【顛末記08】 憲兵総監
ようやく砂漠に適応出来たと思っていた矢先の話である。
だが寄る年波には勝てないのか、先日とうとう熱中症で倒れてしまった。
弓を遊牧ゴブリンから教わりながらアロサウルスを射止めた直後、不意に足から力が抜けて座り込んでしまったのだ。
そのまま、遊牧ゴブリンの拠点であるサボテンオアシスに運び込まれた。
それが3日前の事。
なんとか自力歩行可能な状態にまで回復したが、大事を取って同地で養生に努めている。
「一時はどうなるかと思いましたよ。」
険しい表情で俺を非難しているのは、遊牧ゴブリンの俊英ィオッゴ。
まぁね、大公爵ポールソンは今や君達の政治的生命線だからね。
勝手に死なれたら困るよね。
ゴブリン族秘伝のアロエジュースを飲み干しながら、俺は見舞い客達に詫びる
ここに居るのは、ボールソン一党を始めとして、遊牧ゴブリンに砂漠民族のリャチリャチ族。
おまけに砂漠の反対側から行商に来ていたダークエルフも沈痛な表情で入り口に控えている。
(法律上は彼女達も俺の領民らしい。)
多士済々と言えば聞こえはいいが、早い話が砂漠に追いやられた負け犬の集まりである。
なので負け癖が全身に染み付いている俺は、彼らからのシンパシーを最初から勝ち取っていた。
しかも最近になって、俺の正体が伝説の絵巻物作家《子供部屋おじさん》である事が知られてしまったので尚更である。
僻陬の地に住まう彼らは以前から冒険者ギルドのシステムに感銘を受けて誘致を検討していたらしい。
そんなタイミングで、新領主が冒険絵巻の作者であると判明した。
娯楽に飢えていた彼らが感涙して熱狂するのも無理はない。
以上の理由から最近では顔を合わせる度に陳情を受けるようになった。
つまり俺の身動きが取れない今は彼らにとって絶好の好機なのだ。
「是非、この永劫砂漠にも冒険者ギルドの誘致を!
何卒、大公爵閣下のお口添えを賜りたく!」
病み上がり早々、リャチリャチ族の長老から陳情を受けてしまう。
長老は70過ぎてから冒険系絵巻にハマった人だから、熱意にリアリティがあるんだよな。
しかし繰り返すが誘致は難しいと思うぞ。
何せ《冒険者ギルド及びその類似団体》の設立が違法化されちゃったからね。
そもそも冒険者ギルドは昔からチンピラや不平分子の隠れ蓑だった。
必要悪的に何となく存続を許されていたが、いつかは規制される事を皆が予感していた。
故に、生真面目な摂政殿下が廃止に踏み切った訳である。
(殿下は親が冒険者なので現場の実情を熟知しており、存続派の詭弁に一切惑わされなかった。)
それに、天下平定に冒険者ギルドを使い倒した殿下は、ああいう自由度の高い組織が如何に謀叛の温床となり易いかを熟知しておられるのだ。
行商で滞在していたダークエルフの少女達からも懇願される。
【討伐依頼】だの【パーティー編成】だのをやってみたいらしい。
「私達も都会の人達みたいに自由で風通しの良い生き方がしたいんです!
冒険者って今時の働き方じゃないですか!」
スマン、ダークエルフ達よ。
僻陬に住む君達にとっては最新かも知れないが…
我々文明人にとっては、ああいう搾取的な請負制度は清算すべき社会の悪弊なのだよ。
『…まあ、言わんとする事は分からんでもないです。
ただ、あれらの絵巻物は楽観的に誇張しただけですよ?
正直、労働者のガス抜きの為に作られたトレンドだと感じております。
それに、ああいう請負制度って資本家ばかりが得をして、労働者サイドは過酷ですよ?
権力者側にとってのみ都合の良い雇用の調整弁じゃないですか。』
「…これ以上の過酷なんてありませんよ。」
『ああ、そこは同感です。』
「どうせ地獄なら、流行中の地獄に堕ちたいです。」
…一理はあるんだが。
予算組むの難しいと思うぞ?
俺の所領は0万石なので被害額の事前予想が出来ない。
僅かでも石高が算出されていれば、ある程度は数字を捻り出せるのだが、被害額がシミュレート出来ない以上、予算の割り振りようがないなあ。
まあ、我が国庫には3日分のゴブリン団子とドブネズミの干し肉しか入ってないのだが。
『先日も申し上げた通り、統一政府は冒険者ギルドを違法化しました。
犯罪の温床となり続けて来た歴史があるからです。』
「異議あーり!!」
『エミリー受刑囚、あまり大声を出さないように。
ご容態の優れない方(俺)もおられるのですよ。』
「ポールさんはすぐ偏見で物を言う!
私達冒険者はみんな真面目に頑張ってるんだよ!
一部の悪い人をクローズアップして事実を歪めるのはやめて!」
…いや、オマエは冒険者じゃなくて犯罪者じゃん。
一部の悪い人が各地でやらかしまくったせいで、どれだけ冒険者業界の評判が落ちたと思っとるんだ。
結局、俺が身動き取れない事をいい事に、皆が押し掛けて来て見え透いた泣き落としを始める。
数の暴力に押し切られた俺は、その場で政府への陳情書を書かされてしまった。
『…こんな事は言いたくありませんが、厳しい君主に対してこの様な強訴を行えば叛逆扱いされますので、私以外には控えるように。』
「うおー!
その台詞回し!
絵巻物で読んだまんまだー!!」
『…そりゃあ、私の著作に限っては登場人物は私に似た喋り方をするでしょうね。』
「「「うおー!! うおー!!」」」
こんな経緯だもの。
普通は却下されると思うじゃない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
丁度、一か月後。
魔王城との距離を考えれば、脅威的なスピードで陳に対する回答使が来訪した。
「やぁ、ポール。
それとも大公爵閣下とお呼びするべきかな。」
『…いや、好きに呼んでくれ。
誰かは現状視察に来ると思っていたが。
まさか、君が直々に来るとは思わなかった。』
「うふふふ。
御評議でも随分揉めたんだよ。
クレア以外の四天王はボクも含めて全員反対。
摂政や侍従長も良くは思っていないようだ。」
上座で心地良さそうに背筋を伸ばしているのは、四天王ノーラ・ウェイン。
御一新前は官憲から厳重にマークされていたギャングの首魁が今では憲兵総監。
彼女がつい数年前まで孤児院に居た事を鑑みれば、出世頭などと言う月並な言葉では到底表現し切れない奇跡である。
背後に控える少女士官達には多少の見覚えがある。
恐らくは、かつて冒険屋と呼ばれていた時代からの最古参だろう。
『無論、俺も冒険者ギルドの復活には反対だ。
社会にとっての不安定要因でしかない。』
「ははは、面と向かって言われると流石に傷付くな。」
『別にノーラに当てつけた訳じゃないさ。
一般論として、怪し気なセクションを増やす時期ではないという事だ。』
かつてノーラ・ウェインは、冒険屋なる違法性の高いビジネスで富と武力を蓄え、摂政殿下と結託して俺の祖国を奪った。
なのでグレーゾーンの恐ろしさは彼女達自身が誰よりも理解している。
「…大公爵、結論を通告する。」
『はい、総監閣下。』
「冒険者ギルドに関しては今後も復活させる予定はない。
政府としては、これまで通り類似組織の摘発を続けて行く方針である。」
『畏まりました。
領民達にこの旨を…』
「但し!」
『?』
「魔王様は砂漠に住まう者の苦境に酷く胸を痛めておられる。」
『…。』
「よって、冒険者酒場に限って設置を認可する。」
『…酒場のみ?』
「冒険者登録のみであれば認めると言う事さ。
その窓口としての冒険者酒場。
昔のままだろ?」
『それは、まあ。』
「支部の設立は認めない。
冒険者個々は政府が直接管理する。
それだけの話さ。」
『…集権的な運営であれば反対はしない、と。』
「誰かさんの書いた論文に摂政殿下は深く感銘を受けておられてね。
【地方自治名目の中抜きこそが都鄙格差の元凶である】
【万民に等しからざる恩恵こそが苛政の源である】
【軍費を徴収するの為の軍隊は存在が罪である】
いやあ、名文だねぇ。
御一新前にどうして君が評価されなかったのか理解に苦しむよ。」
『…。』
「どうしたポールソン。
笑えよ。
キミの物語が形になったんだぜ?」
『夢はいつだって自分にとって最も皮肉な形で叶う。』
「おやおや、またもや名言を聞かせて貰った。
キミの墓碑に刻んでおくよ。」
『ありがとうノーラ。
君の墓碑には何と刻めばいい?』
「男に捨てられた負け犬女、とでも刻んでくれ。」
『…そういうのは勝ち負けではないと思うのだけどな。』
「いいや、それだけが女にとっての勝敗さ。
無論、最終的に勝つのはボクだ。
必ずやキミを手に入れてみせる。」
『俺にそんな価値は…』
「ねえポール。
そろそろ大人になれよ。
もう誤魔化せる段階じゃあないって…
本当は分かってるんだろ?」
『分不相応な地位に就いている自覚はある。
もっとも、それが男としての価値だとは考えないけれど。』
「何が相応か?何が価値か?
キミが自分で決める事ではないさ。」
『先月も熱中症で倒れて皆の笑いものになったばかりだよ。』
「…皆というのは砂漠民族のことかい?」
『ああ、リャチリャチ族だ。』
「ゴブリンやダークエルフも傘下に加えたと報告を受けている。」
『彼らを傘下と捉えた事はないな。
ただ、同じ砂漠に住む仲間同士、肩を寄せ合って暮らしているだけさ。』
「…肩を寄せ合い暮らす、か。
ボクの元に上がって来た報告書には、彼らが何千年も殺し合っていたと記載されているんだけどね。
特に砂漠民族とゴブリンは帝国内ですら何度か刃傷沙汰を起こしている。」
『らしいね。』
「でも今では、そんな連中がキミを囲んで盃を交わしている。
赴任早々に自腹で一席設けたらしいじゃないか?
それが王器なんだよポール・ポールソン。」
『ノーラの話は昔から突飛だ。』
「そりゃあそうさ。
他ならぬキミを評しているのだから。
嫌でも突飛になってしまう。」
『…。』
「ボクからの伝達は3つ。
この地には5日だけ滞在する。
望むなら砂漠民族やゴブリンの謁見を許す。
酒場が出来ても深酒は控える様に。
以上だ。
4つ目を言う必要はないね?」
…うん、必要ない。
君に逆らった者の末路は皆が知っている。
『わかった。
すぐに通達を出す。
ノーラの宿所も急ぎ用意する。
カロッゾのオアシスまで戻るなら、途中まで送る。』
「ボクの宿所はここだよポールソン。」
『ここ?』
「キミの腕に抱かれて眠ると言うことさ、ポール・ポールソン。」
「ちょっと待つっスーー!!!!」
「やあレニー姐さん。
相変わらず騒々しいね。
それとも受刑囚と呼んだ方がいいのかな?」
「アタシに有罪判決出しといて!
馴れ馴れしく姐さん呼びすんじゃねー!」
「ふふふ、どうやら事実誤認があるようだ。
ボクは意見書に《斬首が妥当》と書いたのだがね。
司法現場が深読みし過ぎてしまったらしい。
レニー受刑囚は元気にしてたかい?」
「ポールさんと毎日ハメまくりッスよ!
どうだ! 羨ましいか!」
「それはそれは、素敵な服役生活だね。
どう? 四天王と受刑囚を交換しない?
今の魔王城にはお笑い枠が居なくてね、皆が困ってるんだよ。」
「誰がお笑い枠じゃーーー!!!!」
「ふふふ。
その軽妙なリズム。
今の政府に是非とも欲しいんだけどね。
エミリー姐さんはどう?」
「うーーん。
私はポールさんに愛されるのに忙しいから。
政治ゴッコとか警察ゴッコは任せるわ。」
「ボクもそちらに移れないか移動願を出しておくとするよ。」
一同 「「「あっはっは。」」」
かつて故あってハーレムを運営していた時期がある。
ノーラ、レニー、エミリー、それに他のメンバーも俺の見ている前では陽気な遣り取りをしているが、裏ではそうではないと、ようやく理解して来た。
大抵の男達がそうであるように、大抵の女達にも配偶者をシェアする習慣はない。
特に眼前の3人は異常に腕っぷしと攻撃性が強く、原始の掟に極めて忠実である。
なので、俺は男の責務としてコイツらを隔離しなければならないのだ。
無論、御し切るという選択肢もあるが、そんな下らない事にリソースは注げない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、リャチリャチ族も遊牧ゴブリンもノーラを敬せども近づかなかった。
怯え切った表情で遠巻きに平伏しただけである。
そういう反応に慣れているのか、ノーラは鷹揚に手を振った。
『スマンな。
彼らにはノーラに挨拶するように言い聞かせておいたんだが。』
「構わないよ。
人間は間違え続ける動物だが、恐怖だけはいつだって正しい。」
俺との会話が終わると、ノーラは駱首を返してニック・ストラウドとの最終打ち合わせに戻った。
元々、あの2人は結託していた時期も長いので話がスムーズである。
彼らは数分話し合い、ニックが憲兵本部への申次に就任する事を決めた。
これに対して憲兵本部側は俺とも面識があるエステル・エルノー中佐を暫定的に大公国担当に決める。
最後にストラウド・エルノー両名が俺達に対して申次役への就任を宣誓して話は終わり。
エルノー中佐にはノーラから500石程の役料が支給されると聞いたので、対抗して0万石領主の俺もニックに役料を支払う事に決める。
『ニック・ストラウド君。』
「はっ!」
『此度の申次任命にあたって貴君に役料を支給する。』
「ははぁ、ありがたき幸せ!」
『まずは役料相当の加増。
貴君には《無駄にアップダウンが激しい砂丘》0万石を分知し、候として取り立てる!
以降はストラウド無駄侯を名乗る事を許す!』
「はっ!
末代までの栄誉と致します!」
『うむ、励めよ!』
俺もね。
こんな広い領地を独り占めしても仕方ないからね。
最近は積極的に皆を封じるようになったよ。
「…なあ兄貴。」
『んー?』
「あの辺、アップダウンが激しすぎて駱駝が嫌がるんだよ。
兄貴の直轄領にしたら?」
『やだよ。
あの辺、アップダウンが激しすぎて俺が嫌なんだよ。』
このように忠良なる弟ニックは諸侯への取り立てを辞退し、これまで通り宮廷に出仕する道を選んだ。
俺達の遣り取りを少し離れた場所から眺めている憲兵団の表情は逆光の所為で伺い知れない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『もう帰るのか?』
「こんなにあっさり仕事の道筋が付くとは思っていなかったのだけどね。」
『…枠組みは完全に整ったな。
統一政府は維持費無料の少数民族兵を手に入れた訳だ。』
「相手が損をする取引をした事がないのがボクの自慢でね。
それはキミやニックがよく知ってくれていると思うけど。」
『彼らへの安堵状は本当に発給して貰えるんだろうな?』
「キミという不安要素が死ねば、すぐにでも発給されるんじゃない?
摂政も支持基盤の魔界にPRしなくちゃならないからね。
本心ではすぐにでも遊牧ゴブリンを取り立てたがってると思うよ。」
『じゃあ、来年辺りは彼らも天下の魔王親衛隊だな。』
「何?
ポールは来年も死ぬの?」
『俺は穏やかな日々を過ごしたいんだけどね。
世界が俺を殺しに来るんだよ。』
「安心して殺されてくれていいよ。
世界にはボクが報復しておくから。」
『…もうしてるだろ。』
「心外だなあ。
ボクのお陰でこんなにも死者が抑制されているというのに。」
『…一罰百戒にも限度はあるだろう。』
「ボクや部下がまだ殺されてない。
つまり、まだ奪う命のキャパには余裕がある。」
『統一政府のやり方は剣呑過ぎる。
もう十分世界は鎮静化しただろう。
これからは守成に徹するべきだ。』
「あのさあ。
守成も何も、次は旧王国への出陣が決定してるんだけど?」
『え!?
そうなのか!?
王国はかなり鎮静化した筈だろ?』
「自由都市で生まれ育ったキミに封建国家の難しさは分からないよ。
ずっと荒れてる。
次から次へと僭主が出現して勝手に法と税を定めているんだ。」
『統一政府が各地の暫定政権を承認してやっただろう。』
「駄目駄目。
アソコは権威主義の土地柄だからね。
奴らを黙らせたければ、一定ランク以上の旧王族じゃないと治まらないよ。」
『もう王国の王族なんて残ってないだろう。』
「うん、みんな死んじゃったね。
今、後釜を自称している僭主達は全員伯爵クラスに過ぎないし。」
『だから、また殺すのか?』
「心外だなあ。
好きな人から人殺し呼ばわりされると、流石のボクでも凹むぞ?
現地住民からの嘆願なんだから仕方ないだろう。
僭主達は性懲りもなく七公三民を取り立てようとしてるんだぜ。」
そうなんだよな。
どういう訳か統一政府に歯向かう僭主は判で押したように税率を七公三民まで引き上げる事を目論む。
当然、領民達は必死に抵抗し三公七民(今は二公八民)を墨守している魔王ダンの統治を望み、魔王軍による解放を嘆願して来る。
なので魔王旗が翻れば、その土地の人民は歓喜して魔王軍に参集するのだ。
税金を下げる上に僭主一族から没収した資産を民衆に分配してくれるのだから最高の解放者と言えよう。
(どこの街も巻き添えで死者が何千人出ようが進駐に歓喜する。)
これが統一政府が少数の軍隊で何千年もその土地に根付いた諸侯を駆逐している理由である。
「いつも通りだよ。
カロッゾが地ならしした大地をボクが掃き清める。」
『…酷い事をする。』
「掃除屋の宿命だよ。
真面目に仕事をして手を汚せば汚す程に、蔑まれ嫌われ憎まれる。
奴らは誰のおかげで住処がピカピカになった事かも考えずにボク達を差別し続けるのさ。」
『人間はゴミじゃない!』
「ゴミだよ。
ボクが孤児院に居た頃は毎日そう言われていた。」
俺が何かを言おうとする前にノーラは既に鞍上の人となっていた。
伸びた背筋は完全に将校の姿勢であった。
「ねえポールソン。
理解しているのかい?
権力が冒険者に期待するのは罪人の追捕。」
『らしいね。』
「どうしていつもいつも自分を危機に晒す?
この砂漠で賞金が懸けられる可能性が最も高いのがキミなんだぜ?」
『俺の首で皆が食い繋げるなら、それも一興かもな。』
「…異常だよ。
やはりキミは世界の敵だ。」
『俺は世界をそれなりに愛しているんだけどね。
どうやら世界はそうではないらしい。
哀しいと思ってるよ、とても。』
「ふーん。
その哀しみを女性理解の参考にしてくれるとボクらも助かるのだけどね。」
ノーラは独り言のようにそう呟くと部隊を率いて去って行った。
常時1個師団に身を護らせているあの女が、俺に対しては1個小隊程度の数しか見せない。
それが彼女なりの配慮ならありがたいのだが、こちらも楽観を許される立場でもなくなった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は今の世界の在り方が大嫌いだが、税負担はあり得ないくらいに下がった。
皆が統一政府の面々を憎んでいるが、その統治が永遠である事を切望している。
かつての孤児は顕官となり、その軍靴は今日も大量の孤児を産み出し続けている。
【異世界紳士録】
「ポール・ポールソン」
コリンズ王朝建国の元勲。
大公爵。
永劫砂漠0万石を所領とするポールソン大公国の国主。
「クレア・ヴォルコヴァ・ドライン」
四天王・世界銀行総裁。
ヴォルコフ家の家督継承者。
亡夫の仇である統一政府に財務長官として仕えている。
「ポーラ・ポールソン」
ポールソン大公国の大公妃(自称)。
古式に則り部族全体の妻となる事を宣言した。
「レニー・アリルヴァルギャ」
住所不定無職の放浪山民。
乱闘罪・傷害致死罪・威力業務妨害罪など複数の罪状で起訴され懲役25年の判決を受けた。
永劫砂漠に収監中。
「エミリー・ポー」
住所不定無職、ソドムタウンスラムの出身。
殺人罪で起訴されていたが、謎忖度でいつの間にか罪状が傷害致死にすり替わっていた。
永劫砂漠に自主移送(?)されて来た。
「カロッゾ・コリンズ」
四天王・軍務長官。
旧首長国・旧帝国平定の大功労者。
「ジミー・ブラウン」
ポールソン大公国宰相。
自由都市屈指のタフネゴシエーターとして知られ、魔王ダン主催の天下会議では永劫砂漠の不輸不入権を勝ち取った。
「テオドラ・フォン・ロブスキー」
ポルポル族初代酋長夫人。
帝国の名門貴族ロブスキー伯爵家(西アズレスク39万石)に長女として生まれる。
恵まれた幼少期を送るが、政争に敗れた父と共に自由都市に亡命した。
「ノーラ・ウェイン」
四天王・憲兵総監。
自由都市併合における多大な功績を称えられ四天王の座を与えられた。
先々月、レジスタンス狩りの成功を評されフライハイト66万石を加増された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
異世界事情については別巻にて。
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