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【顛末記04】 受刑囚

世界の外側には海と砂漠が広がっている。

海には小島に住んでる海洋民が居て、砂漠の果てには珍妙な衣装を纏った異民族が暮らしている。

御一新前の俺達は世界を漠然とそう捉えていた。


大魔王による天下一統が成し遂げられてからは、ピット家と異民族から地図が献上され、俺達が認識可能な世界は広くなった。

《ふーん、世界ってこんな風になってたんだね。》

と皆が思った。


さて、我が宮殿《ひんやりとした岩場》の謁見の間には、異民族の使者が来訪している。

彼らから見れば俺の宮殿こそが砂漠の果てであり、遠路遥々こんな所まで参上させられる状況には心から同情する。



「いえいえ!

滅相も御座いません!

誉れ高き大公爵閣下に謁見出来る事こそが、我が無上の喜びで御座います!」



柔和な笑顔で深々と頭を下げているのは、異民族国家の外務大臣。

世が世なら王として4億軍民の頂点に君臨してもおかしくなかった方である。

そんな貴人が不毛の砂漠で俺みたいな掃除屋野郎に平身低頭させられている現状は他人事ながら涙を禁じ得ない。



『大臣閣下。

こちら、魔王様並びに摂政殿下への添え状で御座います。

また世界銀行の件は私からも総裁に嘆願状を提出する事を約束致します。

何かのお役に立てば幸いで御座います。』



「ああ!

これはこれは恐縮至極!」



大魔王の遺命。

《四天王ポールソンを異民族申次に命ずる》

彼にとっては帰還間際の厄介事を収拾するために何気なく発した言葉だったのだろうが、破滅寸前の異民族国家にとっては、唯一の希望の光となった。

3年前の対帝国戦争。

彼らは天才戦術家アレクセイの前に歴史的な惨敗を喫した。

王族、軍部、官界、財界。

本営に集っていた首脳部が根こそぎ全滅したのだ。

そこからは未曾有の大混乱、全土で叛乱や少数民族の独立戦争が頻発し、もはや国家の体裁すら整わなくなった。

大魔王や統一政府による人道支援がなければ、更に酷い事になっていたに違いない。



「我々が今こうして生き延びていられるのは、魔王様並びに摂政殿下のご温情の賜物で御座います。

この御恩義に少しでも報いる為、一層の忠節を尽くす所存で御座います!」



決して大袈裟ではない。

統一政府が彼らに提供した義援米は既に3000万石を越えている。

飢餓に苦しむ彼らに取っては文字通りの命綱であろう。

なので、異民族国王(現在空位)が魔王ダンに臣従する事が決定した時も歓呼こそ挙れど、反対の声は一切無かったと聞いている。

そりゃあね、食糧とか資金とかを気前良くくれる相手には文句を言えないよね。

摂政の気が変わったら、彼らは飢え死にしてしまうからね。


勿論、摂政はご多忙なので砂漠の向こうにまでリソースを割けない。

(本当は全てを把握されておられるのだろうが。)

なので、申次の俺が彼らの請願を統一政府や世界銀行に伝達しなければならないのだ。


異民族→俺→摂政

異民族→俺→世界銀行総裁


彼らから見た外交ルートは以上の通り。

立地的には俺ではなく帝国を挟むのが妥当だと思うのだが、やはり長年の仇敵に物を頼むのは心理的抵抗が大きいらしい。

そりゃあね、帝国なんて千年以上戦争して最後は自国を壊滅させた相手だからね、直接頭を下げるのは癪だよね。



「それにしても流石は大公爵閣下で御座います。

位人臣を究められても、この様なご質素な生活。

質実剛健!

まさしく武人の鑑で御座いますな。」



『いやあ、ははは。

もう少しまともな歓迎が出来れば良かったのですが…』



外務大臣は饗膳に手を付けようと意気込んでみては、臆してフォークを引っ込めてしまう。

そりゃあね、この人マジモンの貴人だもんね。

ゴブリン団子なんか出されても困っちゃうよね。

でも仕方ないよね、サソリの殻とか出したら外交問題になっちゃうもんね。


今回、彼は義援米の追加支援を嘆願する為に魔王城に向っている。

虫のいい話だが、世界銀行に対しての返済猶予も申し入れしたいとのこと。


俺の機嫌なんか取っても意味は無いと思うが、事情に疎い人から見れば摂政の寵臣に見えなくもない立ち位置だからな。

或いは義援米に関する企画書を書いたのが俺だという話が誇張されて独り歩きしている所為かも知れない。

あれは摂政の下問に答えただけであり、その時点で食糧支援の腹案は無かった。

(そもそも俺自身が長らく穀物に無縁なのだ。)

彼らが俺を何とか繋ぎ止めておきたいという気持ちも分からなくもない。



「いやあ、それにしても大公妃様は相変わらず美しい。」



「あーら、おほほ。」



異民族の価値観では近親相姦は問答無用で死刑なのだが、乳母に求婚した俺やその妹妻のポーラに頭を下げなければならない。

彼の胸中を慮るに目頭が熱くなる。


最後に大臣は笑顔を顔に貼り付けてから、大きく息を吸い、俺の静止を振り切って一口だけゴブリン団子を飲み込んだ。

一瞬涙目になるも、口を拭うついでに涙も手早く拭い去ってしまう。


…何か色々ゴメンね。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



形式的な会談が終了し、大臣と馬屋に向かいながら移動に関する実務的な話。

(魔王城に辿り着けなきゃ意味がないからね。)

彼らのキャラバンは、次にカロッゾが支配するオアシスに向かう。

勿論俺は近寄る気もないが、無事に到着出来るように便宜を図らなければならない。


遊牧ゴブリンに護衛を頼めば確実なのだが、そもそも彼らを砂漠に追いやったのが異民族国家だからな。

互いに顔も見たくない存在だろう。

現に俺が懇意にしているィオッゴも異民族の来訪日は姿も見せない。

そりゃあね、ご先祖様をジェノサイドした連中と話す事なんか何もないよね。

一応、異民族・遊牧ゴブリン間に相互不可侵条約は締結されている。

双方が魔王に誓紙を提出しているので、攻撃は出来ない。

1射すれば(或いは射ったとされれば)即座に叛逆者扱いである。

互いに距離を置き続ける今の彼らの姿勢こそが正解だろう。


なので、オアシスの見える場所までは俺達が見送る。

宰相のジミーが異民族勢と談笑しながら、駱列を割り振っており、それが終われば出発だ。


先触れに出したロベールによると、今日はアロサウルスやスケルトンバッファローは見当たらない。

遠方にゾンビホースが数頭うろついているようなので、後で始末しておかなければならないな。



「異議ありッス!」



『何ですかな、レニー受刑囚。』



「アタシがひと暴れすればゾンビホースだって鎧袖一触っスよ!

どうして出陣禁止なんスか!?」



『君は表向き砂漠の地下深くに収監されてる事になってるからっス。』



「こんな糞砂漠で誰も見てないじゃないっスか。」



『その認識の甘さで有罪判決が出ちゃったんでしょ?』



「ぐぬぬ。」



蛮刀を振り回しながらジタバタしているのは、重犯罪者のレニー。

色々あって最近こっちに流れて(移送?)来た。

各地でやらかし続けて懲役25年の有罪判決が下ったのだ。

本人は大いに不満そうだが、これはどう考えても俺に忖度してくれた甘々判決である。

懲役27年を食らった相棒のエミリーも来週には自主移送(なんだそれは?)されて来るとの事。


当然、彼女達の身元引受人は俺。

今後コイツらが何かをやらかした場合、最終責任は俺に回って来るのだ。

あーあ、死んだな、俺。

俺の死因絶対オマエラだわ。



「それにしてもポールさん良かったっスねぇ♪

エミリーも来るしハーレムじゃないっスか!」



『うん、それは俺の知ってるハーレムではないけどね。』



人手が足りないからなぁ。

結局、コイツらを使う羽目になるんだろうな。

この際、やらせてみるか…

根回しも結構大変なんだけどな。



カロッゾのオアシスまでは全力駱走すれば2時間弱で辿り着く。

ただ、このキャラバンの荷駱車には貢物を満載しているので4時間強の道程である。


摂政は贈答の類を嫌っており、更にはそれを公言しているのだが、帝国人や首長国人には上手く伝わっていない。

いや同胞である王国人ですら理解していないのだから、金銀宝石を意気揚々と持参した異民族達を責めるのは酷だろう。

あの人は幕僚を同性で固めておられるからな。

絢爛な宮廷文化を誇る異民族達が贅美を喜ぶと誤解しても仕方がないのかも知れない。



「書簡での質問を繰り返して恐縮なのですが…」



『大臣閣下。

新侍従長の件に関しては、以前に回答させて頂いた通りなのです。』



案の定、大臣が知りたいのは新たに昇格した新侍従長についてである。

そりゃあ、あの人の情報が知りたい者は俺に聞いて来るだろうな。

早速、車両の中で新侍従長への贈答品について相談される。

《廉潔無比のお方なので贈答は一切不要》

何度もそう伝えているのだが納得して貰えない。

昔から公私混同を強く嫌っておられる方なので、俺を通そうとすれば却って逆効果である事を再三伝えてはいるのだが、イマイチ理解して貰えない。



『私ですら私信を拒絶される程なのです。』



以前にそう言ったのが裏目に出た。

新侍従長との親密性を誇示しているように曲解されてしまったらしい。

以降は否定すればする程、俺を通して新侍従長と宜を結ぼうと躍起になっている。

文化の違いとはこれ程までにコミュニケーションを阻害するのだ。

改めて思う。

異世界からやって来て徒手空拳で天下平定を成し遂げた大魔王は無比の英傑だったのだ、と。

きっと彼なら、今頃その故郷も軽々と鎮定していることだろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ポールさん!

ゾンビホースっスよ!

ゾンビホース!」



『レニー受刑囚。

国賓の前で嬉しそうな顔をしないように。』



「アタシの腕の見せ所っスよね?

ヤッちゃっていいッスよね?」



目線で大臣の承諾を取ってから、レニーに攻撃を許可を出す。

勿論、大臣は恭謙そのものと言った微笑を崩さない。

問題はレニーの顔立ちや喋り方なのだ。

彼ら山民は異民族文化圏では人間とすら認められていない被差別的存在。

山から下りて来た山民を遊び半分で射殺しても、称賛こそされども断じて非難される事はない、とすら聞く。

まあ、移動民の扱いは俺達の文明圏でも酷いのでどうこう言う気は無い。

ただ、そんな文明圏から派遣されて来た大臣の護衛を山民のレニーにさせるのも酷い話だよな。



『大臣閣下。

安全の為とは言え、色々と申し訳御座いません。』



「いえいえいえ!」



大臣はゴブリンや山民の話題になると、《いえいえ》としか言わない。

そりゃあね、他にコメントのしようがないよね。



「ポールさーーーん!!!

見て下さい!!

新必殺技として炎系のスキルを習得してきたッス!」



そう言ってレニーは爆笑しながら爆炎を周囲に振りまく。

こともあろうか炎に包まれたゾンビホースが、こちらの駱列に突っ込んで来る。



『…いや、これをブロックするのが君の仕事なんだけどな。』



思わず愚痴がこぼれた。

火達磨となったゾンビホースがキャラバンに突っ込む前にロベールが長槍を振るって沈黙させる。

レニーめ、火炎放射に夢中でこっちを見てもいやがらねえ。


…あのさあ。

俺達全員、この砂漠の熱さに苦しみ抜いてるんだからさぁ。

そういうビジュアル的に体感温度を上昇させる技を使うのやめてくれないかな。

ここ永劫砂漠ぞ?



「わっはっは!!

見てますかー、ポールさん!!

アタシの新技ちゃんと目に焼き付けて下さいね!


ほーらもう一丁!!

必殺レニーファイヤー!!

うわははははは!!!」



…誰だよ、キチガイに刃物持たせた馬鹿は。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



目印である大砂丘を登り切れば、眼下にはオアシスが見える。

カロッゾが支配するあのオアシスを抜ければ帝国圏、その先は全て魔王直轄領となる。



『今回も大公爵閣下は戻られるのですか?』



「ええ、カロッゾ様の御領内に立ち入るのも憚られますので。」



最後に大臣と握手を交わして解散。

彼らにとっては、ここからが本番。

経済援助を引き出す為の挨拶回りが始まる。

と言っても、旧時代のように役所をたらい回しにされる心配はない。

摂政と四天王クレアが合議してすぐに結論を出してしまうからである。

決定が覆らない反面、裁可が迅速なので、共和主義者の俺ですら独裁政治の長所は認めざるを得ない。



「ポールさん!!

見て下さいッス!!

魔石魔石!!

この大きさなら炎系スキルを20発は撃てますよ!


あ!

いい事思いついた!

魔石を壊さずにゾンビホースを焼けば!!!

無限にレニーファイヤーを撃ち続けられるッス!!」



こういう狂人を自己の裁量で飼ってる辺り、俺も唾棄すべき独裁政権の一員なんだよなあ。

先月、ようやくエミリー&レニー被害者の会に補償金を払い終わったのだが、この分だとすぐに新たな賠償請求書が送られてくるな。

胃が痛くなる。



「胃が痛いというのは嘘でゴザろう?」



『あ、ジミーには分かる?』



「ポール殿とは長い付き合いですからな。

あまり感心はしませんが、精神衛生的には好ましいのではないですか?

ああいう面白れぇ御婦人は場を明るくしますから。」



『周辺を焼き尽くして物理的に明るくするのは勘弁だけどな。』



「レニー殿の所為で今日の体感温度10℃は上がってますからな。

ちゃんと注意をしておいて下さい、監守殿。」



『えー、受刑囚の面倒なんて嫌だよぉ。』



「御安心下さい。

実はポール殿こそが受刑囚で、レニー殿こそが獄卒ですから。」



『…残酷すぎだろ、世界の真実。』



「良いではありませんか。

元は御自身のハーレム要員でゴザろう?」



『えー、アレまだ有効だったの?

ポール君誠意チラ見せチケットは期限切れの筈でしょ?』



「有効期間中に誠意を見せなかったので継続ということで。

チケットの裏にちゃんと書いてあったでしょうに。」



『小さい文字で特約盛り込むのやめろよぉ。』



ジミーと軽口を叩きながら皆を纏めて駱首を宮殿に返す。

これで今日の公務はオシマイ。

後は日が暮れる前にドブネズミか毒サソリを調達するだけだ。

出来なければ、明日の朝メシが悲惨な事になる。

それにしても腹減ったな。



「ポール殿ぉ。

相変わらず徳を積まれておられますなぁ。」



『何が?』



「自分はサソリを齧って、他国には義援米の斡旋。

そこまで徳が高いと、逆に世間から叛意を疑われますぞ。」



『あんまり摂政に借りを作りたくないだけだよ。

この状態を黙認してくれてるだけで、正直ありがたい。』



「寡欲なことで。

…お気を付けなされ。

古来より大欲は無欲に似たりと申します。

摂政殿下とポール殿、悪い所が似ておりますぞ。」



『…。』



「廉潔は美徳ですが、そうでない者の心を容赦なく圧迫します。

お二方には中庸を覚えて欲しいものですな、人心の安寧の為にも。」



『…前向きに善処するよ。』



横目でレニーの火炎祭りを見物しながら、ジミーとそんな密談を交わす。

…この砂漠には讒言者の耳が無いと信じたい。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「ポールさん!

いい事を思いついたっス!」



『却下っス。』



「まだ何にも言ってないっスよ!」



『ゾンビ系のモンスターにはMPを吸い取る機能が備わってるって教えただろ。

ゾンビ肉を焼いたり干したりしても、その効力は変わらないぞ。』



「試したんスか!?」



『大抵の事はな。

毒サソリの殻が食えるって発見するまで地獄だったぞ。』



「ポールさんの不思議スキルでMP吸収効果だけ【清掃】しては如何でしょう?」



『30回試して諦めた。

もしもアタリが31回目に入ってたら恨んでくれて構わない。』



「それじゃあマジで喰いモンないじゃないッスか!」



『伊達に0万石じゃないってことだよ、永劫砂漠は。』



「あ!

いいこと思いついた!

近所のオアシスを襲撃して水と食糧を調達するのは?」



『…現役四天王を敵に回してどうする。』



「じゃあ、人肉でも食べるしかないっスね。」



『俺を見るな!

オーラロードが含有されてる分、ゾンビホースより有害だからな!』



「ちぇっ。

中々上手く行かないもんスね。」



『まあなあ。

俺の人生、なーーーんでこんな事になっちまったんだろうな。』



「御安心下さいッス!

アタシが身体で慰めてあげるッス!」



『あ、ゴメン。

今日は元嫁の日。』



「離婚成立したって言ってたでしょ!!」



『あの人、放置すると発狂するんだよ。』



「じゃあ明日!!」



『…明日はポーラ。』



「息を吐くように近親すんなや!」



『あの人、放置すると発狂するんだよ。』



「じゃあ明後日!!」



『明後日はゴブリンキャンプに出稼ぎ。

多分、泊まり仕事になる。』



「アンタ国主でしょ!!

テントの頃より生活レベル激落ちしてるじゃないッスか!!」



『それな。』



「あの頃は良かったッスねえ。

肉も酒も喰い放題。

敵もいっぱい居たから暴れ放題のスリリングライフ♪」



『いや、あの時暴れたから、キミに有罪判決が下ったんだぞ。

猛省するように。』



「はーい。

今度からバレないようにやりまーす♪」



2人で駱走しながら食料を探す。

本職の狩人だけあってレニーの観察眼は秀逸であり、ドブネズミの巣穴を2つも発見してくれた。

(厳密に言えば本職は犯罪者なのだが、この際そこには目を瞑る。)

早速、ジミーが発明した【ネズミホイホイ】で何と11匹ものドブネズミを捕獲する。

思わぬ大漁に頬がほころんだ。



『レニー受刑囚。

本日の働き見事であった。』



「えへへ10年くらいは減刑されるっスかね?」



『俺の権限では10秒くらいが限界っス。』



「えー、マジ?

…コイツ、つっかえ。」



『ぶっちゃけ俺の立場も君と大差ないからな。

責務が無限に増え続けてる分、こっちの方が悲惨だよ。』



「責務?」



『こっちの文明圏と異民族の文明圏の仲介全般だな。

異民族達が無政府状態に陥れば混乱収拾の為に行政官として誰かが派遣される条約が結ばれてるんだ。』



「ああ、その誰かさんが、例によってここに居られるダレカサン・ポールソン閣下なんスね。」



『…御名答。』



…そんな甘い話である訳がない。

摂政は異民族達の謀反を既に織り込んでいる。

鎮圧の人選も既に内定しており、討伐軍の総司令官は俺か帝国皇帝が務める。

通例通り、軍監としてカロッゾが督戦を務める事だろう。

死体の数が億で収まれば御の字だが、そこまで楽観している馬鹿は1人も居ない。


クレア曰く、緩衝帯としての俺は相当に機能しているらしい。

嘘か真か摂政もその点は絶賛してくれているそうだ。

まあいいさ。

俺の安い命で戦争が回避出来るのなら、大いに喜ばしいことじゃないか。

砂漠で這いずり回りながら、世界を祝福してやるよ。



「それにしても生活レベル落ちましたねえ。

もう少し根本から見直さないッスか?」



『いやいや、ここまで引き上げるのにどれだけ苦労したか。

ゴブリン団子を食べれるようになったのも、ごくごく最近のことなんだぞ?』



「あっそ。

ポールさんがいいならいいんじゃないッスか。」



『良くはないよ。

あ、でも政治から物理的に距離を置けるのは助かるかな。』



「でも実際はここが政戦の最前線なんスよね?」



『…何故そう思った?』



「ポールさんが居るって事は、そういう事でしょ?」



『…かもな。』



その後、案内も兼ねて目印としている岩場や砂丘を案内して回る。

何が嬉しいのかレニーは蛮刀を頭上でクルクル回しながらずっと放歌高吟していた。

世の人もこれくらい自由な精神を持てば、少しは楽になれるのにな。



所詮誰しもが時勢という名の牢獄につながれた囚人である。

それでも俺は、命が罪でも罰ではないと信じたい。

【異世界紳士録】



「ポール・ポールソン」


コリンズ王朝建国の元勲。

大公爵。

永劫砂漠0万石を所領とするポールソン大公国の国主。




「クレア・ヴォルコヴァ・ドライン」


四天王・世界銀行総裁。

ヴォルコフ家の家督継承者。

亡夫の仇である統一政府に財務長官として仕えている。




「ポーラ・ポールソン」


ポールソン大公国の大公妃(自称)。

古式に則り部族全体の妻となる事を宣言した。




「レニー・アリルヴァルギャ」


住所不定無職の放浪山民。

乱闘罪・傷害致死罪・威力業務妨害罪など複数の罪状で起訴され懲役25年の判決を受けた。

永劫砂漠に収監中。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



異世界事情については別巻にて。

https://ncode.syosetu.com/n1559ik/



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