの少年少女が侍っている。

ああ、そう言えば大魔王もそんな目でこの男を見ていたな。

公用である事を告げると、1人の少年が愛想良く進み出て俺にサボテンをくり抜いた東屋を勧めてくれた。



「よう、大公爵。」



『よう、賞金首。』



男は酒の入った革袋を投げる。

テキーラか、久しぶりだな。



「あまり驚かないんだな。」



『消去法でアンタしかいなからな。』



「ふふふ、それは否めない。」



男の名はドナルド・キーン。

大魔王誕生の立役者である。



「立役者?

自分では脚本家のつもりだったのだがな。」



『相変わらず口の減らない男だな。

続編は書かないのか?』



「新しい時代へのシナリオは若者が筆を執らなくてはならない。」



『確かに。

俺やアンタのような老害がいつまでも居座るべきじゃないな。』



いや、違うな。

居座っている訳ではない。

俺にしろドナルドにしろ、現在進行形で書き上げたシナリオが具現化している状態なのだ。

下手に触れば自分の作品を壊しかねないからな。

自分が歌いたい歌しか歌わない。

それで吟遊詩人を名乗れる神経が羨ましい。



『ソドムタウンにはもう戻らないのか?』



「昔、そんな名前の街もあったなあ。」



『家族は?』



「オマエにやると言っただろう。」



『イラン。』



「参ったなぁ。

私もイランのだ。」



『参る必要はないさ。

向こうも俺達なんていらないってさ。』



「それなら助かるな。

オマエも御母上の件、大変だったみたいだな。」



『…仕方ないさ。

勘当されるような事ばかりしてたからな。』



「お、少しは自覚出て来たな。」



『茶化すなよ。

心の傷は癒えてないんだから。

本当は孝行したかったんだぜ。』



「ふふふ、そういう事にしておこう。」



しばらく情報交換し、幾人かの友の生死を更新する。

どうせ俺達もすぐに前者の仲間入りするのだから寂しさはない。



「その分、女共は長生きするだろうな。」



『オマエの嫁とかドワーフよりも寿命長そう。』



「なあ、アレと私の離婚ってまだ成立してないの?」



『さあ、どうだろ。

エルが同意すれば成立するんじゃね?』



「ふーーーん。

学生時代、もっと民法を真面目に勉強してれば良かった。」



『あ、オッサンあるあるw

学生時代の後悔ww』



「だって、私ももう歳だもん。

オマエの2コ上だよ。」



『自分より年上の奴が元気にしてくれてると、悪い気はしない。

俺もまだ頑張れるんじゃないかなーって夢想出来る。』



「おう、頑張れー。

でも自分の社会的地位はちゃんと弁えた上でな。」



『なあドニー大先輩よ。』



「何?」



『立場、交換してくれない?』



「やだよー。

ようやく掴んだ自由を手放すなんてとんでもない。

家庭から解放されて、生まれて初めて人生を謳歌してる最中なんだぞ?」



『アンタ前から謳歌してたじゃない。』



「えー? そうかー?

自分の時間とか全然無かったけどなあ。」



『嘘だぁ。

俺の目には好き放題しているようにしか見えなかったぞ。』



「おいおい自分を棚に上げる奴だな。

オマエこそ人生を謳歌してるじゃないか。」



『いやいや!

自分の時間とか全然無いんだって!』



「ふふふ。

私の目には好き放題しているように見えるがな。」



そんな下らない話をしながら、合間に遺言を託し合う。

と言っても共にさしたる望みもないので、互いの親の供養を頼むくらいである。



「それにしても酷いと思わんか?

私がこんなに孝行息子なのに、ハロルドの奴は見習わずに父親である私に賞金を懸けた。

まったく誰に似たんだか!」



蓄電したドナルド・キーンには息子によって賞金が懸けられた。

流石に前四天王ということもあり犯罪者ではなく行方不明者の扱いだが、肖像画が軽犯罪者欄の隣に貼られている辺り、放埓な父親へのささやかな意趣返しを感じる。




『いやいや、ハロルド君って昔のアンタに瓜二つだぞ。』



「えー、私あんなのだったか?

ショックだなー。

オマエの目には私があんな風に映ってたのか?」



『俺だけじゃなくて、みんな似た様なこと言ってるぞ。

キレキレだった頃のアンタそっくり。』



「んーーー?

キレキレ? 私が?

そうかなぁ?」



『そりゃあ、本人は自覚無いんだろうけどさ。

ま、いいんじゃね。

今のアンタ、相当話しやすいキャラになってるし。

幾分か棘が取れたよ。

相変わらず若者受けしてるみたいじゃん。』



「どうかなー。

口うるさい中年とか思われてそうだが。」



『オッサンって口うるさい生き物なんだよ。

そこは諦めろ。』



「歳は取りたくないよなー。」



『まったくだ。

いや、アンタは歳相応になれよ。』



「今まで他人の何億倍の義理を務めあげて来た。

分別は他の連中に任せるよ。


オマエはどう?

少しは威厳が出たみたいだけど。」



『威厳?

分不相応なだけだろ。』



「そうか?

私はポール・ポールソンが今の地位を得る日をずっと夢見ていたからな。

流石に泉下のお父上も許して下さるんじゃないか?」



『どうかな。

俺が親なら、こんな息子が居たら発狂してるわ。』



「それを考えると先代ジャック社長は本当に我慢強かったよな。」



『もうさー、親の話は禁止カードにしない?

旧友に逢う度に両親の話を持ち出されるんだけど。』



「お母様は?

まだ許して下さらない?」



『…あの人には悪いことしたわぁ。』



「口先だけでも自覚出来てるんなら別にいいんじゃないか。

大人になったら、後は自分の人生だよ。

まあ、オマエが大人になれてるのかまでは知らんが。」



『なあ、ドニー兄貴よ。

人間ってどうやったら大人になれるのかな?』



「さあ、子供でも作れば自動的に繰り上がるんじゃないか?

知らんけど。」



『あ、思い出した。

この前、俺の子供が産まれた。』



「おう、おめでとう。

これで大人の仲間入りだな。」



『でも産んだのはポーラの奴なんだ。』



「えー、あの子まだオマエに纏わりついてるのか。

だから昔から言ってるだろう。

兄妹の垣根はちゃんと設けろと。」



『ゴメンって。

誰に似たのか、アイツ頭がおかしいんだよ。』



「ふふふ、誰に瓜二つなんだろうなw」



『なあ。』



「何?」



『大人検定、今年こそ受かるかな?』



「どうだろうなー。

私は昔から応援してやってるんだがな。

今年もオマエ次第だ。」



『駄目かー。』



「うーん、はははw」



『笑うなよー!』



「もうオマエ、幼稚な老害を目指したら?」



『現在進行形でアンタの息子が粛清してる対象じゃねーか。』



「大丈夫大丈夫。

オマエは面白枠だから殺されはしないと思う。」



『本当かー?

この状況が地味に死刑相当なんだが。』



「えー、いいだろ別に。

オマエ昔から何だかんだで無茶振りを楽しんでたじゃないか。

今回も問題を楽しめよ。」



『問題ってどの問題だよ?』



「うーん。

砂漠が広がってる件とか。

全文明の中心地がオマエの領地な件とか。

現政権の構成員が頑張れば頑張るほど不幸になる構造とか。

大魔王が再降臨した場合の収拾方法とか。」



『もうそれ、現行の社会問題全てだろ。』



「でも、今となってはオマエの物語だろ?

始めたのは私だが。」



そもそも、王国や帝国を弱体化させたのがコイツだ。

トドメに大魔王まで連れて来やがった。

今の世界は妻子以外は概ねこの男の描いた絵図通り。



『まあな。

現政権に関しては、摂政以外は概ね俺だな。』



「期待しているぞ、英雄。」



『耳障りの良い言葉で仕事を押し付けるのやめろよ。

何だよ英雄って。』



「子供の頃のオマエがなりたがっていた。」



『そうだったか?』



「覚えてないのか?

英雄になれば、エルデフリダの気を引けるかも知れないと。

いつも言ってたじゃないか。」



『うっわ、昔の俺死ねよ。』



「私もオマエに相談されたから真面目に考えてやったもんだ。

結構親身に答えてやったつもりなんがな。」



『で?』



「ん?」



『その頃のアンタは俺に何て答えたの?』



「いや、オマエは十分英雄的な気質を持ってたから。

女や世間の甘言に耳を傾けずに己の信じた方向へ苦難を乗り越えて行け。

とだけ言ったな。」



『俺と2つしか違わない癖に生意気なこと言うガキだなー。』



「そうか?

今の摂政くらいの年齢にはなってた筈だが。」



『…ゴメン、やっぱり意見の是非を年齢で判断するのはよくないわ。』



2人でしばし笑い転げる。



「おい英雄。

お仲間が呼んでるぞ。」



『ああ、今から出ないと砂嵐のタイミングに鉢合わせるからな。』



「まあ、苦難を楽しめ。

オマエには似合ってるよ。」



『いや、何一つ楽しくないんだが。』



「そうか?

ポールソン劇場を特等席で見ている私は楽しいぞ。」



『そいつはどうも。

最終幕は観客参加型だから、ちゃんと準備をしておけよ。』



「そうだな。

オマエの鎮魂歌は皆で奏でるとしよう。」



話はそれだけ。

使命は生き残った方が果たすから問題なし。


ドナルドから水術式をビッシリ書き込んだ魔道具を渡されそうになるが、術式の癖で本人が特定される危険があるので拒絶した。


昔は俺があの男の影を務めた。

本人にすら報告しようのない手法で与えられたミッションを無数にこなした。

誰からも評価されず、理解されず、認知すらされず。

40になるまでの俺は、ずっとそんな黒子芝居を続けていた。

今だから言える事だが、結構楽しかった。

男には誰かが見込んで与えてくれるミッションが必要なのだ。


この立ち位置の旨味は奴にも早くから知られていたらしく、度々羨望された記憶がある。

だから、影役を取られてしまった事に恨みはない。


余生くらいは楽しい方を譲ってやるよ。

【異世界紳士録】



「ポール・ポールソン」


コリンズ王朝建国の元勲。

大公爵。

永劫砂漠0万石を所領とするポールソン大公国の国主。



「クレア・ヴォルコヴァ・ドライン」


四天王・世界銀行総裁。

ヴォルコフ家の家督継承者。

亡夫の仇である統一政府に財務長官として仕えている。



「ポーラ・ポールソン」


ポールソン大公国の大公妃(自称)。

古式に則り部族全体の妻となる事を宣言した。



「レニー・アリルヴァルギャ」


住所不定無職の放浪山民。

乱闘罪・傷害致死罪・威力業務妨害罪など複数の罪状で起訴され懲役25年の判決を受けた。

永劫砂漠に収監中。



「エミリー・ポー」


住所不定無職、ソドムタウンスラムの出身。

殺人罪で起訴されていたが、謎忖度でいつの間にか罪状が傷害致死にすり替わっていた。

永劫砂漠に自主移送(?)されて来た。



「カロッゾ・コリンズ」


四天王・軍務長官。

旧首長国・旧帝国平定の大功労者。



「ジミー・ブラウン」


ポールソン大公国宰相。

自由都市屈指のタフネゴシエーターとして知られ、魔王ダン主催の天下会議では永劫砂漠の不輸不入権を勝ち取った。



「テオドラ・フォン・ロブスキー」


ポルポル族初代酋長夫人。

帝国の名門貴族ロブスキー伯爵家(西アズレスク39万石)に長女として生まれる。

恵まれた幼少期を送るが、政争に敗れた父と共に自由都市に亡命した。



「ノーラ・ウェイン」


四天王・憲兵総監。

自由都市併合における多大な功績を称えられ四天王の座を与えられた。

先々月、レジスタンス狩りの成功を評されフライハイト66万石を加増された。



「ドナルド・キーン」


前四天王

コリンズ王朝建国に多大な功績を挙げる。

大魔王の地球帰還を見届けた後に失踪。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



異世界事情については別巻にて。

https://ncode.syosetu.com/n1559ik/


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― 新着の感想 ―
ここに来てハーレムに新キャラ追加!? 安定のドナルド・キーン、ジミーとは真逆の絶妙なかけあい。「うーん、マンダム」って感じが男の世界でナイスです。
暗黒タロイモの描写がまるでこんにゃくいもみたいだなぁと思ったら、こんにゃくそのものでござった。 ホントによく考え付いたもんだよ、毒性を抜いたり薄めたり。
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